その110 勢い任せは後悔の元
おかしい……記憶を失っても本質は変わらないという話なので、聖女レベルの人間性を持っていたら、今の私にも多少の自覚があっていいはずなのだけど、そんな感じ全くない!
むしろ俗物中の俗物なのですが!
本当にみんなが騙されている気しかしないのだけど、しかし、今のところ騙すほどの知性も感じないのが困りどころ。
ら、ラウラの正体がどんどん見えなくなってくる!
それにしてもこんな超絶イケメンに愛されているなんて、羨ましい限りである。
いいなぁ、ラウラ・メーリアンは。
「ラウラは幸せものですね……」
「なんで他人事なんですか。貴方のことが好きだと言っているのですが」
「え? ですからラウラが……」
「記憶を失っても貴女は貴女ですから。まさかこんな目の前で告白して、勘違いされることがあろうとは思いませんでしたよ」
「あっ、今の私もひっくるめてなんですか!? て、てっきり記憶を失う前の話かと」
そうだ! 私ってラウラだった!
記憶喪失でそもそも自分への認識が緩くなっている上に、ヘンリーに告白されるというのが異常事態すぎて、完全に他人事のようにとらえてしまっていた!
記憶を失ってもなお好きだなんて、とっても素敵な話だとは思うのだけど、それが自分に降りかかると驚くほど現実味がないな……。
というか、好かれていたのは記憶を失う前の私のおかげなわけで、私からするとほぼ初対面でイケメンに好かれてしまっているから、こう……最初から好感度MAXな乙女ゲーやってる気分になる!
逆に面白そうかもそのゲーム!
「まあ、記憶を取り戻したらこの告白も忘れるだろうという考えも含めて実行しているんですがね」
「忘れること前提でやってるんですか!?」
「じゃないとしませんよ。関係が崩れますから」
な、なるほどー!
いきなりな大胆告白だと思ったら、忘れるから言ってしまおう的なノリだったのか!
「いい予行練習になりました。本番ではもっと練って告白した方がよさそうですね」
「け、計算高い!」
『全てを洗い流す泉』は代償を知ってしまうと効果が薄れるのだけど、それでもなお、お試しが出来る理由は、記憶を取り戻すと私が代償そのものを忘れてしまうからだと言う。
ヘンリーはそのことを踏まえた上で、今告白すれば反応だけ見られて、今後の役に立つだろうと考えたわけか。
ほ、本当にびっくりするほど合理的な人だ……。
「あれ、でも私が記憶を取り戻さなかった場合はどうなるんですか?」
「その場合は付き合って貰う他ないですね」
「どういう理屈ですか!?」
「ふふっ、まあ、その時はその時考えますよ」
「な、なんだか急に雑になってません……?」
すべての物事を理屈と理性で持ってコントロールしているような雰囲気がヘンリーにはあるので、記憶を取り戻さなかったケースについてもきちんと考えている……と思いきや、そこは見切り発車なヘンリーだった。
いや、逆になんでそこだけ雑なの!?
「雑と言いますか、まあ、勢いですよね」
「へ、ヘンリーさんでも、そういうことがあるんですね」
「初めて勢いで行動しました。我ながら驚きです」
「大事な初めてを今使ったことに驚くべきか、その年まで勢いで行動しなかったことに驚くべきか分かりません!」
両方に驚くべきかな!?
い、いや、光栄な話なんだけど、やっぱり実感がないよ!
夢でも見てる気分だ。
「若気の至りとなるか、計画通りとなるかは今後次第ですが……まあ、今回のことは記憶を失わずとも忘れて貰って構いません」
「魔法の力なしでは忘れられそうにありませんよ!」
キャラに似合わず無茶苦茶なことを言うヘンリー。
意外と恥ずかしく思っているのか、彼はは顔を隠すように横を向く。
しかし、正面から見ずとも、その横顔は明らかに赤かった。
か、可愛い!
可愛いよヘンリー!
こ、こんな一面があったんだ! すっごい可愛い! 好き! 好きすぎる!
本当に学生かと思うほど落ち着き払ったヘンリーがまさかこんな顔を見せるなんて!
眼福! 私の眼にフクキタル!
一富士二鷹、三ヘンリー!
「何を楽しそうな顔しているのやら。もう話はいいでしょう、他からも話を聞かなくていいのですか?」
「も、もうちょっと見ていたいです!」
「これから仕事なので強制終了とさせていただきます。閉店です」
「えー!」
ヘンリーに押し出されるように生徒会室から退出させられる私。
ドアの隙間から見える彼の顔は、最後まで赤いままだった。
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