レンズ

天獄橋蔵

第1話レンズ前編

レンズ 前編。


「キミ名前は?」


 いつもここで目が覚める。


 見覚えのある風景と、見覚えの無いキミ。


 楽しそうに、はしゃぐ俺とキミ。いつもの景色が甘酸っぱい匂いに満たされる。


 世界はこんなにも鮮やかだっただろうか?


 俺が今まで撮ってきたどの世界よりも鮮やかで……キミは眩しすぎる。



-4月入学式-


「キミ名前は?」


 え?


 あれ?


「何ぼやけてるの?……私はアスって言うんだ。隣の席になったから仲好くしてね」


 ああ。寝ぼけてたな。


「俺はキョウ宜しくな」


「変な名前って人の事言えないかー。宜しくね」


 隣の席の女子はクスクス笑ってる。


 笑顔が可愛い子だ。なんと言うか行動的な印象を受ける。


「ふーん変な名前で悪かったな。まあいいや」


 なんと言うか名前をバカにされて鼻につく。


「まあまあ私のライバルと同じ名前だったからさ、つい。別に変な名前じゃ無いよ。」


 ふむ一言余計な子の様だ。


「まあ俺にはライバルなんて居ないからな平和に頼むよ?」


「OK!OK!私は平和な人だからねー」



-写真部部室-


「キミ名前は?」


 写真部の顧問が俺に尋ねる。


「キョウです宜しくお願いします」


「おお!あの中学で唯一写真コンクールの登竜門で上の方に行ったあの?」


「ええ、そうです」


 そう俺は唯一にして最大の特技が写真である。写真だけは自信がある。誰にも負けない。


「じゃあ次はキミ」


「アスです。宜しくお願いします……」


「うーん新入部員はこれだけか」


 顧問の先生は難しい顔をしている。


「あの先輩方の紹介とか無いんですか?」


 俺は他に人が見あたら無いので質問してみる。


「ああ皆、幽霊部員だからな。新入生の君達は真面目そうで助かるよ」


「じゃあ私は空手部と掛け持ちなので、失礼させてもらいます」


 何だかアスは機嫌悪そうに部室を去っていったな。



「何よアイツ!?ライバル居ないからって調子乗ってるんじゃない!?」


 写真が好きだけど、どうもコツを掴めないで、上手い人はどんな写真を撮るのかな?って思ってもう一年前かな?夏に写真コンクールを見に行って、そして、私は心に電気が走る衝撃を受けた、って思う。


「綺麗な夕日だったなぁ」


 受賞者の名前を見ると、隣の中学とキョウって名前が書いてあったのを覚えてる。


「アイツに絶対負けない写真を撮ってみせる……頑張ればきっと……」



-空手部部室-


 空手部の部室に入ると、顧問は歓迎してくれた。


「インターミドルを制したアスさんです。皆仲良くね」


「押忍」


 なんか照れるな。インターミドルもマグレみたいなものだったし、まあいいか。


「押忍宜しくお願いします」



 しかしアスは気付いていなかった。自分がキョウに対して思っていたのと同じ悪い感情を抱く者の存在に。



-4月下旬-


 私はそれから毎日キョウを尾行した。


 キョウは気付いてるのか、気付いて無いのか、たまに振り返る。そして写真ばっかり撮ってる。


「アイツいつも写真ばかり撮ってるなあ」



 アスは気付いて無かった。自分も尾行されてる事を。



「おい!あんなひょろいのがタイプなのか?」


!?


 後ろから声を掛けられた。


「えーと、、ああ学校の先輩ですよね?ええっと何か御用ですか?」


 同じ制服だし、見覚えある、、気がする。


「はあ?流石はインターミドル覇者は言う事が違うな!」


 ああ空手部の先輩かな?良く覚えて無いけど。


「えーと、あの?何ですか?」


「先生に贔屓されてるからって調子乗ってんじゃねえぞ!ツラかせや!」


 いきなり胸倉を掴まれる。何コレ怖いんだけど。


 パシャ!!


 カメラのフラッシュだ。


「女の子相手に何やってるんです?」


 キョウが颯爽登場。え?何カッコイイ?


