日本皇国転移、異世界にて奮闘す

東城会直系西住会会長クロッキー

第一話 日本皇国、異世界に転移す

それは、なんの前触れもなく起こった。

パソコンや携帯電話などのインターネットは一時間ほど繋がらなくなり、国外にいるであろう同胞達が日本国内の公共施設や自らの実家などに突然姿を表したり、或いは日本に訪れている外国人達も姿を消していたのであった。

これだけではない。アジア、中東諸国に駐留していたはずの日本皇国国防軍の陸海空各軍が"何故か"戻って来ていたのであった。

さらに、長崎県対馬市の目と鼻の先に突如として現れた、戦間期から第二次世界大戦期の軍艦を彷彿とさせる艦隊の指揮官と思われる人間が友好的な接触を求めて来たこともあった。

この歴史的な混乱と我々と未知なる文明との初めての接触は後に、『日本転移事件』と呼ばれるようになる。



時の首相『西條 知之さいじょう ともゆき』は国会で次のように述べた。


「当然のことでありますが。周辺の国家及び大陸や島々、海洋は地図に載っていません。そして、どのような人々が暮らしているのか。その文化水準は?科学技術水準は?宗教は?統治機構の政体すらも不明です。

今回の件では、穏やかに接触してきた『イタリ・ローマ王国』という国家の存在が確認されているだけです。我が皇国は、この国と速やかに国交を結ぶべきであります。

このような事を申し上げるのはどうかと思いますが、可能ならば、この世界に転移してきて最初に出来た友とも言えるであろう彼の国を未知の勢力から保護すべきでしょう。

また、このままではエネルギー問題にも直面するでしょう。現在我が国には、樺太と佐渡島沖にある油田地帯と与那国島沖にある天然ガス田、北海道や本州にある鉱山や炭田など、幸いにも転移してからも採掘に悪影響がありませんが。後々問題が出ることになるでしょう。そこで、先ほど述べたイタリ・ローマ王国との資源貿易、加工貿易を行うべきであると私は考えます。そして、より良き結果が出せるように我が皇国と彼の国は協力していくだと考えます。

彼の国だけではない。一日も早くこの世界に存在する国々と友になるべきでしょう」


こうして、日本は友好的に接触してきた大艦隊の主人……イタリ・ローマ王国と国交を結ぶと同時に軍事同盟を結ぶに至ったのである。





「率直に申し上げますが。陛下のご予感とご決断は確実なものでありました。四方を強欲な侵略者共に囲まれているこの状況の中で、一週間前に王国南部の海上に突如として現れた『ニホンコウコク』を名乗る国家との国交正常化や軍事同盟の締結、後に期待されるであろう技術交流まで話が進んでいます。そこで、国王陛下の新たなお考えを承りとう存じます」


貴族でもあり、将軍の一人でもある『ベニータ・ムッソーリニ』公爵は大広間の中央に跪き、玉座の女王『イザルベライト二世』に向けて賞賛の声をかけた。

齢十五の国王は可憐さを感じさせるゆっくりとした所作で、視線を自らを褒め称えた忠臣へと真っ直ぐに向けていた。


「公爵……私は貴殿の活躍に感謝いたします。混乱に動じず穏やかな接触をした上、新しき友と呼べる国ができたのです。この新しき友から学べることは学び込んで、今後の国家繁栄の糧を得ましょう。歴代の国王、貴族、そして国民がその都度、心を一つにして危機に立ち向かい、さらなる発展を成し遂げたのですから」


国王の言葉は、この国の歴史であった。

玉座の周りに集う者にとっては、常識的なものである。


「報告によると、そのニホンという国は我々と同様に民を愛する国だそうな。それならば彼の国の歴史や伝統、文化を先に知るべきです。お互いを知るためには丁度いいでしょう」


「私も同意いたします。したがって我が国はその手土産として資源不足に悩むであろう二ホンコウコクのためにお互いに損をしないための資源価格で資源の輸出と動力資源の共有を行うべきだと考えます。そして、彼の国から国家繁栄の鍵を導き出すべきだと考えます」


