第66話

部屋を移り、改めて話し合いの場が設けられた。


テオドールはソファーに腰掛けると、ヴィオラを隣に座らせる。マティアスは、レナードと共にその正面に立つ。

そして、いつ間にか部屋に入ってきたアランと、レナードの弟の第2王子のロメオも、その隣に並んでいた。


「さて、役者が揃った所で始めようか」





テオドールは、淡々と話し始めた。ヴィオラは、その様子を横目で見遣る。いつもとは、別人に見えた。話し方も淡々としていて、どこか冷たい印象で、顔つきも違う。


話している内容が内容なので致し方がないとは思うが、ちょっと怖い、とも感じた。


「これらの話の根拠は、そこにいるアランとロメオ王子が証明してくれる」


テオドールは、マティアスにこれまでのレナードの横暴かつ非道な行いを伝えた。そして、ロメオとアランは口々にこれまでの事を、証言した。


「僕は、そんな事していない。ロメオ、君自分が王太子の座に就きたいから、僕を貶めるつもりか?それに、アラン君まで僕を裏切るつもり?」


レナードは冷静を装いながら、内心はらわたが煮え返っていた。


「……すまない、レナード」


アランは、視線を落とし項垂れた。本当は昔からの友人を裏切る真似などしたくは無かったが、ここ最近のレナードの行動は行き過ぎていると、感じていた。

止めようにも、レナードは他人ひとのいう事をまるで聞かない。ならば、こうする他ないと……アランは腹を括った。


項垂れるアランの横で、今度はロメオが口を開いた。


「兄上、私は王太子の座など興味はありませんよ。自分の事は自分で良く理解しているつもりです。私が、王太子になるような器ではない事くらい心得ております」


「嘘を吐くな。なら、どうして虚偽の申告をするんだ」


第2王子のロメオは、レナードとは余り似ておらず、ガタイも良く、感情が薄い印象だ。普段は騎士団で鍛錬を積み、人前などには余り顔を出さない。


「これは全て事実です。私はテオドール殿下から、協力依頼を受け調べさせたまでです。以前から、兄上の黒い噂は存じてはおりましたが……まさか、事実とは。残念でなりません」


「事実無根だ!父上、ロミオの話をまさか信じるおつもりですか?王太子である僕の、話の方が正しいに決まってます」


マティアスは、暫く考え込む素振りを見せてからレナードを見遣る。


「レナード、私はお前には失望した。国や民を守るべき存在の王太子が、罪のない民を残虐し、しかもその理由は私利私欲の為……。王太子という重圧を背負っている故、これまである程度の我儘は容認して来たが、それが間違いだったようだな」


マティアスは、肩を落とし項垂れた。それを見たレナードは、そこでようやくマティアスに見限られたと気が付き、子供の様に喚き出した。

だが、そんなレナードにマティアスは取り合う事なく、ヴィオラとテオドールに向き合うと、膝を折った。


「ヴィオラ嬢、愚息の仕打ち、私が代わり謝罪させて頂く。弟君や、又侯爵らの事を、良く調べもせずに、愚息の言葉を鵜呑みにしてしまった。国王として私は、取り返しのつかない事をしてしまった。本当に申し訳ない」



ヴィオラは、黙り込んだ。正直、なんて答えて良いのかが、分からない。家族といっても、何年も会っていなかった人達で他人と変わらない。

確かに、処刑されたと聞いた時は戸惑ったが……悲しいとか、怒りとかは何も感じなかった。私は、冷たい人間かも知れない……。



ヴィオラは、レナードを見遣る。彼と自分は然程変わらないのではないかとさえ、思えてしまう。

普通ならば、テオドールの様に濡れ衣を着せ、処刑されたと聞けば、例え他人事でも同情や怒り、悲しみなどが湧く。

でも、自分にはそれがない。レナードも又同じだ。

まあ、実行した張本人であるのだから、当たり前の事だが……そんな感情があるなら、そもそもあんな事はしないだろう。


今ヴィオラが、気になる事は1つだけだ。デラや使用人達を殺した理由は先程レナードから聞いた。マティアスが、私利私欲と述べたように、ヴィオラを手に入れる過程で邪魔だったり、レナードに従わなかったりした為だと。


なら、何故ミシェルを殺し、両親達を陥れ処刑させ、自分へと近付いたのか……。



「レナード様、どうしてですか。どうして、ミシェルを殺したんですか……どうして、あの日、私の部屋を訪ねて来たんですか」


ヴィオラの問いに、レナードは急に声を上げて笑い出した。





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