マッドナゴヤ
ダイナマイト・キッド
第1話 狂った街
ここはマッドナゴヤ。狂った街だ──
俺の名はウノ。通りすがりの男だ。そして今、パシナ型原子力機関車で牽引された全長25メートルの車体を221両編成で連ねた超長距離長列型超特急、通称ロングロングエキスプレスが轟音と共に目指す次なる巨大駅。それこそが狂った街、マッドナゴヤだ。
ロングロングエキスプレスはマッドナゴヤを支配する巨大コングロマリットにして、今や独立国家さながらの権威と財力を誇る超絶的モンスター土着企業、パーフェクト・トヨタに対する抵抗としてこの国の交通網の殆どを掌握する旅客鉄道カルテル「トーカイドー」ことJR東海道530000ネクストが開発した切り札とも言える輸送手段だった。
車体1両あたりの全長は25メートル。これはかつてこの国を縦横無尽に網羅したシンカンセンスーパーエキスプレスの車体と同じ規格だが、あれは僅か16両編成と短かった。全部繋げても400メートルだ。その点このロングロングエキスプレスは5525メートル。久屋大通が1738メートルだから、ざっと3倍の計算になる。
久屋大通の3倍の長さの鉄道を走らせようとする発想と、それを実現させてしまう財力と権力。これこそがマッドナゴヤがマッドナゴヤたる象徴であり、狂乱の超絶田舎摩天楼群都市マッドナゴヤのアイコンとして君臨するのは、このJR東海道53000ネクストである……って言いたいわけ。
ちなみにパシナ型という今では忘れ去られた型にこだわったのは発案者でありJR東海道530000ネクスト総裁である弥次喜多 栗太郎その人である。
そう、これは超絶的モンスター土着企業パーフェクト・トヨタに対する宣戦布告とも言える事業だった。そのせいか、この長い車両のどこかしらに、よく黒色に塗られたパーフェクト・トヨタ製のハイブリッド自動車が事故を装い突撃して来る。
つい今しがたも物凄い轟音と共に衝撃波を伴う爆発があったばかりだ。おそらく水素とリチウムイオンバッテリーのハイブリッド車がミサイルのように突っ走ってきて、踏切事故に見せかけて激突したのだろう。運転者は大方、食い詰めたお騒がせ元市長やリコールされた県知事などの為政者くずれか、それらとの権力争いに敗れたそれぞれの陣営の中間管理職くずれ。
自分の人生が崩れたら、他人の人生もブッ壊して死ぬ。ブッ壊れたり崩れたりでダメになったことをナゴヤの言葉では
「ワヤ」
という。ワヤだでいかんわ!(ダメだこりゃ)などと言ったように。車窓に流れるタワーリングツインフェルノ・タカシマヤのビルを覆い隠さんばかりの黒煙と爆炎のなかで、一体どんな人生がワヤになって燃えているのだろう。
そんな車窓と喧騒は意に介さず、目の前の男二人は車内販売で買い求めたマッドナゴヤめし「ミトコンドリア天むす」や「サイバーきしめん」マッドナゴヤスイーツ「バイオういろ」「Dream大あんまき・虹」をモサモサと食っている。
「ヒジリ、美味いか?」
「うんめェなあ、この握り飯! オラァこんなうめェもん初めて食っただ」
「はっはっは、お主の食いっぷりはまことに見事であるな」
「おサムライさんだっでえ、その禁じられた遊びみでな色したウドン、美味そうに啜ってるデねぇかあ」
「うむ、これも中々オツなものであってな」
和やかに鉄メシ(鉄道メシの略称で、これも電車でグルメを普及するべく広告代理店を通して中央政府の農水生産管理局や全国農業狂乱同盟=農狂と組んだトーカイドーの仕掛けである)を頬張ったり啜ったりしているこの二人は、旅を続ける俺の頼れる仲間であり友人だ。
かたや黒々としたカーリーヘアーに身長197センチ体重120キロの体躯を誇る筋骨隆々巨大小学5年生ヒジリ。本名は篁 聖という。貧しい農家に生まれた時から巨大児だったのがそのままスクスク育ち、極寒の地での重労働でとことんまで鍛えられた。
だがそのあまりの強さとデカさに加え生まれつき顔に浮き上がった白塗に青く鋭い紋様のせいで村の人々からは鬼っ子と呼ばれ迫害され、さらに物心つく前から実母からは暴言暴力の虐待を受け続けた。
父親は彼が生まれてすぐに故郷を棄てて消えた。そして何もかもを憎んだ彼は、10歳の誕生日に故郷を焼き払って旅に出た。俺とはその途中で知り合った。そんな経歴の持ち主なうえ戦闘になれば無類のパワーを誇るが普段の性格は至って温厚。そして小学5年生にしちゃ幼い心を持っていて憎めないヤツだ。
もう片方は、まんまサムライだ。椿 サーティーと名乗る此の男は世界のミフネが映画「用心棒」のロケをちょいと抜け出して来た、と言われたら信じてしまうぐらい、顔や背丈や体つきまで彼によく似ている。髭面に掘りの深い顔、キリリと太い眉、強烈な眼力を放射する眼差し。さらに大昔のサムライムービーか隆慶一郎の小説ばりの剣豪と来て、ヒジリとは別の強さを誇っている。泰然自若、至って冷静だが時々おかしなことをよく知っている。天然ボケの物知りザムライ。
こんな個性的な仲間と旅をして来て、俺は久しぶりにマッドナゴヤに降り立った。懐かしくも忌々しい、狂った街。ここが俺のふるさとだ──
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