「てめえ!ナメてんのか!?」


 不良の空手部員が飛びかかる。飛び蹴りだ。


 キョウはそれを難無く回避する。地面に突っ伏す不良。


 一瞬の事で状況がってか頭真っ白だけど。。しっかりしろ私!


「おまわりさん こいつです」


 大声で叫んでみた。


 すると、周りに人垣が出来てきて、


「覚えてやがれ!」


 ダサい不良はモブキャラらしい台詞を残して逃げて行った。



 なんだなんだと人混みが溢れる、そして何事かの様にパトカーが通り過ぎる。



「めんどうはごめんだな。行こう」


 私に手を差し伸べるキョウ。


 なんだコイツ良い奴じゃん?ってか惚れてまうがなーー!


「うん」


 コレって恋なのかな?あー私はずっと、あの写真見た時からキョウの事意識してたんだ!うん!決まり!


 景色が変わって行く。きっと私の景色も鮮やかになってくるんだな。


「キョウありがと。また明日学校で話そう」


「うん、じゃあまたね」



「キミ名前は?」


 カメラのファインダーを覗くと声が聞こえた。しかし周りに人はいない。空耳だろうか?


「キミカッコ良かったね、さっきはさ」


!?


 ファインダー越しに人が居る。いや居るのは居るんだが、夢に出てくるあの子だ。


 俺はビックリしてファインダーから視界を逸らす。んで、またファインダーを覗きこむ。


「んー?どうしたの?」


 夢の中と一緒で可愛い声だ。いやいやいや?まさか幽霊?


「ふふふ冗談よ、キョウちゃん」


 何故俺の名前を知ってるのか?


「キミ名前は?」


「レンだよー、あたしの事忘れたのー?」


 忘れるも何もずっと俺の夢の中に出てくるあの子だ。


「知ってる、覚えてる、忘れてない、いつも夢で会うね」


「そうだよ、私のキョウちゃん」


 ニコって笑顔は夢の中のまま、まるで彼女はこの世界の全てだ。


「レンって言うのか可愛い名前だね」


「ちゃん付けしてくれないのー?」


 イタズラっぽい顔も可愛い。透明な笑顔だ。ってか透明すぎるな。


「レンちゃんは幽霊なの?」


「んー?写真部の幽霊部員だよ」


 黒髪のロングストレートの彼女は俺のタイプってか、もう世界が変わってしまった。


 世界はこんなにも鮮やかだっただろうか?


 パシャ!


 そして彼女は眩しすぎる。


「良い顔で撮れた?」


 見覚えある景色と透明なキミ。


 世界はなんて、残酷で、こんなにも美しいんだろう?


 もう彼女が幽霊なんて事はどうでもいい事じゃないか?


 もうずっと前から彼女の事は好きだし。うん!決まり!


