頭の上の狛犬ちゃん~座敷童と呼ばれる少女~
美ぃ助実見子
うら若き乙女の悩みごと
悩みごとって人それぞれあるよね。
平凡な家庭に育ち平和にひっそりと暮らす女子高校生の私、
自分の容姿に全くもって自身がない。
くせ毛が目立つパサパサの長い黒髪。
奥二重の腫れぼったい瞼。
止めとばかりに、膨らみが目立たない胸と小柄な体系を併せ持つ究極のチンチクリンな容姿は、どうしようもないくらいに救いようがないでしょ。
マジでコンプレックスだらけ。
それを揶揄するように座敷童なんてあだ名まで友達から進呈されている。
実はナイーブな私に止めを刺す発言。
そんな私へ両親は
『くひなの特徴的な容姿が可愛さを募らせる。パパは願わくはバージンロードを一緒に歩くのが夢だ』
『くひなは化粧を憶えれば、きっと見違えるだろうとママは思うの。男性を虜にできる女性になれる。多分ね』
と何気なく曖昧に言うけど、マジで救いが見えない。
ぶっちゃけ小学生の頃から、浮いた話どころか男の子に話し掛けられたことすら記憶にない。
もうね、このまま一生独身かって思い詰めている。
つくづく自分の容姿が嫌になるよ。
本当に、こんな私達を誰が好き好んで選んでくれるのだろうか……。
「はぁ~」
休日の朝から洗面化粧台の大きな鏡を見詰めては、溜息を繰り返して憂鬱になっている。
――いつ見ても変わらない自分の容姿にマジで嫌気がさすよ。
ただね、そんな憂鬱を緩和する嬉しい変化が半月前にあったんだ。
私が起こした奇跡。
神様が憐れんで与えてくれた素敵なプレゼント。
まるで小さな神様が私の頭に憑いているみたいで、マジで嬉しいよ。
頭の上のこの子。
神社でよく目にする
それに灰色のフワフワの毛並みがヌイグルミみたいで、可愛さを際立たせるんだ。
よく分からないけど頭の上でずっと大人しく犬すわりしているんだよね。
空気みたいにぜんぜん重たくないんだけど、頭頂部にドンと乗っかって磁石みたいに離れないのがとても不思議。
初めて出会った頃はちょっぴり怖かったけど、慣れてくると可愛さ募る余りに<狛犬ちゃん>と名付け呼んでいる。
もうね、愛おしいペットみたいになっちゃっている。
何処に行くにしても寝るときもずっと一緒。
鏡で狛犬ちゃんを一目見ればルンルンな気持ちになれる。
ただね、寂しいこともあるんだ。
狛犬ちゃんを皆に自慢したくても、私だけにしか見えないみたいなんだよね。
パパとママに幾ら説明しても理解を示すどころか、苦笑いを浮かべるだけだったんだ。
鳴き声一つでも上げてくれれば
それにもう誰も信じてくれなくてもいいんだ。
愛くるしい仕草が
それだけでもいいんだ……。
「はぁ~」
鏡を見詰めて溜息をついても悩み事は解決する訳がない。
ただ、私が溜息を付けば、それに応えるように
可愛いんだけど、私の溜息が退屈なのか、別の意味があるのか、知り合って半月経つ今でもよく分からないんだ。
まぁ可愛い仕草を見せるのは癒されるし、他意はないと思ってサラッと流すことにしている。
でもね、本当に溜息を付きたい理由はもっと別のところにあるんだよね……。
あれは狛犬ちゃんと出会う一か月前のこと。
仲良くしているぽっちゃり系の女友達との何気ない日常会話の中、楽しく恋愛観を二人で熱く語り合う中での出来事だったんだ。
『ねぇ、くひな。高校生活最後のクリスマスまでに、どっちが早く彼氏を作るか勝負しない?
勝てる気がしないって言うなら、私の圧勝でこの話を終わりにしてあげるけどね。フン』
鼻息を荒げてふくよかな身体を揺らすその容姿から、如何してその言葉がでる。
正直、勝負うんぬんよりも強気に出てくる友達の言動が理解できなかった。
幼い頃から浮いた話一つ出ないのが私達だったはず。
その挑戦的な姿勢ができる理由は何処からでるのか。
疑問しか湧かなかった。
だけど、いい加減に脱却したい女の子同士のクリスマス。
火傷するような燃え上がる大恋愛をしたい。
私になら余裕で勝てると高を括るおデブなこの子をギャフンと言わせたい。
そんな気持ちが前面にでると軽々しく友達の挑戦を受けてしまった――。
『う、受けて、立とうじゃない……。は、吐いた唾を呑む。そんなことにならなければ、いいよね……』
『フン、座敷童がよく言うよ――』
癇に障ることをずけずけと言ったけど、あえて無視する。
腐れ縁だし我慢した方が無難だよね。無用ないざこざを招かない方が平和に繋がることだってあるんだ。
でもね、貴方は
まぁ、いずれにしても結果は目に見えている。
どうせお互いに彼氏なんて出来ずじまいで終わる。
クリスマスはきっと友達と悲しく過ごすことになる。
このことは妖怪コンビでの笑い話になるんだ。
そんな余裕すら感じていたけど、ある日の放課後に教室の片隅で友達が、男の子と談笑している
――うわ、眩しいよ、身体も心も溶けるよぉ。
目眩がするくらいに衝撃が走ったね。
このままでは私が絶対に負ける。吐いた唾なんか呑めないよ。それよりも穢れなき眼でもっとよく見て、相手は性悪な猪八戒だよ⁉
そんな思いが
猪八戒の呪いの
ううん、現実的じゃない。
それよりも、クリスマスケーキにブスリと釘みたいに突き刺さったローソクの
寧ろ逆上して、トンカチ片手にサンタ狩りなんて……マジでヤバイ。
追い詰められて焦りまくる私は、大胆な行動に打って出た。
恋の占い本を大量に買い込んで徹夜で読み漁っては、男の子との接触を待ち臨んだこと。
恋愛成就に効果がありそうなグッズを通販サイトや神社で買い漁り、大量に身に着けては日常生活を送ってみたこと。
はたまた縁結びと名が付く数多の神社を巡っては、お賽銭を潤沢に落とす。
数々の異常とも言える神頼みの行動に踏み切っていた。
そして必死に神様に願ったんだ。
『沢山のお金を使い込みました。どうか、どうか、クリスマスまでには素敵な彼氏が出来ますように。猪八戒には絶対に負けられないんですよ』と。
でもね、そんなことは無意味に等しかった……。
なぜならば、私はとってもシャイな女の子。
男の子と目を合わせて満足に話がすることが出来ない、致命的な欠陥を抱えていたからなんだ。
端から恋愛なんて無理な話しだったんだ。
本当は友達に泣きを入れたい。このまま人知れず雲隠れもしたかった。
でもね、どうしても諦めることができなかった。
女の意地ってやつかな。
気が付けば整形資金にする為にせっせと貯め込んでいたお小遣い全てを、使い果たして貯蓄ゼロ。剰えパパとママに借入している債務者。
もうね、矛を収める境界線を軽く飛び越えて、完全に引くに引けないところまできていたんだ。
悲しい性だよね。自分を失笑したくなるよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます