劣等生と炎の賢者

@Dug

劣等生と炎の賢者



「あー、鑑、例の物はまだ来ないのか。 少し遅いぞ。」


暗い夜の廃墟ビルの中に、一つの豆電球にのみがその場を照らしていた。

少しいら立っているのか、そわそわしているのか、貧乏ゆすりが空間にこだまする。


「只今、部下からの連絡を待っているところです。 少しばかりお待ちをジョーカー様」


その問いかけに一人の小さな少女が答える。

そのジョーカーと呼ばれた男はその答えを聞いても、落ち着かない様子だった。


「待っているだけじゃだめだ、それじゃ不確定要素が大きい、お前が見に行ってこい。」


慌てる主人に少女は、ハァーっとため息をついた、頭が痛いのかこめかみを手元のペンでグリグリとした。

すると、連絡が来たのかその場を一度立ち去ると、足早に戻ってきた。


「いまほど、部下からの連絡がありました。 途中で襲撃にあい、撃退したところ、例の物を池に落としてしまったようです。」


「ちっ、すぐには探せないのか。」


「もう、夜も更けています。 今から川の底をさらうのは難しいかと。 魔の物が近づけないように川全体に結界を貼っておきます。 ああ、肌があれる。」


女は、早く帰りたいようでイライラしているようだ。


「まあ、とりあえずそれでいいか、アレは、魔の物はどうせ触ることすらできないからな。」


「じゃあ、今日はこれで解散だ。 ほかの連中にも一応伝えておいてくれ。」


「了解しました。」


二人の影は、闇の中に消えていく。

少し近くでは小さな家庭が家族だんらんを過ごしている些細な夜、そんな夜の中、太陽の下には出ない影がうごめいていた。


~~次の日~~

桜火学園の学生寮にて


じりりりりりりりりりり


部屋に鳴り響く目覚ましの音に俺は飛び起きる。


「へいへい、今起きますよっと。」


俺は、快適な睡眠を妨害した目覚まし時計に恨むような眼を向けるが、自分が設定したアラームなだけに何も言えなかった。

俺はベッドから起き上がると、グーンと背伸びをする。

そして、大きなあくびを携えて、洗面台へと向かった。


「あー、今日はモーレツに学校行きたくないなー、まあいつもそうか。」


今日も学校に行くことに対する憂鬱さに頭をさいなまれていた。

俺の名前は、最上結城。桜火学園の一年生だ。田舎から大学の集中している学術研究都市、通称『ユートピア』に上京してきた。

『ユートピア』は魔法が今もっとも発展しているといわれている都市で、新たな魔法の分野である「科学」が発達している。


発達している…が、発達しているだけになじめないことばかりだ。


「よし、学校行くか。」


俺は、鑑で寝癖を確認すると、簡単な身支度だけを済ませて学生寮を飛び出した。

外に出ると魔法でうごく様々な様々な魔道具が動いている。


目の前にひろがる都会の景色を見ていると押しつぶされそうだ。


その景色といっても、みんな魔法の杖で飛んでいるわけでもなく、実際はそういうわけでもない。


昔は放棄で空を飛べたらしい魔法使いがたくさんいたが今では魔法に適性がある人間がすごく減ったため、車という空飛ぶ鉄の塊なんかもある。

いわゆる、魔法の代替だ。

なのでこの『ユートピア』は魔法が使えなくても変わらない暮らしを実現するために、魔術を研究しているというわけだ。

俺が田舎からこの都市に上京してきたとき、最初にこの都市の景色を見た時、腰を抜かして驚いたことが記憶に新しい。


本で読んだ、魔法ってやつが全否定されてるって感じがした、これが時代の流れなんだって痛感した…少し寂しいけど。


それでも魔法に憧れた俺は、ユートピアにある数少ない魔法学園である桜火学園入学したというわけだ。


そんなが憧れの学校になんで行きたくない気持ちがあるのかというと、いろいろなわけがあるのだが。


そんなこんなしているうちに、俺は学校についた。

俺は、今年の春に入学した新一年生である。

