第78話
テオドールは、放心状態だった。確かに、自分は変態かも知れない……いや、実際は違うけど。
だからって、そんなに変態、変態連呼しなくても。しかも、あんな笑顔で言われたら……否定もできない。
「私は、テオドール様が好きですよ」
不意にさらりと、そんな事を言うヴィオラに、テオドールは今度は固まった。
そして、混乱しながらあり得ない事が頭を過ぎる。もしかして、ヴィオラの好みは変態なのか⁈
普段なら、そんな考えに至る事はないが、今のテオドールはもはや考える事を放棄した。
「ヴィ、ヴィオラ……い、今なんて……す、好き?」
テオドールの頭の中は瞬間天国の様になるが、直ぐに冷静になる。
いや、ヴィオラの事だ。きっと、自分の思っている好き、ではないだろう。友人として、人として、或は犬や猫に対する感情の様な好きかも知れない……最後のは悲し過ぎるが……。
「私は、テオドール様が好きです」
「そっか、ありがとう……」
これ以上深傷を負わない様に、テオドールは軽く受け流した。だが、この事で後に後悔する事になるとは……この時テオドールは思いもしなかった。
数日後。
「暫く城を空けるけど、困った事があればブロル達を頼ってくれていいからね」
テオドールは、仕事の為暫く遠方へと赴くらしい。
「……はい」
見るからに落ち込むヴィオラを見て、テオドールは、勘違いしそうになる。自分と離れるのを寂しがっているのではないかと。
だが、多分そうではない。まだ慣れない異国の地で、心細いだけだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
「テオドール、様……」
テオドールは、軽く手を振ると馬車に乗り込んだ。そして、馬車はゆっくりと動き出した。ヴィオラは、馬車が見えなくなっても暫くその場に立ち尽くしていた。
テオドールは、王太子である病弱な兄のヴィルヘイムの代わりに、様々な仕事をこなしているそうだ。遠方に視察や、他国の様子の調査などもしているらしい。ヴィオラと出会った時も丁度その時だった。
1度城を離れると、短くて、ひと月。長いと半年後以上戻らない事もあるらしい。
「……テオドール様」
テオドールと離れて、1人になると更に寂しさが込み上げて来た。
ひとりぼっちに、なっちゃった。
あの日から、1年半と少し。長い様で、あっという間だった。たった、それだけの間に、ヴィオラは色んなモノを失くした。
今の自分に残っているものなんて……。
「歩ける様になったことくらいかな……」
テオドールのお陰で、歩ける様になった。感謝しても足りないくらいだ。だが、今の気持ちは複雑で……贅沢だとは分かっている。でも、やはり落ち込んでしまう。
テオドール様に、フラれちゃった。
正直、もしかしたら、テオドールも自分の事を好きなのではないかと、思っていた。テオドールの謎の思わせぶりな行動は、本当に思わせぶりなだけだったようだ。
淡い期待をしてしまった自分が、恥ずかしい。
冷静になって良くよく考えれば、テオドールは大国と呼ばれる、クラウゼヴィッツ国の第2王子だ。自分の様な娘が彼に選ばれようなど、おこがましいにも程がある。
歩ける様にと手を貸してくれたのも、レナードとの結婚の時も、テオドールが優しいからヴィオラを助けてくれたに過ぎない。
しかもテオドールに、フラれてしまったが、やはり優しい性質故、まだこの城に居ても良いと言ってくれた。
「甘えてばかりじゃダメだよね……」
だが、いつまでも、彼の優しさに甘える訳にはいかない。それに、テオドールだって何れ結婚もするだろう。彼の隣に自分ではない女性がいるのを想像するだけで、苦しい……。想像するだけで、こんなに苦しいのに、間近でなんて見たら、きっと立ち直れない。
「早く、ひとり立ちしないとね」
ヴィオラは1人、泣きそうになりながら、笑った。
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