第41話 追いコン、1DAYキャンプ(前編)

 俺と燈子先輩、そしてカレンと鴨倉が所属しているサークル『和気藹々』は12月初旬に、『三年生の追い出しコンパ』がある。

 大学三年生は年が明けると、そろそろ就職活動に本腰を入れねばならない。

 そんな理由で追いコンは12月初旬に行われる。

 そしてこのサークルは今でこそ『何でもありイベント系サークル』だが、元々が『キャンプなどのアウトドア系サークル』だったため、追いコンだけは野外キャンプと決まっているのだ。

 ただ最近はこのキャンプも軟弱化しており、『日帰りできる1DAYキャンプ』つまりバーベキューをやってお終いとなっている。



「この日が女子人気をアゲる、最後のチャンスだから」


 燈子先輩は俺を見据えて、そう言った。

 俺は黙って頷いた。


「今のところ、一色君に対する女性陣の評価はけっこう高いわ。特にこの前の女子会で会った四人はね」


「ケーキ食べ放題の店で会った四人ですね」


 俺は以前に『サークルの主だった女子が集まっている中に、偶然を装って話の輪に入り、女性陣の評価を上げる』という作戦を実行した事がある。

 ちなみにこのアイデアの発案も、お膳立てをしてくれたのも、全て燈子先輩だ。

 その時に経済学部2年の美奈さんと1年の綾香さん、文学部2年のまなみさん、商学部の1年の有里さんという、四人と交流を持つようになった。


「そう。彼女達はサークル内でも中心的人物だし、他女子への影響力も大きい。彼女たちに好かれているのは、君にとって大きなアドバンテージよ。でも他の女子にも、もう一つアピールが欲しいわね」


「そう思って俺も、追いコン・キャンプでは料理担当に立候補しました」


 燈子先輩の言う『他女子へのアピール』については、俺も考えていた。

 その結果として思いついたのがコレだ。


 キャンプでは料理好きな男子が、それぞれ一品を披露する事になっている。

 俺はその一人だ。

 イマドキ『料理男子』なんて珍しくもないし、どこまで女子へのアピールになるか解らないが、俺が他人より出来そうなものと言ったら、プログラミングと料理くらいしか無いんだから仕方が無い。

 それと俺は子供の頃から家族でキャンプに良く行っていたので、キャンプ関連の知識は多少はある。


「そうだね。君はそこそこ料理は出来るんだったね。キャンプの料理は何にするか決まっているの?」


「はい、バーベキューはありきたりなんで、ダッジオーブンを使ったローストチキンでもやろうかなと思っています」


 これは俺の親父の得意料理だ。

 丸鶏を丸々一羽使った豪快な料理だが、事前に燻製などに使うソミュール液に浸しておく事で、肉全体に絶妙な味が着いてくれる。

 内部には栗やカブ、ニンジン、ジャガイモ、ブロッコリーなどの野菜を詰めておく事で、かなりゴージャスな料理を演出できる。


「いいわね。それにプラス、何かデザートを用意できるといいわ。女子はデザート好きだし、バーベキューではどうしても重い料理が中心になってしまうから」


「じゃあヨーグルトにフルーツ缶を混ぜたデザートなんてどうでしょうか?作るのに手間が掛からないし、サッパリしているので」


「それでいいと思うわ」


 燈子先輩は満足そうだ。


「他には何か注意する事ってありますか?」


 女子の気持ちって本当に良く解らない。

 「良かれ」と思ってやっても、逆効果だった事は何度もある。

 だからここは燈子先輩の意見を参考にするしかない。

 いつも燈子先輩に頼りっきりで情けないが……


「まずは色んな女子と満遍なく、適度に会話する事ね。あまり一人とだけ話し込んではダメ。それからシツコクない程度にサラッと会話する事。特に困っている女子の手助けなんかをしてあげてね。そうすれば自然に会話できるし」