一年生には、一年生塔という特別な塔がある。この塔には、魔法使いとしての基礎的なトレーニングのすべてが詰まっている。


俺は、その塔の入り口の靴箱で靴を上履きに履き替えて、教室へと向かった。


俺は、いつも一番に教室に入る。

それには様々な理由がある、好きな女の子のリコーダーをなめるため…ではない、誰もいないことを口実に奇声を張り上げるため…ではない。


その理由は、至極簡単ものだ。


桜を見るためである、ひとりで。


この学園は桜火学園というだけあって、この学園は一本の大きな桜の木を取り囲むように建てられている。


その桜は、どういうからくり化はしれないが一年中枯れない、もちろん春になれば散るのだが、すぐ咲いて、次の春まで咲き続けるのだ。


この桜を朝いちばんに誰もいない教室で一人眺める、それが楽しくてたまらないのだ。


ところで俺のクラスのことを離そうと思う。

俺のクラスはというとCクラスだ。

この学園は魔法の適正でクラス分けをする。

上から順にABCである。


そして俺はその最低クラスのCだ。

しかし、そんなことは大したものじゃない、人には得手不得手がある、できる人とできない人を分けるのは教育効率上、大切なことである。

しかし、問題、もとい俺がこの学園に来たくなくなる原因といえば……


「お、学年ビリの劣等生じゃーん、今日も学園に来たんだー、でも来ても君の能力は成長しないんだし来なくていいんじゃなーい?」


これだこれこれ、今日も来たよ。


こいつは、いつも俺に侮辱するためだけにCクラスにやってくる、やってくる…名前は忘れた。

わかりやすく足音を鳴らして教室全体に誇示するかのように足を踏み鳴らして、いつもなら無視をするところだが……


俺には、その『学校に来なくていい』の一言が引っかかってしまっていた。


そうだ、俺はこの学校に来ている意味がない。

この学校は能力を伸ばすための機関のようなものだ。

だから能力の一切の才能がない俺はこの学校にいる意味はない。


俺は、俺はこの学園に入ったにもかかわらず、魔法に対する適正が一切ない劣等生なのである。


だから、俺はいたたまれないのである。

この学園に来る存在価値を見せつけられるようで。


学園に入ってからいまだに結果を出せない俺は、その現実を受け止めぜる負えない状況においつめられていた。

この学校で進級できず留年することになれば、俺は否が応でも故郷の村に帰らなければいけない。

それだけは何とか避けなければいけないのだ。

それだけは……


「………」


俺は言い返しても現実は変わらないことがわかっているので黙ってその場を立ち去った。


キーンコーンカーンコーン


そうしてその日の授業は一通り終了した。

どの授業も何度も復習して頭に叩き込んでいた俺だが、最近はこの努力に本当に意味があるのかわからなくなってしまい授業も全然頭に入らなくなっている。


もう今日は帰って寝てしまおうと思い教室を飛び出すと担任の先生が困り顔で手をこまねいていた。

ああ、いわれることなんでだいたい想像がつく。


「結城、お前最近調子悪いよな。」


きた、おそらく来ると思っていたこの話題、わかっていたとはいえ俺は眉をしかめた。


「結城、世の中には適材適所って言葉がある、人生っていうのは自分に向いていることを見つけることが何よりも大切で難しいんだ。だから…」


にへらにへら、しながら俺の気分を害さないように遠回しに言ってくる。

言いたいことがあれば言えばいいのに。


にしてもよ……あきらめろってか。


先生は、その続きを俺が理解していることを理解したのか、その続きは言わずに話を占めくっくりにかかった。


「まあ、なんだ世の中には別の選択肢もあるっていうことは知っておいてくれ、魔法適正だけが人生を決めるわけじゃない。」


「…わかりました。 考えておきます。」


俺は、そういって先生に背を向けて校舎から出た。

