瞬間と習慣と気づかぬうちに

藤咲 みつき

瞬間と習慣と気づかぬうちに

瞬間と習慣と気づかぬうちに

                      作者 藤咲 みつき

登場人物

 名前 先崎 静香

 歳15歳

聖フィナンシルア女学院 高等部1年


 名前 館林 幸助

 歳 16歳

 雅西高校 高校1年


 名前 雪野原 涼音

 歳26歳

 OL



 4月6日(月曜日)倉科駅 6時50分

 時は春、新学期の始まりであり、始まりの季節。

 わたくしは、先崎 静香はこの春晴れてより憧れであった電車での通学をお父様に許してもらい、こうして駅までやってきました。

 制服に身を包み、長年そうしているように後ろ髪を三つ編みし、前髪には左斜めに花の髪飾りの髪留めをし、気合十分での登校です。

 わたくしの通います聖フィナンシルア女学院は、世間でいう所のお嬢様学校であり、初等部からのエスカレーター式での進学がほとんどで、通学されていらっしゃる方々も、普段から自家用車通学が多い学校です。

 かく言うわたくし、先崎 静香も先日3月までは車での通学だったのですが、高校生という事で、電車での通学はできないものかとお父様へと打診したところ。

「ふむ・・・・よかろう、社会勉強にもなるだろう、やってみなさい」

 色好い返事をいただきまして、わたくしは心躍らせながら今日という日を迎えました。

 駅まで歩き、駅から電車に乗り、学園へと向かうルートでおわせて通学に40分ほどとなる距離でありますが、車であれば25分ほどでつきますが、この15分のロスがあるとはいえ、わたくしは、電車という未知の乗り物への憧れとは捨てることができず、こうして本日駅まで来ました。

 下調べでチケットなるものと、スイカと言われるカード決済があるとのことをうかがっていたのですが、父からスイカの定期券とやらを1年分支払いを済ませてあるものをすでに受け取っているのですが、わたくしはあえて券売機に近づきました。

 せっかく来たのです、わたくしのおこずかいで現金で片道切符とやらを購入してみたくなったのです。

 もちろん損ではありますが、ですが、このワクワクしたこの衝動を抑えることができるはずもなく、券売機の前にたつと。

「『目的地までのお金をお入れください』」

 券売機から音声が流れ、そう告げるが、わたくしは目的の駅までのお値段を知らず、一瞬にして頭の中が真っ白になってしまい、どう態様したらよろしのかすらわからなくなってしまいました。

 すると、朝という事もあり、わたくしの裏には人が並びだし、更にわたくしの心は焦りを伴い、どうしたらよいのかオロオロしてると。

「アンタ、シルア女子だろ・・・・240円だ。片道」

「え?! あ、はい!」

 わたくしの隣に突然同い年ぐらいの男の子が立つと、わたくしの制服を見てそういうと、お金を入れる様に言う。

「ありが・・・・あれ?!」

 わたくしがお礼を言おうとすると、すでに男性の姿はなかった。

 用件は済んだので、すぐにいなくなったのでしょう。

 私も切符を手に取り、改札を通る。

 正直に言えばかなり助かりましたが、せめてお礼を言わせてもらいたかったなぁと思考を巡らせていると、電車が到着し、人が電車かれ出てきて、乗ろうと私は一歩踏み出そうとすると、腕を引っ張られ、乗る列から離される。

「へ?!」

 あまりに唐突な出来事にびっくりし、手を引いた相手を見ると、そこにはあきれた顔の男の子がいた。

「アンタ、それ乗るとシルアのある駅止まらないぞ・・・・もう一本マテ」

 あ、この人がさっきも助けてくれた人なのだと、すぐに理解するも、あまりの出来事になんと声を掛けたらよいのかわからなくなり、ただうなずくと、盛大に彼はため息をついた。

