かのセフ

火田案山子

第1話 〇〇〇を作らないか?

麻田健太郎は20代後半のサラリーマン。真面目で寡黙で冷静で仕事をこなし他の人間に頼られれば親切に助けてやる。顔も整ってるし背も高い。女性社員たちの憧れの的だ。しかし彼女たちにとって残念なのは、彼には既に彼女がいる事だ。


彼女の名は河野恵美。年は麻田より2つ下で別の会社に勤めている。明るく優しく活発で学生の頃は水泳に打ち込んでいた。そこそこの美人で男性社員に声をかけられた事も何度かある。


2人は3年前、合コンで出会って付き合い始めた。今でも頻繁に会ってはデートしたりセックスしたりしている。


傍から観たら彼らは似合いのカップルかも知れない。しかし彼ら自身はというとそうでもなかった。


まず麻田には弱点があった。それは、巨乳に弱いという事だった。大きな乳房を見てしまうと、興奮せずにはいられなかった。しかし彼の恋人である恵美の胸はCカップ。お世辞にも大きいとは言えなかった。


一方恵美にも彼氏の事で悩みがあった。それは、麻田がしないという事だった。どれだけゆっくり優しく性行為に及んでも、麻田はものの数分で出してしまう。しかも1回出すともうその日はそれで終了なのだ。正直に言って恵美は麻田と付き合い始めてから1度も肉体的に満足した事が無かった。


もちろんお互いの事を彼らは心から愛している。時に喧嘩する事もあったがいつも最後は仲直りしてきた。将来は結婚や子作りも視野に入れている。しかし『愛』と『性』は別問題だった。誰にだって性欲はあるし、1人の相手の身体だけで満足できるものでもない。


そこで麻田はある日恵美にある提案をした。


「セフレを作らないか?」


「……はい?」


麻田の住むアパートの一室の中、休日に2人きりでのんびり過ごしていたら彼氏にそんな事を言われて恵美はポカーンと口を開けたまま固まった。


「あのさ、考えたんだけど、俺は早漏、お前は貧乳でお互いに欲求不満な訳じゃん?ならいっその事、お互いに肉体関係だけの相手を作っちゃわないか?」


「……ああ、……なるほどそういう事ね……」恵美は何とか彼氏の言わんとしてる事を理解した。


「もちろん不倫しようって訳じゃない。お前を愛してるのは本心だ」


「分かってるよ。だったらキスして」


「あ、はい」


チュッ…とそのまま唇を重ねる2人。付き合い始めた頃は1回キスするだけでも互いに顔を真っ赤にしてたもんだが今では平常心のままできる。


「ん、まあ、わたしも別に彼氏がエロサイト観てAV女優に鼻の下伸ばして股間膨らませてブヒブヒ言いながら両手で空気を揉んでてもそれを浮気だなんて思わないよ。男ってそういうもんなんでしょ?」


「うん。男にとってポルノを見る事は一時的なズリネタを得る為の至極普通の行為だから。男はね、女と違って性欲だけじゃなく射精欲もあるから、精子が玉に溜まる度に出したくなっちゃうんだよ」


「まるで『男の子の日』だね。わたしのおっぱいがもっと大きければ、あなたを満足させてあげられるのに…」


「気にするな。それを言っちゃ俺こそ情けないちんこでごめんね。それに巨乳って色々大変そうだしね。女性としてもその位のサイズがベストなんでしょ?」


「うんまあね。知り合いのFカップの子が胸の事で時々愚痴言ってるよ。重いだのブラが高いだの」


「Fかあ……でも俺の理想はH以上なんだよなぁ……」


「健ちゃんは大きいおっぱい大好きな甘えんぼさんだもんねえ…このスケベ!」いじわる顔で突っついてくる恵美と笑顔でじゃれ合う麻田。


「それで、どうかな?セフレ」改めて訊く麻田。


「ん……いいんじゃない?ただし、絶対に惚れちゃわない事!」


「もちろん。ありがとう」


彼女の了承を得た所で、2人はセックスに及んだ。相変わらず互いに満足できないセックスだったが、愛する人と抱き合うという事は幸せだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かのセフ 火田案山子 @CUDAKI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る