第43話 追いコン、1DAYキャンプ(後編)

 と、いきなりスマホが振動した。

 取ってみると、なんと燈子先輩からのメッセージだ。

 彼女は5メートルと離れてない所にいるのに。

 メッセージを開く。



>(燈子)帰りは君の車に乗せて


>(優)いいですけど、でもそれは不自然じゃないですか?


>(優)行きは鴨倉先輩の車で来ているんですよね?


>(燈子)その点は大丈夫。一美がうまく言ってくれるはずだから


>(燈子)今日の哲也は強引なの。だから帰りは哲也の車には乗りたくない!



 ……つまり今日の鴨倉は、強引に燈子先輩をどこかに連れ込もうとしている、と言う事か……


 俺の中で瞬間的に訳の解らない怒りが燃え上がった。

 そんな事は絶対にさせない!


>(優)わかりました。帰りは俺の車に乗ってください。俺から燈子先輩に声を掛ければいいですか?


 いざとなったら、今までの事をブチまけてでも、燈子先輩は俺が連れて帰ってやる!


>(燈子)それはしなくていいわ。一美からうまく声を掛けてもらうようにしたから。


 俺は不安を感じたが、そこで反論しても仕方が無い。

 それにみんながいる場所で、俺と燈子先輩の二人が長々とスマホをいじっていたら、誰かが不自然に思うかもしれない。


>(優)わかりました。それじゃあ後で。


 そう言ってスマホを閉じる。


 ……クソッ、鴨倉の野郎!……


 しかし公けには鴨倉は燈子先輩の彼氏で、俺は部外者だ。

 こんな時、表立って行動できないのは歯がゆい。


 ……だけど、イザとなったらどんな事をしてでも、燈子先輩を守る……


 俺はそう決心した。



 ローストチキンとミネストローネの後に、デザートとして出したヨーグルトと缶詰のフルーツを混ぜた物も好評だった。

 おかげでどの女子とも万遍なく、会話する事ができた。

 時々カレンが不満そうに『彼女は自分だアピール』をして来るのがウザかったが。


 バーベキューの後は軽くフリスビーやバレーボールで遊ぶ。

 フリスビー・キャッチは男子だけだが、けっこう盛り上がった。

 そこに飛び込んで来た邪魔者が一人。


「カレンもやるぅ~!」


 フリスビー・キャッチは一人が投げて、それを六人がダッシュで追いかけて片手でキャッチするのだ。

 当然、女子であるカレンでは勝ち目がない。

 カレンにはハンデを付けてやるが、それでもキャッチ自体が出来ないのでどうにもならない。

 ぶっちゃけ、カレンが入って興醒きょうざめだ。


「他の女子も一緒に出来るように、バレーボールにしないか?」


 俺はそう提案した。

 周りで見ていた女子に声を掛け、男女混合で「トスが何回続くか」などをやって和気藹々と楽しむ。



 やがて帰り時間になった。

 俺は燈子先輩を気にしながらも、バーベキュー道具を片付けていると、一美さんが燈子先輩と一緒にやって来た。


「一色君、君の車ってミニワゴンだよね?」


 やけに大きな声で一美さんがそう聞いて来た。


「はい、そうですが?」


「後ろの座席はフルフラットに出来る?」


「もちろん出来ますよ」


 そこで一美さんは、さらに声を張り上げた。

 周囲のみんなに聞えるように言う。


「じゃあさ、帰りは私と燈子を君の車に乗せてくれない?燈子が腰を痛めたらしくてさ。座っているのもツライんだって」


 なるほど、そういう事か。

 俺も燈子先輩も一美さんも、みんな家は近くだ。

 そして腰が痛い時は横になって寝ているしかない。

 鴨倉の乗用車で、座った姿勢で長時間乗車しているのは、かなりキツイ。


「わかりました。準備しますから、どうぞ二人は俺の車に乗ってください」


 俺も大きな声でそう答える。

 すると鴨倉が顔色を変えてすっ飛んで来た。


「おい、何を勝手なことを言ってるんだ?行きと一緒で、燈子は俺が連れて帰るよ」


 俺は鴨倉を睨みつけた。

 そうそういつも、コイツの思い通りにさせてなるものか。


「燈子先輩は腰が痛いそうです。乗用車では余計腰痛が悪化します。その点、俺のミニワゴンなら後部座席はフルフラットに出来るから、横になった体勢で帰れます。その方が腰への負担は少ないです」