「素直にお迎えでいけよ」

「あ、あの、わたくし・・・・」

 心底面倒くさそうにそういう彼に何か言わなければと思ったのですが、声が出ず、その顔を見ると。

 そこには少し照れている男の子がいました。

 わたくしはてっきり憎まれ口をたたくものだから、相当怒っているものと思い、内心びくびくしていたのですが、そこには優しそうな殿方が、顔を横へと背けながら照れていた。

 そうこうしている間に、電車が来て乗ろうと一歩踏み出すと、また彼は私の腕を引っ張った。

「まてまて、今乗ったら出れなくなる!」

「なぜです?」

 電車に乗車したことのない私は、彼が何を言っているのか最初理解できなかったのですが、彼がよく見ろと言いながら指さした方向を見る。

 そこにはどんどんと人が入っていき、あっという間に社内は人でいっぱいになり始めた。

 わたくしは、これでは乗れなくなってしまうと焦る。

 そんなわたくしの心境を感じっとたのか、彼は大丈夫だよ、と言うと、最後の人が乗ったのを皮切りに歩き出し、ドア手前に乗る。

 わたくしもそれに続くように乗ると、それを確認したかのように駅のベルが鳴り、プシュー、という音ともにドアが閉まる。

「狭くない?」

「え、はい大丈夫ですが・・・・どうしてこんなに混んでますの?」

「そら皆これで通勤してるし、出社時間と、通学時間重なるからね。必然的に多くなるんだよ」

 まるで当たり前の事のようにそういう彼の事がに、わたくしは今まで自分がどんなに世間知らずだったのかを痛感しました。

 ですが、どうしてドア付近に陣取っているのかについてはわたくしは理解できませんでした。

 時間にして5分ぐらいでしょうか、揺られながら、次の目的に似つくと。

「ここでしょ、シルア女学園のある駅」

「へ?!あ、あの・・・・」

 お礼を言おうとすると、一気に人が出てゆき、彼は華麗にドアが開くと同時に端へと避けたのでその流れから逃れることができたが、わたくしはあれよあれよという間に人の波にのまれ、お礼を言う間もなく、改札上へと続く階段の場所まで連れていかれてしまい、目まぐるしく状況が変化していくので、正直目が回りそうでした。

 彼がその後無事に電車にまた乗ったのか、それとも同じ駅で降りたのかも確認できぬまま、私は人の流れに身をまかせながら改札へと生き、電車のきゅぷを取り出し改札を通る。

 そのまま、流れに身をまかせ、駅を出て学園へと足を向けると、やっと人の流れが落ち着いて来たところで足を止める。

「ふ、ふぅ~・・・・こ、怖かったですぅ」

 一息ついたところで、あまりの人の多さと、目まぐるしさに、身震いをする。

 恐怖にも近いこの感情に、改めて自分がどれだけ良い環境に居たのかを思い知らされました。

「こ、これを毎日・・・・ですか・・・」

 初日にしてこの体たらく。

 疲労感と、目まぐるしさにココロが折れそうになりながら、わたくしは学園へと足を向ける中。

「結局、お礼を言えませんでした・・」

 親切な彼へのお礼を言うつかの間も与えていただけず、ただながされるままに進んだ今日という日に言い知れぬ敗北感を感じながら、初日をわたくしは迎えたのでした。



 6月10日倉科駅7時5分

 あれから三か月、わたくしも通学になれ、特に問題なく過ごしていたのですが、あれ以来彼を見かける事はなく、わたくしの中では半分忘れ去られていました。

 一時期は、彼にお礼を言い、あわよくばそこから少女漫画の様な淡い恋が始まる!

 などと妄想を沸々と温めていたのですが、特にそんな甘美な思いに浸れることもなく、時は無情にも過ぎ去り、現在は6月、梅雨のじめじめと、初夏の暑さで、体感気温が高くなるこの時期、衣替えもし、わたくしの服装は冬服から夏服へと変わっておりました。

 3か月という時間は過ぎ去りました。

 人間というのは最初は不慣れであったり、初めての事には状況についていけないものですが、なれとは恐ろしいもので、今やこの満員電車も、わたくしにとっては日常の風景になってしまっています。

 文庫本を片手に、電車を待つのが日課になり、この時間は思いのほか読書がはかどる時間です。

 最初のうちは彼にまた会えるのではないかと思い、駅で電車を待っている時間、よく周囲を見ては、姿を探していたのですが、あいにくとそんなに都合よく会う事もなく、ほどなくしてわたくしは諦めました。

 それからというもの、だいたい読書をしており、そもそも探すという行為すらしなくなっています。

 電車がホームへと入ってきて、人が出ていく中、本を片手に読みふけながら華麗に人を避ける。

 これもまた、わたくしがここ3カ月で会得してしまいました能力と言えるでしょう。

 優雅にかわし、出て行った人と入れ替わるように人がなだれ込みます。

 私は人々が乗り込んだ後、さっそうと一歩前へと踏み出した瞬間。

 ガクン、と視界が歪み、下へと落ちる感覚に襲われる。

「ひゃっ!」

「危ない!」

 私の目の前に居たOLのお姉さんがとっさに私の腕をつかむ、それと同時に後方から誰かにつかまれ、電車とホームの間にある隙間へと落下することなく、辛うじてその場にとどまることができました。

「あ、ありがとうございます」

「危ないよ、ほほっ・・・・」

 お姉さんはわたくしを引き寄せ、電車内に引き入れる。

 あまりの出来事と、落ちていたらとんでもない事になっていました。という今更ながらの恐怖に体が反応し、背中から冷や汗が伝い、心臓が五月蠅いぐらい脈打つ。

「あ、ありがとうござ・・・い、ます?!」

 わたくしは振り返り、わたくしをとっさに背後から支えてくださった方へとお礼を言おうと振り返ると、そこには4月にわたくしを助けてくれた彼がそこに居た。

「危ないよ。いつかやるんじゃないかと思ったけど・・・・・まさかやるとは」

 男の子はあきれながら、わたくしの顔を見ながらそう注意する。

 わたくしも、自分のしでかした危険な行為と、一歩間違えば大怪我をしていたのだと自覚し、素直に謝る。

 そこへ、その様子を遠くから見ていたのだろうか、駅員の方が慌てて駆け寄ってきて、お怪我はございませんかお客様?!

 とのお声がけまでいただいてしまい、わたくしは恥ずかしさと、いたたまれなさに苛まれながら、必死に謝罪の言葉と、大丈夫です!と言い、電車に乗り込む。

 男の子も乗り込み、わたくしはまるで熟れたリンゴのように、顔もほてらせていると。

お姉さんが、おお、なるほどぉ、などと何かを一人で納得したかと思うと、わたくしに、少し待ってて、とか言い、彼の首根っこを掴み、少し離れる。

彼は少しつんのめる形で反対側のドアのところまで連れていかれる。

幸い、本日はそこまで電車は混んでおらず、わりとすいていた。



「少年・・・良いか、これはチャンスだ!」

 見知らぬお姉さんは俺の制服の襟首を引っ張りながら、反対側のドア付近まで連れてくると、開口一番にそのような事を口にした。

「な、なにがチャンスですか?」

 多少声を詰まらせながらそう答えると、まるでそれですべてを悟ったかのように、綺麗にメイクされた顔を嬉しそうにさせながら。

「ずっと見てたんだろぉ? じゃなきゃあんなにとっさに助けられないもんねぇ。良いよぉお姉さんが協力してあげよう」

「え、いや、ちょっ!」

「あの子、見た目は地味だけど、顔は整ってるし、磨けば超美人になるからねぇ。いやぁ少年は良い目をしてるよぉ。じゃぁあとは私に任せてねぇ」

 言うが早いか、OLのお姉さんはヒールを響かせながら彼女の元へと戻っていく。

 俺はその後姿を見ながら、なぜこんなことになってしまったのかと、内心では少し喜びつつも、この後なにがあるのかわからないというドキドキに、気が気ではなかった。



「おまたせぇ、えっと・・・・私は、雪野原 涼音って言います。あなたは?」

 OLのお姉さん、涼音さんは、戻ってくると同時に、自己紹介をし始めました。

 わたくしはあまりの出来事に頭がついてゆかず、一瞬呆けてしまいましたが、慌てて名乗る事にしました。

「わたくし、先崎 静香です。聖フィナンシルア女学院1年です」

「え?! シルア女子?!」

 わたくしがそう名乗ると、涼音さんは出身校を聞いた途端、変な声を出したかと思うと、身を寄せてきて、ヒソヒソ話をするかのように、小さく語りかけてきた。

「なんでお嬢様が電車通学してんの?!」

「わたくしの趣味です。お父様も見聞を広めないさいと」

 わたくしはよどみなくはっきりとそういうと、まずったかなぁとかぶつぶつ何かを呟いた後。

「少年名前は?」

 涼音さんはわたくしから離れ、彼にそう問いかける。

「え、俺は館林 幸助・・・・です」

 彼、幸助君は何とも言えない顔でそう答えると。

「二人とも、朝だし時間内から、これからお茶というわけにもいかないし、連絡先交換しない?」

 言葉よりも行動のほうが早いのか、涼音さんはすでにスマホを片手に持っており、わたくしと幸助君に出すように促す。

 すでに流れは涼音さんがすべて握っているかのようにあっさりと、私と幸助君は、あっさりとスマホを出し、言われるがまま、わたくしたちは連絡先を交換することとなりましたが、わたくしとしましては、今日助けていただいたお礼を改めてお二人にしたいとも考えていたので、ある意味では好都合でした。