女王とその周りの側近や貴族は彼に共感するように頷いている。


「一つ公爵にお伺いしたいことがございます。そのニホンコウコクという国の軍事力は如何なるものであり、兵器の進歩はどのようなものなのかご存知なのでしょうか」


新しく同盟国になる国の軍隊が気になった貴族の一人、『ユニオ・イアキナ』伯爵が興味津々で公爵に問いかける。

公爵は言い忘れてすまない。という感じの表情で彼の質問に答えた。


「彼の国の兵力は、王国海軍に務める私の甥がよく知っている。忙しい時に尋ねたものですから、少ししか聞いていませんが。彼の国は、機関銃よりも軽くて整備しやすくてそれと同等の速さで銃弾を連射する小銃を配備していて、艦船に関しては我が国や他の諸外国いや、我々の世界では見たことが無い、艦全体が飛行場のような軍艦があったそうだ。

プロペラを使わずに謎の動力で稼働する戦闘機や、甲高い音を立てて弾を撃ったかと思うと、たった二、三秒で次の砲弾を装填した上に、巨体の割には七十キロもの速さで走る戦車もあったそうです」


公爵は覚えている範囲で自身の甥が日本で目の当たりにした兵器の特徴を丁寧に語った。

質問をした伯爵は新たに現れた国の技術力の高さに関心を持ってしまったのだろう。今にも私も行きたいと言い出しそうな表情で話に釘づけになっている。

無論、他の貴族や衛兵までもがその話に耳を傾けていた。

公爵が話を終えたあたりで、女王が玉座から立ち上がり、貴族達は忠誠の目を彼女に向ける。


「ムッソーリニ公爵は引き続きニホンとの軍事連携に関する交渉、イアキナ伯爵はニホンとの技術交流に関する交渉、他の方達はニホンとの親善外交の準備を。以上が今後の行動です」


『承りました親愛なる国王陛下っ!!』


大広間にいる百人近くの貴族達が王国が開闢して以来続く伝統の言葉と共にローマ式敬礼に似たポーズを取った。

それから、貴族達は自分達に与えられた仕事をすべく各々の方面へと散っていった。


「平和な我が王国とはいえ、この国をあの国から守るには今この時にかかっているわ。私はたとえこの身が八つ裂きにされようとも私は国民を守る」


イザルベライト二世は首に掛けているペンダントの蓋を開けると、煌びやかな装飾が施された軍服を身にまとった威厳のある男性の写真を見つめるのであった。




黒田 浩一くろだ こういち』陸軍大尉(二十五歳)は、国防陸軍第十一戦車連隊に所属する軍人であった。

彼は言う。


「俺は、自動車やバイクといった乗り物や銃とか戦車などの兵器が好きなんです。それに、自分のひいじいちゃんが帝国陸軍で戦車乗りだったこともあります。

あとは、この国が大好きですから国防軍の機甲科に入隊したんです」


彼は人が良く勤勉な人物像であり、彼の同僚や部下、上司に慕われていた。

二十五歳という若さで大尉にまで昇進できたのには、士官学校での成績の良さや彼なりの努力や知恵があったからである。

また、高校時代にバイクを乗り回し、大学時代には父親が乗らなくなったセダン車をフル改造して近所のサーキット場や峠で走り回るという事をしていたためか、運転技術も高く。