ああ、今日はイライラする。

いつも通る道、いつも見る自動販売機、ひぐらしの鳴き声、そのすべてが俺を馬鹿にしているような気がした。

こんな日は、いつもと違う帰り道を通って帰るのがいい。

探検だ、冒険だ。

そう、都合のいい現実逃避だ。

俺は、いつもの帰り道と違う道を選んで帰ることにした。

いつもと違う道を通るといつもと違う景色や学生の姿が見える。

こんな日になんか新しい出会いでも生まれそうだ、女の子とあんましゃべないけど。

そうしているうちにあたりも暗くなっていった。


「やっべ、暗くなってきちまった、早く帰らねーとって、ん?」


そんな夕暮れ時に一つの物が目に留まった。

刀だ。

川のほとりに刀が落ちていたのだ。

それは、おもちゃなんかじゃない、人を殺せる殺傷能力のあるれっきとした武器だ。

なんでこんなものがここに落ちているのかはわからないが、大体の予想はつく。

この都市は、魔法使いが武器登録をきちんと行ったうえで武器の携帯が許可される、なのでこの刀はどこかの魔法使いの物だろう。


「しっかし、なんでこんなところに……」


そもそもこんな誰もが拾える場所におちていていいものではないのだ。

武器を持っている生徒の多くは魔法が使えるものであり、この近くの学校は桜火学園しかない、のできっとうちの学園の生徒の物であろうと俺は予想をつけた。


「よっとっ」


俺はその刀を明日学園に持っていこうと、その刀を拾いに川に降りた。

その刀はまさに日本刀と呼べるものであり、揺らめくようツバに、真っ赤な鞘、漆黒の紐が結んであった。

川のほとりとその刀、あまりに不釣り合いなその組み合わせが、刀の異様さと美しさを引き立てていた。


「まったく、こんなところに誰が落としたんだ。 ばれたらちょっとした罰じゃすまないぞ。」


俺は、その刀を持ち上げたがズシリといった鉄特有の重さはこず、その刀は羽のように軽く、ほのかに熱を発していた。


「変な刀だな、もしかしてやばいやつなのかこの刀…かかわらないほうがよかったかな。」


ただの刀ではないということは見てすぐに分かったが、手に持ってさらにその刀の異常性が伝わってきた。

刀はその使い手の鑑、きっととんでもない使い手の物だということはすぐに分かった。


「でも、放置ってわけにもいかねえしな、しかたないもって帰って、明日にでも学園に届けるか。」


俺は、その刀を持つと、暗くなる前に急いで家に帰りついた。

そのままバッグなどをすべて肩から降ろすと、手に持っていた刀を部屋の机の脚に立てかける。

しかし、その姿は見ていても美しいものだった。

すこしばかりその美しさに見とれていると、突然トイレがしたくなり、俺はトイレに駆け込んだ。


ジャアーー


「ふぅー、すっきりしたー っておおぉい!」


俺は、トイレを済ませて部屋に戻るとリビングで平然とカップで飲み物を飲んでいる人影に驚いた。


「なあ、驚くのもいいがチャック前回だぞ。」


「いやん‼」


俺は、とっさにチャックを閉める。

その女は、何でもないものを見たかのように平然としている。

そ、そんなことよりっ


「お、お前どこから入ってきたんだ。」


俺の問いかけに対して視線だけを向けて、とても洗練された動きで髪をたくし上げると、興味のないような視線で俺を見た。


「どこから入ってきたとは愚問だな、お前が私をこの部屋に連れ込んだのではないか、何をされるのか不安でしかたなかったのは私のほうだぞ。」


ん?何を言っているのかがすんなり頭に入って来ない。


「え、それはつまりどういうことだ?」


はぁー、とその少女はため息をつくともったいぶるようにためて口を開いた。


「刀だよ、私は君の持っていた刀さ。 そういえば信じてくれるか。」


そういって、その女は刀があった場所にちらりと目を向ける。

こいつは何を言っているんだ…俺の持っていた刀はそこに…ってあれ?


