その17 メイドメイドオブメイド
「な、ナナっさん! 全然、軽い罰じゃないじゃないですかー!」
私は思わずナナっさんにそう問いかけるけれど、ナナっさんの表情は渋かった。
「最初は短めに『真実の魔法』をかけて終わりにするつもりじゃったんじゃが、とうのローザがそれでは軽すぎると言うのでな」
「ろ、ローザ……」
考えてみればあのローザが今回の件に対して軽い罰なんて受け入れるはずがなかった。
何故なら、自分に最も厳しく苛烈な人間だから。
己の過ちに対しても全力で償う姿勢のローザの結論が、し、しもべになるだとしたら、それはすごい覚悟だけど、同時にメイド服にビシッと着替えたローザの姿は愛らしくもあった。
「ラウラ様……わたくしはあまりにも愚かでしたわ。取り巻きに騙され、流されるまま軽々と魔法を使ってしまった。周囲に流されるままになんて、それは本来なら、わたくしが最も恥じていたはずの姿だというのに!」
ローザは怒りに燃えていた。
そう己自身に対する怒りに。
そうだった、ローザはこういう娘だった。
ジェーンとは対極に位置するライバルキャラ。
優しくも厳しく、そして暴走しがちで思い立ったら一直線!
そんな彼女の姿に生前、思い立ってもふにゃふにゃ線な私は憧れたものだった。
こんな友達がいたらなぁと妄想する日々……。
お、思い出すと痛すぎる!
「あと、『真実の魔法』はすでにかけて頂きました」
「えええええ!? な、ナナっさん!?」
しもべになるのとは別に、すでに刑も実行されているとは!
と、ということはずっとローザの言っていることは本音だということになる。
ローザの心はどうやらどこまでも真っ直ぐらしい。
「いや、流石に短いやつじゃがな?」
「一生が最も相応しいとは思うのですが、しかし、ラウラ様がそれを望んでない以上はサポートの邪魔になるだけですわ。そう言うわけですので、今日から一生を貴女様に捧げますわ! 好きなように使ってくださいまし! いいえ、一生ではなく更に先まで! 死んでも貴女様にお仕えして見せますわ! わたくしは冥府、貴女様は天国という大きな壁が立ちはだかるでしょうが、決して諦めませんわ!!!!」
最初はクールな態度をとっていたローザの口調がどんどんと荒らしく、そして加速していく。
こ、このしゃべり方は見たことがある……!
というか、私と同じだ!
『真実の魔法』をかけられたことで興奮すると、そのまま心中を吐露し続けることになるのだ。
ほ、本当に『真実の魔法』がかかってるんだ……。
「ローザ! 落ち着いて深呼吸をして! 私の経験則ではそのまましゃべり続けると酸欠で倒れる!」
私の体力が雑魚すぎるかもしれないけども!
私の静止によって、一度、深呼吸をするとローザは少し冷静さを取り戻した。
ローザは自分の言動に驚いているらしく、戸惑ったような表情で話を続ける。
「し、失礼しましたわ……つまり、一番言いたいことは……ラウラ様、私や皆の罪を軽くするように言ってくださったこと、深く感謝しておりますわ。貴女様は本当に、お優しい。そして、だからこそ、あの魔法を貴女様に使ったことは罪深いのですわ……」
あふれるように、そしてこぼれるように、ローザの本音が伝わってくる。
明らかにローザは苦しんでいた。
ローザの苦しむ姿を見ていると、私も同じように苦しくなってしまう。
推しにそんな顔をさせていてはならない。
私の推しは最後には必ずみんな笑っているはずなのだから。
「顔を上げてローザ。気高い貴女は自分のしたことを許せないかもしれない。けれど、今、私はみんなが優しいおかげで元気にやっていけている……むしろ、そんな優しさに気づけたのはローザのおかげかもしれない」
「ラウラ様……」
「それで、な、何故か私を甘やかした方が良いって結論が出てるの! は、恥ずかしいよね!? なんでそうなるのって思うんだけど、でも、実際それが良いらしくて……だからローザ! 私は貴女を甘やかす!」
「ラウラ様?」
尊敬するような瞳が、急激に困惑した瞳に変化していくローザ。
しかし、もう遅い!
私はローザを甘やかしたいんだ!
ドロドロに!
