第17話 しがない低位の聖女です

「ど、どうしてそれをご存じでいらっしゃるの?」

「外でももう噂になっているのですか?」


聖女や新官が狼狽える中、カウネはゆっくりと首を横に振った。


「私の推薦者が教えてくれましたの。ですから十分注意するように、と。これまでに少なくとも三人が行方不明になっているとか?」

「え、ええ。アニチャ聖女様を始め、高位と中位の聖女様がお一人ずつですね。ノイミ聖女とリーオ聖女もです」

「なんてこと…そんなに力のある方々ばかりが…」


アリィがいた頃に、女神の加護持ち聖女の中でも上位にいた者たちだ。リーオは伯爵家の令嬢であるためすぐに聖女を辞められるように中位の格付けにいただけで、実力でいえば十分に高位である。

交流があるわけではないので遠目に顔を見るだけだが、力量はわかる。感じることができると言ったほうが正しいか。


「自ら出て行ったということですか? それとも誰かが連れ去ったとか…?」


カウネが恐る恐る口にすれば、目の前の少女は静かに首を横に振った。


「見当は全くついていないのですか」

「もし犯人の見当がついていれば、すでに彼女たちが戻ってきていますよ。上の方々も色々と大変なようです。大聖女様の突然の訃報に、続く高位聖女様がたの失踪。それなのに、元大聖女様付きの護衛たちが反乱を起こして出て行ってしまったので、ますます神殿は混沌としていて……せめて大聖女様の一周忌が無事に終わることを願っているのですが、礼拝堂の清掃ですらこの有り様ですし」


皆、沈痛な表情をして肩を落としている。

というか、今聞き捨てならない言葉を聞いた。


「あの、元大聖女様付きの護衛たちが反乱を起こした、というのは…?」

「大聖女様を護れなかった罪で謹慎されておられましたが、そのうちの一人が不服として暴れまわったとか。それで連隊責任で全員が放逐されたと聞いております」

「ああ大聖女様が階段から落ちられたというあの事故ですか…」


カウネがいたましそうに顔を伏せながら告げれば、全員がまた沈黙する。

だが、アリィはなんて馬鹿な死に方なんだと思われていないかだけがひたすらに気になる。

なぜ毒殺の方が広まらないんだ。誰だ、情報操作をしたやつ、と相手を見つけたらひたすらに問い詰めたい。


「そんな不慮の事故で護衛たちが護れなかったと罪に問うのはやりすぎではないでしょうか」


憤る感情を抑えて、問いかければ神官が悲痛な面持ちで口を開く。


「ですが、偉大なる大聖女様を喪ってしまったことはとても罪深いことでしょう。事故といえども責任を取らされるのは当然のことでは?」


神官が答えれば、周囲も同調して頷いた。

なるほど、下位階梯の神官や女官たちはこれで納得しているのか。


やはり大聖女の死を願った犯人を捜すには、上位階梯の者に接触しなければならないのだろう。

つまり、ここでのんびりと礼拝堂の掃除をしているわけにはいかなくなった。


「わかりました。そういうことなら、ここの掃除をさっさと終わらせましょう。大体、ほとんど綺麗になっていて、掃除するところなんてありませんけれど」

「え、はい?」

「どういうことでしょうか?」


不思議そうに見つめられる中、アリィは彼らの後ろを示す。


「は、どういうこと……?」

「え、さっきまではあんなにくすんでいたではないですかっ」


彼らの目の前には、建てられたばかりと見紛うばかりのホールの姿がある。礼拝堂中の柱も壁も床も女神像も何もかもがピカピカに輝いてとても眩しいくらいだ。


彼らがアリィたちに詰めかけている間に、こっそりと浄化の神聖魔法を使っておいた。誰にも気づかれることなく、周囲はすっかり綺麗になっている。


一同が唖然としている中、アリィは構わずにポンと手を合わせた。


「きっと女神様のおはからいですよ。普段頑張られていらっしゃる皆様にちょっとしたご褒美じゃないでしょうか」


ついでに顔色が悪くいつ倒れるかわからない彼らに、快癒をかける。腰の痛みも筋肉疲労も、心身の疲労はたちどころに回復する。


「確かに言われてみれば、なんだか体がスッキリしたような気がしますね」

「わあ、久しぶりに清々しい気分だわ」

「ああ、なんて爽快なんでしょうか」

「今なら、なんでもできそうですね!」


歓喜し続ける者たちの中で、最初に声をかけた聖女が瞳を潤ませながら、アリィを見つめた。


「ああ、なんということでしょう。私にはわかりますとも。これこそ、正真正銘の女神の祝福たるご加護の御技ですわ。神々しく儚くとも美しく、見る者に幸福と慈愛をもたらす、あまりに尊い光明です。貴女は、貴女様は、大聖女様でいらっしゃいますか?」

「いいえ、全く。これっぽっちも違います。大変、恐れ多いことでございます。私はこの通り、しがない低位聖女でございますからね」


目の前の聖女と同じ灰色のローブを見せつけて、神速で否定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る