その150 オタクだって、好きと言われて悪い気はしない

 クロウムさんのその言葉は何故か確信を持っているように感じられた。

 如何にも頭の良さそうな人なので、軽々なことは言わないと思うのだけど……。


「根拠のほどは?」

「それはだな──吾輩がメーリアン家を何よりも大事に思っているからだ。メーリアンは吾輩の愛しの妹が残した血脈、そして吾輩の意思が残った分身! 途絶えさせるわけにはいかん」

「わ、私たちがいるから世界を滅ぼさないと!?」

「そうだ。それ世界を滅ぼさない理由であり、吾輩が大人しく封印された理由でもある」


 ……言われてみれば、世界を滅ぼすほどの力を持った人が歴史の影でひっそり封印されているのは、少し違和感がある。

 それもメーリアン家の存続のためだったとすれば、頷ける話かも……。

 ん? でもそれってメーリアンがいないなら世界を滅ぼすみたいな言い方だけど。


「えっと、では、逆にメーリアン家が滅んだ場合はどうしますか?」

「まあ、怒りに任せて世界を滅ぼすかもしれん」

「………………審議の結果、おじ様を外に出すことは許可できません!」

「何故だ!?」

「何故と言われますと、当家が世界の命運を背負ってしまうからですかね……」


 勿論、そう易々と滅んでしまう情勢でもないとは思うのだけど、わずかにでも世界が滅びる可能性があるのは駄目です!

 そもそも、そんな連鎖倒産的に世界に滅んでもらっては申し訳なさすぎる。

 『メーリアン家の滅び=世界の滅び』の図式は最悪もいいところである。

 

 ……ふと思ったのだけど、本来の歴史、つまり私が転生しておらずラウラが通常の悪役だった場合のメーリアン家はどうなっていたのだろうか。

 確かゲームではお兄様も流石に妹に愛想をつかしていたはずなのだけど、その後、ラウラがどうなったかは私のゲーム知識では分からない。

 ジョセフルートはお兄様が家との因縁に決着をつけることがストーリーのメインになっていたけれど、あの時点で相当苦しい立場にあった気がする。

 ……本編後に滅んでてもおかしくないかも。


「改めて考えても、やはり許可できません! なんか当家は滅びの気配を感じます!」

「メーリアン家はいつの間にそんなに不安定になってしまったのだ」

「多分最初からだと思いますよ」


 そもそも軍事で成り上がったような家なの上に、未だにその思想が抜けていないという困ったところがあるので、時代にちょっと取り残された感じある。

 家を残そうという意思も多分当家は弱いと思う。その証拠が徹底した放任主義である。

 どうやらクロウムさんから受け継がれた意思は物騒なところだけのようだ。


「はぁ……では仕方ないな。大人しく封印されているとしよう」

「あれ、やけに聞き分けがいいですね」

「ここから先、吾輩がどれだけ言葉を尽くしても無駄だろうからな。手段としてはラウラ、お前を人質にとる手もあるが……妹の面影を残すお前に、そんな真似は出来ない。つまり、まあ、詰みだな。お手上げである」


 ひょいっと実際に手を上げて降参するようなことをいうクロウムさん。

 ここから私を縛り上げて外のみんなと交渉すれば、まだやりようはいくらでもあるだろうに、実に潔い姿だった。

 というか、優しすぎて、なんか、なんか、なんかー!!!!!!!!


「なんか好きになってしまいますっ…………!」

「ふっ、ラウラ、どうやらお前は世界を滅ぼす敵として吾輩のことを嫌いになりたいようだが……それはお前には不可能だ」

「な、何故です!?」


 ついつい漏れてしまった推しが増えまくってしまうオタクの呻きに対して、クロウムさんはにやにやと笑いながら言葉を返す。


「いいかラウラ、吾輩は間違いなく悪い奴だが、悪い奴は何時でも悪い顔しているわけではない。愛すべきものがいるし、守りたいものがある。吾輩はお前のことが好きだからお前に嫌われるようなことはしない。そして、お前は好意を持ってくれている人を決して嫌いになれない。何故なら『好きと言われて悪い気はしないから』だ」

「グフッ!!!!!!!!!!!!!」


 クロウムさんの少し邪悪さのある美しいお顔で、面と向かって好きなんて言われたらこれはもうノックアウト確定である。

 そ、そうか……『好きと言われて悪い気はしない』理論は今まで私の『真実の魔法』に適応されてきたけれど、人から私にも活用できるんだ……!

 まさか、まさかこの概念でやられてしまうなんてぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

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