「俺の車だって助手席のシートを倒せば、それでいいだろう」


「それじゃあ痛いと思うから、一美さんが俺の車がいいと言っているんじゃないですか?」


 みんなが「何を騒いでいるのか」と集まってくる。

 その中から一美さんが前に進み出た。


「鴨倉さん、燈子はかなり腰が痛いと言っているんだ。これから何時間も乗用車に乗って帰る事には耐えられないと言っている。だからアタシが一色君に頼んだんだ」


 だが鴨倉も引かない。


「大丈夫だ。俺は燈子の彼氏なんだ。そういう点も十分に気遣って帰るよ。もし燈子の痛みが激しいなら、途中で休みながら帰ればいい。そういう点でも俺が燈子を連れて帰るべきなんだ」


 コイツ、彼女が腰が痛いって言っているのに、まだどこかに連れ込むつもりなのか?


「燈子は、今日は親が帰って来いと言っているそうだ。そして明日も用事があるらしい。どこかで休みながらなんて、燈子の都合を無視しているよ!」


 そこへやはり三年生の中崎先輩がやって来た。

 彼は理工学部だが俺達とは学科が違い、電気工学科だ。

 このサークルの部長をやっている。


「おい鴨倉。燈子さんは腰が痛いと言っているんだろ?ここは無理せず、寝た姿勢で帰れる一色の車でいいじゃないか」


「しかしな……」


「彼氏として心配なのかもしれないが、一美さんが一緒に付いて行くと言っているんだ。問題はないだろう」


 それでも鴨倉はしばらく俺達を睨んでいた。

 最後に中崎さんがこう言った。


「そんなに心配なら鴨倉、オマエは一色の車の後をついて走ればいいだろ。何かあったら彼に電話すればいい」


「わかったよ、中崎。別にそこまで心配している訳じゃねぇよ」


 鴨倉は、最後にもう一度俺を睨んでから、その場を離れて行った。



「なるほど、そういう訳だったんすか」


 帰りの車の中、そう言ったのは石田だ。

 結局、俺の車には俺と石田、そして燈子先輩と一美さんが乗る事になった。


「まったく鴨倉さんが、あんなにシツコイとは思わなかったよ」


 一美さんが呆れながらもチャカすように答える。


「哲也は一度自分が言い出したら、中々引かないタイプだから。自分の主張をあくまで押し通そうとするのよ」


「俺も今回は、引く気はありませんでしたよ」


 俺は憮然とした調子で言った。


「それが解ったから、アタシが間に入ったんだよ。一色君も珍しく闘志をむき出しにしていたからね」


 一美さんが笑いながら言った。

 自分ではそこまで露わにしたつもりはないが、周囲からはそう見えたのだろうか?

 それはそれで、今後の展開にマズそうだが。

 最後に燈子先輩が締めくくる。


「でも本当に助かった。今日の哲也はかなり強引だったから。私も怖かった。一美と一色君のおかげで助かったわ」


 そう言って小さく頭を下げる。

 そんな燈子先輩の頭を、一美さんは「ヨシヨシ」と軽く撫でた


「大丈夫!アタシに任せて。燈子を浮気男の餌食になんかさせないよ!」


 その後、運転席でハンドルを握る俺に、燈子先輩がそっと顔を近づけた。


「一色君、本当にありがとう。庇ってくれた時、うれしかった」


 そう耳元で小さく告げる。

 その言葉に、なにか微妙な熱を感じたのは、俺の思い過ごしだろうか?



>この続きは明日(1/15)正午過ぎに投稿予定です。

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