学園では天使系清楚美少女の世界一可愛い義妹が無防備に誘惑してくるけど俺たちは家族だって言ってんだろ!?
ゆきゆめ
1-1 兄妹の始まりとクリスマスの夜。
『は、はじめまして……えっと、
小さな、か細い声だった。
彼女は母親の背に隠れながら、可愛い顔を覗かせるようにしてこちらの様子を窺っている。
歳の差はひとつだったはずだけれど、彼女はまだ小学6年生。俺は中学1年だ。そこには歳以上に大きな隔たりがあるように思えた。
心の準備は出来ているか?
自分に問いかける。大丈夫。大丈夫だ。俺はちゃんとやれる。いや、やるんだ。
彼女にゆっくりと歩み寄って、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。それから、自分が作れる最高の微笑みを絞りだす。
『由奈ちゃん、だね。初めまして。俺は
『おにい……ちゃん?』
『そうだよ。おにいちゃんだ。おにいちゃんはすごいんだぞ? 妹の、由奈ちゃんのためならなんでも出来ちゃうんだ。何があっても、由奈ちゃんの味方なんだ』
『え……ほ、ほんとに……っ!? ほんとになんでも、何があっても……!?』
不安そうだったその表情が輝く。
『ああ、本当だよ。これからはずっと一緒の兄妹で、家族なんだから』
『わ、わたしっ、わたしねっ、ずっとおにいちゃんが欲しかったんだ……っ! だからその……すっごく嬉しい……な』
『そっか。それは良かった。期待に応えられるように頑張るよ』
『うん……っ!』
もう一度、その頭を優しく撫でてあげると、少しこそばゆそうに由奈は瞳を細めた。最初の会話としては及第点、だろうか。実のところ、心臓はバクバクと踊り狂っていた。でも、それを表に出すわけにはいかない。
――――だって俺は今日からまた、おにいちゃんになるんだから。
この日、親の再婚によって俺たちは家族になった。
◇
そんな出会いから、もう少しで4年が経とうとしている。
「ねえ、おにいちゃんってホモなの?」
「は?」
クリスマスイブの夜。共に炬燵を囲んでいた義妹――
「だってクリスマスだって言うのに今日は男友達とパーティーだったんでしょ?」
「それはそうだが……それだけでホモ呼ばわりは酷くない?」
男だけのクリスマスパーティーだって良いものだ。キリストの降誕祭に背負う悲しみを共有できる。抱き合って、バカ騒ぎをして、来年こそはと誓いを立てるのだ。そんな友人たちこそ、一生の友と呼ぶにふさわしい。
なんて言いつつも、来年になって独り身を卒業していた不届き者には死を、だが。幸せを手に入れたのだから文句ないだろう。そいつは誓いを果たしたのだ。立派なものだ。もう友達ではいられないのが本当に残念である。
俺だって女の子とパーティー出来るものならしたいけどね! 彼女欲しいけどね!
部屋の隅でささやかに飾り付けられているクリスマスツリーから冷ややかな視線を向けられた気がした。
コホンと、ひとつ咳ばらいをしつつ妹へ視線を向ける。
「由奈だってどうせ女だけの寂しいパーティーだったんだろ?」
同じくパーティー帰りの由奈は普段よりもおめかししている。
いっそ自分たちと合同にしていればすべて解決だったのでは? いや、可愛い義妹をあんな汚物たちと触れ合わせるわけにはいかないか。
ろくでもないと思いながら、俺もケーキをつつく。シンプルなショートケーキだ。イチゴを避けながら、まずは生クリームの乗ったスポンジ部分を口へ運ぶ。
パーティーで散々食べたためお腹は満たされているが、甘いものはわりと好きだ。別腹とまではいかないまでも美味しくいただける。
そもそも、これは義母である
おそらくは同じような心境なのだろう。由奈もまた、母の温かみを感じるかのように幸せそうな笑みを浮かべながらケーキを食べていた。それをごくんと飲み込むと「ちっちっち」とフォークを振る。
「言っとくけど、私はちゃ~んと男の子もいるパーティーだったからね?」
「なっ」
思わずフォークを取り落とした。慌ててそれを拾う。
「ふふん。驚いた?」
「い、いやまぁ、べつに? ていうか? 今ここにいる時点でな? 聖夜に何やってんだって感じだし? 結局俺と変わんないよなぁ。はっはっは」
「すっごい動揺してるじゃん」
なぜか嬉しそうに、由奈は身体を揺らした。
「まあ男の子となんてほとんど話さなかったけど~。そ・れ・に~」
「な、なんだよ」
炬燵の向かいの由奈がぐいっと身体を寄せてニコッと笑みをつくる。
「私は、聖なる夜の最後におにいちゃんとふたりっきりで嬉しいよ?」
「……ふ、ふーん? そうですかそうなんですかそれは良かった妹様は相変わらずブラコンだなぁうん」
やばい、顔がにやけそうだ。すごい。グッときた。なんでこんなに可愛いんですかねうちの妹は。まったく、けしからん。こんな兄なんかと一緒せずに、聖夜くらい他の誰かと夜を明かせばいいのに。
由奈は兄として言わせてもらうなら世界一可愛い。控えめに言っても絶世の美少女。いや、俺なんかが言わなくても学園一との呼び声が高い。人見知りなこともあり外では少なからずネコを被る我が妹は天使系清楚美少女などど言われ、その人気は一年生ながら他とは一線を画す。それくらいに可愛い。可愛くて可愛い。もう尊い。目に入れても気持ちいい。
だから、彼氏くらいに簡単に出来るはずなんだけどなぁ。
いや、実際できたら俺の精神が持つかは分からないが。それくらいは妹の幸せのためなら安いものだ。それが兄というものだ。
だから、こんな一年で最も熱い(いろんな意味で)この時間に美少女な妹と二人きりというのは優越感と共に、少し罪悪感が湧く。
ごめんな今日のパーティーで由奈を狙ってたであろう有象無象ども! 今、おまえらの天使は兄とふたりでケーキ食べてます! ぷげら!