「えっ、か、刀がない、っていうことはお前本当に俺が拾った刀なのか?」


その女は、何にも言わずに俺の目を見つめ、そして口を開いた。


「そうだといっているだろ。 んー、この家にはお菓子はないのか、なあ坊主ちょっと甘いものを買ってきてくれないか?」


「いや、でていけよ。」


「ん?」


「ん? じゃないよ、お前が誰かの落とし物だっていうから、学園に届けようとしていただけだ、自分で二足歩行できるならとっとと帰るんだな。」


「そうか、じゃあ、この家を燃やされるか、お菓子を買ってくるかどっちがいい。」


そういって、少女はその手に炎の塊を出現させた。


「お、おちつけよ、そんなことしたらお前だって警察いきだぞ。」


「なんだ、この社会の人間は刀を捕まえるのか…ふふっ。」


「くそっ」


少女は俺のそういいさっさと家から俺を追い出した。

怖い、刀を盾にする奴なんて初めて見た。


「ったくなんだっていうんだ。 まあ、なんか俺が勝手に家に連れてきてしまったわけだし、近くのコンビニでなんか買ってきてやるか。」


俺は、しぶしぶその現状を受け入れた。

まあ俺は田舎者だからこの都会には知らないがいっぱいあるということだろう。

だから、人に変身する刀があってもおかしくはないんだ、俺が知らないだけだ。

俺はそうであると自分に言い聞かせ足早に近くのコンビニにむかった。


ぴろぴろぴろぴろーー♪


「ありがとーござーました。」


俺は、とりあえず適当に甘味を買って、コンビニから出た。

コンビニを出た外は妙に静かで肌寒い。

ああ、いきなり追い出されたから、ちゃんと服を着てこれなかったわ、もっとちゃんと着込んでくればよかった。

うーさむさむ。


「っ‼」

すると突然、黒服の男たちに周りを囲まれた。

えっ、ちょっとまって、黒服の男たちに周りを囲まれる理由には全く身に覚えがない……

しかし何の身に覚えがなくても、こいつらが俺に敵意を持っていることだけはその戦う構えから見て取れた。


まてまずは、誤解を解くのが大切だろ、こんなに細々と生きてきた俺が黒服男たちに囲まれる訳ないじゃーん、てへっ☆


「あの、すいません。 何か勘違いされていると思うんですが。 多分人違いですよ。 夜のコンビニに買い物してきたしがない学生なんですが……」


男たちは、何にも答えない。

するとその中の一人が口を開いた。


「炎黒刀をどこにやった。 お前が持っているんだろ。 それを渡してもらおう。」

エンコクトウ?

黒糖の一種か?


