妹と回復薬を作ろう!

「お兄ちゃん! 何してるんですか?」


 俺はミントの声が聞こえたので作業を中断して振り向く。


「ああ、薬草から回復薬を作ろうと思ってね」


 スキル「妹ヒール」があるのでミントには不要ではあるが、俺が使ったりバザーで売ったりと換金性や使い勝手はいいので作り方を勉強していた。


「私の回復はお兄ちゃんがやってくれますし、お兄ちゃんには私が塵一つの攻撃も通さないので不要では?」


 二人だけならそれでいいが、俺のスキルだと誰かと組むことになった場合とても不便だ、なにより……


「できれば回復薬作って日銭を稼ぎたい、戦うのイヤなんだよ! なんか血は飛び散るし、断末魔はトラウマものだし……」


 やれやれと肩をすくめるミント。


「お兄ちゃんは私が信用ならないと言っているんですよ? 私が完璧だからお兄ちゃんの手は一切患わせない、素晴らしい相互扶助じゃないですか!」


 本気でこういうことを言い出す辺り、コイツもなかなかいい度胸をしているな。


 しかし! 俺はできることなら安全に稼ぎたいのだ、妹のヒモではなくただの人間として自立したい……したいかな? まあ無職もいいんじゃないかな?


 なんにせよ、無職やるにしても先だつものは必要なのでこうして内職をしているわけだ。


「俺だって役に立ちたいしな……」


 口をついて出たのはそう言う言葉だった。ミントが実力以上の働きができるのは俺のおかげではあるのだが、どうにも養ってもらってる感がとても強い。


「お兄ちゃんは私を完璧に助けてくれるじゃないですか! それはなかなかできないことですよ?」


「俺はお前にも危ないことはして欲しくないんだよ! しょっちゅう突っ込んでいくじゃないかお前!」


 う……と図星を疲れたであろうミントだったが反論はちゃんとしてくる。


「それはお兄ちゃんへの信頼の表れという奴ですよ? 私はお兄ちゃんが後ろでサポートしてくれるから安心して戦えるんです!」


 信頼か……俺とはかなり縁遠い言葉のような気がするがな。


「とにかく! 今日は回復薬作って一日を潰すんだよ! こないだ刈ってきた分ギルドにも余剰在庫だからって返された分もあるんだぞ?」


 ああ悲しきかな市場原理、だぶついて値崩れするからという理由でそこそこの薬草を返されてしまった。ギルド側は「まあ使い道くらいあるっしょ?」と至極雑な対応だったが、困ったことに俺達にはまったくもって用がなかった。


 マジで鉄壁の防御をするミントに守られ、ミントへの防御力バフでまったく傷も付かず、有言実行でまったく攻撃がこちらに飛んでくることはなかった。つまり俺達には回復薬はほぼ不要と言うことだ。


