歴史





 ……


 ――帝国暦六七〇年


 エリン諸島の東部デュシア北方にある竜王国滅亡により、ダナン帝国がエリン全土の支配を達成。



 ――帝国暦八六六年


 東部デュシア北方、旧竜都ドラグーンにて、二人の【騎士】フォルセティ・オグとエディル・レウィナスが衝突。

 二人の【魔女】――【語らずの魔女】と【雪の魔女】の介入により、休戦。



 ――帝国暦八六七年


 【語らずの魔女】――西部イナシアの高地にて【最深に座する魔王】ヴァルプを召喚。

 その副産物として、【魔界】、すなわち【影の国】との【廻廊】が繋がり、そこから大量の魔物が【現界】に出て来るようになる。

 エリンの大地に魔物が溢れる。

 【語らずの魔女】は、その後『邪悪』の代名詞として広く知られるようになる。



 ――帝国暦八六九年(The legend of ERIN)


 ダナン帝国皇太子ナーザ・ラッド・アーケトラムを中心とした【九騎士】たちによって【最深に座する魔王】ヴァルプが討伐される。

 同時に【影の国】との【廻廊】も閉じられ、エリンの大地に新たな魔物が現れることはなくなった。

 元凶たる邪悪【語らずの魔女】の行方については不明。一説によると生身のまま【影の国】へと堕ちていったとされる。



 ――同年


 ナーザ・ラッド・アーケトラムがダナン帝国皇帝として即位し、帝国の改革に着手する。

 【魔女】の存在を【悪】と定義し、帝国の【騎士】たちによる【魔女狩り】が始まる。



 ――帝国暦八七四年


 【九騎士】の一人【神の手】サラディン・アフランが旅に出る。彼の旅の軌跡は長い間記録が続いたのだが、彼自身が歴史の表舞台に立つことは二度と無かった。



 ――帝国暦八七六年


 南部自治都市アルトエムの守護者であり【食聖】と讃えられた【九騎士】の一人、マーナ病没。



 ――帝国暦八七八年


 【騎士姫】と謳われ【九騎士】の一人でもあった皇妃アネメリアが事故のために亡くなる。



 ――帝国歴八八一年


 東部自治都市リルハイムの前市長【九騎士】の一人【海将】リール・ナナメルが「冒険の旅に出る」と海に出て、二度と戻らなかった。



 ――帝国暦九〇〇年前後(The fragments of ERIN)


 この頃から様々な異変がエリンの大地全土で起こるようになる。

 企業体コルムと、周辺自治都市の商取引を廻る争い。二つの教会、サン=シリス教会とエル=シーア教会による権力闘争。

 皇帝ナーザによる【魔女狩り】が想定以上にうまくいきすぎてしまい、【魔女】という外敵の脅威を現実的に感じることがほとんどなくなったこと。

 そして【語らずの魔女】による『魔王召喚』からすでに三十余年が過ぎ、その記憶も少しずつ薄れていったこと。

 原因は一つではなく、複合的に絡み合い、誰にもほどくことはできないように思われた。

 世界の行方に危機を抱く者がいても、誰も解決策を見出すことはなく、ゆっくりと混沌へと進んで行く。



 ――帝国暦九〇七年


 皇帝ナーザ・ラッド・アーケトラム死去。

 企業体コルムとサン=シリス教会。東部自治都市連合とエル=シーア教会。その二つの勢力による主導権争いが広がる。

 またこの頃から【騎士】と呼ばれる超能力者たちが徐々に姿を消し始める。原因は不明。



 ――帝国暦九五八年


 ヴィンドリオ・アレクインによる新大陸発見。

 新大陸『ヴィンダリア』と名付けられる。

 先住民である竜族や獣族、エルフ族たちとささやかな交易が始まる。

 この時点ではまだ、人間たちにとって世界の中心は【エリン】であった。



 ――帝国暦九八〇年、新暦〇二二年(The end of ERIN)


 【無銘の魔女】による【境界に座する魔王】の召喚。

 新たな魔女はエリンの大地に呪いを振りまき、エリンを人の住めない大地へと変化させた。

 幾多の英雄が現れ【無銘の魔女】討伐に起ったが、そのすべてが破れていった。

 人々が絶望に呑まれかけたその時、かつてダナン帝国により【悪】として一方的に狩られていった【魔女】たちが創った隠れ里【アヴァロン】が動き、人々を護り、新大陸へと導いていった。

 その際【アヴァロン】の指導者が【雪の魔女】を名乗ったとされるが、帝国暦八六六年の二人の【騎士】の戦いに介入した【魔女】と同一人物かどうかは定かではない。

 なお隠れ里【アヴァロン】に接触し、人々を救うよう説得したのもまた【魔女】であることが知られている。

 その【魔女】――【幼き魔女】アリスは以後たびたび、人類の歴史に姿を現すようになる。

 一方【雪の魔女】を名乗る存在が歴史に関わったのは、これが最後となる。



 ――新暦一〇〇年前後


 エリン諸島からの入植以後、エリンの民たちは、先住民を含めていくつかの勢力に別れて争いを繰り返した。

 この頃より西方五国、ヌェル・ダーナ、中央諸国家群と、勢力が固まりつつあった。また広大な砂漠と巨大な山脈に遮られてほとんど交流はないが、東方と呼ばれる地域にはエリンの民とはまた別の人類種族がいて、独自の文明を築いているとされた。



