第95話 【3巻発売記念SS】代表決定戦直前の石田と一美編
《注意》
このお話は、今までの『カクヨム版 彼女が先輩にNTRれたので、先輩の彼女をNTRます』の続きではありません。
『文庫版 彼女が先輩にNTRれたので、先輩の彼女をNTRます』に関連するお話になります。ご容赦下さい。
雰囲気を楽しんで頂ければ幸いです。
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ゴールデン・ウィークが終わって大学が始まる初日のお昼。
石田洋太は『登録科目に不備がある』と言われて学生課に呼び出されていた。
(あ~、面倒だった。まぁ必須科目をちゃんと見てなかった俺が悪いんだけど)
石田は遅いが学食に向う。午後一の授業は休講だ。
(優のヤツはもう食べ終わっているだろうな。今日は一人でノンビリ食うか)
石田は『窓際の柱の影になる席』に向かった。
周囲の目に着かなくて、昼寝には丁度いい席だ。
(そういや、クリパの前にはここで一美さんと会ったんだよな)
そう思いながら柱を回り込むと……
まるでデジャブのように、記憶と全く同じ姿勢でテーブルに突っ伏して寝ている女性がいた。
石田たちのサークルの新部長で、桜島燈子の親友・加納一美だ。
(あれま、また一美さんに先を越されたか。しゃーねー、他の席に行くかな)
その時だ。
「フゴッ!」
とけっこう大きな音が一美から洩れる。
(い、今の、イビキか? 一美さん、マジかよ)
さらにその直後に「ぐっ」とも「ごっ」ともつかないような、謎の音を発する。
(いくら一美さんが『残念美人』とは言え、コレはダメだよなぁ)
石田は一美の隣の席に座ると、
「一美さん、一美さん」
と肩を揺さぶって声をかけた。
「んあ?」
そこで初めて一美は顔を上げる。目の焦点が合っていない。
さらに口元にはヨダレの跡までついている。
さすがの石田もコレには呆れた。
「一美さん、ヨダレが出ていますよ」
「あ? ああ、サンキュー」
一美は特に恥ずかしがる様子もなく、ティッシュで口の周りを拭いた。
「一美さん、そんな大胆に寝ていて、化粧とか崩れませんか?」
「別に。アタシは普段は日焼け止めのファンデくらいしか使ってないからな」
そう言いながら一美はティッシュをポケットに仕舞った。
「にしても、もう少し周囲に気を配った方がいいんじゃないっすか? さっきイビキで凄い音を立ててましたよ」
「そんなに派手な音を立ててたか?」
一美はさほど気にする風でもなく、そう聞き返した。
「ええ。『フゴッ』とか言って、まるでカバが水面で呼吸するみたいな音でした」
「石田君は、カバが水面で呼吸する音を聞いた事があるのか?」
そう言われて石田は面食らう。
「いや、別に聞いた訳じゃないですけど」
「じゃあその例えはオカシイだろ。可愛いハムスターの寝息かもしれない」
「いや、ハムスターは絶対にあんな音は立てませんって。あくまでイメージで話しているんです」
そう言って石田は「ヤレヤレ」とばかりに首を左右に振った。
「もう『残念美人もここに極めり』、って感じっすよ」
すると一美は鋭い目で石田を睨みつけた。
「さっきからカバだの残念美人だの、好き放題言ってくれるじゃないか。ケンカを売ってるなら、言い値で買ってやるぞ」
「いや、そういう意味じゃないっす。ただ一美さんはせっかくの美人なんだから、もっと周囲の目を気にした方がいいって、言いたいんですよ」
石田は慌てて弁解する。一美を怒らせたらサークルでどんな目に合うか解らない。
一美は「フン」と鼻を鳴らした。
「アタシは、そんな外っ面を気にする男なんか相手にしないよ。コッチがゴメンだね。人は内面を見なくちゃ」
「一美さんの内面を知ったら、今度は怖くて男は近寄れないんじゃないすか?」
それを聞いた一美は、いきなり石田の頭部に腕を回す。ヘッドロックだ。
「殺す! 上官侮辱罪で死刑だ!」
「ジョ、ジョーク、ジョークっす! すみませんでした! 一美さんはミス・ミューズに入らないのが不思議なくらいの美人っす!」
それを聞いて一美は石田の頭部を解放した。
「まぁ『美人』とは思っているようだから、今回だけは赦免してやろう」
そう言って一美はテーブル横にあった冷えたコーヒーカップに手を伸ばす。
「そういや、ミス・ミューズって言えば、燈子へのアンチ対策はどうなっている?」
「ゴールデン・ウィーク中にサークルでバーベキューをやったじゃないですか。アレで優が上手く誘導したせいか、燈子先輩への攻撃はだいぶ減りましたね」
「そうだな。あのバーベキューの写真を燈子のページに載せたのは正解だったな」
「俺もそう思います。それに美奈さんを始めとして、竜胆朱音を嫌っている女性が多いじゃないですか。そういう人たちが自然と火消を務めてくれていますね」
一美が安心したように頷く。
「アンチコメントでは、燈子はけっこう落ち込んでいたからな。あの子は口には出さないけど、ダメージを受けているのは明らかだった。あんな風に他人から悪意をぶつけられる人間じゃないからな、燈子は」
「俺は『一番のアンチ対策は放置だ』って優に言ったんですけどね。でもアイツは本当に上手く対処したと思います」
「そうだな。石田くんも引き続き、ネットの方を監視していてくれ。変な情報が出回ったら、すぐにアタシに報告するように」
そう言って一美は空になったコーヒーカップを手にして立ち上がった。
その姿を見ながら石田は思った。
……本当に、見た目は燈子先輩に次ぐ美人なのにな。勿体ない……
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