異世界転移者の孫娘は、シンデレラの魔法使いになりたいのです
相内充希
第1話 チャンスがあったら飛びつくわよね?
それは昔々の物語。
王子様とお姫様が出会って末永く幸せに暮らす。そんな優しいおとぎ話を、チナミおばあちゃんはいつも寝る前に話してくれた。
遠い世界から来たというおばあちゃんのお話はいつも面白くて、毎晩お話をねだったものだ。私はその中でもシンデレラの話が大好きで、何度も何度もお話してもらった。
だってそこに出てくる魔法使いは、まるでおばあちゃんみたいだったから。
「私もいつか、こんな魔法使いになる!」
そう、小さいころから決めていたの。
いつか王子様にぴったりな女の子に魔法をかけて、二人が出会うお手伝いをするんだって。――だからね
「そのチャンスが目の前にあったら、当然飛びつくわよね?」
まじめな顔でそう言った私に、ロディーは長~いため息をついたのよ。失礼しちゃう。
しかも私の目の前で腰に手を当てての仁王立ちでよ!
私はその前で正座しているという――まあ、いわゆるお説教タイムだ。
くっ、私より年下のくせに。昔はすっごく可愛かったくせに。
「飛びつくわよね? じゃないよ、ナージャ。箒で飛び込んできたのに気付いたのが俺だけだったからいいけど、もし」
「あー、それは反省してます! ごめんなさい」
「本当にわかってるの?」
説教が繰り返されそうだったので慌てて遮る私に、ロディーが呆れたような顔をする。
「うん、わかってる」
本当は誰にもバレないように行ってくるつもりだったんだもの。今回はたまたま遅くなっただけで。
心の中で言い訳しつつしょんぼりして見せた途端、私のお腹がぐぅっと音を立てた。
思わず頬を赤くする私に、ロディーはなぜか咳ばらいをしてから、やれやれとでも言うように首を振った。
「とりあえず何かもってくるから、ナージャはもう少しそこで反省ね」
そう言うとやっと部屋を出ていく。
ドアが閉まったところで私はごろんと床に転がった。今立とうとしたら絶対転んじゃう自信があるわ。
「うう、足がしびれた」
仰向けになって窓の外を見ると、一番星が光っているのが見える。耳を澄ますと、階下の店で何か話している声もかすかに聞こえる。仕事帰りのお客様が立ち寄ってくださってるんだろうな。
うちは装身具を扱うお店で、名前を「リ・ミ・フェリア」という。「妖精に愛された幾千もの波の元」という意味らしい。チナミおばあちゃんの名前が千の波という意味だからそう名付けられたそうだ。
おじいちゃんが露店から初めて、おばあちゃんの豊富なアイデアでお店が大きくなったって聞いている。この国に迷い込んで一人ぼっちで途方に暮れていたおばあちゃんが、一人で店を立ち上げたばかりのおじいちゃんに拾われて、二人で大きくしたんだよって。
「おばあちゃんに会いたくなっちゃったなぁ」
おばあちゃんが亡くなって二年。
早くに母親を亡くした私には、お母さんでもあったおばあちゃん。
すごく物知りで働き者で、亡くなる日の朝だって美味しそうにご飯を食べてたんだよ。なのにお昼を食べたあと、
「珍しくお昼寝してる」
なんて思っていたら、天に召されていた。まるで眠ってるみたいなお顔だった。
八十二歳なんてこの国ではすっごく長生きなほうだけど、おばあちゃんなら百歳でも元気だって信じてたのに。
だって、おばあちゃんは元々この世界の人じゃないって、妖精たちがこっそり教えてくれたもの。
妖精たちに愛された奇跡の魔法使い。ここではひそかにそう呼ばれ尊敬されていたおばあちゃん。
おばあちゃんの手にかかると、どんどん素敵なものが生み出されたし、妖精たちはおばあちゃんが大好きだった。
妖精たちにナージャはおばあちゃんに似ている、そう言われるのが嬉しかった。
「ねえ、おばあちゃん。私、シンデレラの魔法使いになれそうなのよ?」
前に話したよね。
王子様の名前はニコラス。
女の子の名前はサンディー。
二人は霧の向こうの国の人でね、魔法は使えないけど私の大切なお友達なの。
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