お嬢様と使用人
@si-ri
1.わたくしと使用人
わたくしは今、とても困っています。
「そこで止まってください、お嬢様。そのまま背筋を曲げずに」
「はい、ロザリンデ先生・・・」
ぷるぷるぷる・・・
もっと言えばそれなりに恒常的に困っています。
「お顔が下がっていますよ、お嬢様」
「は、はい・・・っ!」
今はダンスのお稽古の最中です。
頭に本を乗せ、それを落とさないようにまっすぐ立ち、また動く練習をしています。
ちなみに、本はお稽古専用の丈夫なものだそうです。
「・・・そうです、その姿勢です。そのままあと30秒姿勢を維持してください」
「はいっ」
別に先生が厳しいから、なんてことで困っているわけではありません。
確かにロザリンデ先生に求められている水準はとても厳しいものですが、そこに到達するためのご指導はしっかりと施してくださいますし、結果を出せば手放しで褒めてもくださいます。
そう。
ですから、わたくしが困っているのは・・・
「リュミィお嬢様頑張ってください! お嬢様なら絶対にできま・・・あぁっ、お、お気を付けください! そのような重い本がお嬢様の可憐なおみ足の上に落ちたりしたらお怪我をしてしまいます!? やはりお履き物は頑丈なものをお作り致しましょう、そうしましょう! 素材は何が宜しいでしょうか? やはりお嬢様の大切なお身体をお守りするものですからそんじょそこらの素材ではいけません!!! そうだワイバーンの皮などいかがでしょう? お嬢様にはできればドラゴンの皮くらいのものをご用意して差し上げたいところなのですが住処まで遠いですし何よりもドラゴン皮は少し厚みがありまから、お嬢様のお履き物に加工するには見映えが・・・くっ、羽の生えた蜥蜴がっ、普段から偉そうにしているくせにお嬢様に合わせて皮を薄く圧縮するくらいすれば良いものを・・・しかし蜥蜴にそこまで求めるのは酷か。それよりも今はワイバーンです! ではそうと決まれば早速準備が必要ですね! 少々お待ちくださいお嬢様、今私が」
「いりません。行かなくて良いです。ハウスです」
わたくしが困っている原因。
何を隠そう、いえ全く隠れていませんが、人がお稽古をしている脇で意味が分からない供述を垂れ流しているこの使用人こそが、わたくしを困らせている元凶です。
彼の名前はアルフレド。
わが家の侍従です。
もっと言えば、わたくしの専属です。
数年前、馬車に轢かれる寸前だったわたくしを身を呈して助けてくれたことがあり、それが縁となってわが家で雇うことと相成りました。
しかしアルフレドーーアルはこのときわたくしを庇って酷い怪我を負い、日常生活を送ることすらとても難しくなるとお医者様からも診断された、と聞いています。
わたくしも今よりももっと小さかった頃のことですから、細かいところは少し記憶が曖昧なのです。
ただ目の前でアルが酷い怪我をして、わたくしはその場で訳も分からずに大泣きしていたことは覚えています。
ですから、アルの雇用はわたくしを助けてくれたことへのお礼もありますが、何より怪我のせいでまともな職に就けないであろう彼のためでもあるとお父様より聞かされていました。
いたのですが・・・
「何故ですかお嬢様!? 丈夫さだけでなく高水準の攻撃力と風の魔力の付与による理想的な加速もご提供できますのに!」
「誰にとっての理想ですかそれは。そして明らかに加速も攻撃力に加算されますよね? ダンスシューズに物理的な攻撃力は求めていません」
「そう仰らずに! 絶対にお嬢様に後悔はさせませんからっ!! ほら、嫌いなあ奴や其奴にノブレスっ、オブ・リーーーージュ!をお見舞いして差し上げましょう!」
「あなたの中ではノブレスオブリージュはどうなっているのですか」
「いざというとき魔物の軍勢を一方的に屠れる武力であると愚考致します」
「謙遜でも比喩でもなく本当にただの愚考ではないですか。あなたは全ての王公貴族に謝罪してください」
この通り、本日も無駄に騒々しいです。
初めの頃こそその痛ましい姿に心を痛めていたらしい周囲が自分達の配慮やら諸々は何だったのか、と愚痴をこぼすのをそれなりの頻度で耳にするくらいには、ピンピンしています。
より具体的には最低でも日に一度は聞いています。
耳にタコができてしまいます。
ミミタコぷーちゃん、です。
「はぁ・・・わたくしは今世にも珍しい先に立つ後悔というものを体験しています。何を言いたいか分かってもらえますか?」
「それはつまり遠回しなGo意とみて宜しいですねっ!?」
「宜しくありません止まりなさい」
この調子です。
他の使用人がため息をつきたくなる気持ちも分かろうというものです。
そして話を戻しますと、今わたくしはロザリンデ先生より教えを受けている真っ最中なのです。
これ以上騒がれてお稽古の妨げになってもいけませんので、ここは手札を一つ切るとしましょう。
カチャ
バンッ!
「エリーさ~~~~~ん! アルがまたこちらに来ていますよーーーーーーっ!」
わたくしは
家の中で大きな声を上げるのは少々はしたないですがこれは言わば詠唱なのですから、召喚する相手にしっかりと伝わるよう心を込めて唱えなければいけません。
・・・決してストレス発散できて丁度良いな~、なんて思っていませんよ?
えぇ、断じて違います。
「ちょっ・・・初手が切り札なのですが、お嬢様!?」
「魔力消費もなしに使える素敵な魔法だと思いませんか?」
「それだけ聞くと確かに素敵かもしれませんが!!?」
だっ だっ だっ だっだっだだだだっ!
ばーん!!
そして徐々に大きくなる足音が止まると共にわたくし以上の勢いでドアを開き現れる召喚獣・・・もとい、メイドのエリーさん。
「くぉるぁ! アルフレドぁ~!!!」
「ひぃっ!?」
「まぁーたお嬢様の邪魔してんのかいっ!?」
「ち、違いま・・・」
「良いからあんたはこっち来な!」
ご覧の通りわたくしの周りでは希少な、アルを抑え込める有能な人材です。
まだアルの怪我が酷かった頃、とてもお世話になり頭が上がらないのだとか。
ちなみに本来のお仕事は
言葉が少し乱暴ですけど、アルのことを別にしてもとても頼りになる方です。
「それじゃあ、お邪魔しましたねお嬢様。お稽古頑張ってくださいな」
「はい。集荷ありがとうございます」
そう挨拶をすると、いつの間にか首根っこを捕まえていたアルを引きずって(文字通り)行き、
「くっ・・・かくなる上はコンマ1秒でも長くお嬢様のお側にいるための最後の抵抗を「諦めな」んがっ!?」
めきめきめきめぎっ!
「あ゛あ゛ぁーーーーーーっっっ!!!??」
本人曰く最後の抵抗は不発のまま、口と関節から断末魔の悲鳴を上げるアルを無事部屋の外へと
やはりできる
「お待たせしました、先生。続きをお願い致します」
(結局お嬢様ったらあのまま5分以上本を落とさないで済ませてしまったわね・・・かなり激しい動作もおありでしたのに)
「そうですね。それでは次にーー」
(まあ、いつものことね)
「ところでロザリンデ先生」
「はい、なんでしょうかお嬢様?」
「わたくし、エリーさんを呼ぶとき鍵を開けてからドアを開いた記憶があるのですが」
「そうですね。鍵をお開けにならないと開けませんもの」
「・・・アルはどのようにして入ってきたのでしょうか」
「いつものことです。今のところ
「・・・・・・・・・先生のお言葉の中に入った微妙な間がとても気になります」
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【クラフト魔法】
侯爵家に仕えるとある使用人の手により産み出される芸術的な隠し通路の数々。
木材の切り出しor買い付けから加工、敷設まで全てを一人で行っている。
ノコギリ、カンナ、カナヅチ、塗料どんと来い。
少しでも発見されにくくするため出入口などを設置する際は壁一面を総入れ換えするゾ!
え?魔法? 材料を扱うための肉体強化や加工で出たゴミの掃除に使ってるって。
加工に関わる魔法なんだから実質クラフト魔法。
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