第5話 エクスカリバーの覚醒
「ふんっ、口ほどにもないねえ! 」
魔王軍を蹴散らしたセリアは上機嫌で村まで引き返してきた。
「私の部下が城を落とすまで時間の問題さ。さて・・・、見つけたよ、勇者」
「! 」
セリアは私を見つけるなり、剣の切先を首に突きつけた。
殺られる!
痛みを予測し、身構える私。
しかし意外な救いの手が出された。
「勘違いだ。こいつは勇者じゃない。聖剣を持っているだけのただの人間の女だ。よせ」
「はあ?なんだい、あんた」
「・・・この村の祭司だ」
「エ、エロ、ゴホゴホッ、ロフ・・・」
呼びにくい名前しやがって。
だが私の前に立ってまでこの男が助けてくれたのは確かだった。
「どうして・・・」
「エルフのカースト最下位ってやつは人間の女にも尻尾を振るのかい? 」
セリアは苛立たしげにロフを睨んだ。
エルフのカースト最下位。
ロフが酷い名前なのも納得がいった気がした。
「残念だけど、そいつは本物の勇者だよ。アタシがこの目でしかと聖剣を抜く所を見てんだ。邪魔するならアンタも切るよ」
セリアが再度剣を構えた。
しかしロフは退かない。
セリアはうんざりとした風にため息をついた。
「なんなんだいアンタ・・・。そういう女が好みなのかい? 」
「俺は弱い者いじめが嫌いなだけだ」
「いじめられてるのは私の方だよ。聖剣を盗まれてこんな所まで来させられてるんだから。可哀想だとは思わないかい?」
「剣は持ち主を選ぶ。あんたの所に来ないのはあんたにその素質がないからだ」
「はあ・・・、やめた!あとでいいや! 村長ォ、酒ー! 村を救ったんだから酒ぐらいよこしなよー! 」
「こ、困りますセリア様・・・っ」
セリアは面倒くさくなったのか、村長に酒をたかりにいった。
魔王軍にも人間にも接収されて・・・、可哀想な種族だ。
「あんた、命が惜しいならさっさと本物の勇者の所に逃げろ」
「私だってそうしたいけどね・・・」
場所が分からないしね・・・。
「・・・それが出来ないなら、あんたがその剣の本当の持ち主になるんだ。でなければ、この村を出る頃にあんたの命はないぞ」
「剣の本当の持ち主になるって・・・、どうやって? 」
「血を吸わせる」
ロフは近くで延びていたヴェニスを私の前に引きずってきた。
こいつ相当名前からかわれたこと恨んでるな。
「あのセリアという女騎士は勝ち戦で気が大きくなっている。油断している今がチャンスだ。股間を中心にやってくれ」
私怨じゃねえか。
「血が必要なら私があげるよ」
「!? 」
軽く手首を切ってエクスカリバーに血を垂らすと、スポンジに水を含むように剣は血を吸った。
こわ・・・。
ドン引いたのは束の間で、なんだか力が湧いてきて元気になってきた!
「こ、これがエクスカリバーの力・・・? 」
軽く石を叩いてみると粉々に砕けた。
「うわああん!お姉ちゃーん! 」
いけない!エルフの男の子が泣いている!
「私を呼んでる! 」
「呼ばれているのは村長の娘だ」
ロフに首根っこを捕まえられた。
「ぐえっ」
「騎士は魔王軍の城までは攻め込まなかった。最初からエルフの作った酒が飲みたくて助けたんだろう。前線で捕まっていた娘達は助かったが、捕まった村長の娘は帰ってきていない」
「私がエクスカリバーを使えば助けられるんですか? 」
「・・・戦いは嫌なのでは? 」
「嫌だけど・・・、女の子が1人だけ捕まってるなんて可哀想じゃないですか」
「だからといってあんた1人で行ったとしても、捕まった女が2人になるだけだな? 」
え、助けてくれるって言ってんのこの人?
