第14話

やはり、自分の人生なんてそんなものだ。そうヴィオラは落胆する。結局ぬか喜びになり、舞踏会へは行けない。折角レナードからドレスや装飾品などを贈られ、こんなにも全身着飾ったのに……。自分が惨めでなさけなくて、笑えてしまう。


全て、この動かない足の所為だ。足が普通に動いて、普通に立って、普通に歩く事が出来たらこんな思いをしなかった筈だ……。


だが、今更そんな事を言った所でなんの意味もない。ただ、虚しくなるだけだ。ヴィオラは何度目か分からないため息を吐く。


「レナード、様……」


「遅くなってごめんね」


「いえ、そんな事……へ⁈レナード様⁈」


いつの間にか開かれた扉から、レナードが入って来た。考え込んでいてまるで気が付かなかった。デラを見遣ると苦笑いを浮かべてこちらを見ている。

どうやら、声は掛けられたのにヴィオラが気付かなかっただけの様だ。


それにしても。これは、夢か何かか……。


「どうして、こちらに」


ヴィオラは暫し呆気に取られていたが、慌てて壁時計に目を遣る。舞踏会へ行く事が出来ないと、気づいてしまってから2刻は経っていた。既に舞踏会は始まっている時間で、レナードがここにいるなどある筈がない。だが、今目前にいるのは紛れも無くレナード本人だ。


「本当はもっと早く迎えに来る予定だったんだ。でも、ちょっと色々あって遅くなってしまってね……ごめんね」


レナードはヴィオラの前に跪き、手を取り口付けを落とす。瞬間ヴィオラの顔は真っ赤に染まった。


「今日の君はいつもにも増してとても綺麗だ。どんな美しい花すら霞むほどに」


レナードの歯の浮くような台詞に、お世辞だと分かっていてもやはり嬉しく思ってしまう。ヴィオラは、心臓が高鳴り、落ち着かない。


「さあ、ヴィオラ。舞踏会へ行こう」


「へ⁈……きゃっ」


レナードはヴィオラを横抱きにした。所謂お姫様抱っこだ。


「レナード様」


「今日は僕が、君をエスコートするからね」



側に控えていたデラは唖然とした。このままエスコート……まさかとは思うが、舞踏会に参加するつもりでは。嫌な汗が顔を伝う。


「僕が確り、抱えてるから心配はいらないよ。ヴィオラ、君と踊るのが楽しみで仕方がない」


そのまさかだった。心配しかない。どこの世界に舞踏会へお姫様抱っこした状態で入場し、ダンスをそのまま踊る人間がいるのか。いや、今目前にそれをやってのけようとしている人がいるのだが……。


デラはレナードがヴィオラを抱えた状態で広間に入場し、お姫様抱っこでダンスする姿を想像してしまった。

やはり、それは普通に考えてダメだろう……と思う。流石に注意しなければ、と口を開こうとしたが。


「レナード様……ありがとうございますっ!」


ヴィオラは感激した様子で笑みを浮かべると、レナードへ礼を述べた。まさかの、ヴィオラの反応にデラは、口を半開きにしたまま固まった。


「デラ、これで私も舞踏会に参加出来るわ!レナード様、私レナード様とダンス出来るなんて、夢の様です!」


「君にそう言って貰えるなんて、光栄だな」


ヴィオラは昔からどこか抜けている所があり、そこがまた可愛い所ではあったが……これは流石に。


「では、行こうか」


「はい‼︎レナード様!」


ヴィオラはレナードに抱えられながら、部屋を出て行った。ヴィオラはその際、ニコニコしながらデラに手を振っていた。実に愛らしい……だが、その姿に更に不安は募るばかりだ。










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