ジョブ「お兄ちゃん」ってなんですか? 謎のジョブを与えられて困惑していると妹が最強になりました
スカイレイク
謎のジョブ「お兄ちゃん」
この世界では誰もが十五歳で天性の『ジョブ』を手に入れる事ができる、人を治したり、魔物と戦ったり、時には魔王軍の侵攻に備えたり、人によっては日常的な料理や掃除のジョブだったりもするがまあ要するに、俺にもジョブが付くと考えていたんだ……
「お兄ちゃん! 忘れ物はない? ちゃんと涙を拭くハンカチは持った? ひどいことを言われても泣かない覚悟はできた?」
「ああもう、分かってるよ! つーか最後の方悪口じゃねえか!?」
このひどいことを言っているのが俺の妹であるミントだ。両親ともに今は静まっている魔王軍との戦闘にかり出され、二人ともあっけなく戦死した。
父が後衛で母が前衛だったらしいなどといった思い出話も聞くが目下重要なのは殉職したと言うことで出たお給金である。俺たちが成人するまでという条件付きでそこそこの金額がもらえたので兄妹二人でも不自由の無い生活を送ることができた。
ミントが成人するまではお給金は出るがやはり俺が一家――といっても二人きり――の柱にならないとな。
そうして覚悟を持って俺は職業鑑定所にやってきた。ここではその人が何の職に適性があるかを判断してくれる、一応職業は自由だが『ジョブ』と近いものの方が向いているそうだ。
例えば戦士の適性があると判断されれば戦士はもちろん格闘家やタンク職にもなれないことはない、だからここでの判別はとても重要だった。
「おお! ユニじゃねえか? ついにお前も一人前か! ようやく尻尾のとれたオタマジャクシ程度にはなれるようじゃねえか!」
「ユニどの……父上と母上に恥じない職が与えられると良いですな」
「いやー、お前もついに一人前かー、ついこの間までガキだったような気がしてたんだがなー」
等々、俺はそれなりに有名人だった、父も母も魔王軍の討伐戦でそれなりの成果を上げたらしく、俺にも過剰な期待がかかっているのだった。
俺は鑑定士のところへ行き「お願いします」という。
鑑定士のばあさんは俺が知る限りの昔からばあさんで代替わりしたという話も聞かない謎のばあさんだ。
「ではユニ、この水晶に手をあてるがよい」
俺はドキドキしながら鑑定用の水晶球に手をあてる、淡く光り出し次第に文字が浮かび上がって消えた。
この文字こそが『ジョブ』であるらしいがそれを読めるのはこのばあさん一人だ。
何故かばあさんは難しい顔をして俺と水晶を交互に見比べている、侮辱でも尊敬でもない、なにか珍獣を見たような目でこちらを見ている。
思い沈黙がしばらく続いた後、ようやく口を開いた。
「ユニよ、お前さん妹がおったかのう?」
何故ここでミントについて聞かれるのか分からない、今回は俺のジョブのはずだが……
「はい、いますけど?」
ますます難しい顔でばあさんは考え込んでしまった。その顔は『超しょぼい職しか出なかった』というものでもなさそうだが、けっして勇者が出たという喜びのようなものでもなかった。
しばらくの沈黙の後、重い口が開かれた。
「『お兄ちゃん』じゃ」
「は?」
「お前さんは『お兄ちゃん』じゃと言っておる」
なにを言っているんだこのばあさんは、それはさっき言ったじゃあないか?
「それは確かに俺はミントの兄ですけど……」
「違う」
「???」
なにを言っているのだろう? 俺がお兄ちゃんではない?
「ユニよ、お前のジョブは『お兄ちゃん』と出ておる」
ポカンとしてしまった、ジョブだぞ? 立場じゃないし、一体何が起きたんだ?
「分かっておらんようじゃの、お前さんのジョブが『お兄ちゃん』じゃと言うとるんじゃ」
「はあ!? いやいや!? 妹がいるからって職業が『お兄ちゃん』にはならないでしょう! 普通!?」
しかしばあさんも譲らない。
「この判定機の精度は確実じゃ、今まで外したことはない。この水晶に『お兄ちゃん』と表示されたならお前のジョブはお兄ちゃんなんじゃよ」
「「「「ハハハハ!!!!!」」」」
その宣言と同時に周囲で笑いが巻き起こった。
「おいおい、今までいろんな職に就いた奴はいたが――『お兄ちゃん』って……プププ」
「笑ってやるなよ、天からの思し召しだぞククク……」
「お前さんにはまだ給金が必要なんじゃないかねえ?」
みんなが笑っている、前代未聞のジョブが『お兄ちゃん』だ。そりゃあ俺だって勇者や賢者がそうポンポンと出るような職じゃないことは知っている――だからってこれは……
俺はその場を逃げるように家へと走っていった、先のことはなにも考えられなかった。職? ハハハ『お兄ちゃん』と相性の良い職ってなんだよ……
俺が何か悪いことをしたっていうんだよ! ちゃんとお天道様の下を歩める公明正大なことしかしてこなかったって言うのに……なのに……
なにも考えられず家のドアを開けて自分の部屋へと走って帰っていった、ひとしきり泣いた後には乾いた笑いしか出なかった。
コンコン
「お兄ちゃん? 何があったか知らないですけど晩ご飯ですよ、一緒に食べましょう?」
ああ、畜生……妹にまで気を遣わせるなんて、俺はまったくもってろくでもない奴だな。
顔に水道から出る水をたたきつけてシャキッとさせる。そうだ、どんなジョブであれこの家を支えるのは俺なんだ、妹に情けない姿を見せられるかっての。
キッチンに歩いていくとごちそうが用意してあった。
「その様子だとあんまり良い職じゃなかったようですね、良いじゃないですか。お祝いにしようかと思ってましたけど残念会ってことで、大丈夫ですよ、お兄ちゃんだけに苦労はさせませんから……お兄ちゃん?」
「ああ……いやなんでもない」
「そうですか、じゃあ食べましょう!」
「「いただきます!!」」
そうして俺とミントは俺がジョブを見つけたお祝いをしてくれた。
「どうしたんですか? なんだかこちらをチラチラ見てますけど……?」
「え!? ああいや、何でもないんだ! 気にしないでくれ」
「はあ……?」
ミントは怪訝な顔をしながらも食事に付いた。
俺は今、目の前にある文字列をどう判断したものかと思いながら食事を口に運んでいた。
向かいにある妹のとなりに文字が数行にわたって表示されている。
――――
名前「ミント」
ジョブ「ノービス」
力「F]
体力「F]
魔力「F」
精神力「F]
素早さ「F」
スキル「なし」
――――
そこには俺には何のことかさっぱり分からない文字列が浮かんでいるのだった。
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