第3話
「へ……誰」
本当に誰⁈ヴィオラが思わずミシェルと叫んだが、扉から入って来た人物は当たり前だが、似ても似つかない別人だ。
「あ、ごめんね。勝手に開けちゃって」
そこを、謝るんですか。ヴィオラは、ぽかんとして部屋に入ってきた少年とも青年とも言えそうな見た目の人物を眺めていた。
「い、いえ……それは、構いませんが」
いや、構うだろうと、後から思うが既に口に出した為訂正するのも気が引ける。
「座っても、いいかな?」
と言いながら既に座っている。ヤケに馴れ馴れしい。それに、どうやって屋敷に侵入したのだろうか。とても客人には見えないし、もし客人なら自分を訪ねてくるなどあり得ない。何故なら、ヴィオラは外に出たことがない。故に知り合いなど居るはずがない故、客人などあり得ないからだ。
「あ、あの、貴方は……」
不審者ですよね?なんて聞きづらい。一体なんて聞くのが正解だろうかと、ヴィオラは悩む。
「あ‼︎」
「⁈」
突然声をあげたと思ったら、不審人物は懐に手を入れた。まさか、刃物でも出すつもりでは……。急展開にヴィオラは息を呑む。もしそうなら、自力で逃げる事は無理だ。
私、死ぬのかなぁ……ミシェルも、いなくなっちゃったし、それもいいかも知れない……。
ヴィオラは、覚悟よりというより諦めた。そして目を閉じる。
ミシェル……私も今そっちにいくからね。
「はい、これ」
「へ……」
だがいつになっても衝撃は来ない。代わりに手を掴まれ、手の中に何かを置かれた。これは……。
「お土産だよ。なんでも聞いた話では、此処に来るにはお土産が必要らしいじゃないか」
一体その話の出どころは何処なのか……。
「これ、パート・ド・フリュイ……」
「砂糖菓子が、好きって聞いてたから」
最後にミシェルが手土産に持ってきてくれた物と同じだった。コレを見た瞬間、熱いものが込み上げてきた。ヴィオラは震える手で、砂糖菓子を摘み口に入れた。
「甘い……っ」
ぽたり、涙が出た。あんなに、涙が出なかった筈なのに。
そして今度は、1度溢れた涙が抑えられない。次から次に止めどなく流れてしまう。
普通ならこんな光景を見せられたら、焦ったり、慌てたり又は慰めるなどするだろう。だが、彼は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「良かった、気に入ってくれて」
え、ちょっと、待って⁈これって。私が砂糖菓子に感動して泣いてると思われてる⁈
その瞬間、涙は引っ込んだ。満面の笑みを浮かべこちらを見ている不信人物は、自分も砂糖菓子を摘むと口に入れた。
あ……自分も、食べるんですね。
今更だが、毒は入っていないようだ……。少し安堵した。条件反射で思わず口にしてしまったが、よくよく考えればこんな怪しげな不審人物から出された物を口にするなど怖すぎる。刃物ではなく、毒殺という手もある。まあ、自分を殺した所で何の意味も価値もないが。
ヴィオラは、自身の軽率さに反省し、次からは気をつけようと心に決めた。だが、こんな事は人生の中で2度とないとは思う。
「あの、貴方は一体……どうやって屋敷に侵入して……目的は、何者なんですか」
最早ヴィオラの中で、目の前の人物は客人ではなく、不審者として認定されていた。
「侵入?僕が?ハハッ。そんな事してないよ。僕は堂々と君に会いに来たんだ」
大丈夫かなぁ、この人。話が微妙に噛み合ってない。
ヴィオラは、殆どの知識と情報は本から得ている。残りはミシェルと侍女であるデラから得たものだが……確か周囲の反応に対してズレた発言をしたり空気を読まない人の事を……天然ボケと称して呼ぶらしい。
これが、所謂天然ボケ?
「あの、そうではなくて……貴方は誰なんですか……」
ヴィオラの言葉に不審人物は、笑みを深める。それを見たヴィオラは、不覚にもときめきを感じてしまった。
……見た目はカッコいい。なんて言うか、キラキラして顔も整っているし、全体的にスラリとしてスタイルもいい。声色も優しくて、心地よい……が!やはり、色々と危ない人に思える。話も噛み合わないし。所詮は不審人物だ。騙されてはいけない。
「あぁ、僕?自己紹介がまだだったね。僕の名前はレナード。これでも、この国の王太子だよ」
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