妹と薬草刈り
俺たちは早速ギルドに来ていた、もちろん依頼を受けるためだ。
「やっぱはじめは薬草採取は基本だよなあ?」
俺がとなりで金色のツインテールをいじっているミントに話しかける。
「いえいえ、やっぱりここは受けられるギリギリのDランク依頼を受けるべきでしょう」
とまあ、こうして意見が合わないのは当然のことである。
俺は安全安心に生きていきたい、ミントはリスクをガンガンとって積極的に出世したい、こうして俺たちの意見は対立をしたのだった。
「お兄ちゃんは少々ビビりですね、例えばこの「シルバーウルフ討伐」とか受けてもいいじゃないですか! 私とお兄ちゃんの名をもっと知らしめるべきですよ!」
ミントの意見である、俺はもっと地味に生きていきたい。だって出世した結果魔王軍討伐にかり出されたりしたらたまったもんじゃないし。
ちなみに現在、魔王軍討伐舞台は絶賛人材不足で戦線はこう着しているのでちょっと目立つ奴を積極的に採用しているていたらくである。
「ふつーに薬草とって生きていこうぜ、これ、結構報酬も弾むって書いてあるし」
ちなみに薬草採取としては、だが。銀貨一枚なら数日質素な暮らしが出来るくらいの代金だ。
「でも……」
「いいだろ、どうせランクを上げるには依頼の成功率も上げる必要があるんだし。リスクとって失敗するより簡単なのを成功させた方が評価が上がるぞ」
ミントも渋々首を縦に振った。
「分かりましたよ……「今日は」お兄ちゃんに譲ってあげます」
今日は、ねえ……この調子でしばらくはおとなしくしていてもらおう。
そして俺は大事なことに気がついていなかった、ミントの持ってきたシルバーウルフ討伐依頼と薬草採取依頼の場所が同じだと言うことに……
――現地にて
「うわあああ!!!! なんであんなおっかない魔物がいるんだよ!」
「お兄ちゃん! バフください!」
俺たちは必死にシルバーウルフから逃げていた、要するに薬草採取なのに報酬がよかったのはこういうからくりがあったわけだ。
――
バフ項目を選んでください
現在のステータス
力「E」
体力「E」
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――
ああもう! 全部だ全部!
――
現在のステータス
力「A」
体力「A」
魔力「B」
精神力「B]
素早さ「B」
スキル「炎属性付与」
――
「よっし! 力がみなぎってきますね!」
「何でもいいから早く片付けてくれ!」
ひゅっ――
ミントの姿が視界から外れるとともに三つのドサリと言う音が響いた。
振り返ると……三体のシルバーウルフが首を落とされ血を吹き出していた。
「やっぱりお兄ちゃんの力があるとよゆーですね!」
「俺は心臓が止まるかと思ったよ!」
心理的な意味と物理的な意味の両方である。
「大丈夫ですよ、私がついてますもん!」
心強い宣言と共に俺の頭に聞き覚えのある声が響いた。
――
妹との絆により妹バフがLv.3に進化しました
スキル「寒冷地耐性付与」が習得されました
――
絆ですか……絆とは一体?
とにかく、寒冷地に生息する魔物を倒したせいか耐性を取得したらしい。
しかし、「付与」であってどうやら俺自身には着かないらしいのであまり意味の無いスキルなのかもしれない。
俺にもつかなきゃ意味ねえだろ……
謎の神に文句をたれてもしょうがない。
「ほら、俺らは薬草採取できたんだからさっさと刈って帰ろうぜ」
「そうですね、討伐依頼も受けとけばよかったですね?」
「悪かったよ……」
そうは言ってもなあ……場所の指定を見落とした俺のミスではある。
「じゃあお兄ちゃんは薬草の採取お願いしますね?」
「え? 二人でするんじゃないのか?」
そう聞くとドヤ顔で返答が返ってきた。
「私はお兄ちゃんのバフでもう少し狩りをしようかと思いましてね」
あきらかに気軽に相手が出来るよう生ものではないと思うのだが、それが可能なのは俺達の背後に転がる三体の死体が雄弁に示していた。
――
妹バフを使用しますか?
――
はいはいっと……
「いい感じに聞いてきましたねえ、ちょっと腕が上がりました?」
「そうだな、どこまで行くのか怖いところだよ」
そうして俺は薬草を採集していった。基本的に周囲の敵はミントが一掃してくれるので集中できた、あれ? 割とちゃんと役割分担できてるな。
俺は袋一杯に薬草を採るとミントに帰るぞと言った、本人はまだ魔物狩りがしたかったようだが、これ以上狩っても持ち運べない。
町への帰還後、ギルドに納品に行った。
「はい、薬草ですね。確かに納品承りました!」
「ありがとうございます」
大量に採ってきたので報酬とは別に銀貨二枚で余剰分をギルドで買い取ってもらうことになった。
「いやー、本当に無事でよかったですよ! 最近薬草採取でもけが人が普通に出てましたからね」
「そうなんですか?」
「はい、なんでも受けた人たちはシルバーウルフに襲われたとか言うんですよ、もっと北方にしか出ないってことを知らないんでしょうかね」
「ははは……」
こいつらけが人が出ても調査もしてなかったのかよ……
「はいこれ」
ミントが討伐の証拠になる牙をカウンターに置く。
「え……これは?」
「シルバーウルフの牙ですよ?」
「いや、でもあんなところには出ないんじゃ……」
「じゃあこれが偽物だとでも言いたいのですか?」
じろじろと牙を眺めた後で噓ではないと理解したのだろう、驚いていた。
「本物ですね! はあ……当分あそこは討伐担当に任せないといけませんね、結構薬草がたくさんあっていい場所なのに……」
「あ、その心配はないです」
「「え?」」
俺と受付さんは声を合わせる。
「根こそぎ狩っておきましたから当分は被害者も出ないと思いますよ」
「ええ! いやいや、普通に無理でしょう! Dランクでも苦戦することのある魔物ですよ! ここら辺の メンバーでそれだけ狩るのは無理では?」
「あの程度で怖いってチキンですね、雑魚ですよ雑魚、あの程度の敵で怪我をする方がどうかと思いますよ」
ミントの辛辣な物言いにギルドのメンツが表情をこわばらせるが、喧嘩を売ったらひどい目に遭うと分かっているのだろう、文句を言う人間は一人もいなかった。
「じゃあお兄ちゃん! 今日はちょっといい晩ご飯にしますからね! 楽しみにしておいてください!」
こうして今日の立役者であるミントが直々に豪華な手料理を振る舞ってくれた。兄としては少し情けない話ではあるが確かにその料理は俺が作るより遙かに美味しいのだった。
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