第67話

「そんな事?そんなの決まってる……ミシェルが、僕の愛しいエミリアを殺したからだよ」


瞬間、レナードの言葉に部屋の中は、静まり返った。


「ミシェル、が……人を殺した……」


信じられない。あの優しいミシェルが、人を殺めるなんて。ヴィオラは、驚愕し手を握り締めると、身体が震えてきた。


「僕はミシェルの事を、弟の様に可愛がってあげていたんだよ。それなのに、ミシェルは、僕のエミリアを蔑ろにして、尚且つあんな暴言を吐き捨て……それで、彼女は……」


レナードの話によれば、幼馴染であり想い人のエミリアは、ミシェルを好きなり、想いを告げるも、振られてしまった。

だが、それでもエミリアは諦める事が出来ずに、ミシェルにしつこく付き纏った。そんなある日、我慢の限界だったミシェルは、エミリアに暴言を吐いたそうだ。その事でエミリアは絶望してしまい、自ら命を絶ってしまった。


「ミシェルの所為で、彼女は死んだ。赦せなかった。それに思ったんだ……エミリアが、あの世で1人なんて寂しがるだろう?ミシェルが一緒に逝けば、今度こそあの世で結ばれる事が出来るしね。僕の優しさなんだ」


ミシェルを国王の護衛団に推薦したのは、レナードだった。


「初の大役に抜擢されて、ミシェルは喜んでいたよ」


そして、レナードの従者も一緒に同行させ、後は隙を見て殺害させた。その時、レナードはというと、城で優雅にお茶をしながら報告を待っていた。


そして、ヴィオラに近付いた動機は。




「ミシェルが死ねば気も晴れると思ったんだ。でも変なんだよ、実際はミシェルが死んでも、怒りは全く収まらなくてね。それなら、ミシェルの何よりも大事にしていたヴィオラを奪ってやろうと思っんだ。それでもって、手籠にした後に、ボロボロにして捨ててやろうと思った。

そうすればきっと、あの世でミシェルは悔しがり、怒りに震えるに違いないからね。ミシェルは、二言目には、姉さん、姉さん言っていたから」


レナードの狂った思考に、その場の誰もが唖然とするしかない。テオドールだけは、冷ややかな視線を向けていた。


「でもね、ヴィオラ。君と出会って、僕は君を好きになってしまったんだ。きっかけは復讐の為だけど、今僕は君を愛してる」


レナードのヴィオラを見る目は、狂気に満ちている。


「君を好きだと、愛していると自覚した瞬間、どんな事をしてでも、君を手に入れたくなったんだ。君が、記憶喪失になった時、絶好の機会だと思ったのに、いつの間にか記憶は戻ってるし。あのままだったら、君は何も知らず幸せでいられたのに…………しかも、どうして歩ける様になってるの……本当、残念で、誤算だらけだよ」


レナードが言ってる事が理解出来ない。彼は何を言っているの……?ヴィオラは、言葉も出ずにただ、見遣る事しか出来ない。


「あのまま、歩けなければずっと、部屋に閉じ篭めておけたのに。そうすれば、僕がいなければ、生きていけないだろう?」


虚な表情で、レナードは笑った。


「まあ、今だって、君には僕以外に帰る場所なんてないけどね。ねぇ、ヴィオラ。君は僕を裏切らないよね、約束したよね。何があろうと、僕を嫌いならないと。僕だけを、好きでいると誓ったよね?あの時君は、記憶を失っていたけど……ちゃんと、覚えているよね?」


レナードはそう言うと、ヴィオラへと歩いていく。一歩、又一歩と近付きレナードの手がヴィオラへと伸びて来た。


怖い……でも、身体が動かない。ヴィオラは目をキツく瞑った。


「っ……離せっ‼︎」


「へ……」


ヴィオラがレナードの叫び声に目を開けると……テオドールが、レナードの腕を捻り上げていた。


「本当に、どうしようもない王太子だね。いや、それ以前に人として終わってるな。彼女を愛してる?彼女の最愛の弟や家族の命まで奪い、彼女の不自由を願う人間が、愛を語るな……屑が」


テオドールは、そう吐き捨てるとレナードを床に放り投げた。


「リュシドール国王、彼の処分に僕は口を挟むつもりはない。だが、貴殿が如何に采配ふるうかで、この国の未来は左右される事を、しかと考え受け止める事だ」


マティアスは、何も言わずただ頭を下げていた。テオドールは、ヴィオラに手を差し出すと、一緒に来る様に促す。


「さあ、ヴィオラ」


「……」


ヴィオラは、差し出された手と、床に転がるレナードを交互に見遣る。


「ヴィ、ヴィオラっ……待って、行かないでっ、僕を、僕を、見捨てないで……ねぇ⁈ヴィオラっ」


情けなく、縋り付くレナードに、ヴィオラは唇を噛み締めた。










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