第13話:新たな仲間ですの

 

「うちのギルドが解体されてしまいそうでして……」


 アイネがそう言って、事情を話し始めた。彼女によると、彼女が所属して弱小ギルドが【ムーンウルヴス】解体のあおりを受けて、解体されそうになっているそうだ。


 なんでも騎士団主導で良い機会とばかりに実績のないギルドは次々と解体していっているらしい。特に【ムーンウルヴス】と繋がりが強いギルドに優先して調査が入り、ちょっとした不正や、どこのギルドもやっているような借金やらなんやらをやり玉にあげて、解体に追い込まれているそうだ。


「横暴ですわね……」

「組合庁は何をやっているんだ?」


 タドラとアゼルが顔をしかめた。幸い、この【ビートダウン】には何も手を出してこないが……時間の問題かもしれないなと、感じるタドラだった。


「それで……あたしのパーティメンバーがみんな、もう冒険者をやめるって言いだして故郷に帰ってしまいまして……」


 アイネがそう言ってため息をついた。

 最近、アイネ率いる【フォックステイル】は駆け出しながらも順調に依頼をこなしていると、タドラはアイネの父親であるクライネから聞いていた。


 それに少なからず、アゼルが格安で作ってあげた武具が関係していた。だというのに、ここに来てパーティ解散というのは何とも酷な話だ。


「違うギルドに移籍しようと何度も話はしたんですけど……【ムーンウルヴス】解体の噂のせいで、冒険者達はどこに行っても危ういんじゃないかって……」

「そうですわね……王都から離れて別の街に行く方が賢いかもしれませんわ。私からすれば、逆にチャンスだと思いますが」

「ですよね! でもみんな決意が固くて……あたし……リーダーに向いていないみたいです」


 タドラはそっと寝ているヴェロニカを椅子の上に移動させると、うなだれるアイネへと歩み寄ると、頭をポンポンと優しく撫でた。泣きそうになるのをアイネは我慢して、顔をタドラの胸に埋める。甘い、良い匂いにアイネはささくれだった気持ちがスーッと鎮まっていくのを感じた。


「アイネさんは頑張っていますよ。もし、一人でも、この王都で冒険者を続けたいのであれば……私のギルドに入ればいいわ」

「おお、それは良いな! 色々作りたい武具があるんだが、お嬢が使えないせいでフィードバックが得られないんだよ。アイネのジョブは確か【魔法剣士】だろ? だったら色々試したい武器あるんだ!」


 アゼルも嬉しそうにタドラの言葉に同意する。


「良いんですか……? あたしまだまだ弱いですよ。タドラさんに比べても全然」

「強くなれば良いだけですわ」

「おう、武具やアイテムのサポートは俺に任せな」


 二人の優しい言葉に、アイネは甘えていられないとばかりにタドラから身体を離した。彼女は顔をゴシゴシと手で拭いて、タドラ達に向かって笑顔を向けた。


「ありがとうございます!……あたし、弱いですし、まだまだですけど……頑張ります!!」

「改めて……よろしくお願いしますね、アイネさん」


 そう言って、タドラは手を差し出したのであった。それをアイネが力強く握った。


 こうしてギルド【ビートダウン】に新たなメンバー、魔法剣士のアイネが加わったのであった。



☆☆☆



 王都の東方には荒原が広がっていた。

 作物も実らない、枯れた大地であり、魔物が跋扈しているせいで冒険者や東へと向かう旅人以外に近付く者はいない土地だ。


 かつては文明があったのか、岩と砂しかない大地には遺跡や廃墟が点在していた。それらの遺跡の奥には金銀財宝が眠っていると信じて、冒険者達があるいは犯罪者達がこの大地に挑み、そして血を撒き散らし、朽ちていく。


 ゆえにこの場所はこう呼ばれていた――【血吸い荒原アラハブラ】、と。


 そんな土地のどこかの遺跡。埃っぽい遺跡の中の広間で、影が蠢く。

 

「くひひひ……【竜喰らい】よ……もうそろそろ良いのだろ? 動いてしまって」


 薄暗い闇の中、杖をついた老人がしゃがれた声をあげる。


「ああ。王都についてはある程度、楔は入った。想定外の事が少々起きたが……まあ問題はあるまい。決行は――間もなくだ」


 それに、応えたのは竜のタトゥーが顔面に入った男――【竜喰らい】だ。


「ひひひ……楽しみだなあ……いっぱい人が死ぬなあ……クヒヒヒ……」

「【竜喚びサモナー】よ、派手にやると良い。我らが狙うは物はただ一つだ」


 【竜喚びサモナー】と呼ばれた老人が白く濁った目を【竜喰らい】へと向けた。


「【竜王の血】、じゃろ」

「ああ。我らの始祖から奪われた物を取り戻す。そしてあの盗人共も、それを慕う民も――全て全て皆殺しだ」


 空気が凍るほど冷たい声を放つ【竜喰らい】を見て、【竜喚びサモナー】が、怖や怖やとうそぶく。


「邪魔な冒険者共もじきに減る。騎士団については、手を回している。そうなればお前も少しは仕事がしやすいだろう」

「どれだけおったところで、儂の前では無力だがのお」


 自信に満ちた声で、【竜喚びサモナー】が杖で床を叩いた。カツンという音が響くと同時に――老人の影から黒く、丸太よりも太い大蛇が這い出てきた。大蛇は二つの瞳に加え、額にもう一つの目があった。三つ目の大蛇が舌をチロチロしながら、低いシャーという鳴き声をあげた。


 更に【竜喚びサモナー】が何度も杖で床を叩くと、その音が響くたびにその周囲に黒い何かが現れた。


 気付けば、広かったはずのその空間が黒い禍々しい存在で埋め尽くされている。爛々と光る双眸が【竜喰らい】を見つめていた――まるで主の許可さえあればすぐにでも襲いかかれるとばかりに。


「魔法陣すら省略できるとは……流石は【竜喚びサモナー】。その名は伊達ではない」

「ふん……貴様に言われても陳腐な言葉にしか聞こえん。ああ、そういえば何やら探りを入れてきておった騎士共は蹴散らしておいたぞ」

「殺したか?」

「もちろんだとも。万が一生きていたとしても、この荒原は手負いで進めるほど甘い場所ではないさ」

「だと良いばな。では、王都襲撃は任せたぞ【竜喚びサモナー】」

「もう少し、戦力を蓄えてから、始めるとするかの――儂のスキル【跳竜跋扈ドラグ・レギオン】の神髄を見せてやろう」


 【竜喚びサモナー】がそう返した時には既に【竜喰らい】はいなくなっていた。


「……ふん、憐れな過去の亡霊よな」


 侮蔑するようなその言葉はしかし、誰にも届く事はなかった。

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