第18話 異世界

店長らしきオヤジに飲食代金分を働くように言われた僕達は、閉店後に店内の掃除をしていた。


「あのさぁ、そこまだ汚れてるんですけどぉ。適当にやらないでくださぁい」


ベチィ!!


さっきまで愛想の良かった猫耳娘が、今は女王様のように『僕にだけ』あたりが強い。細い鞭でことあるごとに尻を叩かれる。


「はい。分かりました。ってか、エムはどこですか? さっきから姿が見えないですけど……」


「今、姉さんはまかないを食べてるよ。人の心配は良いから、まず手を動かせよ。このボンクラぁ」


姉さん?


「はい……」


この世界は、女尊男卑なの? 分からないけど。


一時間後。

ようやく掃除が終わった報告に行くと、エムと猫耳娘は仲良く談笑していた。


「掃除終わりました。エム……。そろそろ帰ろう」


「うん。分かったぁ」


「えぇ!? 姉さん、もう行っちゃうんですか? もう少しゆっくりしていけば良いのに」


エムにくっつく猫耳娘。本当に猫のようにゴロゴロ甘えた声を出していた。


「ん?」


なんだ……。


やけに外が騒がしい。様子を見に行くと店の扉をどんどん叩きながら騒いでいる近所迷惑な男が二人いた。

柄の悪そうな連中だった。どこの世界にも似たような奴はいるらしい。


走ってきた猫耳娘は、陰から眺めていた僕を突き飛ばし、彼らに頭を下げて必死に何かを謝っていた。


話している内容から察すると、どうやら彼らは金貸しで集金に来た。金がないことが分かると、古臭いやり方なんだけど。猫耳娘を連れていこうとしている。………時代劇じゃあるまいし。


別に恩があるわけじゃないから、放っておこうと思った。それに下手に目立ちたくもないし。



「どぅりゃあぁあ!」


飛び蹴りを派手にくらわすエム。小さなエムだが、力比べなら大の大人三人分は軽くある。


ぼろぼろの男達は、慌てて逃げていく。


「あまり目立つなよ。ここは、僕達の住む世界とは違うんだから」


「はいはい。分かりましたよ。でも、殺さないだけマシじゃん」


猫耳娘と別れた僕達は、今夜泊まる宿を探すことにした。


「なら、私の家に来ませんか? 狭いですけど姉さん一人なら何とかなりますし」


いや、僕は?


「いいの? 助かるよ。ありがとう、ネコちゃん」


僕達は、猫耳娘の家に泊まることにした。ちゃんと僕が寝る場所も用意してくれた。床に。かなり薄い布団も貸してくれた。



日付が変わる少し前ーーーー。


僕とエムは、猫耳娘を起こさないように静かに部屋を抜け出した。


「な~んだ。考えることは一緒か」


「要のそういうところ好きぃ!」


「しぃ、静かに。起きちゃうよ」



子悪党のアジトへゴー!!


腐った魚をさばく。一匹ずつ。確実に。


「またお前らか! いったい、何しに来たっ!! こんなことしてただで済むと」


「うるさいよ、お前」


「粛清~、粛清~」


誰もいなくなり、静かになったアジトを漁る。借用書他、すべての記録を燃やした。建物も含めて。



「猫への恩返し、完了っ!!」


「ぁ~眠い。帰って二度寝しよう」


「要とくっついて寝たい。ギュッ、ギュッ~てしながら……。ダメ?」


「ダメ」


「お前のそういうところ大嫌いだよ」



そんなこんなで異世界一日目が無事終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る