第2話 マナの心象から
仕事の人間関係が、上手くいかない。
それだけではない、仕事そのものがない。
元来、マナは人間関係が下手だ。
幼い頃から家には千人近くの顔も知らない先祖が出入りして、マナには2つ上の兄がいたが、しょっちゅうケンカしている上に、マナの家系では、女性しか先祖が見えない。
誰もいない部屋で、1人で話しているマナを兄のユウタは不気味がってマナを避けていた時期もある。
兄に避けられ、マナは幼い頃は哀しくなっては母親のもとへ泣きついた。
「あら、マナのひいばあちゃんが後ろで元気だしてっていってるわよ」
朝食を作っていた母親の両膝のエプロンの上から顔をうずめて泣いていたマナに母親は、頭をなでながら台所の後ろを指差した。
ポロポロと涙が止まらず、母親の両膝を両手でぎゅっと抱き締めたままふりかえる。
そこには、仏壇のモノクロの写真でしか見たことのない小柄なおばあさんがニコニコと笑っていた。
「だあれ?」
泣きながらマナは、そのおばあさんに話しかけると、何も言わずにそのおばあさんはニコニコする。
会った事もない、曾祖母だったが不思議と怖くない。
マナは幼心にもこの人は自分の味方であると分かる。
でも、怖い。マナは母親の顔を見上げた。
「お母さんにもちゃんと見えるわよ?うちは女の人だけが、ご先祖様が見えるの」
母親は、マナの頭を撫でる事を辞めずに笑う。
「なんで?」
マナが、質問すると母親も透明な曾祖母も困った顔をした。
「何でかは、分からないの。でも、お母さんに会いに来た、死んだマナのおじいちゃんが言っていた事があるわ、その謎はマナが解けるって」
確か、あれは七歳の時だった記憶だ。
そう、ただの記憶で、その当時マナの周りに生きていた人間は、今は周りに生きている人は独りもいない。
その謎が28歳の今になっても解けないまま、人生すら暗礁に乗り上げているマナにとっては、四面楚歌だ。
先祖の謎すら解けず、派遣切りにあいそうになっていた。
江戸時代の神田家の先祖の女性が、自分が先祖が見えると言い出し、家族や周囲から気味悪がれ最後は座しきろうに閉じ込められ、その女性の娘が絶望の末に姿を消した話を祖母から聞かされた。
確かその後で、その座しきろうの女性と娘は、どうなったのだっけ・・・?一番重要な話が思い出せない。
その世代から神田家の女性が先祖を見る力が強くなっと言われた事は覚えいる。
覚えているが、今は先祖の謎を解くことより食べるため、生きていくための方が、現代社会に生きるマナにとっては死活問題なのだ。
「あと、1ヶ月以内に仕事見つけなきゃ・・・」
安い月給で、家賃や電気代やら光熱費や携帯代や食費をギリギリまで切りつめ、月1万いくかいかないかの貯金をしていたが、次の仕事が見つかるまで底をついてしまいそうだ。
大人になった神田マナの心にしかかり潰そうとしてくるのは、先祖が視える事よりも、毎日の生活のお金しかない。
1日が終わり、疲れきっているマナの心に、マナを悩ませる暗い明日がすでに迫っている。
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