その63 模倣こそがオリジナルの礎
そもそもイブンというホムンクルスが生み出された理由こそが最強の魔法使いを作ろう!というものからなのだけど……改めて考えるとすっごい雑な理由だ!
ただ、魔法使いというのは魔法の探求こそが至高の目的なので、別に間違っているわけではない。
基本的に新しい魔法を生み出すのが魔法使いの誉れだとされている中、イブンの製作者はコピーという形をとったのは、やや珍しいとは思うのだけど。
模倣を極めた先にオリジナルがあるというのが口癖だったと何処かで語られていた記憶がある。
なんとも含蓄のある言葉だ。
そんな製作者によって生み出されたイブン、他者の魔法を真似ることに特化した彼の魔法属性は無である。
つまり何者にも染まれるということ。
或いは自分がないということ。
だからこそ、イブンは誰かの気持ちを求める。
心を読み続け、他者の心の中に自分を見つけようとしているのだ。
嗚呼……悲しいけれど心にドスドスくる!
まるでボクサーのボディブロー! ジワジワ私の心を締め付けて否応なく感動させる!
「じゃあ、なんだグレン、お前の魔法はイブンに真似られた上に超えられたということか」
「はぁー!? そんなんじゃねぇし! いや? 俺が本気を出せばあれくらいのことは可能なんだが? ただ、今日はちょっと……ちょっとアレだ! アレなんだよ!」
「イブンのコピーは実際、相手の可能性を引き出していると言えますから、グレンがあれくらいできるというのは間違いじゃないと思います! いえ、むしろあの炎柱を超えられるはずです!」
「だ、だよな! 安心したぜ……」
お兄様に揶揄されて慌てるグレンだけど、そう単純に魔法の腕前で超えられたわけではない。
イブンのコピーは相手の最大値は真似できないという弱点もあるのだ。
結局のところ、人の意思というのは最後の最後は自分自身の踏ん張りで決まる。
イブンにはその不確かな意思がまだ理解できないからこそ、完璧なコピーにはならない……という理屈だそうだ。
ジェーンもイブンの姿には驚いていて、じっと見つめながら口を開く。
彼、貴女の攻略キャラですよ!
「イブンくんって『商業街の銀色妖精』のことですよね?」
「そうそう! 『性別の境界線上』とか『月の輝きの具現化』とか『朝日よりも眩く夕日よりも深い』とかもそうだよ!」
「そんな有名人なのかあいつ」
学院にその名と美貌を馳せるイブンだけど、グレンはそんな彼を知らずに助けていたらしい。
基本、孤高(私のぼっちとは全然違う!)を貫いているグレンなので、人の噂には疎いのだろう。
そこが素敵滅法なんだけども!
「そのイブンくんが何故学院に?」
「学院に通いたいって話していたから、下見に来たのかもしれない! 私ちょっと話してくる!」
イブンが学院に来る!
そうなればもう私の夢が叶うと言っても過言ではない!
ついに攻略キャラ全員が揃う時が来たのかも!
我慢できなくなった私はナナっさんと話すイブンの元へ移動する。
瞬間、私の脳にとんでもない衝撃が走った。
「はうわぁっ!?」
「ラウラ様? どうしました!?」
思わず変な声を上げる私を心配するジェーン。
しかし、そんなジェーンの声が遠くに聞こえるほどに、私の脳はパニックに陥っていた。
い、イブンとナナっさんが一緒にいる構図……ヤバみがエグすぎる!?
真っ白な髪をした美ショタが、銀色の長髪を靡かせる美少年と向き合っているんですよ!?
互いの髪が、そしてきめ細かな肌が、その瞳が、細い首が、しなやかな指が、浮き出る鎖骨が、愛らしい耳が、小さな鼻が、全てが! 全てが美しすぎる!
明媚で絶佳な景色に私の目は潰れ、思わず地面に地面に跪いて首を垂れた。
美麗で端麗で佳麗で秀麗な人たちが、二人一緒にいる奇跡!
もはや現実の光景とは思えない……やはり夢か!?
見れば見るほど、そして考えれば考えるほど良きすぎて、私の頭はその光に包まれたせいか、ホワイトアウトしてしまう。
あ……ふぁあああああ……。
「ああ……ああぁ……」
「ら、ラウラ様の思考が真っ白になった結果、言葉ならざる何かを呟いています!」
「なるほど、思考が消えるとこうなるのか」
「冷静に解説してんじゃねぇよ! おい、ラウラ、大丈夫か!?」
「もうマジ無理です……尊みのかまたりすぎます……」
「かまたりって誰だよ!? ラウラ? ラウラー!」
がっくりと項垂れる私をグレンは揺さぶるが、もう私は限界だった。
ラウラ・メーリアン、早旦に死す!
「いや、何をやっとるんじゃお主は」
「ああ、美がそばに、美が美が……」
「ビガビガはもう逆に美しくないじゃろ」
申し訳ないほど騒がしくしていた私の元にナナっさんがやってくる。
いや、そうだよね目立ちすぎだよね申し訳ありません!
冷静なナナっさんの顔を見て、私も何とか正気を取り戻した。
あ、危なかった……もう少しで二人の天使によって天に召されるところだった。
「学院長、そこの、イブンだったか? そいつに聞いて分かっただろう。俺は無実だ」
「別に説教しようというわけじゃないから安心せい。イブンに関しては以前にジョセフから聞いていてな。本人にも入学の意思があるから、考えてみてくれないかと」
私が迷子になった時にイブンに助けてもらったのだけど、お兄様はそのお礼に学院に通いたいよいうイブンのお願いに、手を尽くしてみると約束していた。
それはイブンの魔力が私の『真実の魔法』軽減に繋がるからという抜け目ないお兄様らしい狙いもあるのだけど、しっかり話は通してあったらしい。
「いきなり来るのは予想外じゃったが。帰って来てて正解じゃったな」
「それでイブンはなんと?」
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