その149 世界を滅ぼすために必要なこと

「そ、そんな顔してもこの封印内からは出しませんよ!」


 なんとか喉を振り絞り、己の明確な意思を口にするが、そんな私を見てクロウムさんはきょとんとしていた。


「どんな顔だ?」

「こちらが限界になって臨界になって世界に感謝するような顔です!!!!!!!」

「良いことなのではないか……?」

「良いことですけども!」


 良いことなのだけど! 心も体も健康になるのだけど!

 相手の立場が敵だろうと萌えすぎてしまうのは明らかにオタクの弱点だな……。

 だって、ヴィラン好きだし……!


「く、クロウムさんにはですね!」

「おじ様」

「おじ様にはですね! 世界を滅ぼす危険性があるんです!」

「吾輩が世界を? ふむ……面白いではないか!!!!!」


 嗚呼、いらぬことを言ったかも……。

 そこで喜んじゃう人かぁ!

 ど、どうしよう、むしろこれで世界を滅ぼすことに興味を持たれたりしたら。

 その場合、私は全ての元凶に……!


「では吾輩が世界を滅ぼさない可能性を提示できれば封印から出して貰えるのだな?」


 クロウムさんの喜色満面な表情にドキドキしつつ、次の展開をドキドキで恐れていると、完全に予想外なことをクロウムさんは言い始めた。

 そ、そういう話かなぁ? そういう話かも……。


「それは、まあ、そうかもですが」

「ふむ、では少しその可能性を探ってみようではないか!」


 少し楽しげな声色でクロウムさんは中空で指を回しつつ、話を続ける。


「まず吾輩が世界を滅ぼすとしたらどういう条件が必要だろうか?」

「ええっと、圧倒的破壊力でしょうか」

「それもある。だが他に世界を滅ぼす動機も必要になる。まずこの二つについて考えてみよう」


 相変わらず講義をしているみたいな語り口に何処か不思議な気持ちになるけれど、確かに動機は大切だ。

 世界を滅ぼすほどの意思なんて、明らかに普通じゃないものね。


「おじ様は世界を滅ぼす気はありますか?」

「そんなこと一度も考えたことがない──と言いたいところだが、そこそこある」

「そこそこあるんですか!?」

「長い間封印されていれば、それくらい誰でも思いつくことだ。封印あるあるだな」


 人生で一番役に立たなそうなあるあるを知ってしまった。

 だとしたら、封印は更生の一助とならないかなり欠陥のある刑罰なのでは?


「また吾輩は魔法の追求、そしてその発展、最後にその効果を見ることが好きなのでな、その過程で人類が大変なことになる可能性も高い」

「ヤバい人じゃないですか!」

「我ながら吾輩はヤバいぞ」

「そ、そんな堂々と」


 そりゃあヤバい人だからこそ封印されたので当然なのだけど、はっきり言われると困ってしまう。


「次に問題となるのは世界を滅ぼす方法だが……これも吾輩なら可能だろうな」

「すごすぎませんか!?」

「ただし、これは世界の範囲によって異なる。例えば世界を一国と考えるならこれは余裕であるし、逆に世界を大陸と考えるとこれは難しくなる。更に世界を宇宙規模で考えるなら、これは相当な時間がかかる」

「時間がかかるけれど可能みたいな言い方してませんか?」


 というか、一国を滅ぼすのが余裕なのもおかしいけれどね!?

 だ、大魔法使いともなるとここまで恐ろしいものなのか……。

 なんだか、今こうして面と向かって会話出来ているのが奇跡みたいだな。


「だが、吾輩が世界を滅ぼすことはない」

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