「あの、どんな奴か具体的に教えてもらっていいですか、コンビニにあれば買ってくるので……」


「ああん、ふざけているのかお前は‼」


男たちは、突然すごみ始めた。

ああ、これはれっきとした勘違いというやつだな。


「はて、そのエンコクトウとやらは知らないんですが。 やっぱり人違いじゃないですか?」


エンコクトウ? そんな美味しそうなのやつはあいにく持ってない。


「そちらがそんな態度なら、こっちにもそれなりの態度っていうもんがある。」


男たちはズンズンと距離を近づけてくる。

おいおい、わらえないよこれ……


「くそっ、どうやら相手さんはこちらのは足を聞く耳を持っていないようだ。 おらっ‼」


俺は、手に持っていたビニール袋を周りを取り囲んでいる男の一人にぶつけると、男が大勢を崩した少しの隙を見て、男たちの包囲網を走り抜けた。


「くっ、逃げたぞ‼」


後ろから、大勢の足音が聞こえてくる。


「なんかよくわからんが、そう簡単に捕まってたまるかよぉ‼」


どうやら俺の田舎の山の中で鍛えた足は、大人の足の速さに勝るようだ。

どんどんその大人たちから距離を話していく、家に帰る前にはまきたいところだが……


俺は、道の角をランダムに進み、大きく遠回りをするように帰路についた。

この都市は、発展が進んでいる代わりに闇のある都市伝説が流れていたりする。

きっと、俺の知らないところで事件が起きていて、その当事者と俺は勘違いされたんだろう。

余計なことにはかかわらないのが吉というわけだ。

俺は住んでいるマンションの前までたどり着いた。


「まあ、これでまけただろう、とっととメイド女にお菓子食わせて、明日大学に届けよう。」


ただいまーっと

ドッカーン

その瞬間、俺の部屋が爆発して消し飛んだ。

恐らくその爆発で飛んだろう物であろう黒い煙が俺の部屋から噴き出していた。


「うそ、だろ……。」

俺はあっけにとられてその場を動けなかった。

するとその煙の中からメイド服の女が飛び出してきた。

あの爆発だ大けがを負っているかもしれないと思ったが、実際には無傷のようだった。

だが、俺の姿を見ると苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「おい! お前大丈夫か⁉」


「人の心配している場合か? 危ないのはあんたよ。 とっとと逃げるぞ。」


気がつくと周りにコンビニ前であったやつらと同じように黒服を着た男たちが周りを取り囲んでいた。


くっそ、こいつらみんなおんなじ顔しやがって、どこからでも出てくるのか。

爆風によって空を舞ってた少女は、俺の隣に着地すると俺の手を握ってきた。


「私で戦え。 魔力の供給も私が手伝う。」


メイド服は、俺の目を真剣に見つめてそういった。


「お前で戦う? ってどういうっておい。」


少女は、そういったかと思うと炎につつまれ、その炎の中から抜き身の刀として飛び出してきた。


「そういうことかよっ!」


俺がの刀を握りしめた、その時だった。

ドクン、ドクンと心臓が鼓動を打つのを感じた。

確かさっき、あの女は魔力供給を手伝うって言ってたよな。

もしかしてこれが魔力を持つっていう感覚か、全身が厚くて力があふれてくる。

その力の激流は一時のことで、次第に落ち着きを取り戻した。

魔力が体の中で正常な循環を始めたのだ。


「よし、行くぞ‼」


俺は、大きく飛び上がると取り囲んでいる男たちの頭すら飛び越え、その男の中の一人の頭を踏みつけてその群衆をとりあえず振り払った。


俺は、とりあえずそいつらから距離を離すように、住宅街の屋根を飛び移って高速でその場を離れた。

何故だかわからないが、頭で意識しなくても勝手に体が動く。


「メイドさん、とりあえず振り切ったけどこれからどうするんだ?」


俺は、爆発した家、追ってくる謎の男たち、この二つをどうするのか意見を聞こうとしたが、メイド服から帰ってきた言葉は、俺をさらに急き立てた。


「おい、油断するな、一人、いや二人の魔力がすごいスピードで追いかけてきている。 このままじゃ追い付かれるぞ。」


その警戒心を表すように刀身がぎらぎらと点滅した。

思わず周りを見渡す。

右を見ても左を見ても後ろを確認しても誰もいない


「誰もいないぞ。」


「いや、いるぞ、目の前だ。」


「はっ‼」

その瞬間だった。

目の前に既に長身の男が立っていた。

白いシルクハット、白いスーツ、赤いネクタイ、そして顔の下半分をおおう黒い布、この夜の暗闇に対してその存在を誇示するかのような存在に俺は釘づけにされていた。


「おーや、そりゃ手下の雑魚どもがてこずるわけだ。 炎の賢者が今日であったばかりの人物に手を貸すなんて。 どーやら契約はまだしていないようだがね。」


そいつはすでに鼻と鼻がくっつくぐらいの距離で語りかけていた。

俺は、固まってしまっていた。

逃げれないとか、動けないじゃない、どうしていいかわからないのだ。

今がどういう状況で、俺はその状況に対してどうアクションをおこせばいいのかがわからなかったのだ。


「まあ、面倒な芽は早いうちにつむに限るね。」


男がそういった後、俺の視野の中の世界は急に動き出した。

いや、俺が横に吹っ飛んでいるのだ。

蹴られた? 

いつのまに?


