携帯電話

弱腰ペンギン

訪問販売

 俺は今、すさまじい訪問販売に遭遇している。

「この携帯電話なんですけどね、とってもすごいんですって!」

 正確には遭遇したんじゃなくて、訪問されたんだけど。どうでもいっか。

「二つに折りたためるんです!」

 古いよ。iモードとかのやつだよ。ガラケーってレベルじゃねえぞ。

 ったく。満員電車のストレスが無くなった代わりに、こういう訪問販売があるのが嫌なんだよなぁ。リモート。

「折りたたんだ携帯から、出るんです!」

「何が?」

「ミサイル」

「え、ナニソレすげぇ!」

 って、んなわけあるか!

「いや、バカにすんのもほどほどに——」

 販売員が携帯を空に向ける。そして何かスイッチらしきものを押すと、携帯からミサイルが飛んで行った。

 明らかに携帯に収まらないタイプの大きさだった。

 普通の、いや普通ってなんなのかよくわからないけど、ミサイルっぽいミサイルが飛んで行った。

「えー……」

「ね、すごいでしょ!」

 茫然とミサイルを見つめる俺に対し、販売員が熱弁を振るう。

「射程距離もすっごく長いんです!」

 そういった販売員の後ろで、空に飛んで行ったミサイルが爆発した。

「え、えぇ!?」

 やばいんじゃないの、あれ!

 飛行機とかにぶつかったりしたんじゃないの!?

「この携帯、さらに——」

「いやいやいやいや、後ろ、ミサイル、爆発!」

 もっとすごいことが起きてるから、国際問題とかに発展したらどうすんの!?

「やだなぁ、ミサイルなんですから爆発くらいしますよ」

「ちっげぇーから。そうじゃねえから!」

 何『普通ですよ』って顔してるんだよ。その携帯より普通じゃないこと起きてる……その携帯も普通じゃねえわな!

「緊急時には武器にもなるんです!」

「今、武器が飛んで行っただろ!」

 空にな!

 と、ミサイルが飛んで行った方を指をさしていたら。

『貴様か。我が船にミサイルを撃ち込んだのは!』

 銀色の全身タイツを着たような、いわゆる宇宙人的な人が空から降りてきた。

「正確にはこの携帯電話の力です!」

『バカにしおって……! 母星に帰れなくなったではないか!』

 怒った宇宙人が何やら拳銃のようなものを取り出し販売員に向けた。トリガーを引くと、光線が飛び出し、販売員に命中したのだが。

「このように。携帯電話さえあれば、光通信も思いのまま!」

「通信してねえよ!」

 販売員は盾のように携帯をかざし、光線を防いでいた。本人曰く『光通信』らしい。

「もちろん、受信だけでなく送信も出来ます!」

 光線を吸収し終えると、今度は携帯から極太の光線が宇宙人目掛けて飛んで行った。

 宇宙人は体を震わせながらその場に倒れると動かなくなった。

 ふ、不憫すぎる。

「どうですか、おひとつ!」

「どうですかって言われても……」

 もはや凶器を手にして、押し売りに来ている犯罪者としか見えない。

 だって、ミサイル出るんじゃん。その携帯。

「今なら1980円!」

「安っ! いやいや。どうせ一日あたり、とかそういう」

「いいえ。1980円ポッキリでの販売です。月賦とかそういうのはやってませんし」

「安!?」

「もちろん安さには理由がありますよ。これ、実は旧型なんです」

 え、古いの!?

 あぁ、いやまあ形は古い……ん? え?

「今は皆さんスマホの時代ですからね。薄型ですらない携帯はちょっと売れなくて」

 スマホ……? スマホってなんだ。ミサイル出るのか?

「なので、在庫処分としてこの値段なんです」

 さわやかな笑顔でそんなことを言われましても。こちとら絶賛混乱中でして。

「ちなみに、一応最新式のスマホもありますよ。こちらですね」

 販売員が取り出したのは長方形の薄型スマホだった。俺の持ってるスマホよりちょっとだけ薄いのがわかる。すごいな。

「ただ、こちらはミサイルが出ないんです」

「それが普通だわ」

「こちらミサイルの代わりに銃弾が出ます」

「なおのこと危ないわ!」

 いや、ミサイルのほうがヤバイか?

 どっちだ。よくわかんねぇ。

「もちろん口径は7,62ミリメーター。フル、メタル、ジャケッツ!」

「やかましいわ」

 その時、しびれていた宇宙人が起き上がってきたのだが。

「ヤー!」

 販売員がスマホを宇宙人に向け、一発。銃声が響き、宇宙人は倒れた。

 なにこれ怖い。

「こちら、このようにサイレンサー機能はついていないのが欠点でして」

 俺はスマホを取り出すと同時にドアを閉め、家の中に引きこもり。

「もしもしポリスメン!」

 通報した。

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携帯電話 弱腰ペンギン @kuwentorow

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