記憶がなくてもオタクはオタク編

その104 文字通り新しい朝


 猫に小判、豚に真珠。

 二つとも、要するに不要って意味のことわざなのですが、いやいや、猫に小判は映える光景で意味のあるセットですし、豚が真珠を付けていたら大変可愛いと思うので『価値の分からない者にはそれらを与えても何の意味もない』……なんてことにはならないのではないかと、私などは愚考するわけです。


 そんなわけで新提案。

 私に大魔法!

 これならきっと間違いなくあらゆる面から見て不要!

 

 ……なんてことを考えている私は我ながらネガティブで、人づてに聞く私の暗さと言うのは、記憶を失ってもなお、変わってはいない気がします。

 つまり、魔法を封じていたのはネガティブな性格ではなく、他の、何らかの記憶。

 一体その記憶は何なのか。

 そんなことを考えていて、一つ思いつきました。


 いや、小判って何──って?





 グラウンドが私の手によって破壊された翌日。

 気が付けば私の足はそのグラウンドへと向かっていた。


 ……ほ、本当に私が破壊したのかなぁ!?

 私が大怪獣ラウラメリドロン(全長145㎝)となってしまったばっかりに、グラウンドに穴が開いてしまうなんて……。

 すっごく申し訳ない!


 そんな罪悪感いっぱいな気持ちでグラウンドに辿り着いた私が見たのは──元通りの綺麗な姿を取り戻していたグラウンドの姿だった!

 い、一日足らずで全てが修繕されている!

 魔法じゃん!

 いや、魔法なんだろうけど!


「さすがに疲れたぞ……」

「わっ、ナタ学院長!」

「ナナっさんでいいんじゃぞ」

「あの、その呼び名、謎過ぎるんですが……」


 グラウンドの隅に設置された真っ白なベンチの上に腰かけて、大層疲れたような顔をしている少年は、当魔法学院の学院長様ことナ・ナタ・エカトスティシスである。

 見た目は子供だが、しかし、実際の年齢は遥か上であり、長き時を生きる大魔法使い……らしい。

 まあ、要するに超偉い人です。


 そんな超偉いナタ学院長のことを私が何故ナナっさんと呼んでいたのかはあまりにも謎で、まるで見当がつかない。

いや、本当になんで?

 自分のところの学院長に気安すぎない!?


 偉くても大魔法使いでもさすがのさすがにグラウンドの修繕は苦労したらしく、彼の唯一年齢を感じされる真っ白な髪も、今日ばかりは少し土色に染まっている気がしてならない。

 本当に大変だったんだろうな……。


「グラウンドに関しては気に病むでない。別にぶっ壊してもいいんじゃよ、そのための場所じゃからな」

「そ、それでもさすがに申し訳ないです……」

「むしろ嬉しいくらいじゃよ。なにせ、儂に並ぶものが現れたのかもしれないんじゃからな!」


 ナタ学院長……もうナナっさんでいいか!

ナナっさんは記憶を失いとんでもない力を手にした私にかなり期待を寄せているようだった。

 大魔法使いが故に並ぶものがなく、ただ一人長き時を生きて来たナナっさんなので、私の成長を一番喜んでいるの彼なのかもしれない。

 ちょ、ちょっと期待が重すぎる気はするけれど……!


「ナナっさんほどになれるとは思えませんが……」

「いや、可能性は十分にある。まさかラウラがここまでの素質を秘めていたとはのう」

「実感は全然ないです!」

「しかし、記憶と引き換えとは酷な話じゃなぁ。うーむ、どうしたものか」


 私と同様に、ナナっさんもどうやらこの究極的な二択に悩んでいるらしい。

 そう、普通に考えれば現状維持が一番なのだろうけれど、そこに『記憶』と『真実の魔法』が絡むことで大変複雑なことになっている。

 人道的に考えれば『記憶』は取り戻すべきなのだけど、同時に『真実の魔法』という非人道的魔法も戻って来てしまうのだ。

 

 デメリット付きの記憶を取るか、メリット付きの記憶喪失を取るか。

 その答えは、私の中で未だ見つかっていない。


「それにしても朝早くにこんな場所に来るなんて、どうしたんじゃ?」

「あっ、いえ、グラウンドの様子が気になったもので……あと、なんか体が勝手に走ってました」

「ああ、そういえば早朝のランニングが趣味じゃったか。なるほど、記憶を失っても習慣は体が覚えておるものなのじゃな」

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