第71話
「テオドール様」
「あぁ、ヴィオラ」
城に来てから、あっという間にひと月経った。ヴィオラは今、テオドールの客人として城に滞在させて貰っている。
「お疲れ様です」
テオドールは、丁度鍛錬を終えた所だった。ヴィオラは、テオドールに汗を拭くための布を手渡した。
「いつも、ありがとう」
「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんので」
「いや、嬉しいよ」
朝から甘々な空気を醸し出すテオドールとヴィオラの2人を、遠目で眺める騎士団員らがいた。朝からイチャつく2人を微笑ましく眺めている。
テオドールは、第2王子であり、騎士団に所属している。特に役職には就ている訳ではないが、剣の腕前は凄いらしい。
実際に稽古する様子を眺めたりしてはいるが、ヴィオラにはさっぱりだが。
「さて、戻ろうか」
「へ、きゃっ」
テオドールは、ヴィオラをお姫様抱っこすると、そのまま部屋へと向かった。後ろから、歓声のような声が上がり、ヴィオラは顔を真っ赤に染めた。
「はい、着いたよ」
部屋に着くと、テオドールは当たり前の様に、ヴィオラを抱っこしたまま椅子に座った。この感じ、デジャヴ⁈
ヴィオラは、最初そう思ってしまった。テオドールは、城に来てからやたらヴィオラにべったりする様になった。
別に嫌ではないが、あの人を思い出してしまい、少々複雑な気持ちになる。
「あの、テオドール様……」
「どうかした」
テオドールは、終始上機嫌で、鼻歌でも歌い出しそうなくらいだ。
「い、いえ、その……私は、いつまで此方に居てもいいのでしょうか……」
城に来てからは、毎日のんびりと、何をするでもなく過ごしている。本を読んだり、こうしてテオドールと会話したり、散歩したり。
だが、よくよく考えたら自分はテオドールの何なのだろうか。
知人?友人?
まあ、客人として扱って貰っているので、その辺りの認識だろうとは思う。
故に、いつまでも、此処で厄介になるのは忍びない。
「……君が、望むならいつまででも、いていいんだよ」
「いつまででも……」
「そう、いつまでもずっと……僕の側にね」
テオドールは、そういうとヴィオラの唇を親指で優しく撫でる。
「テオドール、様……?」
「君に、触れたい……僕の唇で、君の唇に触れたい……ヴィオラ」
ゆっくりと、テオドールはヴィオラの唇に自身のそれを重ねた。瞬間、驚き目を見開くヴィオラは身を捩るが、テオドールが確りと身体を押さえていてかなわない。
「んっ……」
テオドールは暫く夢中で、ヴィオラの柔らかい唇を堪能した。
「はぁ……はぁ……」
ようやく解放された頃には、ヴィオラは息を切らしぐったりとし、目頭には涙が滲んでいた。テオドールに完全に身体を預けた状態になってしまう、ヴィオラは、ぼうっとしてテオドールを眺めていた。
「はぁ……ヴィオラっ。ヴィオラ、君が好きだ、君が欲しくて、欲しくて、堪らないっ、君が欲しいっ……」
そう言って、テオドールは力なく自分へと身体を預けるヴィオラを、抱き上げるとベッドへと向かった。
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