妹、魔王討伐軍のスカウトを断る

「あ! ミントさん! お客様ですよ」


 ギルドに入るなりそう声をかけられた。


「用事ですか? 断っておいてください」


「まってください! 話だけでも! 軍部の方なのでお話だけでも聞いてもらえないと私がやばいんです!」


 軍部ねえ、魔王討伐に必死らしいが戦果は芳しくないらしい。しかしセシリーさんもトラブルばかり汽笛の毒に……


「お兄ちゃん、私が話しはしておくので依頼を選んでおいてください」


「ああ、わかった。なるべく楽そうなの選んどくよ」


 ミントはスタスタとセシリーさんのところへ歩いていった。

 要件は多分勧誘だろう、戦力になるとみれば誰彼構わず勧誘するので有名な討伐軍だからな。


 さあて、楽そうな依頼はっと……


 ――そのころのミント


「で、なんですかこの忙しいのにわざわざ呼びつけて」


 お兄ちゃんがいないのは非常に不愉快だ、私だけで戦うなんてあり得ないということも知らないのだろうか。

 腰の低そうなおっさんと、その部下の優男らしき二人組が私を待っていた。


「実はミントさんが新人として非常に優秀だと聞きまして、何でもシルバーウルフを討伐されたとか……」


 おっさんが言う、知ったことではないというのに、年上がこうも下手に出られると逆にイライラする。


「噂というのは尾ひれが付くものですからね、私にそんな力はありませんよ?」


「「えっ!?」」


 二人が同時に驚く、私の強さがお兄ちゃん依存なのはわざわざ教える必要は無いでしょう。


「おい! どういうことなんだ!」

「話が違うじゃないですか!」


 二人ともセシリーさんに強く出ている、人によって対応を変える人間というものは好まれないと学ばなかったのだろうか?


「いえ……ミントさんは確かに討伐をしています……お兄さんと一緒にですが」


 私は用意されたコーヒーのカップをどんと置いて言う。


「まずは自己紹介くらいしたらどうですか? そもそもあなたたちの名前も知らないんですけど」


 二人は居住まいを正し、ようやく自己紹介をする。


「私はバール、魔王討伐軍の人員管理をしている」

「その補佐のマルクです」


「そうですか、私はミントです、特によろしくしなくていいので帰ってくれませんか」


 辛辣なようですがお兄ちゃんを放っておくわけにはいかないのです。私にはお兄ちゃんの家族としての義務があります。

 こんなくだらないことに関わっているヒマなどないのです。


「そう言わず! 話だけでも!」

「バール様が頭を下げてるんだから話くらい聞いたらどうだ!」


 ちなみに言っているマルクは頭を下げていない、どこかの本に頭を下げるのは上の仕事だと書いてあったような気がするがそういうことでしょうか?


「はぁ……聞くだけですよ?」


 二人とも自信満々に情けない話をしてくれた。


「実は我々王立魔王討伐軍が戦力を募集しているのだ。魔王軍を追い詰めてはいるのだがあと一歩が届かない、そこで優秀な人材に声をかけているのだよ」


「君の才能を生かすのにこんなへんぴな町で暮らすべきではないよ、王都に来るべきだ」


 ぴき


 セシリーさんが顔に青筋を立てていますね、さすがにこんなへんぴな町呼ばわりはムカつきましたか。


 まあ、私の答えは決まってるんですけどね。


「はい、確かに話は聞きました。満足いきましたか? ではお帰りを」


 聞くと入ったが答えるとまでは言っていない、話すだけ話したようなのでお帰り願いたいですね。


「なんだねその態度は!」

「バール様がここまで下手に出ていればいい気になりおって! どうせたいした実力もないのだろう!」


 ムカッ


 なるほどなるほど、私に実力がないと言いますか、やってやろうじゃねえかこのやろう!