「俺とリア充になろう」


「うん!私キョウちゃんの事大好き!」


 こうして俺はレンちゃんとリア充爆発―な青春を謳歌しようと心に決めた。



-5月中旬-


 私は写真部でも教室でもキョウが隣にいて満足な日々だった。


 この時間がずっと続けばいいのに……


 段々と写真も上達してきたし。ピントの合わせ方で奥行きを出せたりとか、技術を付けたのが自分でも分かる。


 最近のキョウの写真を見る。ってか見せてもらう。


 するとある事実に気付いた。


 キョウの写真にはいつも同じ黒髪の子が映っている。


「何?隅に置けないわね?ってか誰この子?」


「ん?ああ幽霊部員らしい、よ?」


 なんなのこの子、こんな子居たっけ?どうにも人の顔覚えないけど、こんな子見た事ない。


「ふーん、怪しいな」


「いやいや相手はさ、そのさタダの友達?だよ、うん」


「へーそうなんだ、まあ、こんな可愛い子とキョウじゃ釣り合わないもんね!」


「ああ、そうだね……」


 何か、らしくないなぁ、まあいいや。


「じゃあ私は空手部に顔出さないと、じゃあまた明日ね」


「またね」



 部室に一人になった俺は虚空にカメラを向ける。


「どーも、タダの友達のレンちゃんです!」


 さっきの事を突っ込まれた。うーん、この子は悪戯っぽい顔好きだな。


「いやさあれは、その……」


「なーに?二股?悪い子、め!」


 悪戯っぽい笑顔が相変わらず可愛い。


「そんなんじゃないって」


「分かってるキョウちゃんの事信じてるから、ね?」


「しかし真面目だね幽霊になっても学校来るってさ」


「まあ、幽霊部員だしー?」


 顔近いって、でもカメラ越しだしいいか。


「ってそれ意味違うって」


「幽霊部員のレンちゃんです!」



 こうして楽しい時間が過ぎて行く。しかし俺は気付いて無かった。この幸せは永遠の様に感じて、しかし永遠なんて無い事に。



-6月中旬-


 梅雨のうっとうしい時期だ。私は空手部の練習に打ち込む。


 ミット打ちでも力が入る。そして力加減をいつもの様にコントロール出来て無いまま、組手で相手にかなりのダメージを与えてしまった。


「力み過ぎだ!」


「すいません」


 私は動揺してた。いつもならセーブ出来てた筈だ。なのにこんなにも?……力抜こう。


「らしくないぞアス?ちょっと休憩してなさい」


「押忍」


 顧問の先生からも怒られたけど、私の心を乱している事が、いや今は考えても仕方無い。スポーツドリンクを飲みながら、ぼーっと考える。でも何か今日は気分のらないなぁ。顧問の所に戻って行き。


「先生すいません気分悪いのであがっていいですか?」



 顧問は難しい顔をしながらも、まあ「今回だけだぞ」って承諾してくれた。



 廊下で、私は考えながら下駄箱まで歩いていく。


「はあ何で全然アイツは振り向かないのかな?私って魅力無いのかな?ってかアイツはいつも遠くを見てる感じだし?私の事どう思っているのかな?はあ」


 写真部の部室を通り過ぎる。


「ってか彼女居るのかな?ん?写真の黒髪の子が彼女なのかな?」


ーーーー


 廊下にある鏡の所で立ち止まって鏡を覗いてみる。


ーーーー


「私も髪伸ばそうかな?」


 なんかこの時間が永遠に続きそうだな。でもきっと永遠に叶わない恋じゃない!絶対振り向かせる。



-6月下旬-


 まだ梅雨時期で雨がうっとおしい時期だ。今日はレンちゃんとついでに紫陽花を撮りに近所の公園に来た。


「レンちゃんポーズ取って」


「うん」


ーーーー


 カメラのレンズを向けるファインダー越しの恋人。黒髪に紫陽花の赤と青もコントラストが映える。


ーーーー


 レンちゃんは悪戯っぽく笑う。紫陽花に手を添える。まあ正確には紫陽花の近くの空間に溶け込むだが。そう彼女はこの世の人間ではない。幽霊だ。


ーーーー


 パシャ!


「良い絵が撮れたよ、ありがとう」


「いえいえ美人に撮ってくれてありがとう」


 もうね胸が爆発しそうなんだな、これが昔の俺が言ってた、あの、リア充爆発なのかな?幸せな俺とレンちゃん。はあ。


「んー雨酷くなってきたね帰ろうか?」


「そだね」


 家路に着くまでの間、この幸せの時間が永遠に続きますように、っと祈ってみる。神様お願い。


「じゃあまた明日ねレンちゃん」


「んー明日って?何言ってるの今日はお泊りだぞ?」


「え?ええ!?」





 こうしてレンちゃんがうちに泊る事になった。


「お風呂入るから覗かないでね?」


「うん、ここで待ってるよー」


「じゃあ直ぐ戻ってくるから」


-風呂場-


「レンちゃん覗いてる気がするなぁ」


 湯船に浸かりながら考えてみる。うーんしかし、カメラは風呂場に持ち込めないし、確認手段無いなあ。


「まあ覗いてた時の保険だな」


 俺は身体を洗いながら下の方を念入りに洗う。我ながら逞しい。


「よしこれで覗かないだろ」


 風呂上がって、部屋に戻る。服?着てるって。


-キョウの部屋-


「レンちゃんお待たせ」


「うん待ったよ」


 俺は色々考えて、うん直球だなって思った。


「レンちゃん覗きに来なかった?」


「覗いて無いよ」


 うーん、どうも何か違う。いつもだったらもっと間延びした感じで喋るのに……


「じゃあ直球で!レンちゃんから見て俺のはどうだった?」


ーーーー


 沈黙にも色々な種類があるけど、これって明らかに肯定だろ?


ーーーー


「んー?聞きたいの?聞いてもいいの?」


ーーーー


 今度は俺がダンマリを決める。俺のは逞しいけどグロいからなぁ……嫌われたかな?うーん、どする?俺?


「あー、どうだった?」


ーーーー


 沈黙にも色々な種類があるが、これは、何か死刑宣告を待つ被告人の気分だな。


「あはははは」


 沈黙を破ったのはレンちゃんの笑い声だった。けたけた笑ってる。ん?合格?不合格?


「じゃあさー私を疑った罰として見せてーー」


「ちょ!?さっきさ?見たって感じの事言って無かった??」


「えー聞きたいの?って聞いただけだよ?」


「えええ!?」


「さー脱ぎ脱ぎしましょう、ね?」


ーーーー


 沈黙にも色々な種類があるのは、分かってる。俺は拒否の態度を取ってみた。いやダメだろ絶対。


「んーごめんね?ちょっと悪ふざけが過ぎたよー、許して、お願い」


「うん良いよ俺の方こそ疑って悪かったよ、ごめんね」


 レンちゃんと仲直りできて良かったなぁ。はあ。今度から気をつけよう。ってかもうこんな時間か寝よ。


「レンちゃんおやすみまた明日話そう」



 キョウが完全に寝むってるのを確認してレンはぽつりと声を漏らす。


「んーおやすみキョウちゃん、大きいけどグロかったよ?またねー」



-7月上旬-


 インターハイの季節になった。空手部の連中も気合が入ってる。この季節特有の空気感。熱気だ。



 私は結局インターハイではいい成績は残せなかった。凄く悔しかった。でも悪い事ばかりでは無かった。幼馴染で転校して会えなくなってたカコ君と再会したからだ。カコ君と連絡先交換出来て良かった。


「来年は頑張ろう今は後悔しても仕方ない」


 カコ君は優しい言葉を掛けてくれた。


「うん。ありがとう。相変わらず優しいね。でも何で空手始めたの?」


「お前に追いつきたくって、って恥ずかしいから言わせるなって」


 ドキっとした、そう言えば昔こんな事を言われた気がする。


「ありがとう。でも……」


 カコ君は手で私の視界を遮った。


「待ったその先は聞きたく無い」


「うん、ごめん言わない」


「謝るな!じゃあまたな何か困ったら相談乗るから」


「うえええん、ありがとう、カコ君」


 私は悔しさから堪えてたのに、慰めて貰って、急に涙が溢れてきた。


「泣くな俺が泣かせたみたいだろ!泣くな」


 私は嬉しくって泣いてるのかな?悔しくって泣いてるのかな?


「うん、ごめんね、じゃあ私帰る時間だから、またね」


「謝るなって」


「うん、ありがとう」


 帰りのバスに乗るまでには泣きやもうって頑張ったって思う。バスの中はどんよりした空気だった。 

 一番期待されてた私がこのザマだから仕方無いと言えば仕方無いか……こうして私の今年の夏は終わったのだった。



-8月上旬-


 自宅で夏休みを満喫する俺。相変わらずレンちゃんと一緒で写真ばかり取ってる。


「ねえレンちゃん今度花火大会があるんだけどさ、一緒に行かない?」


「んー私達ずっと一緒じゃないのー?」


あれ?また怒られるパターン?


「そ、そうだよね」


「ひどーい、キョウちゃんは私と一緒に居てくれ無いんだー?」


「ずっと一緒だよ」


「んーレンちゃんは生まれ変わったらキョウちゃんと結婚するー」


!?


「うんじゃあ俺は一生独身だな」


「えー何で?レンちゃんの事嫌いになったのー?」


「違うよ、俺の心は一生レンちゃんのモノだからさ」


ーーーー


 沈黙する俺とレンちゃん。


ーーーー


「ずっと?」


 沈黙を破ったのはレンちゃんの方だった。


「うん」


 肯定する俺。


「でもね?キョウちゃんあのね?」


「うん」


 何か怖い事言われそうだ。


「私は幽霊だからHな事出来ないんだよ?いつかきっと……」


「構わないよ?」


 ほっとする。何だそんな事か。


「私以外を好きになってもいいんだよ?」


「嫌だね」


 なんか今日のレンちゃんはどこか変だな?


