4.わたくしとお礼の手紙





 拝啓 野良ゴン様


 はじめまして。わたくしは、ウェザリア王国の東端を任されておりますクラウディアス侯爵家が長女。リュミエール・クラウディアスと申します。

 野良ゴン様におかれましては、アルフレドが仕える家の娘、とお伝えした方が覚えがよろしいでしょうか。


 さて、この度は先日我が家のアルフレドに持たせて頂いた品のお礼を申し上げたく、しかし野良ゴン様にもご事情がおありになって直接お会いすることも難しいと伺っておりますため、直接ではなくこうしてお手紙を出させて頂きました。


 龍皮などという大変に貴重な品を頂いてしまい、本当にありがとうございました。


 アルフレドより伺われているかもしれませんが、頂いた品はアルフレドが履き物に仕立ててわたくしが使わせて頂いております。

 非常に履き心地が良く、この履き物のおかげで毎日がとても快適です。


 このようなただでさえ高価なものを頂いているにも関わらず、更には加護までくださったと聞いたときはどのようにお礼をすれば良いのか、本気で悩みもしました。


 そこでアルフレドにお話しを聞いてみたところ、野良ゴン様は書物や宝石・金属などがお好きとか。


 心ばかりのもので大変恐縮ではありますが、せめてものお礼にこの手紙と一緒にアルフレドへ宝石を少量ずつ数種類と、物語を一冊持たせますので、良ければお受け取りください。


 もしお気に召したものがありましたら、アルフレドに申し付けください。

 わたくし個人で可能な範囲でとなりますので少しずつにはなりますが、またご用意致します。



 繰り返しになりますが、この度は貴重な品をお譲り頂き、重ね重ねありがとうございました。




 追伸


 これから少しずつ寒さも厳しくなって参ります。

 ご病気などなさいませんよう、お身体を温かくしてお過ごしください。



              リュミエール・クラウディアス




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「ふぅ・・・」


 わたくしは、手にした筆を置きました。


 書いていたのは、ここしばらくでわたくし愛用となった靴、バーストグリーブの素材を提供してくださった御仁へのお礼の手紙です。

 短くまとめてしまいましたが、貴族宛の手紙ではありませんし変に前置きや時事ネタを並べ立てない方が良いでしょう。


 あとは・・・



「アル?」


「はい、ご用でございましょうかお嬢様」


「・・・・・・いるだろうと思い声をかけましたけど、何故ノータイムで返事が返ってくるのでしょうか」


 わたくしは、自分のお部屋で、一人で。

 ここ重要です。

 一人で、手紙を書いていたはずなのですか?


「お嬢様がお呼びになられましたら何よりも早くにお応えするのが、専属の使用人でございますれば」


「始めから近くにいたならそれで問題ないのですが」


 澄ました顔(若干イラっときます)で返答する使用人に頭痛がしてきます。

 この頭痛が大人になっても続かないかも、そこら中に蒔かれすぎてどこに何が植わっているかも分からないくらいには沢山ある悩みの種の一つです。


 芽が出て草原になってしまう前に根こそぎ燃やしてしまえないものでしょうか?



「それで、どういったご用件でございますでしょうか?」


「はぁ・・・言及はあとに回します。先日頂いたドラゴン皮のお礼の手紙を届けてほしいのですが、近く野良ゴン様の元をお訪ねする予定はありますか?」


 何か用事があればついでに持って行ってもらえぱ良いのですが、そうでないならあくまで使用人の仕事の一環として届けてもらうことになりますから、アルの仕事を調整してもらわなければなりません。



 と、この旨を伝えたところでこの使用人が寄越した回答が


「お嬢様、そういうことでしたら呼べばすぐ来ますよ」


 でした。



 あらゆる意味で呼べるわけがないでしょう。

 あなたは何のために野良ゴン様のお名前やお住まいを伏せたのですか。

 大体、お礼を伝えたい相手を呼ぶなら態々手紙にしません。


 何より野良ゴン様の正体が本当にドラんんっ・・・でしたら、間違いなく大混乱です。


 というわけで。


「却下です」


「むぅ・・・」


「呻いても許可は出しませんよ? 出向く予定がないのでしたらあなたの仕事としてお願いしますから、どれくらいかかるかだけ先に教えてください」


「仕方ありません。今回は諦めましょう」


「永遠に諦めてください。それとも、もしかしてとても遠方なのですか?」


 それでしたら流石に次の機会を待ちましょう。


「そうですね・・・徒歩のみで一月ほど、行けるところまで馬車で行っても大きくは変わらないかと」


「行って帰ってくるだけでも二ヶ月、やはり遠出になってしまうのですか。でしたら今度またあなたがお会いに行くときにでも」


「あとは裏ワザで往復三日といったところでございましょうか」


「・・・なんですかその裏ワザというのは?」


「いわゆるひとつの奥の手、というものにございます」


「・・・・・・・・・・・・・・・(色々飲み込んで、)では来週辺りで手配しますから、手紙と合わせてお礼の品を届けてください」


「御意に」







 ーーーそうしたやり取り(疲れました)を経て、それから一週間と数日後。


「ただいま戻りましたお嬢様」


「おかえりなさい、アル・・・服が大分ワイルドになりましたね」


 わたくしの記憶ですと出掛けるときは使用人の服を着ていたはずですが・・・


 今目の前にいるアルの格好は、上半身は素肌の上に直接茶色い毛皮(熊のように見えます)を羽織り、下も辛うじて太ももの辺りまでだけ残っている程度、そして素足。

 普段は服の袖に隠れている何故か右手だけにしている黒い長手袋だけは無事のようですが、どうしてそれだけ無事なのか不思議な程に、服の原型を捨て去った姿です。


 更に言わせて頂けば、木と石でできた槍らしきものをその手に携えています。


 ・・・その格好でよくここまで入って来られましたね。




「産地直送でございます」


「使い方を間違っていませんか、その言葉」


「地産地消です」


「あぁ、それでしたら合っていなくも・・・ではなく、何があったのですか?」


 先の観察結果を要約すると、つまりは全身ボロボロです。



「いや~、なんで自分が加護を与えたことをバラしたのかとこっぴどくボコられました」


「・・・あなた、やはりあれはわたくしが聞いてはダメなことだったのではないですか」


「あと野良ゴンというネーミングがダサいとマジトーンで抗議されました」


 もしやそちらの方がお怒りの主な理由だったりしませんよね・・・?



























「あ、それとお礼のお品物についてでございますが」


「まあ、何か仰っておいででしたか?」


「できれば次は恋愛ものの小説が良いそうです」


「・・・今度、巷で話題になっているらしい長編のラブロマンスを購入してきましょうか」



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アルはこの後エリーさんに見つかってしこたま絞られた。

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