その147 世界越境
おじ様呼びを意外とお気に召していただいている……!
もしや全人類特効?
「──ゥラ様! ラウラ様ー! ご無事ですかー!」
おじ様呼びを喜んでいるクロウムさんに困惑半分ときめき半分でそわそわしていると、突如、何処からともなく声が聞こえてくる。
この超絶プリティーで可愛さを具現化したかのような音波は!
「この天上から降り注ぐ天使のような声は……ジェーン!」
声のした方向へ振り返ってみると、そこにはわずかなひび割れから光が差し込んでいる。
あれは恐らく、外の世界では闇に窺えたあのひび!
結界側から見るとこんな感じなのか!
「ジェーン! 無事だよー!」
「あぁ、良かった……」
心底安心したようなジェーンの声が結界に響く。
推しを不安にさせるなんてオタク失格だが、同時にそんな彼女の吐息に興奮する自分もいるのだった。
状況を弁えられないオタク……!
「まだ偽物の可能性があるわ~、ちょっとラウラちゃんらしいことを言ってちょうだい~」
続けざまに聞こえてくるニムエさんの声は真剣なのかふざけているのかよく分からない。
声だけしか聞こえていないと思うので、偽物可能性は確かにあるかもしれませんが、わ、私らしいことって何!?
と、とにかく思いついた言葉を言うしかない!
「え!? えっと、ご、ご無事とゴブリンってちょっと似ています!」
「間違いなく本物のラウラ様です!」
「間違いないな」
「間違いないわ~!」
「私の印象って一体……」
なんだかとても腑に落ちない納得のされ方だった。
腑に落ちなさすぎて、心がフニフニになる……。
「クロウムも聞こえているわよね~? どうやって結界内にラウラちゃんを吸い込んだのよ~!」
「それは吾輩にも分からん。というか吾輩はやっていない」
「ということは、女神の起こした事故ということか」
「え~!? 無実よ~~~~~~! あんなちっこい穴に人が入るわけないじゃない~!」
「それはそうなのですが……」
この場にいる誰にも分からない状況のようで、全員何処か釈然としない声色になっている。
うーん、謎過ぎる状況な上に、今はクロウムさんの性格もちょっと謎めいて来ているので、もはや謎が謎でなぞなぞだ。
「断言はできないが推測は出来る」
全員混乱している場にあって、クロウムさんだけは落ち着き払っているようで、椅子に優雅に腰かけつつそんなことをしれっと言う。
て、敵ながらさすが……!
「クロウムさん、分かるんですか?」
「おじ様と呼べ」
「思ったより気に行ってらっしゃる!?」
おじ様呼びに拘るクロウムさんになんかドキドキしてしまう!
もうなんかお茶目すぎて私のハートは萌えに燃えていた。
助けてお兄様! このままじゃ私、この人も推しになっちゃう!
「で、ではおじ様、このカオスな状況に一つの答えを出していただけるんですね!?」
「うむ……だがその前に、外野の声は遮断しておこう」
クロ……おじ様がパチンと指を弾くと、少しずつ外の音が小さくなっていく。
この結界内の事象はある程度、おじ様の思い通りと言うことだろうか。
「言っておくけれど~、まだこちらは封印をどうにでも出来るんだから~、考えて行動しなさいよね~!」
「おかしなことはしないとも。おじ様だからな!」
「おじ様ァ~?」
不審がるニムエさんの声を最後に、外からの声は聞こえなくなった。
後に残る静寂に私は少し怖くなる。
に、にぎやかな方が好き! 作業BGMも欲しい派です!
「さて、ラウラが結界の中に入ってしまった理由だが、吾輩の考えでは──ラウラ、お前は世界を数多く超えているのではないか?」
「せ、世界を数多くですか? そんな壮大なことは……ことは……」
………………あるな!
特に最近はニムエの世界を行ったり来たりしすぎていた。
夢っぽい世界なので別段違和感は覚えなかったのだけど、冷静に考えると異常なことかも!?
「あ、あの、湖の乙女さんの世界によく行ってました!」
「形而上根源的心象領域のことか」
「あの世界そんな名前なのですか!?」
「あくまで吾輩がそう呼んでいるだけではあるが……あの世界は最もこの世界の近いところにあるとはいえ、そこによく行っていたことで世界を超えやすくなったのだろう」
「そんな定期券みたいな制度があるのですか……」
世界を何度も何度も超えたことで、世界を超えることに体が慣れ切ってしまったということだろうか。
なんかすっごい嫌な体質になってしまったかも……。
「そしてそれだけじゃなく……他にも世界を超えているのではないか? 例えば、前世とかで」
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