 とはいえ、ありがたいことに? 魔物はいくらでもわくので討伐のたびにけが人が出る、毎回ヒーラーがいるとは限らないのでそういった場面で回復薬は使われる。


 要するに、今作っておいてもこれから邪魔になることはない、ということだ。


 なお薬草を患部にすり込むという原始的な方法もあるが、現在では抽出や蒸留、精製をして効果の高い液体状にしたものが重用されている。


 ミントは「しょうがないですねえ」と言いながら乳鉢で薬草をすりつぶしてくれる。どうやら協力してくれるらしい。


「お兄ちゃんは少々事なかれ主義が過ぎると思うのですが……」


「安定した人生を目指していると言って欲しいな」


「だったら宿屋なり料理屋を経営した方が安定はしていると思いますよ? ギルド所属なんてチキンレースが大好きな人間の集団にも等しいと思いますがね」


 ゴリゴリと薬草をすりながら、抽出用のお湯を沸かしている。必殺聞こえないふりを使用しておこう。


「無視ですか? そうですか、なら……」


 俺が一言も出さずにいるとミントがしびれを切らして飛びついてきた。


「こら、やめろって」


「いーじゃないですか? この前の礼金がまだあるんで今日一日くらい遊んで暮らせますよ? もっと刹那的に今を生きましょうよ!」


 今を生きることと、向こう見ずなことをごっちゃまぜにするべきではないと思うのだがな。


「はいはい、今日の分が終わったら遊んでやるから、抽出するぞ」


 二人分で大体の薬草をすりおえたので鍋に放り込む、しばらく待っていると回復薬の有効成分が上澄みに分離するのでそれをすくい取る。


「さて、二、三回蒸留した方が高く売れるな」


 ピコーン

 ――

 スキル「冷却属性付与」を獲得しました

 ――


 都合のいいときに都合のいいスキルをくれる自称神様には頭が上がりませんなあ……


 俺はミントに蒸留のための冷却を頼む。


「そこの管の真ん中を冷やしてくれるか」


 ――

 「冷却属性」を付与しました

 ――


「こんな感じですかね?」


 ぐっと管を握る、乱暴なやり方で火傷を心配したが、どうやらちゃんと冷却されているらしく、成分の蒸留はどんどんと進んでいった。


 緑色の液体が色を濃くしながらカップにたまったのでそろそろいいだろう。


「ありがとな、後は精製しておくか、この水を温めてくれるか?」


「楽勝ですね」


 ミントが手のひらから熱を出すと鍋一杯の水はあっという間にお湯へと変わった。


 ここに薬草から抽出した液体をほうりこんでっと……


「あれ? 薄めるんですか? せっかく濃くしたのに」


「いや、これは精製だ」


 沸騰した水に溶けきる限界まで液体を入れて徐々に冷やしていくと薬草の有効成分が析出してきた。


「これはなんですか?」


「俗に言うところの回復薬の有効成分だな、このままだと濃すぎるから適当に薄めて使う。固体になる濃度だと少し害になるからあまり触るなよ?」


「はーい」


 そうして俺はこして採った成分を人体にちょうどいい濃度まで薄める、これによって人体へ悪影響のある成分を減らした高効率な回復薬が作れる。


「ところでお兄ちゃん?」


「なんだ」


「みょーに詳しいですけど経験があるんですか?」


 ああ、そのことか。


「父さんも母さんも怪我して帰ってくることがよくあったからな、回復薬の作り方を勉強したんだよ」


 誰かを助けたい、そう思ってのことだったが、残念ながらそれを披露する機会はないだろうし、むしろ普通の人生を送るならそんな機会はない方がいいのだろう。


「父さんと母さんかあ……二人とも壮大な冒険や魔族との戦いをしたんですよね?」


「らしいな、二人とも語る口じゃなかったからよくは知らないけど」


「私たちも、できるかなあ……?」


 ミントのその願望は俺とは少し方向が違うようだった。


「俺はできれば安全安心に暮らしたいな」


「私がいれば安全だし、私を信じてくれれば安心じゃないですか?」


「それでもお前が傷つくかもしれないのは気が進まないんだよ」


 どうやら妹バフでコイツが傷つくことはまず無いほどの耐久力を持てることは分かったが、それを過信する気にもなれなかった。


「へへへ……お兄ちゃんは私が大切ですか……?」


「そりゃあ、もういなくなった人の方が多いなかで、まだ残ってる家族だからな?」


「ふーん……」


 少し機嫌を悪くしたようだが気にする風でもなく俺の作っている回復薬を使ってもいいかなどとせがんできたが俺は「お前はバフもヒールも俺が使えるんだから必要ないだろう?」と言ったところ、「手作り感が大事じゃないですか?」とよく分からないことを言うのだった。


 そうして火が落ちた頃、数十本の管に入った回復薬を作りきったのだった。


 ちなみにこれらはミントが「私が売りたい」と言ったので任せて売らせたところそこそこ売れたのだった。


 やっぱり可愛い女の子からものを買いたいというのはむさ苦しいギルドの連中の本音らしかった。

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