 それに・・・・彼の連絡先を思わぬ流れで手に入れてしまいました。

「静香ちゃん・・・もしかして幸助君の事好きなの?!」

「え?!」

 自分では全く考えが及んでいなかったことを言われ、わたくしは動揺する。

 そうこうやり取りをしている間に、電車は次の駅に着き、わたくしは逃げるようにその場を後にした。

 その時、自分がどんな顔をしていたかは分かりませんが、体は熱くほてり、心臓がぎっっと握られたかのように苦しく、何とも言えない感覚のまま、わたくしはその日、改札を出た後、走りながら学園へと向かったのでした。



 後日、わたくしはお二人をお屋敷に招き、お茶をしたのですが、その話はまた今度。

 そうこうしているうちに、夏が来て、秋になって。

 その間、わたくし度々幸助君とのやり取りをアプリで楽しみつつ、満たされた時間を過ごしておりました。

 そんなある日、お友達の、麗華ちゃんがふとこんな事を言いました。

「そんなに話の弾む殿方ですと、将来はご結婚を考えてらっしゃるのですか?!」

 高揚した感じで、麗華ちゃんはわたくしにそう尋ねてこられて、わたくしはとっさにそんなことございませんわ、などとごまかしたのですが。

 どうしてか、その言葉が耳から離れず、そこから数日、わたくしはいったい彼とどうなりたいのかと、考えがループし、ほかの事が手につかなくなってしまいました。



 11月24日倉科駅6時50分

 秋の雨が降っており、気温は例年より寒く、朝の気温は前日と比べ、3度ほど低く10度を下回っているにもかかわらず、わたくしはあろうことか、手袋を忘れてしまい、手で息を吹きかけながら温め、電車を待っていました。