「くはっ‼」


俺は、くの字に体が折れ曲がり、そのまま吹っ飛んだ。

そしてそのまま近くにあった公園のジャングルジムにめりこんだ。


「あ、ああ……」


ああ、身体の前進が針で刺されているかのように痛い。

ジャングルジムがひしゃげていて、俺の骨が粉々になっていないのはきっと体をめぐっているこの膨大な魔力のおかげだろう。

それにしても全身が痛い事には変わりはなかった。


「い…痛ってえ。」


しかしがおぼろげだが、男が俺に追撃を食らわせるためにこっちに歩いてきているのが見える。

このままじゃ、また……


しかし、さっき、あいつが目の前に車で俺は気づくことができなかった。

恐らく、あいつと俺の実力の差は明白だった。


(このままじゃ、勝ち目はないな……けど…)


俺は、ある一つの事実を理解していた。

そんなに早く動ける男がなぜこちらにゆっくり歩いてくるのか、その答えは簡単だ。


あいつ俺をなめている。


そう、そこにつけ入るスキはあるはず。


「おい、メイド、聞こえてるか。」


俺は体を起こして、ひしゃげたジャングルジムから飛び出すと、こちらにゆっくりと歩いてくる男に対して構えをとった。


「聞こえてるわ、にしてもこれは面倒な奴が来たわね。」


「追われてるのはお前なんだよな、なんで追われているんだ。 こころあたりは?」


「すまんな、いくつもあることに対しては数えないことにしているんだ。」


「お前なぁ…」


すると次の瞬間、そのシルクハットの男の手に炎が収束し始めた。

男の手のひらに炎が渦巻くように凝縮されていく。


「まーいーや、所有者だけ燃やしてしまおうか。」


「おいメイド‼ なんかすごい力みたいなものが集まっているぞ。 それとなんか物騒なこと言ってる‼」


メイド服の女もその力の強大さを感じたのか刀の状態のメイド服の女が叫んだ。


「おい、まずいぞ、あの攻撃を食らえばお前は死んでしまう。」


「それはわかる、単刀直入にどうすればいいかを聞いてんだよ‼」


「私と契約するんだ。」


でた、契約だ。 さっきのやつも契約とか言っていた、こいつらは俺の知らない言葉をよく使う。

今までだってそうだ。

いままで学園で過ごしていて、誰もが簡単にできることでさえ俺は一つもできなかった。

誰にやり方を聞いても感覚的なことしか教えてくれない。

なんだよ、仲間外れみたいじゃないか。

才能がないから、はい終わりってか。

俺は、変わりたい一心で嫌な村から逃げ出すように上京してきた。

ジョーダンじゃない、こっちでもうまくいかずに、村に戻ることになるかもしれないなんて。

悪魔でもいい、神様でもいい、何でもいい。

変わりたい、そのためにどうすればいいのか教えてくれるなら、見せてくれるなら契約でも何でもしてやるぜ‼


「わかった、契約するぞ‼ どうすればいい。」


俺は、結審をして刀の柄を強くつかむ。


「接吻をするんだ。」


せ、接吻⁉ 接吻って言ったかこいつ⁉


「おいそれってキスのことか?」


「ああ、それ以外何がある?」


「お、追い待てよ、俺はこの純潔を散らすわけにはいかないんだ‼ キスだなんて……安売りしないぞ俺は。」


「はぁ、何を言っているんだお前は、…なあお前、女と手をつないだことはあるか?」


ギクッと俺の肩が飛び跳ねる。


「あ、あるよ、それくらい。」


「母親抜きでだぞ」


「お、おう」


「親族も抜きだ。」


「うへっ、へへへ。」


俺は、何とも言えない気持ちの悪い笑みを浮かべてしまった。


「ええい、どうせお前など、一生独り身なのだ。 下らんプライドは捨ててキスすればいいだろう‼」


一生独り身……


「ひ、ひどい、俺の純情が傷つけられた、謝れ、泣いて謝れ‼」


「泣いてるのはお前だろうに…」


情けなく涙目を浮かべる結城を一瞥すると、周りの大気の分子が一度に慌てるように振動した。


「なんやら、相談事は終わったかぁ、人目についても面倒だし、終わらせるぞぉ。」