「助けて下さい祭司様 」
「・・・最初からそのつもりだ。そこで延びてるクソ野郎を起こせ。魔物は人と同じで金が好きだ。金貨をばらまかれながら歩かれたりしたら目移りしない奴はいない」
私怨しかないじゃないですか。
お金大好きなヴェニスがそんなことしたら発狂するだろう。
「僕は絶対嫌ですからね! 」
案の定ヴェニスは起きるとそうごねたが、凄い形相をしたロフに胸ぐらを掴まれ、魔王軍の城の前まで連れてこられると、中に放り込まれていた。
すごい力だ・・・。
「ギャーー! 近寄らんといてぇー!お金あげるからァアー! 」
チャリンチャリンとGの落ちる音が門の向こうで聞こえる。
Gは命には替えられないのだ。
「行くぞ勇者」
「アッハイ」
この人とセリアで世界救えるでしょ。
そんな事を私が考えている頃、セリアはちゃんとエルフの村でくっ殺状態になっていた。
「き、貴様ら! 私にこんな事をしてただで済むとっ、くっ! 」
豊満な体を包んだ鎧が剥ぎ取られる。
その暴挙は、他ならぬ彼女の部下がやったものだった。
「隊長が悪いんですよ。こんな前線で酒なんか飲んでるから・・・自分より弱い男に負けるんですよ」
「そんな、酒ごときでこの私が負けるはずがない・・・! 」
「エルフは狡猾で自己中心的。隊長の酒に薬を混ぜれば明日俺が隊長になって娘を助けてやると・・・、そう村長をそそのかしました」
「なっ」
「人の気持ちを考えないからそうなるんですよ・・・」
セリアの部下はハイライトのない目でセリアを見下ろす。
彼の背中には、セリアが騎乗する際に踏みつけた足跡がくっきり残っていた。
「ああそうそう、隊長のグラスに入れた薬ですがね。南の密林でドワーフ達が作らされている葉っぱを入れさせてもらいました」
脱がされても威勢のよかったセリアはその言葉に初めて青ざめた。
「もう貴方が王都に戻ってくる事はないでしょうね。おい、あいつらを連れてこい! 」
副隊長が声をかけると、部下達が緑色の肌の異形を中に入れる。
「ご、ゴブリン・・・! 」
「ニンゲン!オンナ!メス!メス! 」
「よかったですねぇ、セリア様。ゴブリン達が貴方を気に入ってくれたようですよ」
「ね、ねえ、悪かったよ。もうあんな事しないから。私だって隊を率いる為に心を鬼にしてあんたに辛くあたってたんだ! 分かるだろ!? 」
「今更そんな事言われたってもう遅いですよ・・・。ん?あれ?外から鍵が・・・」
ガチャッ! ガチャッ!
部下は外に出ようとしたがそれは出来なかった。
エルフは狡猾で自己中心的。
「勇者がいればドルチェは助かるってエロフが言ったんだよな? 」
「ああ、こいつらは魔物に食わせて殺しておけって」
「あいつは陰気で性格が悪いけど嘘は言わないからな。魔王軍が来る前はこいつらに迫害されてたんだ。女神様だって許してくれるさ」
「そうだ、祭司が言ったんだから」
「殺してしまえ殺してしまえ」
「ま、待っ」
農具で何かを潰す音が聞こえた。
セリア達も中のゴブリンと目があった。
「ニンゲン、ミミ、ウマイ、ミミ!」
「ギャアァアァア!」
「オンナ!オンナ!メス!メス!」
「く・・・、うっ・・・」
裏切った部下が見るも無残な姿になるのを見ながら、セリアは耐えた。
瞼の裏に映るは美しい青い剣。
それを背負った優しい青年。
「アーサー・・・、アンタに剣を渡すまでアタシは・・・っ」
「アヒャヒャヒャ!アヒャヒャヒャ! 」
美しい思い出は魔物の笑い声で消えていった。
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