 ですが、今日に限って、少し早く出てしまい、あと2本電車が行った後でなければ社内へ入り、温まる事もできません。

「静香ちゃん・・・これ、良かったら使って」

 突然声を掛けられ、そちらに振り向くと幸助君が、何かを差し出してきました。

 わたくしは言われるままにそれを受け取ると、その袋のようなものは暖かく、わたくしの冷え切った指先などを、じんわりとほぐし、温めてくれます。

 まるで魔法のようなその袋に、わたくしは驚きつつ、これはいったい何なのだろうと興奮気味に、彼に効こうとすると。

「ああ、それはカイロって言って、空気、酸素に触れると発火して、暖かくなる砂のようなものが入った袋なんだよ」

「え?! 酸素で発火?! 燃えているんですかこれ?」

 お話には聞いたことがございましたが、実際に見て触れるという機会がなかったこともあり、何とも不思議な感覚でした。

 手に持ったカイロはみるみるわたくしの手を温め、先ほどまでの寒々とした朝のもどかしさと、早く電車が来ないのかというそわそわが一気に解消されてしまいました。

 そこでふと、気になったことがあり、幸助君へと視線を向けると、やはりというか、彼は妙に寒そうにしており、手をコートのポケットへと突っ込んでいました。

「ごめんなさい、私のためにこれ!」

 慌てて帰そうとすると、彼は微笑みながら。

「女の子が体を冷やしちゃヤバいよ。うち姉ちゃんいるんだけど・・・その辺うるさくて」

 苦笑いしながら、何かを思い出しつつそう答える彼の顔が印象的で、思わずそのままジーと見つめてしまい。

 幸助君も見つめられてるのが恥ずかしかったのか、視線をあっちこっちに動かし、せわしなく落ち着かないようでした。

「今日は暑いわねぇ~」

「ひゃっい!」

 突然声がしたかと思うと、私の頬にヒヤリとした繊細な指がふれ、わたくしはその冷たさと唐突な冷たしに身を固くし、思わす素っ頓狂な声が出てしまいました、

 何事かと思い、手の主がいる後方へと首を向けようとすると、そこには満面の笑みに満ちた涼音さんがいました。

「何をされるのですか?!」

 わたくしはどういうわけか自分でもわからないぐらい強い口調でそう言ってしまい、慌てて口元を押さえます。

「あら・・・ごめんなさい。お邪魔しちゃったみたいね」

 わたくしの声を聴いてか、涼音さんがとても申し訳なさそうな顔をしながら、身を寄せていた体をわたくしから離してしまいました。

「ちが、すみません・・・」

 自分でもどうしてそこまで強い口調と、声色になってしまったのか、わけがわからぬまま戸惑いながら、それよりも、涼音さんの悲しそうな顔が胸をぎゅっと締め付け、慌てて謝罪の言葉を口にします。

「でもぉ、なるほどねぇ・・・・・」

 わたくしが涼音さんに向き直ると、彼女はわたくしの顔をじっと見つめながら、何やら真剣に考え始めてしまいました。

「す、涼音さん、今のは涼音さんが、わる・・・ぐわっちょっ!」

 一連の流れを見ていた幸助君が、慌ててそういいながらフォローしようとしてくれますが、突然涼音さんはそんな幸助君の頭に手を思いっきりのっける。

 その手がのっかったとたん、幸助君はなにやら頭を抱え、痛がるそぶりを見せています。

 どうやら力をいれて締めあげているようです。

「静香ちゃん・・・ごめんねぇ、幸助君少し借りるわねぇ・・・・ほら来な!」

「え、ええ、どうぞ・・・」

 涼音さんはそう言い、幸助君を連れて行ってしまいました。

 嵐のように現れ、嵐のように去っていく涼音さんにあぜんとしつつ、わたくしは何となく物足りなさと、寂しさの様なものを覚えつつも、自分がいったい何にそんなに心を揺り動かされているのかわからぬまま、その日は登校することとなりました。



 この時、わたくしはもう少し自分のこの心の上げ下げに気を配っても良いのかもしれないと思い、なんとなく考えてみる事にしました。

 すると、なんとなく最初に思い浮かんだのは、わたくしが良く読みふける小説の恋愛小説の女の子の心の変化の様な気がすると、気がつきましたが。

「あ、あははは、え、誰かです?・・・誰に恋を?」

 朝の通勤、電車には大全の客がいる中、わたくしはふとそんな事を口にしてしまい、突然のわたくしの独り言と、鬼気迫るような自問自答に周りの乗客の皆さんは何事かと思い心配そうにわたくしに視線を向けます。

 ここが電車の中であると気がつき、わたくしは慌てて頭を下げ、電車から流れる景色へと視線を向けながら、電車のガラスに映る自分の顔が映し出され、その顔が真っ赤な事にさらに恥ずかしさがこみ上げ、今日は厄日だと思う、今日この頃でした。



 12月25日金曜日 倉科市内、倉科市民公園 17時20分

 わたくしは学園終わりに、倉科の市民公園へと来ています。

 どうしてこのような所に帰宅のついでに寄ったのかと言えば、一通の涼音さんからのメッセージでした。

内容はこうです。

「(静香ちゃん、君はもしかしたら恋をしてるのかもしれない、お節介だとは十分承知の上で、少し私からクリスマスプレゼントです。

 幸助君を25日に適当な事を言って市民公園に呼び出しておきました、その後どうするのかはあなた次第です。

 検討を祈る若人よ!

 PS 私はお仕事により行けないのと、連絡も数日仕事でとれないと思うからあとよろしくねぇ)」

 このようなメッセがわたくしのもとに届いたのは、本日13時20分の事でした。

 もちろん、慌てて涼音さんに連絡を取るため、様々な手を尽くしましたが・・・・どういうわけだか全く連絡がつきませんでした。

 お父様にもお電話をし、どうにか涼音さんに連絡を付けてもらえないかと、どんな手を使ってもよいのでともいったのですが、返ってきた言葉と言えば。

「え・・あー、静香・・・パパは・・・パパは何も言わん、頑張れ!」

「いや、あの、ですから涼音さんにご連絡を付けていただきたく・・・・」

「ファイトだぞ!」

 そう言って電話が切れてしまったのが学園終わりの15時49分ごろの話でした。

 仕方なく、わたくしは市民公園へと足を運び、今に至るというわけです。

 何やら大人たちの陰謀が見え隠れしているようにも感じますが、見えなかったことにするのがわたくしの務めなのかもしれません。

 この時期、公園はイルミネーションであちらこちらの木々はLEDの煌びやかな電飾で色とりどりの光を放ち、夜だというのにとても明るく、綺麗な世界を作り上げていました。

 倉科の市民公園は、毎年様々なイルミネーションをいる事ができる、という事でとても有名で、各地から人が多く集まるのですが、本日はクリスマスという事もあり、普段よりも人が多い気がします。