「ろろろ、ローザ! め、メイド姿似合いすぎだよ! 急に好みのメイドが現れたから私、てっきり妄想が具現化したのかと思ったもん! 私、メイド服大好きなんだよね! それもミニスカよりロングが好き! 絶対にロングがいい! ゴシックしか勝たん! しかもローザがメイド服来たら金髪縦ロールでメイドなんてすっごいフェチ度高いのになるし! こ、この組み合わせはヤバすぎるよ! お嬢様メイドじゃん! えー!? 神と仏のような魅力的な組み合わせ! 拝むべきかな!? いやー、毎日見てたら絶対に寿命が伸びるよぉ……目の健康に良すぎるもん! 視力一億行くよ!」
「ら、ラウラ様、ラウラ様の呼吸が心配で仕方がありませんわ! その、お、落ち着いてくださいまし!」
「大丈夫! 全集中だから!」
「なんですのそれ!?」
自分で言っててもよく分からない!
けれど、一つだけ確かなことがある。
それは私がメイドが大好きだということ!
そう、私はメイド大体好きな女である。
母が大好きだった森薫作品で育ったために、もはや遺伝子にメイドLOVEと刻まれている。
魂が変わってなお、我が遺伝子はメイドで出来ている!
それはもはや病的なまでに!
時をかける症状みたいな!?
「ローザ、本来これ断るべき場面なんだろうけれど、嘘がつけないから言うね……私、メイドさんが欲しいです……!」
「そ、そんな、涙ながらに!?」
私は泣いた。
そう、本当は私はメイドさんが欲しかった。
子供の頃からメイドさんがこの世界にいると知ってはメイドさんに出会う機会を待っていた。
しかし、そんな日は訪れなかった……。
メーリアン家が悪名高い上に放任主義だから!
そして私が口下手だから!
けれど、今はその諸々の問題が解決している。
ならば堂々と言おう。
メイドさんが欲しいと!
「わ、わたくしも嘘がつけないから素直に言わせて貰いますわ。その……い、色々とお褒め頂き、う、うれ、嬉しいですわ……」
それはもじもじとしていて、消えそうなほどに小さな小さな声だった。
ローザは本来、素直になるようなキャラではない。
だって、ツンデレなんだから。
それが『真実の魔法』によって強引に素直になっている。
きゃ、きゃわわー!
顔真っ赤にしちゃってまあ!
「なんじゃ、揉めるかと思ったら一発でメイドが決まってしまったか。やはり面白いのうラウラウは」
「前回の帰り際にも思いましたけど、そのラウラウとは……?」
「あだ名じゃあだ名。良くあっておるじゃろう?」
「かなり微妙ですが、初めてのあだ名なので受け入れます! ありがとうございます!」
「いや、断って良いんですわよ?」
すっかり楽しげな空気になった使用人室でわちゃわちゃとやっていると、少し大きめな声が部屋の外から聞こえてきた。
「ら、ラウラ様ー! お片付けの準備、どうでしょうかー?」
愛らしいジェーンの声が私の耳に届き、鼓膜を潤わせる。
というか、そうだった! ジェーンを待たせていたんだった!
推しを廊下で待たせるなんて一生の不覚!
私の一生はもう一回終わっているから二生の不覚かな!?
「ご、ごめんなさいジェーン! ナナっさんとローザが来てて!」
「ローザが!?」
心底、驚いた声をあげるジェーンの声はやや珍しい。
まあ、いきなり処罰中のはずの友人が、何故か人の部屋に現れているのだから誰でも驚くだろうけれど。
「じぇ、ジェーンが来てますの?」
一方、ローザの顔色は海のように真っ青になっていた。
その指先か微かに震え、怯えているようにすら見える。
ど、どうしたのだろう。
私がキモすぎて恐怖しているのかな?
あ、あり得る……。
「い、いえ、最後に会った時、喧嘩してたもので、本音で会うのが怖くなってしまっただけですわ……」
「結構大変なことだよそれ!」
「ですが、この程度で挫けるなんてラウラ様に申し訳が立ちませんわ」
ローザは『真実の魔法』に打ち勝つように顔を叩き、己を鼓舞しようとする。
け、喧嘩してたなんて知らなかった。
ゲームでは少なくともそんなイベントは無かったはずだけれど……。
色々とずれてきている?
それが自分のせいだと思うと、罪悪感でいっぱいだけれども。
な、なんとかしないと!
「ローザ、大丈夫! ジェーンとローザはベストコンビなんだから!」
オタクとしてこの二人の中を裂いたままにするわけにはいかない!
なんとしても、瞬間接着剤を使ってでもくっつけなければ!
例え私の指同士でくっついて手の皮が剥がれようとも!
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