その246 飛ぶドラゴン落とす勢い


 私の暴走気味な脳から飛び出た脳筋作戦は実行されることになり、グレンとイブンはドラゴンの前へと躍り出る。

 その時私は、踊り場はドレスで着飾った女性が降りてくる様子が踊っているようだという理由で名付けられたことを思い出していた。

 もっとこの場で使えそうな情報を思い出してくれ、私の脳。


 さて、シャンデリア爆弾投下を実現させる為にはドラゴンの足止めが不可欠だ。しかもシャンデリアは何個もあるものではないので、チャンスは一度しかない。

 よって2人は魔法を集中的にぶつけ、ドラゴンの身動きを停止させる必要があるのだけど……それがそんな甘い話ではないことはすぐにわかった。


 類稀な巨体を有するドラゴンだが、しかしその動きはとんでもなく俊敏だったのだ。

 言うなれば猫の動きをする象である。

 そんなの可愛さから見ても最強すぎるでしょ!


 だったら寝ている隙に落とせば……というのは、まず間違いなく落下中に気付いて起きてしまうだろうとのこと。

 そして避けられれば次弾装填が不可能なシャンデリアは一度の失敗で空砲にする。

 シャンデリアがマシンガンのように連射出来たらいいのになー!


「『歌え嵐の調べ、踊れ風の輪舞ロンド、シュールシュナイド!』」

「『纏う光は支えたる輝き、フラッシュメント』」

 

 苛烈に攻め立てるグレンと、そのフォローをするように立ち回るイブン。

 2人の姿は華麗で、ドラゴンの猛攻にも負けていないけれど……しかし動きを止めることは出来ない。


 オタクのひいき目抜きで見ても二人は学生離れした強さをしていると思う。

 特にイブンとグレンのコンビネーションは心を読むイブンの力もあって、体が二つある一つの生命体のようですらあった。

 これがチョウチンアンコウパワーか……。


 しかし、そんな二人をもってしてもドラゴンは強大だった。

 そもそもその強固な鱗のせいで魔法が殆ど意味をなさないと言うのはあるが、それでも衝撃は伝わるので魔法を連続で当てれば動きは止まるはずだった。

 だけどドラゴンは速すぎた。これでは連続で当てるなんて出来っこない。

 

 何か隙が必要だった。現在、巨大な隙を作るためにの作戦を実行している我々だけど、その大きな隙を作る為に先に小さな……いや、中くらいの隙を作らないとどうしようもない。

 ひとまずこちらでなにか出来ないか考えて見ることにした。


 まず考えたのは囮作戦。

 いきなり私が飛び出せばドラゴンもなかなか驚くのではないだろうか?

 もはや自動車の前に飛び出す当たり屋のような所業で、運転手からしてみればビックリポイントはかなり高そうだけど、しかし一瞬で私が死にかねない危険もあった。

 

 死ぬのはまあいいとして、一瞬で死んでは隙も一瞬だからあまり意味がない。

 では飛び出すのではなくウロチョロすれば長期的に隙を作れる可能性も……。

 いや、それで隙が生まれるのはきっとドラゴンの方ではなくてイブンとグレンの方だろう。これではただ迷惑になるだけだ。

 絶対うざったいだろうな……真剣なバトルの最中に視界でうろちょろしてる一般人!


 じゃあ物を投げて柱の影にいたまま注意を誘うのはどうだろう。

 これは柱という遮蔽物もあるので悪くはない気がする。

 ただ、その辺の石なんて当ててもあの分厚い鱗の前では気にも留めないだろうことは間違いない。

 それではやはり無意味だ。嗚呼、急にこの場に小鳥でも現れたらいいのに! そしたら獣の本能で小鳥に目を向けそうなものだ。

 

 そんな感じで頭を悩ませていると、手に持っていた紙の感触を思い出す。

 そうだ! そういえばこの紙は注意を引くためのものだった!

 ただ、本当に気休めみたいなものという話だったので、これを物陰から出す程度では意味がないかもしれない。

 

 この紙がドラゴンの前を通り過ぎれば或いは。

 でもそんな都合よく飛ばないしなぁ……と考えたところで私は唐突に思い出した。

 少し前に無意味で終わった紙飛行機作戦のことを。

 紙飛行機にしてこの紙を飛ばせば、その動き+魔力で隙を誘える……かも!?

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