その109 それ本当に私ですか!?
自分の正体が変態だとすれば、もう色々な意味でやりきれないのだけど、しかし何故か私には変態に優しくしたい気持ちがあるのだった。
……本当に何故?
私自身が変態だから?
ヤバい、もう変態がゲシュタルト崩壊してきた。
なんか、変態が良いことか悪いことかも定かではない気がしてくる。
い、一般的には悪いことであっていますよね?
「僕としては記憶を取り戻すにしても、その戦闘力を一度は利用しておきたいのですが」
「れ、冷静ですね……」
「そうですか? 当然の発想だと思いますよ」
変態という概念そのものに悩む私だが、ヘンリーは私をどうすればもっと効率良く扱えるだろうかという一歩上のレベルで悩んでいた。
記憶を取り戻すにしても、このチート級の魔法を利用しておきたいというのは、なるほど合理的だなぁ……。
「それで魔闘会という催しがありまして、勝てば魔道具が手に入るのですが、そこに参加できれば美味しいと考えています。勿論、今のあなたにはもう不必要かもしれませんが、記憶を取り戻した時には必要なものですから」
「あの、ずっと疑問に思ってることがあるのですが……」
「はい、なんです?」
「ヘンリーさんは私に優しすぎませんか。何故そこまで親身になってくれるのですか?」
そう、ここまでの流れや事情を聞いていると、みんな優しい中で、ヘンリーだけ少し異質に感じられた。
お兄様は私の親族だから私に協力してくれる。
ローザは償いとして、ジェーンも友人の償いあってのこと。
グレンはジェーンのことが好きだからという話で、ナナっさんはこの学院の長として協力してくれている。
イブンは共に勉強した仲。
そしてヘンリーは……ヘンリーはお兄様の友人、それだけだ。
それだけで私に厚く協力してくれているのだ。
本当に、それのみの繋がりで。
しかも、かなり熱心に私の為に動いてくれているという話で、記憶のない私としてはどうしてそこまでと言いたくなる。
ヘンリーがそれほどまでに善人だということ?
「ふむ、そうですね……親友の妹だからというのは当然ありますが」
ヘンリーは考えるように机をコツコツと指で叩く。
記憶はないけれど、焦るようなその仕草は、少し珍しいように私には感じられた。
「前にも言ったのですが、貴女のことを気に入っているのですよ」
「お、お気に入りのおもちゃということでしょうか……?」
「そういう意味でもあります」
「そういう意味でもあっちゃうんですか!?」
おもちゃ的な意味で気に入られているのなら、それは大変失礼な物言いに思えるのだけど、私は何故か、そう本当に何故か、そういう物言いが全然気にならない。
というか、むしろそんな彼の態度を嬉しく思っていた。
……うん、もう変態は確定かもしれないな!
もういいや! 変態でも強く生きていこう!
それにそんな自分を嫌いじゃない私もいる!
変態と言う汚名を背負うために私が気合を入れていると、ヘンリーが窓の外を眺め、こちらから視線を逸らしながら、呟くように、或いは吐き出すようにこう言った。
それは衝撃的過ぎる言葉だった。
「……もう、言ってしまいますが、僕は貴女のことがかなり好きなのです」
「……………………?????」
い、今、ヘンリーが信じられないことを言ったような……。
カナリス・キナノデス(1990年7月31日~)って言った!?
海外のファンタジー小説家かな……ヒューゴー賞とか取ってそう。
「すいません、キナノデスさんという小説家に心当たりは……」
「どうしてこの場面で関係ない小説家の話題を出すと思ったのですか。誰ですかキナノデスは」
どうやらカナリスさんは本件とは関係がないらしい。
普通にいいペンネームだと思ったけどな……で、では、ヘンリーはなんと?
「貴女のことが好きだと言ったのです。自分でもまだ不確かですか、恐らくラブの部類」
「ラブラブの部類ですか!?」
「そこまでは言っていませんが、まあ、憎からず思っているのです。貴女は愛嬌がありますからね、どうやら私は美人よりも可愛い系に弱いようです」
「暗に美人ではないと言われたような気がしますが、置いておくとして……ええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!????!??」
「驚きがワンテンポ遅いですよ」
この金髪王子様が私のことが好き!?
あっ、いや、私というより、ラウラ・メーリアンのことが好きなのかな?
そんな馬鹿な!?
思わず叫び出してしまいそうなほどの衝撃を何とか押さえつけながら、私は冷静に自分のことを振り返っていく。
ここまでの情報をまとめると──ラウラ・メーリアンは面白くて善人で聖母のような慈愛を持った尊敬すべきお方で学園の王子様に愛される可愛い子らしい。
…………いや、何者だ!?
一国の姫でもそんな風に言われないよ!
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