「一生童貞のままでいいの?」


「俺のはレンちゃんに捧げるから大丈夫」


 何だそんな事気にしてたのか。


「捧げるって意味違うよー」


「俺はレンちゃんの事だけ考えるから」


 なんか今度はレンちゃんが、身体をクネクネさせてる。なんだろうか?


「じゃあ、あのね?そのね?驚かないでね?いい?」


「うん、いいよ」


「私のパンツ見たい?」


??????


 え?な?何言ってるんだ?あれ?空耳かな?


「んーその反応なら見たくないって事ー?」


 放心状態な俺。


「驚かないでねって言ったのにー!キョウちゃんのバカ!」


 怒られて我に帰る俺。


「見たい!」


「ホントに?」


「うん!」


「写真は撮ったらダメだよー?いい?」


「え?残念だな……撮らせてくれないの?」


ーーーー


 レンちゃんが黙り込んでしまう。やべ、謝らないと……


ーーーー


「んーじゃあさ?」


 レンちゃんが恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。


「私の事考えてさ?その何て言うかさ?見せっこしよー?」


 やべえ、これなんてえろげ?


「は、恥ずかしいから今の聞かなかった事にしてー!」


ーーーー


 え?ダメ?俺の期待はこんなに膨らんでるのに?


「やっぱパンツ見せない!ごめんねー」


「えーじゃあ俺不貞寝する」


 俺はベッドに潜って膨らんだ期待を触ってみた。さあレンちゃんどーする?


「えー?何か動いてないー?ナニしてるのキョウちゃん?」


「ナ、、ニ、、もしてないって」


「もー知らないよー?」


 うーんそう言えばレンちゃんと付き合ってからは一回もやってなかったな。


「うーん後少しなんだけどさ?助けてくれないの?」


 カメラ構えてワクワクしてみる。


「んーシャッター切ったら別れるからねー?しょーがないなー見せてあげるーー」


ーーーー


 レンちゃんのパンチラ見て幸せの絶頂に達する俺。賢者タイムなう。


「ふう、すっきりした、ありがとうレンちゃん」


「いーえ、どういたしまして」


 不意に固定電話の呼び出し音が鳴る。ああ親留守だったな。賢者タイム終了だな。



 私は電話を掛けようか掛けるまいか悩んでいた。


「もー何でアイツはケータイ持って無いのよー」


 写真部の先生からキョウの連絡先を聞いた、までは良かったんだけどさ。


「親出たら何て説明すれば良いんだろ?まあ迷ってても仕方無い!直球だ私!」


 呼び出し中のコール音が長いなぁ、緊張するなぁ。


「はいもしもし」


 あ、出た、キョウだ、ラッキー。


「もしもしアスだけどさ」


「ああなんだアスか、どうしたの?」


 うーん素っ気ないな。


「あのさ今度の花火大会行くの?」


「行くけど?」


「一人で行くの?誰かと一緒?」


ーー


 電話何だけど何で黙るかな?


「う、うん一人で行くけど?」


「じゃあ私と一緒に行かない?」


ーー


 また黙るな、何でだろ?


「えーと他の人も一緒?」


「え?違うけど?」



「じゃあごめんパス俺一人で花火の写真撮るからさ、ごめん」


「そ、そう、変な事言ってごめんね?あー偶然会ったら普通に話そうね」


「うん、ごめんな」


「謝らないでいいって、じゃあまたね」


「うんまたね」


 受話器を先に置かれて、ツーツーって音に耳が痛い、撃沈してしまったよ。ああ。何でかな?私の魅力足りないのかな?



