本編

愛し子◯◯に出会う。

近場を状況確認がてら散策、もとい探検する。


外に出ればとてもいい天気だ。


青い空や頬を撫でる風、それに木漏れ日。今まで居た世界とさほど変わりがない。


まぁ、今までとなるべく似た環境を希望したから当たり前と言えば当たり前か。


魔法が使える世界だという事を除けば。


私、アリヤ・ノワールこと、古宮 茜はブラックじゃ無いけどホワイトでも無い会社の事務員だった。


そもそも両親が鬼籍入りし、ひとりっ子だった私はそのタイミングであまり良い思い出のない土地を離れたのだ。


で、気がつけば程よくグレーな会社に就職してて、尚且つネトゲにどっぷりハマりお一人様を満喫する生活を送っていた訳だ。


あの日もネトゲのイベント開始時刻が迫っていて慌てて帰宅する途中だったんだよな。ギルドのみんな、ごめんね。私、ネトゲより凄い事に巻き込まれて、気がつけば次元すら飛び越えてたよ。事実は小説より奇也。


未練があるとすれば愛読してた作品達の続きが読めない事だろうか。後はネトゲの仲間達と絡む事が出来ないのが少し寂しいかもしれない。


そんな感傷に浸りつつポテポテと散策を続け、半刻も歩くと森の拓けた場所にでた。


小さな泉とそこに降り注ぐ陽の光りの共演に思わず「わぁ!」と感嘆の声が出た。


泉をよく見てみると魚も泳いでいるけど、小さな人魚っぽいのも泳いでいる。うわー、人魚?人魚だろうか、と覗き込んでいると。


そのうちの一体がフワリと水面に上がってきて見事にジャンプし、空中でくるりと回転すると掌に乗るくらいの小さな少女に変わり水面に降り立った。そして瑞々しいドレスの裾を摘むと優雅にお辞儀をし一言。


「お待ちしておりましたわ。愛し子アリヤ様。」


わぉ。ここで恥ずかしい称号でてきたよ。


「貴女の名前は?」


小さな貴婦人に問いかける。


「名前は特にありませんが、私は水の精霊です。後はそこの小枝に火と風の精霊が、水辺の切株には土の精霊が控えていますわ。」


そう言われた場所を見ると炎を連想させる様な色合いの小鳥に淡い緑を基調にしたこれまた小さくて可憐な少女。切株にはいたずらっぽい表情のこれまた小さな少年が座って居た。


「私達エレメンタルは貴女にお仕えするのが使命。またお会いしましょう…」


そう告げるとスウッと消えてしまった。炎の小鳥を残して。


チチッと鳴きながらちょこんと肩に止まって小首を傾げてこちらを見上げる。


「君は残ってくれるの?名前は無い、って言ってたよね。炎の鳥とくればフェニックス。そこから取ってフェニーと呼んでも?」


そう話しかけて見ると満足げにチチッと一声あげ私の周りをくるりと一周し、頭の上にぽすん、と着地した。

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