ほどなくして、由奈がケーキを食べ終わる。甘いものだけは食べるのが早い妹だ。
それから由奈はごちそうさまをすると直後、ごそごそと炬燵の中に頭から潜り込んだ。
「あ、おいこら。中に入るんじゃありません。子どもかおまえは――――って……」
「にゃん♪」
炬燵の下を通り抜けてきた由奈が股の間でぴょこんと顔を出す。
「にゃ~んゴロゴロ~♪」
「ったく……」
頬ずりするように甘えてくる由奈。たまにあるのだ。猫化するときは甘えたい合図だ。
さらさらな髪を撫でる。可愛くなければはっ倒しているところだが、可愛いのだから仕方がない。妹を可愛がるのも兄の義務である。
「うにゃ~ん……♪ おにいちゃんあったかぁい」
「あったかいのは炬燵だろ」
「違うよぉ、ポカポカ~」
「……イチゴ食うか?」
「あーん♪ あまぁい美味しいにゃ~ん」
「そりゃよかった」
残しておいたイチゴをフォークで刺して差し出すと由奈は迷いなく食いついた。本当に美味しそうに食べる。これが見れれば世の中のおにいちゃんは自分の飯などなくても腹パンだろう。
「ありがと、おにいちゃん」
「どういたしまして」
初めからあげるつもりで残していたのだが、お礼を言われると少し照れる。視線を逸らしつつ、誤魔化すように由奈の頭を撫でた。
「ふにゃ~んにゃんにゃん♪」
また、甘えるように猫なで声を出す由奈。あー可愛いなぁ。なんでこんなに可愛いんだろう。可愛すぎる義妹がいる俺は世の中のおにいちゃんの中で一番幸せと言ってもいい。
一生このままでもべつにいいかもしれない。でも幸せって、平穏な時間ってそんなに長くは続かない。
「すんすん……すんすん。ほわぁ……♪」
穏やかだったはずの居間に美少女が鼻を鳴らす音と艶やかさの混ざる声が漏れた。
「いや、あの……由奈さん? 何をしてらっしゃるんですか?」
「おにいちゃんの匂いを嗅いでまぁす。はあ~やっぱりいい匂いだよぉ興奮しゅ……落ちちゅく~♪」
すりすりと頬ずる。だんだんと男の大事な部分に頬ずりが近づいてきている気がするのは気のせいだと信じたい。
「はぁ……はぁ……おにいちゃぁん……おにいちゃんの逞しいおにいちゃんが目の前にぃ……♪」
「ゆゆゆ、由奈さん? ちょ、ちょっと目が怖いよ? よだれも垂れててはしたないし……。もうやめよう? ね?」
必死に語り掛けてみるが由奈は反応を示さない。その吐息が少しずつ荒く、扇情的な色を持ち始めていた。
やばいって! スイッチ入ってるって! 思春期特有のえっちなことに興味津々なあれ! 本気で抵抗しないとダメなやつだ!
「ゆ、由奈……? きょ、兄妹でこういうことはいけないっておにいちゃん思うなぁ、だからその、とりあえず、離れよっか?」
本気でと思いつつ、かなり控えめに由奈を引きはがそうと試みる。
くそう……妹相手だと力がセーブされてしまう……これが兄の宿命……。
「あはぁ……おにいちゃんしゅきぃ……」
「好きとかそういうのダメだってぇ……俺たちは家族だっていつも言ってるでしょおおおおお……!?」
いよいよもってヤバい。抱き着かんばかりの勢いの由奈の肩を掴んで力を込めるが……
――――ぎゅるるるるるるる……。
居間にそんな音が響いた。
「へ……? ゆ、由奈さん?」
今のって……。
「……おにいちゃん」
「は、はい」
まるで糸に操られた玩具みたいにふわっとした動きで由奈が顔をあげる。久しぶりに視線が交差した。
それからゆっくりと、はにかむように小さな口でもごもごと呟く。
「おなかへった……」
「……はぁ? パーティーで食ったんじゃないのか?」
「きゅぅ~……ごはんごはんしたものは全然……」
もう一度由奈のお腹が鳴る。その音まで世界一可愛い気がした。
ってそんなことよりも、早くはらぺこの妹を救わなくては。
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