第63話 湖の街ルタウ
マルタの街で酪農も見学した。草原の丘で草を食んでいるカウマルタはとても大人しい。
だけど、もし飼うなら大きな草原が必要だから、森の中にあるシュテンさんの村も、アラネアさんの村も飼うのは難しいかもしれない。
まあ、それは仕方ないかな? 酪農を取り入れるのは一旦保留だね。
エド兄さん達が旅立った後で、しばらくマルタの街を見ていたが大丈夫そうなので、僕達も次の街に向かう事にした。
トマスさんとオリバさんに別れの挨拶をして、次の街へと旅立つ。
その際に次の街ルタウの話を聞いた。マルタから徒歩で6日ほどの街で、領地最大の湖の側にある大きい街だそうだ。
大きな湖は見た事がないから、いまから楽しみだね。
もちろん森の中を通り、狩りをしながらの旅なので6日の行程が10日になったけど、バッチリ狩りが出来たので良いよね?
ちなみに獲物はホーンボアとファングラビット、それからファングディアと言う魔獣を狩った。
ファングディアは牙のある小型の鹿型の魔獣で、牙と後脚での蹴り上げさえ注意すれば問題ない。皮の買取が高いらしいので、なるべく傷つけないように狩った。
しかもお肉も美味しいので、見つけ次第ガンガン狩って、かなり狩れたからルタウの街で皮を売るのが楽しみだね。
いつも通りに森を出た。草原と街道、その先に街壁とそれから水が見える。
そして、街に近付くとその湖の大きさに圧倒された。
これが湖? 街もでかいけど本当にでかいね。
いつものように門のところで兵士さんに挨拶して、まずは素材を売る為にギルドの場所を聞いた。
兵士さんの話だと、どうやらこの街は冒険者ギルドと商業ギルドの建物が別らしい。なので、とりあえず門から近い冒険者ギルドに行く事にした。
中に入ると多くの冒険者達が居て、やはり僕達を見て「なんだ?」「子供か?」「子供よね?」と口々に言った後でブランを見て「ホワイトウルフ?」と驚いていた。
まあ、そうだろうね。
気にしても仕方ないので、その人達は放っておいて、僕はカウンターまで来た。
「素材の買取をお願いしたいのですが?」
「はい。アル様ですね?」
「はい」
「では案内いたしますので、倉庫の方にお願いできますか?」
「分かりました」
と言う事で、案内された倉庫にマジックバックから素材をどんどん出した。ホーンボアの角、皮、骨の一部、ファングラビットの牙、皮、それからファングディアの牙、皮、骨の一部。
全て置き終わる頃には入り口で覗き込んでいた冒険者達からは変な称賛の声が上がっていた。
「アル様、もし差し支えなければ肉も少し分けて頂けませんか?」
「構わないですけど、どうかしたのですか?」
「はい、このところ湖の魚が不漁でほとんど取れなくて困っています」
「近隣の森には魔獣がかなり居ましたけど?」
「そうなのですが、なにせ冒険者があんな感じなので」
お姉さんが入り口を指差すと、集まってこちらを覗いていた冒険者達は逃げて行った。
なるほど、確かにね。
「どのくらい必要ですか?」
「出来ればファングディア5体分と、ホーンボア10体分、売って頂けますか?」
「分かりました。肉は倍量を無償で提供しますので、みんなで分けて食べてもらえますか?」
お姉さんは天井を見て少し考えた後で僕を見た。
「いえ、冒険者ギルドから無料提供してしまうと、この街付きの貴族の顔を潰しますので、買い取ります」
「分かりました」
僕は言われた量の肉を出して全ての計算を頼むと、ギルドの建物に移動して待つ事にした。
窓際にあるテーブル席が空いていたので、そこで待っていると、ガラの悪そうな男性が歩いて来た。
「おい、小僧達。ここは子供の遊び場じゃないんだぜ。誰の許しでそこに座っていやがる」
「えっと? すみません」
僕がすぐに立ち上がるとコタロウ達もすぐに立ち上がった。
「こちらが空いていたので許可も得ずに座りました。すみません、すぐに退きますね」
「おい、ちょっと待て」
僕達が場所を開けようとした時、男が「クククッ」と笑い始めた。
「小僧達、なかなかやるじゃないか?」
「うん?」
僕が首を傾げるともう1人の男が「トールズ、子供達をいじめるのはやめとけよ」と歩いて来た。
「あぁ、そうだな」
トールズさんは頷いて頭を掻きながら、僕達に頭を下げた。
「そのすまなかった、子供がいたずらで紛れ込んでいると思ったが、お前さん達はその席に座るに相応しい」
トールズさんはそこで周りを見て「あいつらよりよっぽどな」とウインクした。
「私達も一緒に座っても良いかい?」
トールズさんを止めてくれた男がこちらを伺うので、僕はその言葉に「はい」と頷く。
「ありがとう、私はポプキンズ、こいつはトールズ、私達はこの界隈で活動している冒険者だ。君は?」
「僕はアルです。旅をしています」
「なっ!? 旅って君達だけでかい?」
ポプキンズさんが目を見開いて驚く隣で、トールズさんは「なるほどな」と呟いた後で再び「クククッ」と笑う。
「ここでは何をしていたんだ?」
「今は素材を持ち込んだので計算が終わるのを待っています」
「うん? 作業台には何もないぞ?」
トールズさんが作業台を見て首を傾げるので、僕は頷いて「倉庫に持っていきました」と答えた。
「なるほど、量が多いと言う事か」
「ここまで移動して来た10日分の量なので」
僕が微笑むとポプキンズさんが苦笑いになった。
「もしかしてマルタの街から移動しながら狩りして来たの?」
「はい」
「すごいね、どおりでみんな強いはずだよ」
「「えっ?」」
僕らが驚くとポプキンズさんが笑う。僕達はきちんとみんな魔力を抑えている。僕らは顔を見合わせた。
「みんな上手く気配を消しているけどね。上手過ぎるんだよ。それから立ち上がった時の動き、あれだけ淀みなく動かれたらね。いやでも分かるさ」
「そんなに分かりやすいですか?」
「いや、私とトールズは昔痛い目を見ているからね。普段から相手を良く観察するようにしているんだよ。まあ、トールズは懲りてはいないようだけど」
ポプキンズさんがトールズさんを見ると、トールズさんは肩をすくめた。
「そうだな、俺は見た目にだまされて強者を舐めてかかった。また気を引き締めなおさねぇと次は痛い目だけではすまないかもしれねぇな」
ポプキンズさんとトールズさんが僕らを見るので、僕は首を横に振る。
「僕らは強者ではないですよ」
「なるほどね、その歳でもう痛い目を見たのかい?」
「いえ、忠告を頂きました」
「へぇ、誰に?」
「とあるドラゴンの方に」
ポプキンズさんとトールズさんは2人してなんとも言えない顔をして「「ドラゴンの忠告なんて考えただけで怖いな」」と呟いた。
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