タイムループした俺が思い出したのは婚約破棄前夜だった。

天笠すいとん

第1話 よーいスタート!

「くっくっくっ。いよいよ明日はあの女が消える日だ」


 一国の王子にあるまじきゲスな顔で俺はワインを飲んでいた。

 まだ成人していないから法律的にはダメなのだが、そこはお城の中。ちょっとくらいは大目に見て貰えるし、なんなら口封じもしておく。


「はーはっは!笑いが止まらんなぁ!」


 グラスで飲むのがまどろっこしくなった俺はボトルごとグイッといっちゃう。

 正しい飲み方なんぞまだ教えてもらっていないが、この国では俺がルールなのだ。


 いずれこの国の玉座に座るのは俺、グズカス・ユグドラシルなのだから。

 容姿端麗で運動神経も抜群な俺は国中の憧れなのだ。多くの女達から黄色い声援を浴びてちやほやされるのは凄く楽しいし、金と権力があればやりたい放題なのだ。


 そんな完璧でパーフェクトな俺にはある問題があったのだ。

 それが、婚約者のエリシア・フローラという女だった。

 国王であるパパとフローラ公爵が勝手に決めた婚約のせいで俺は好きでもなんでもないこの女といずれ夫婦になる予定だった。

 地味で目立たない、愛想の悪いこの女が俺の妻になるだなんで我慢ならない。


 だから俺は決心し、このエリシアを罠に嵌めて明日の夜に行われるパーティーで婚約破棄をしてやるのだ!

 その為に数年前から準備をして来たのだからな!


「酒が美味い!……いや、ちょっと気持ち悪いかも」


 調子に乗り過ぎた俺はトイレに駆け込んで胃の中を空にする。

 うえぇ……誰だよ勝利の美酒は格別なんて言った奴は。吐いたら気持ち悪いだけじゃん。


「頭も痛くなったし、ちょっとだけ寝よ」


 パジャマに着替えるのも面倒になった俺は大きなソファーの上で横になる。

 普段なら俺の世話をしているメイドも、今はある用事で側を離れているからな。誰からもお咎めなしだ。


「うへへへ……明日から俺は自由さ……」


 こうして俺は眠りについた。

 だが、深い眠りの中で俺は突如頭痛に襲われる。

 ズキズキとした強烈な痛みのせいで頭が割れるんじゃないかと思った。


「うぎぎぎぎぎ……俺は……俺は!!」


 痛みがピークに達した時、俺の脳裏にある記憶が蘇った。

 それは、国王になった俺が断頭台で処刑されてしまう記憶だった。



「なんじゃこりゃあ!?」



 その意味不明な光景に俺は飛び起きた。

 死ぬ直前のリアルな記憶のせいで体から嫌な汗が吹き出して酔いなんて覚めてしまった。


「俺はーーーなんて事を!」


 全て思い出した。

 俺は、グズカス・ユグドラシルは未来で死んで過去にタイムリープしている。

 どういうカラクリなのかは知らないが、このチャンスを利用するしかない!


 明日、エリシアと婚約破棄して調子に乗った俺は国を傾けて国民から革命を起こされて死ぬ。

 それを阻止するには今、色々とやっている仕掛けを全部捨ててエリシアとの婚約を続けるしかない。

 未来の記憶がある俺ならそんな事は簡単だ。何が悪かったのかキチンと覚えているのだから。


 問題があるとすれば一つだけ。


「……婚約者破棄まで24時間を切っているんだがどうしろと?」


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