射撃の腕もそこそこであり、同盟諸国との合同軍事演習時に射撃手だった彼は、良い得点を叩き出している。

こんなこともあってか、戦車長を務めていたりする。

時が過ぎて、現在は異世界に転移した日本列島の隣にあるイタリ・ローマ王国という国に派遣されていたのである。




そこに派遣されて五日目。

転移してから初めての軍事演習ということもあり、黒田は張り切っていた。

演習には王国陸軍も参加しているが、国防軍が初めて本格的な演習を行うため、派遣されて来た王国軍兵士達は固唾を飲んで見守っている。

キャタピラの音を轟かせ、砂埃を巻き上げて走る国防陸軍の90式戦車は走行しながら一〇〇メートル離れている目標に向けて砲塔を旋回する。


『目標、十二時方向に在り。全車射てっ!!』


黒田の指示を受けた約二十輌の戦車の滑腔砲からHEAT-MPが甲高い音と共に一斉に放たれ、一,五八〇–一,七五〇m/sの砲口初速で目標を木っ端微塵にする。

戦車の背後から十二輌の91式装輪装甲車が現れ、戦車の数メートル先で停車した。

王国兵達が目を凝らして見ていると、装甲車の後部が開き、そこから十人の兵士達が小銃や機関銃、土管のような武器を持って飛び出して来た。

銃を持っている兵士達は、素早く伏せ撃ちの体勢になる。次の瞬間、彼らの持つ銃からありえない速さで弾が撃ち出された。

それは、イタリ・ローマ王国の標準装備である軽機関銃より速かった。

極め付けは、土管のような武器を持った兵士がその武器を構えると、何らかの方法で発射された砲弾らしきものが火花を散らしながら目標代わりにしている、王国軍で使用されていた装甲車を一瞬にして粉砕したのであった。


「銃弾すら容易に跳ね返す装甲車を一撃で……」


「隣に転移して来た国は、こんな素晴らしい兵器を当たり前のように量産し配備しているのかっ!」


「敵国じゃなくて良かった。そして、同盟国で良かった」


「この国が味方だったら、列強国なんてイチコロかな」


王国兵達は日本に対する期待や賞賛または、兵器に対して関心を抱いていた。

だが突然、東側の街道から二十輌の戦車が現れた。

その戦車は全て、黒田達国防軍や王国軍に対して砲口を向けていた。


「なんだあの戦車達は?急に砲塔をこっちに旋回してきやがって」


『大尉、俺らもあのT-34もどきに砲塔向けましょうよ。それも初期型もどきにキュウマルちゃんがなめられるなんて堪りませんよ』


「まて伊丹。指示があるまで動かすなよ。まぁ、気持ちは分からんでもないが」


黒田が、砲手の『伊丹 武雄いたみ たけお』少尉をフォローしつつ注意を促す。


『それにしても気味が悪いですね。周りの王国兵さん達もピリピリしてますし』


「全くだ。何も起こらなきゃいいんだが。富田、一応旋回からの前進準備はしておけ、ついでに伊丹もいざという時に備えておけ」


『了解』


黒田は『富田 惣一郎とみた そういちろう』軍曹や伊丹少尉に改めて指示を出しつつ、外の様子をうかがう。

遠くの戦車はこちらに砲口を向けたっきり、変化がなく。あたかも警戒する王国兵達の反応を楽しんでいるかのようであった。

しばらく経って、別の王国軍部隊が到着したのだろう。後方からトラックのエンジン音が聞こえてくる。

すると、東側に現れた戦車達が車体を左に旋回し、森の中へと消えていった。

90式戦車の周りにいた王国兵たちも安心したのか、皆んなその場に座り込み始めた。

次に、日本国防軍イタリ・ローマ王国派遣軍・本部から無線が来た。


『こちら本部、第三中隊送れ』


「こちら三中隊、感度よし」


『現時点で演習を終了し、ナッポリ駐屯地へ戻れ』


「三中隊了解、何かあったのですか?」


『ナッポリから東に二〇〇キロ先にある国境付近で『ボリシェ・コミン主義連合共和国』という国の軍隊が大規模な軍事演習をしているらしい』


「もしかして、ソ連のT-34に似た戦車がいるとか情報に上がっていませんか?」


『ん?よく知っているな。そっちにも現れたのか。続きだが、何発か王国の国境線スレスレに着弾している。まるで日ソ戦争の前触れのようだ。共同で牽制をかけるため、一時帰投されたし』


「確かに。では、これより三中隊はナッポリ駐屯地に移動する」


こうして、黒田達国防軍は演習場から南に二五〇キロメートル先にあるナッポリ駐屯地に帰投したのであった。

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