 ――新暦二〇〇年頃


 この頃よりたびたびエリン島より魔物の群れが海を越えて押し寄せてくるようになる。

 魔物の群れは自らの指導者として【赤月の魔女】リーザと【境界に座する魔王】エシュロンの名を称えた。

 【赤月の魔女】リーザと【無銘の魔女】との関係は不明。

 あまりにも頻繁に魔物の群れが押し寄せる為、大陸の西海岸から一定の距離は、人類の勢力外【緩衝領域】と設定され、国家の権力が及ばない領域となっている。



 ――新暦二二〇年頃


 この頃より、異世界からの迷い子――通称【渡り人】の存在が認知されるようになる。



 ――新暦二六四年~二七〇年(The records of HARMONIA)


 ヌェル・ダーナにてエンデューサという名の魔法士が幾人かの魔法士たちと共同で【最果に座する魔王】を召喚し、暴走させる。

 ヌェル・ダーナは滅び、大陸の東西は行き来できない強力な障壁に阻まれることとなる。

 また同時期に何度目かのエリン島からの魔物の大侵攻が起こる。

 西方五国は協力し、それに対応した。

 その中で二人の【聖女】が現れる。


 【風の国】シルウェストに所属した【優しき風の乙女】エアリエル。

 【聖王国】レジーナ出身の【大地の聖女】カティア・エヌ・ヨミ・イグス・グリース。


 前者は国が滅びてもなお、神剣【テンペスト】を手に魔物と戦い続け、最期には多くの人を守って消えた。

 後者は【聖王国】の王位継承者の一人でありながら、国を出て、すべての人々に分け隔て無く癒しを与え歩いた。


 【大地の聖女】カティアの行動は、彼女を支援した人々によって、後に【九柱の調和の女神ハルモニア教会】設立へと繋がっていく。

 また同時期に、【渡り人】の中から【勇者】イブキが現れる。

 イブキは【流星の魔女】アリスらと協力し、ヌェル・ダーナ帝都ブリードに巣くう【最果に座する魔王】ファーと戦い、これを討伐することに成功した。


 これらのことは新暦二六四年から七年間に渡る出来事とされるが、複数の重大事件があまりにも立て続けに、大陸全土に渡って起きたために情報が錯綜し、何がどういう順番で起きたのか、後世の判断は様々に分かれている。

 なお滅びた【風の国】シルウェストの跡には、数年後【剣の国】ファーザスが設立している。

 ヌェル・ダーナの跡には、後にアエテルニア帝国が成立するようになるのだが、それはもう少し時代の進んだ先の話である。



 ――新暦三〇〇年


 この頃を最後に【渡り人】が現れなくなる。



 ――新暦五四三年


 【堕ちた泉の魔女】ユーフォリアによる、【剣の国】ファーザスを加えた新生西方五国に対する宣戦布告。

 【緩衝領域】に魔物たちの軍団を作り、【魔王】の召喚を試みる。

 【剣の国】ファーザスを加えた新生西方五国は新暦二六〇年代以来の【魔女盟約】――【対魔女特別同盟条約】を発令し、共同で討伐軍を組織した。

 史上三人目の【聖女】である【聖王国】レジーナの【碧の巫女姫アクアマリン】レティアーナ・ブラングリムにより【魔女】は封じられ、火刑に処された。



 ――新暦五四六年


 【聖女】レティアーナが病没する。享年二十一歳。

 【魔女】の呪いと噂された。



 ――新暦六一〇年頃


 かつてのヌェル・ダーナ一帯は小国に分かれて争いを続けていたのだが、アエテルニア帝国が統一することになる。

 アエテルニア帝国は西方五国との間に不可侵条約を結ぶ。



 ――新暦七六〇年~七六二年


 アエテルニア帝国にて内乱が勃発。

 国中の貴族が皇弟側と皇太子側に分かれて争うことになる。

 聖王国レジーナより送り込まれた聖堂騎士の中に、少女ネーデリアがいた。

 内乱に巻き込まれる中でネーデリアは史上四人目の【聖女】として覚醒し、【皇女】ソフィアや【剣聖】ブルートゥリ子爵を助けて内乱を終結に導く。



 ――新暦七六二年


 西方五国の内の三国。【聖王国】レジーナ、【魔法王国】リガイザラン、【剣の国】ファーザスの国境が交わる地に、突如として『ナーザ』という【冒険者】の街が生まれる。

 【冒険者】と【NPC】と呼ばれるその街の住人がどこからやってきたのかは不明。【冒険者】たちはその街を拠点にして西方五国に広がり、各地で【クエスト】という名の人助けや、魔物の討伐を始めるようになる。

 なお、近頃魔物の数が増えてきたと人々が噂するようになる。



 ――同年


 内乱終結後のアエテルニア帝国と【聖王国】レジーナの間で国交が成立。



 ――同年


 九柱の女神ハルモニア教会【大司教】オルドヴィス三世の密命を受け【火の騎士姫】ネーデリアが【冒険者】たちの調査へと密かに動き出す。


 そして現在――。



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