妹、武器を買う
昨日のビッグボア討伐で手に入った報酬で俺たちは少し豪華な朝食を食べていた。
「お兄ちゃん、私、ギルドに入ろうと思うのですが」
喉に食べていたパンが詰まってむせる、ギルドに登録って……
「それ、俺でもまだしてないんだが?」
ミントは不思議そうに言う。
「お兄ちゃんも一緒に登録するんですよ?」
「は!?」
いやいや、俺みたいな非戦闘職が入っても……
「お兄ちゃんと一緒に依頼を受けるのが前提ですからね、一緒にギルドが私たちにじゃぶじゃぶ課金してくれるような働きをしましょう!」
コイツはギルドをなんだと思ってるんだ……
ミントはパンを頰張りながら俺に言う。
「私自身の力はたいしたことないですからね、お兄ちゃんの補助は前提ですよ」
どうやら俺も登録しなければならないらしい、しかし……
「兄として妹を危険にさらすわけには……」
「私はお兄ちゃんがいれば危険とは思えませんね」
断言だった、信頼は嬉しいんだが、魔物と戦うのは正直心配だ。
「ちなみにですけど、私の能力って今どんな感じですか?」
俺はじっと妹のとなりの文字を読む
――
現在のステータス
力「E」
体力「E」
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――
「力と体力が少しマシかな、他はほぼないと言っていいぞ。だから危ないことは……」
「ちなみにお兄ちゃんの補助があればどのくらいまで底上げできるんですか?」
正直に答えるべきだろうか? いや、どうせ見抜かれるか。
「今のところ二つくらいの能力を高レベルまで底上げできるな、持続時間も短いし、お前は魔法使えないから物理無効の相手だとかなりキツいものがある」
ふむ、と頷くミントだが俺は無茶をしないで欲しいという気持ちで一杯だった。
しかしそんな願いが届くことはもちろんなく、ミントは決意をより堅いものにするのだった。
「じゃあ二人一組のパーティとしていけますね! これでお兄ちゃんがどこの誰かとも分からない人と組む可能性はなくなって……」
「何か企んでる?」
「いいえまったく」
何か釈然としないがいいだろう。
「つっても武器さえないんだぞ? さすがに昨日みたいに殴って戦うって言うのはどうかと思うんだが」
どさり
小袋をテーブルに置くミント、中を開けてみると金貨が入っていた。
「おま……これ?」
俺が驚きで声を上げられないでいると、ミントは誇らしそうに言った。
「へそくりです! 私だって生活費に全振りしていたわけではないのですよ?」
決意は固いか……
「分かったよ、一つ約束してくれ。危なくなったら絶対に逃げるのを最優先しろよ? たとえ俺が危なかろうが、だ」
「お兄ちゃんが危なかったら助けますよ、他の有象無象なら無視して即逃げますが」
正直な奴だな、ほんと……
そうして夕食が終わったところで明日は武器の購入と言うことで予定が決まった。
――翌日
俺たちは武器屋の前に来ていた。
「ところで武器の希望はあるのか?」
出来れば戦わせたくはないのだが、言っても聞かないだろうなあ……
「ナイフでいこうと思ってます、ガントレットも捨てがたいですがやはり携帯性を重視しますね」
意外と考えてるのなコイツ。
カランカラン
武器屋のドアを開いた、ひげ面のオヤジが出迎える。
「いらっしゃい……ってユニじゃないか、お前に武器がいるのか? 正直、お前は平和に暮らすべきだと思うぞ?」
どうやら俺のジョブのことは知れ渡っているらしい、そりゃそうか、今までこんな奇妙なジョブなかったもんな。
「私に合う武器を用意してもらえますか?」
ミントが進み出て言う。
オヤジもさすがにミントに武器を売るのは気が進まないようで露骨にイヤそうな顔をする。
「ミントちゃんに売る武器はねえなあ……せめてジョブで戦闘職を引いてから来てくれないか?」
しかしミントも引かない。
「ここ、試用も出来ましたよね? ナイフ一本貸してください、その意見を変えてあげましょう」
そう言われるともう試してもらえば諦めると踏んだのだろう、切れ味の悪そうなナイフを一本渡してきた。
「これで木偶人形にまともにダメージが通れば売ってやるよ、無理なら諦めて静かに暮らすんだな」
「いいでしょう、お兄ちゃん! バフよろしく!」
どのステータスを強化しますか?
――
現在のステータス
力「E」
体力「E」
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――
今回は力を選択する、体力については必要ないだろう
ピコーン
――
現在のステータス
力「A+」
体力「E」
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――
どうやら一つの能力に限定すると強化具合が上がるらしい、力と体力を上げたときより強くなっていた。
「じゃ、私の実力を見せてあげましょう」
「来な、奥の部屋に試し切り用の人形がある」
奥の部屋に入ると切り傷が無数に付いた木製の人の上半身をかたどった人形が立てられていた。
その人形に付いている切り傷が今まで酷使されているのを示している。
「じゃあ一発でいきますね」
スパッ
ゴトッ
木偶人形は腹の部分から真っ二つに分かれて床に転がった。
オヤジが啞然とした顔をしている。
「ええっと……今のミントちゃんがやったのかい?」
「もちろん! 私の実力は分かったでしょう?」
不承不承、オヤジもミントの実力を認めたようだった。
「分かったよ、売るがな、できれば二人には平和に暮らして欲しいって事を覚えておいてくれよ」
オヤジも人が悪いわけではなく純粋にミントを心配したのだろう、しかし実力を見せられては売らないわけにもいかないようだった。
そうしてピカピカのナイフを三本買って武器野を出た。
「さあこれで登録の準備はバッチリですね! 私を弱い妹だと思っている連中の目をはっきり開けさせてやりましょう!」
自信満々に言うミントだった、そんなとき脳内に音声が響いた。
ピコーン
――
スキル「火属性付与」を習得しました
――
そんな音声が響いたが俺はこれ以上調子に乗られても困るのでそれを黙殺するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます