その105 【悲報】ラウラ・メーリアン、巨悪だった!?
もうなんだか自動的と言ってよいくらいに、気が付けば涼しげな朝の空気の中を走り出していた私だが、なるほどそれは体が覚えていた為らしい。
思えば足取りも軽く……軽く……軽くはなかったかも!
目的地がそもそも気が重いし、運動神経も悪かったから!
「しかし、朝のランニングが日課だなんて、なかなか感心な子ですね」
「自分のことじゃがな?」
「ですが、努力はあまり実を結んではいないようです。体力なさ過ぎて、途中から歩きでした」
「最近始めたばっかりじゃったからな、まあ仕方がない面はあるのう」
「そもそも私、何でランニングなんて始めたんですか?」
今の私なら例え体力を付けようと思っても、ランニングなんて面倒な手段は絶対に選ばない。
家の中で足をパタパタさせるくらいで終わりだろう。
そう、本質的には私はぐうたらなのだ。
なのに、なんでそんなに頑張っていたのだろう。
何か大事な理由があるのなら、納得できるけど……。
「それはじゃな……」
苦い顔をするナナっさん。
それは明らかに後悔するような、そして悔やむような表情で、事態の重苦しさが伺えた。
まさかこんなどうでも良さそうな話題でそんな苦悶のお顔を見られるとは……!
一体、私のランニングにどんな秘密が!
「初めて会った時にラウラウがとことん儂を褒めまくるという謎のイベントを夜通し行ってしまってな、それで体力切れでラウラウは倒れたんじゃ」
「意味不明なんですが!? 何やってるんですか私とナナっさん!」
「何やってたんじゃろうな……」
想像以上に想像以下なくだらない事情だったー!
夜通し褒めまくるって何!?
いや、確かにナナっさんはそれくらいしたくなる美少年だけど、それで倒れてしまうなんて……自分ごとながら情けないよ!
「そ、それで体力を付けようと思い立ったんですか……」
「びっくりしたじゃろ」
「びっくりです。びっくりしすぎて、自分のことのはずなのに、何故か自分に興味が出てきました!」
話に聞いているだけでも不可思議な言動と行動をしているラウラ・メーリアン。
正直言って、私は彼女のことが気になっていた。
……いや、まあ、自分なんだけどね?
ただ、記憶を取り戻すべきかこのままでいるべきかを悩んでいる私からすれば、ラウラのことを知るのは重要かもしれない。
例えばラウラを知っていく上で、彼女がとんでもないド外道だと発覚したら、これはさすがに記憶喪失のままの方が良い──そんな判断を下せる。
むしろ、私としてはそちらの方が嬉しいかもしれない。
だって、それなら悩む必要もないのだから。
「あの、ラウラってどんな子でした?」
「ほう、気になるか。いや、自分の忘れている過去を知りたいのは当然の話じゃな」
過去を知りたいというより、どちらかと言えばその人間性に興味があるのだけど、そんなことを言うと変に思われるかもしれないと考えて、真意は黙っておくことにした。
ナナっさんは顎に手を当てて、少し考えると、急に震え始める。
や、やはり私に何か恐ろしい一面が……?
「くっくっく、はっはっは! 面白い子じゃったよ!」
ナナっさんの震えは笑いを堪えきれなくなったが故の震えだった。
この何かを思い出している場面で笑うってことは、明らかに思い出し笑いなわけで……。
き、記憶がないのに何故か恥ずかしい!
なにやらかしたんだよ私!
「そして優しい子でもあった。そう、端的に言えば良い子じゃな」
「うーん、優しいって人を褒めるときはその他みたいな意味合いになりがちじゃないですか?」
「なんじゃ疑い深いのう。気になるのなら儂以外にも聞いてみると良い。過去を振り返ると言うのは、これからの為にも良いと思うぞ」
「なるほど、そうしてみます!」
一人の意見だけを聞いて全てを知ったようになるのは愚の骨頂。
ナナっさんの言う通り、色々な人から話を聞いて多角的に私という人間を見るのが良いだろう。
ちなみに、私はまだラウラ・メーリアンに心を許してはいないから、良い子か悪い子か判定は厳しくいくぞ!
なんかちょっと変態っぽいんだよ貴女は!
自分でも謎なのだけど、何故か過去の自分に厳しい態度を取ってしまう私がいた。
これも一種の自虐なのかな?
でも、だ、だって、そんなみんなから愛されるような子が本当に私だろうか?
信じられない! 何か裏があるに違いない!
暴いてみせるぞ! ラウラ・メーリアン!
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