第2話

秋もこの時期になると日は短くなり、彼の家への道の向こうの空は真っ赤な夕焼けで塗りたくられていた。その空の赤さが目を焼いてきて、私はどういうわけか、ゾクッと軽く鳥肌が立った。


「でも、俺達、こんなに幸せなんだけど、本当にいいんかな?」

「えっ?」

「だって、『あれ』からまだ、半年も経っていないんだよな。ほら、あいつ……真奈美(まなみ)のこと」

彼の口からその話題が出るたびに、私の全身が凍りつく。それは、私の中にうごめく罪の意識によるものだろう。


しかし、私のそんな内心には一ミリも気付かずに、悟は続けた。

「里菜(りな)、あいつと仲良かったしショックだっただろう。俺もメチャクチャショックで……でも、同じくらいショックなはずのお前が、俺を励まして元気づけてくれて。俺、あの時、お前のこと、すごく強いって思ったよ」

「そんな……強いだなんて。私もツラくて、ツラくて何度も泣いたのよ。でも、そんなに泣いてばかりいても、天国に行ったあの娘も報われないし……だから、私達、前を向くしかないのよ」


私は目にジワっと涙を潤ませて。もう何度目になるだろう……精一杯の演技をした。

「そうか……そうだよな。また思い出させてしまって……ごめんな」

彼はそんな私の頭を手でそっと撫でて、泣きそうな顔で優しく語りかけてくれた。


私はいつまで、この演技を続けなければならないのだろう……? それはきっと、誰もがあの娘のことを忘れて、その記憶を風化させてしまうまで。

でも、私は何度だって演じてやる。だって、あの娘を犠牲にしてまで掴んだこの幸せを、私は無くしたくないんだから。

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