 なるほど、前にも言っていた『女子全員に公平に』ってヤツだな。


「後は普通にしていていいんじゃない?一色君は男子の中で、嫌いな人とか苦手な人とかいる?」


 真っ先に『鴨倉哲也』の名前が頭に浮かんだが、とりあえずそれは口にしない。


「特にいませんが」


「じゃあ大丈夫。いつも通り、楽しく男子と遊んでいれば。女子は『仲のいい男子グループ』が好きなのよ」


 それなら普段の事だから、特に問題ない。


「それと今回だけは、カレンさんにかまい過ぎないようにね。出来るだけ他の女子のポイントを上げる事に注力して」


「わかりました」


「もちろん、彼女が完全に拗ねてしまうようじゃ困るけど。ちょっとくらい嫉妬させる程度がちょうどいいわ」



 そうして12月の第二土曜日。

 俺達はサークルの『追いコン・1DAYキャンプ』に参加した。

 場所は静岡県の富士山周辺にあるオートキャンプ場だ。

 広々として眺望が良く、ウチのサークルは例年ここか伊豆のキャンプ場を使っているらしい。


 俺は調理担当の一人として、自分の家のミニバンを出していた。

 同じ方面の石田を乗せていく。

 燈子先輩は残念ながら鴨倉の車だ。

 現時点ではまだ『燈子先輩は鴨倉の彼女』という事になっているので、これは仕方が無い。

 鴨倉もこの日のために、実家の車(BMWのセダン)を持ってきていた。


 電車組は新宿駅に集合だ。

 そこでそれぞれの車に分乗する。

 早朝に出発した事もあり、午前10時半には目的のキャンプ場に到着する事が出来た。


「お~し、それじゃあ調理担当はさっそく準備だ。まずは火起こしから始めるぞ」


 俺は三脚式の焚き火台を組み立て、その上で炭を置き着火剤に火を着けた。

 子供の頃から何度か家族でキャンプに行っているので、この辺の手順は手馴れている。

 そばに他大学の女子がやって来た。


「へぇ~、一色君、手馴れているね」


「まぁね。家族でよくキャンプに行ってたから」


「私たちの所、なんでか解らないけど、火が中々つかないんだよね」


「そうなの?見てみようか?」


「そうしてくれると助かる!」


 その女子について、彼女たちが担当している焚き火台に向かった。

 原因はすぐに解った。

 まずは持って来た炭が備長炭だったのだ。

 備長炭は高級品で火持ちが長い反面、とても火が着き難い。

 そしてどれも炭自体が大きかった。

 その反面、着火剤は百円均一で売っているチョコレート型の着火剤だ。

 これでは中々火が着かないだろう。


「この炭はどこから持って来たの?」


「ウチにあった炭なの。前に家族でコテージに行った時の残りで」


「この炭は備長炭と言って高級品で、火が長時間燃え続けるんだけど、そのぶん火が着きにくいんだよ」


「そうなんだ?知らなかった。炭なら何でもいいかと思って」


「俺が持って来た炭を少し分けてあげるよ。その上でこの備長炭を燃やせば大丈夫だと思うから」


 俺は自分の所から細かく砕けた炭と着火剤を持って来た。

 それを使ってまずは火を起す。

 ある程度、炭が燃えたところで、彼女の持って来た備長炭を空気の通りが良いように上に乗せる。

 やがて備長炭も赤く燃え始めた。


「これで大丈夫。後は火加減を見ながら、炭を取り除いたり追加したりすればいいから」


「ありがとう、一色君!助かった!」


「また困った事があったら、遠慮なく呼んで」


 俺はそう言ってその場を離れる。

 すると少し離れた所で、燈子先輩と一美さんが並んでコッチを見ている。

 一美さんが小さく親指を立てた。

 「グッド・ジョブ」の意味だろう。

 俺もニヤリとしながら目礼だけを返す。



>この続きは明日(1/13)正午過ぎに投稿予定です。

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