「居心地が・・」

 待ち合わせ場所は公園の中央、噴水前という事で、そこまで足を進めているのですが。

 目につくのは、恋人、カップル、夫婦・・・・。

 つまり、周囲は桃色の空気で満たされており、とても独り身の女子高生が一人で歩くにはかなり抵抗のある空間になっておりました。

 そんな中を、わけもわからぬまま、向かうわたくしはこれでいいのかと、そんな不安に駆られながら、目的に到着しました。

 噴水前につくと、目的の人物、幸助君の姿はまだなく、早く来すぎてしまったのだと思い、時間を確認すると、28分の文字がスマホに表示されました。

 指定された時間は30分でしたので、特に遅刻はしていませんね。

 そう自分に納得させながら、ソワソワとした気持ちをどうしたらよいのかと思い、もう一度スマホへと視線を向けようとすると。

「お待たせ・・・・」

「あ、は、ひゃい!」

 背後から声を掛けられ、振り返ると、そこには幸助君がいたのですが、彼が表れたと同時に、噴水がプシュー、という音ともに水を噴きあがらせ、その水を光が照らして幻想的な空間を作り出し、とてもロマンチックな光景になりましたが。

 わたくしは、え、これなに、どういう状況ですか?!

 こんな少女漫画や、純愛恋愛小説のような展開あるわけありません。

 わたくし地味ですよ、地味子ですよ、こんなイケメン男の子がわたくしの事をどうこうとか、そんな事ありえません!

 などと一瞬の間に頭の中で早口にまくし立てるもう一人のわたくしを押さえつけつつ、彼に視線を向けると。

「ずっと好きでした!」

「・・・・・・・?????」

 幸助君が何を誰に。

 思考が追い付かず、何を言われたのか理解できず。

 ああ、自分じゃない誰かなのだと周囲に誰かいないのかと、わたくしの背後や、周辺を見ると、なぜかわたくしたちは先ほどまで周囲に居たカップルたちの注目の的になってました。

「え・・・わたくしですか?」

「はい・・・俺じゃダメかな?」

 ようやく自分の事なのだと理解してくると、途端にこの場所から逃げ出したい衝動に駆られると同時に、心に羽が生えたように、今すぐにでも踊りだしたいぐらいはずみ、うれしくて仕方がありませんでした。

 体が熱くなり、顔が赤いのが自分でも手に取るように分かります。

「い、いつから・・・」

 こんな事を聞きたいわけでもないのですが、口を突いて出た言葉はそれでしたが。

「さ、最初から・・・って言ったら」

「へ?!」

 まさか素直にお答えいただけるとは思っていなかったので、変な声が出てしまい、彼の表情が最初の緊張した面持ちから、不安の色のにじみだした顔へと変わっていき、何か言わなければと焦る。

「わ、わ、わた・・・すー、はぁ~・・・っ! わたくしでよければ!」

 声が出ず、緊張で息がうまく吸えず、呼吸を無理やり整えます。

 わたくしは、がばりとお辞儀をしながら手を差し出し、気がつけば大声でそう答えていました。

 すると、あまりの行動に一瞬何が起きたのかわからなかった幸助君が、わたくしの手をゆっくりと握り。

「君じゃないと、嫌だ」

 そう言って握りしめてくれました。

 すると周囲からは拍手が上がり、わたくしたちはこの日、晴れて恋人になったのでした。

 唐突の告白で、どうしたら良いのか戸惑いながらも、わたくしが彼の告白を受け入れたのは、わたくしもまた、彼に恋をしていたのかもしれなかったからなのかもしれません。

 自覚があったわけではありませんが、こんな何となくもまた、恋なのかもしれないとそう思いながら、こんな素敵な空間で告白されたことにうれしくなりながら、今日という日は忘れる事はないだろうと、そう思うのでした。                    

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 瞬間と習慣と気づかぬうちに 藤咲 みつき @mituki735

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