夢を見る仕事

ポンデ林 順三郎

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 能見ソアラはルームランナーの上で正気を取り戻した。運動で激しくなった血流が、いわゆる脳内麻薬を押し流し、頭を締め付けるような快楽からようやく解放された形だ。

 臍の前に光るデジタル数字に拠れば、彼女は既に15分ほども走り続けていたらしい。喉の乾きを感じたので、タイマーの残り時間は無視して機械を止める。人は機械に支配されてはならぬ、それが一応の持論だ。勝てる機械には勝っておく。


 喩えて言うなら、脳に電極を刺して快楽中枢を直接刺激するような作業をしていた。なので、まだ少し感覚が狂っている。

 薬物中毒の人は何故大金をかけ、違法な手段を使ってまで、こんな馬鹿馬鹿しいことをするんだろうか。そんな風に見知らぬ相手を無意識で馬鹿にしつつ、部屋の隅の冷蔵庫から、水道水の入った小さなヤカンを取り出した。



「無益なことをしているなあ」


 空になったヤカンを床に転がし、その隣にソアラも寝転がる。

 それから10分ほど天井を眺め、おもむろに身を起こす。

 床に転がるヤカンを拾い、部屋のすぐ外の小さなキッチンで濯いで、水を汲み直し、冷蔵庫の中へ戻した。

 空腹は感じない。ソアラは一度大きく身体を伸ばし、部屋の中央に置かれた、繭型生命維持装置に乗り込んで蓋を閉じ、内側から装置を起動した。


 約30分ぶり、本日4回目だ。

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