スキル「妹バフ」
俺がジョブ『お兄ちゃん』に付いた次の日、朝の食事を済ませてぼんやりとしていた。
有り難いことにジョブを授かったからと即職に就かなくても多少のモラトリアムは与えられていた。要はこの期間で自分に合った職を見つけなさいと言うことだ。
俺は朝食の後片付けをしている妹をじっと見ていた、いや、正確に言うとその隣に出ている文字列をじっと見ていた。
「お兄ちゃん? 私が可愛いからってそんなにじろじろ見なくても……その……恥ずかしい」
ミントは可愛いなあ……
ピコーン
――
スキル「妹バフLv.1」を習得しました
――
ん?
今どこからか……いや、俺の頭の中から声がした。
習得? 一体何を……
――
妹バフを使用しますか?
――
もう一度声が聞こえた、ミントには聞こえていないようでやはり俺の頭が厳格でも起こしたのだろうか?
――
使用してくれ
――
――
使用項目を選択してください
力「F]
体力「F]
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――
ここから選べば良いのだろうか? もう失いそうなものもない俺は取りあえず力を選択した。
――
妹の力が一段階上昇します
――
かしゃん
乾いた音がした。
「ごめんなさいお兄ちゃん! 普通にしてただけなんだけどなんかお皿が割れちゃって! 驚かせてごめんね?」
「いや、いいぞ。構わない」
そんなことより俺は変化した項目に釘付けだった。
――
力「A」
――
A? 力がA? 一体どういうことだ?
「なあミント?」
「なんですかお兄ちゃん?」
「腕相撲しないか? お前が勝ったら言うことを一つ聞いてやる」
「ちなみにお兄ちゃんが勝ったら」
「なにも無しだ、悪い勝負じゃないだろう?」
ミントは少し思案してからテーブルに腕をのせた。
「まあ負けて失うものもないなら勝負するしかないですね」
俺もテーブルに腕をのせ妹の手のひらに手のひらをあわせる。
「なんか……こうして手をつなぐのって久しぶりですね?」
なんだかミントの顔が少し赤いが俺の問題はそんなところではなかった。
力「A」?
「じゃあ、始めるぞ!」
「はい!」
ビダーン!!!
「いったあ……」
俺の腕は見事にテーブルにたたきつけられた。今まで俺の方が力で負けたことはなかったはずなんだが。
ピコーン
――
力のバフ効力が切れました
――
またその声が頭に響いた。
「三回! 三回勝負だから!」
俺は妹相手に泣きを入れ再戦をしてもらった。
パタン
パタン
俺は後の二回線ともミントの腕をたやすく倒すことができた。
これが…『お兄ちゃん』なのか……?
特定の相手にバフを欠けるスキルは珍しくないが、せいぜい倍もいかない程度の強化しかできなかった。
さっきのミントの力は明らかに倍どころではなかった。これが『妹バフ』の力なのか?
俺はその日家でぐーたらして……いるふりをして妹にバフをかけてみた。
突然素早くなったり、午前中一杯家事をしても疲れてないと言ったり、普段との違いは明らかだった。
うーん……でもこのスキルって使えるのか?
そんな疑問が頭から離れなかった。
妹専用のバフ、妹だけだが現在の能力が見られる、役に立つのだろうか?
「お・に・い・ちゃ・ん?」
そんなことを考えていると御立腹のミントが目の前に立っていた、ツインテールがヒクヒクしているのでかなり怒っているようだ。
「何か隠し事をしてますよね? しかも私のことで! 私たちに隠し事は無しって言うのを忘れたんですか?」
隠していてもしょうがない、俺は正直に職業が『お兄ちゃん』だったことを答えた。
「で、その『お兄ちゃん』って何が出来るんですか?」
うーん……言うと絶対面倒そうだし……
「いやあ、まださっぱりわかんないなあ」
そう答えてかわそうとした。
「噓ですね? お兄ちゃんは私に噓をつくのがとても下手なんですよ?」
え? ばれた!?
「ほらそうやってすぐ顔に出る、だからお兄ちゃんはわかりやすいんですよ? 大方、腕相撲の時も何かやったんでしょう?」
「えっと……」
「ついでに今日はやたら身軽だったり疲れなかったりしましたけど何かやってましたよね?」
にこやかにぴょんぴょんと髪が浮いているが、その目は明らかに笑っていなかった。
結局俺は謎のスキルのことも白状させられた、そしてミントはこう言った。
「なるほど、つまり私とお兄ちゃんが組めば最強と言うことですね!」
「なんでそうなるかなあ!?」
ピコーン
――
妹と仲が深まったことにより「妹バフLv.2」が解放されました
――
レベル2?
俺が困惑しているとミントがとんでもないことを言い出した。
「要するに私が強くなるんでしょう? だったら少し村から出て魔物でも狩ってみましょうよ?」
「いや……それはさすがに無理なんじゃ……」
「あーお兄ちゃんの実験台にされて体の節々が痛いですねー、どうしましょうかねー?」
「分かりました」
こうして俺たちは町の外で魔物を狩ることになったのだった。
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