先祖代々、視えている

長谷川 ゆう

第1話 死んだ母親から

「マナ、まだ新しいまな板買ってないの?」


神田マナ、28歳、派遣、独身の母親から、朝から台所で昨日コンビニで買ったサンドイッチを食べながら小言を聞かされていた。


ダイニングテーブルで、もそもそパンを頬張るマナを横目に、10年前に病で亡くなった母親が仁王立ちして、毎朝、台所チェックをする。



マナの家系では、女系のみが亡くなった祖先がミエル。


毎日、マナの家には数人の先祖がうろうろ歩いたり、マナに話しかけたりする。


知らない先祖もいるが、ほとんどか曽祖父か曾祖母か祖父母か母親が、時間、日にち問わず訪れては、いろいろ口を出してくる。



亡くなった母親も、その1人だった。マナの子育ても亡くなっていた曾祖母か知恵をかしてくれたそうだ。



母親が亡くなった後も、マナは母親と話し相談する事ばかりだが、小言が9割なため、正直、普通の親子関係より濃厚だ。


「お母さん、私、今から仕事。行ってきます」

うんざりしながら、朝食の皿を洗って出勤しようとした。


「気をつけて行ってらっしゃい」


マナの母親が、台所で微笑む。



小言も先祖から言われるが、悪くない。大人になったマナは、時々、そんな事を思う。


「あ、今日はおじいちゃん、夜に来るわよ」

母親の一言にうんざりしながら、マナは無口だが優しい祖父の訪問を少し、楽しみにした。


先祖が口だけ出してくるのも悪くない。



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