「では二人対二人で勝負でもしますか? 負けたらおとなしく引き下がってください、勝ったら魔王討伐軍でも何でも入ってあげましょう」


「ほう……」

「私たちと戦うとはなかなか自信があるようだが、私たちは王立騎士団所属だぞ! 言ったことは守ってもらうからな!」


 小物集漂う言葉を言っているがお兄ちゃん呼んでボコっておきますか、何度も来られても迷惑ですし。


 ――そして兄


「お兄ちゃん! 緊急の用事が入りました! 一緒に戦ってください!」


 奥から出てきたかと思えば開口一番これだ、トラブルを避けるという技術はコイツにはまったく存在していないらしい。


「君がお兄さんかね?」

「妹の教育も出来ない兄か」


 なんだか失礼な言葉も聞こえたが、このおっさんと男の二人組は身なりからしていい暮らしをしていそうな騎士様だな、まさかこの二人に喧嘩を売ったのか?


「じゃあお兄ちゃん! この二人をボッコボコにしますよ!」


 どうやらそういうことらしい、悪評が高まるのは勘弁して欲しいのだが。


 ――修練場にて


「では、ミントさんとユニさんチーム対バール・マルクチームとの戦いになります」


 何故かセシリーさんの声は相手チームに敵意を感じられるようなものだった。


「じゃあお兄ちゃん、いつものお願いしますね」


 はいはい

 ――

 現在のステータス

 力「E」

 体力「E」

 魔力「F」

 精神力「F]

 素早さ「F」

 スキル「炎属性付与」

 ――

 全ステータスアップっと……

 ――

 現在のステータス

 力「A+」

 体力「A+」

 魔力「B」

 精神力「B+]

 素早さ「A-」

 スキル「炎属性攻撃、寒冷地耐性」

 ――

 そこそこ底上げできたな、これなら負けることはないだろう。


「では……始めッ!」


 ひゅ――


 ミントの姿が消え若い方の男が倒れた、後頭部をぶん殴られたらしい。


「やるじゃあないか、本当に我が軍に欲しいよ」


「それはどうも、私はまったくその気はないので」


 またミントの姿が消える。


 がきん


 鈍い音がしてミントのナイフをおっさんが盾で受けていた。


「やりますねえ……」


「君もな!」


 ミントも止められるとは思っていなかったのか少し驚いている。


「しかし甘いですよ」


 ピコーン

 ――

 妹が「炎属性付与」を使用しました

 ――


 その声が頭の中に響くとともにナイフを受けた盾が赤熱していき持ちきれなくなって盾は捨てられた。


「詰み、ですね」


「ああ、そのようだ」


「勝者! ミントさんチーム!」


 とまあこうして勝者は決まったのだった。


 そうして相手の二人は失意のうちに帰っていった……若い方はなにをされたかも分かっておらず、当初戦闘開始前のコーヒーに一杯盛られたのではないかと主張していたがおっさんの方が一喝して、ようやく引き下がった。


「ではミントさん、いずれは我が軍に入っていただけることを期待していますよ!」


「虚無に期待するのはやめた方がいいですよ?」


 そうして二人は頭を下げて町から帰っていった。


 俺はミントに聞いた。


「なあ? 結局あの二人誰だったんだ?」


 さっぱり分からない、依頼書を見ていたら突然戦闘に連れ出されて勝ったら話が付いていた。


「なんだっていいじゃないですか? それよりあの二人は、私たちが勝ったらこれを渡すって言ってたので、ちゃんと巻き上げたものがここにあります」


 ミントは小さな袋を差し出した。中をのぞくと金貨が数枚は言っていた。


 さて! 金貨数枚を易々と差し出す謎の二人のことは忘れようか! どう考えても関わるべきでない人間だな!


「よし! おいしい物でも食べて帰るか!」


「そうですね! たまの贅沢くらいいいでしょう!」


 こうして、降ってわいた大金で俺達は少しの贅沢をするのだった。

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