その156 空の旅が優雅なのは飛行機のみ

 二人合わせても78㎏でありこれはお兄様の体重とさほど変わらなかったりする。

 お兄様は長身な上に意外と筋肉あるからな……脂肪は軽くて大きく、筋肉は小さくて重いのです。


「いえ、あの、そこまで軽くは……」

「ううん、絶対に綿! 対する私は毎日わたわたしてるから、合わせてわたわた綿になろう!」

「謎のチーム名ですが、飛べそうな感じはします!」


 魔法は心が大切なので、まずは自分たちが軽いと思い込むことも大切なのかもしれない。

 そんなわけでチームわたわた綿です!

 ただしジェーンもそこそこわたわたしているので、わたわたわたわた綿かもしれない。


「じゃあその勢いでとんでらっしゃ~い」

「夕食までには帰るんだぞ」


 幼女とお兄様に見送られながら、私たちの体はフワフワと風船のようにゆっくりと浮かんでいき、やがて木々を超えていく。

 こうして二人だけの空の旅は開始された。

 私の心臓は高所と好所でえげつないビートを刻み始める。

 持ってくれよ私の体……!

 




 さて、空の旅という言葉からは優雅なイメージが湧いてくるだろうけれど──今回の場合は話が違うらしく、私とジェーンは空を超高速で移動していた。

 気分はドラゴンボール!

 もしくは天狗! 或いは放たれた矢!

 そもそもなるべく速く封印地と学園を行き来できるようにという話だったので、速度重視なのは当然なのだけど、それにしたって速すぎる!


「ひゃやしゅぎにゅいかな!?」


 風が口に入って来るのでもう噛み噛みだった。


「あっ、すいません! 速い方が飛びやすいものですから……」


 奇跡的に聞き取ってくれたジェーンが少しゆっくりとした飛び方に変えてくれて、私はほっと一息つく。

 いや、多分この速さでも相当凄いんだろうけどね?

 速く飛べば飛ぶほど揚力が発生する以上、速いのは空の旅では必然なのかもしれない。


 そ、それにしてもいつの間にこんな高度で高速な魔法を身に着けたのだろうか。

 少なくとも旅行の時はもっとゆるゆるした飛び方だったはず……。

 

「い、いつの間にこんなに飛べるようになったの?」

「ええっと、旅行の時からコツコツと勉強していて……私、学校の勉強は苦手なんですけど、自分で興味を持ってやる分には得意なんです!」

「滅茶苦茶いいことだよそれ」


 興味を持ったことを積極的に学ぶ。

 大事なことである。大人になっても忘れないで欲しい心構えだ。

 しかもジェーンは稀代の天才児、一度興味を持てば大抵の魔法は使えるようになるのだろうな。

 

「あと最近気付いたのですが、ラウラ様がそばにいると魔法の質が上がる気がします」

「そ、そんな効果あるかな私に……?」

「はい! 良い枕に変えたくらい効果があります!」

「そんなQOL(生活の質)みたいな効果が!?」


 枕大失格なくらいにはうるさくてしかも硬いはずなのだけど!?

 

「でも、ラウラ様は魔力に満ちていますからね」

「ああ、そう考えると確かに効果はあるのかも……『真実の魔法』もそんな感じだったもんね」


 前世の記憶のせいなのか魔法が上手く扱えない私なのだけど、魔力だけはとんでもないらしく、一度世界を滅ぼしたことがある(らしい)。

 その魔力が抱き合っているうちにジェーンに伝わる……なんてことがあるのかなぁ?

 少なくとも同じような理屈で『真実の魔法』は薄まるらしいけれど。


「要するに互いの為になるので、この飛行は一石三鳥くらいあるかもしれません!」

「飛んでいるときに使うにはちょっと縁起が悪い言葉だけれどね? 今は落とされる鳥側だから」

「ラウラ様と一緒に居る時は無敵なので、石なんていくらでも砕きます!」

「百石零鳥じゃん! すごい!」


 ひゃくせき-れいちょう【百石零鳥】

 多くのことをされても、一つの利益も与えないたとえ。多数の敵に囲まれても、逃げ切るたとえ。百の石を投げても一羽の鳥も捉えられないという意から。

 ……勿論存在しない言葉なのでググらないように!

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