-花火大会当日-


 俺は制服を着てから、花火大会の会場の海辺に歩を進める。花火の写真ってか、レンちゃんと花火のショットが撮りたい。屋台で綿菓子や焼きそばを買って食べる俺。うん美味いものだ。


「あれ?キョウ?」


 突然背後から声掛けられた。


「ん、アスか何だ後ろからビックリしたよ」


「ごめん、ごめん、ね、ね、私浴衣似合う?」


 似合ってるって言えばまあ似合ってるなあ。


「似合ってるんじゃね?」


「じゃあさ写真撮ってよ」


「えー」


「お願いお願い」


「まあしゃあ無いか」


 アスの方にファインダーを向けると、レンちゃんが。べーってやってる。


「綺麗に撮れた?現像したら見せてね」


「うん撮れた撮れた」


「ね、ね、一緒にお店回らない?偶然会ったからさ」


「どんな理由だよ?」


「花火までまだ時間あるからさ、花火の時には邪魔しないからさ、お願い」


 うーん断らないと、後でレンちゃんに何言われるか分かんないからな。どーしよ。


「まあタダの友達だからな、いいよ花火の時間までなら」


 まあタダの友達と遊ぶだけなフラグで誤魔化してみる。


「よしじゃあ心霊スポット行こう」


「いや、無理」


「なんで?あー心霊系ダメな感じ?」


 嫌無理ゲーだろ?これ?どっちに答えても積むパターンだろ?天秤打ち過ぎるな。無理って言うとレンちゃんが怒るし。大丈夫って言ったら行く事になって、絶対レンちゃんイタズラするだろ?ーー黙ってるとアスが色々聴いてくるのが予想出来たので。


「じゃあ行こうか?怖い目に会うかも知れないけどね?」


「大丈夫、私が守ってあげるから、いこいこ」


 あー絶対レンちゃん何かするな。まあいいか。


「この返の心霊スポットって展望台だよな?」


「そそ、いこいこ」


-展望台-


 展望台の怖い話ってのは、夜中に展望台の望遠鏡が動くってのが有名だよな?


 うーんやらかすだろな。


「知ってる?ここの天辺の望遠鏡がさー」


 アスは呑気に言う。


「動くんだろ?」


「そそ、見たいよねー動くとこ」


 ってか今頃天辺でスタンバイしてるだろ?レンちゃんさ。はー参ったな。


「あ、あれだよ、動くかなー」


アス可哀想に。



 展望鏡の影はこっちの方に出てる。ふーんあんなに前に出てたかな?私はキョウと一緒に居て楽しいし。影が動こうか動くまいが関係無いって思う。って?え?あれ?動いてね?


!?


「ぎゃっ!!動いたーーーー???」


 頭真っ白になってしまう私。何コレ怖いんだけど????


「落ち着けアス、あれは人影だよ?誰かが居るんだって」


「うえええん!!キョウ助けて!!」


「大丈夫か?よしよし泣きやめって」


 私は思い切りキョウの胸に泣きついた。私が泣き止むまで、ずっと、頭なでてくれた。やっぱりキョウの事好きだな私。


「うん、もう、大丈夫、具合悪いから帰るね」


「送ってくよ、止めなかった俺も悪いし」


 え?何?嬉しいフラグ!


「うん、ありがとう」


 私はキョウに送ってもらい、無事に家に着いた。



-キョウの部屋-


 家に帰った俺はレンちゃんと話しをする。花火どころの騒ぎじゃ無かったからだ。


「あー花火、間に合わなかったーー怒るよーー?」


「レンちゃん?あのさ、怒っていいかな?やり過ぎだってアレは無いっしょ?」


 ぶすっとムクれた表情のレンちゃん。俺も一歩も引かない。


「うー浮気者ーーーーー」


「タダの友達だよ」


 今度は泣きだすレンちゃん。


「浮気されたーひどーいーー」


「うーんもうあんな事はごめんだよ?」


 泣き真似だったのか表情を普段の悪戯っぽい顔のレンちゃん。


「じゃあレンの事はどれ位好きなのーー?」


「永遠に好きだよ、でもさ今日のはあんまりだった」


ーーーー


 沈黙してるけど、何だろ?反省してるのかな?


「ごめんなさい、もうしません」


「よろしい」


 こうして俺とレンちゃんの多分初喧嘩は終わりを告げた。仲直りに何するかって?内緒内緒。


 まあ?この後から撮影おkになったのは嬉しい副産物だな。


ー続くー

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