その時、ついにシルクハットの男から大きな火の玉を飛ばしてきた。

もう眼前まで迫っている。あと少しで俺らまとめて丸焦げだ。


「いいからキスをするのだ‼」


そういいながら、いつの間にか人間の姿に戻っていたメイド服の女は、俺の襟を強引につかみ俺の唇を奪った。


「ああん‼」


ッぶちゅー

その唇と唇が触れている瞬間、脳内に直接語りかけられた。


「小僧、名前は‼ 私の名前はカレンだ。」


「お、俺の名前は結城、最上結城だ。」


「よし‼ 最上結城、お前を私の契約者として認めよう、お前は私を契約者として認めるか。」


はっ、俺の唇を奪っておいてそれはねえだろ。

答えはもうとっくに決まっている。


「ああ、俺も認めるよ。」


そう頭の中で答えた次の瞬間に火の玉は俺に着弾し爆発した。

近くにあったブランコやジャングルジムはあまりの熱によって溶けてドロドロになり地面の土は周りにはじけ飛んだ。

誰が見ても、それはすべての生命を根絶やしにする地獄の業火であると思っただろう。


そして、その爆心地にいた俺はというと


「いってえ、結局痛いじゃないかよ。」


「肉片になっていないだけ奇跡だと思いなさい。」


と、ジョーダンが言えるほどには無傷だった。

けれど、それはあくまで死なずに済んだというだけで、目の前にいるこの敵がいなくなったわけではない。

シルクハットをかぶったその男は今にもこちらへと歩いてきている。


「ほぉー、契約を交わしたか。 必死だな炎の賢者よ。 どれ、見せてみろ。」


男はそういうと突然、視界からが掻き消えた。

次の瞬間視界がグルンと回転した。

何事かと思うと、男は俺の足をつかみあげていた。


「うわっ、くそっ、はなせっ‼」


「んー、綺麗な紋様だねぇ、もしかしたら君、案外掘り出し物かもね、なぁ炎の賢者よ。」

綺麗な紋様?

俺の体に紋様なんてものはないぞ?

そう思って俺のお腹をよく見るとへその周りに入れ墨のような紋様が浮かび上がっていた。


「なんだこれは、もしかしてその契約なんちゃらの影響か。」


「そうそう、ご名答。 感がいいねキミ。 この紋様は、カレンとの契約のしるしのようなも

のさ。」


そういって、男はとがった切れ目で、俺の体をなめるような目で見てくる…正直気持ち悪い。


「っ…っていうか、その炎の賢者ってカレンのことを言っているのか、この刀の人格の。」


「へー、名前を知っているということは本当に正式な契約を結んだんだね、それに炎の賢者は、正確にはその刀、炎黒刀に封印されているといったほうが正しいがね。」


ああ、今日は難しい言葉ばかりが出てくる。

わからないことは考えない方がいいと俺は決めている。

しかし逆にわかることは今の状態じゃ目の前のこいつにはかなわないっていうことだ。

というかこの刀ってそんな中二病チックな名前をしているのか、なんかやだな


「もう最善は尽くした。 煮るなり焼くなり好きにしろ。」


「え、ほんとに? んーでも君このままほおっておいても多分死んじゃうよ。」


男はそういってにやりと笑う。


「ならお前の好都合じゃねーか、このまま放置して、お望みどうり死んでやるよ。」


俺は、抵抗できない状態であるとわかっていても、最善を尽くしたことからくる自信や諦めから俺はもう自暴自棄になっていた。


「んー、ただ力の制御はまだへたくそかな、いやはやライトノベルの主人公じゃあるまいし体内の魔力回路を炎の賢者が強引に開いたもんだから回路が傷ついている。 今は、破壊と再生を繰り返しているから何とか保っているというわけか。」


男は、何やら俺の分析を行っていた。

しかし、言っている内容が早口なのと小難しいのとで、俺には理解できなかった。


「んん? ああ、どうやら何を言っているのかさっぱりって感じだね。 いいよ、どうせ放っていても死んじゃうんだし教えてあげるよ。  『縛』」


その男が『縛』と唱えた瞬間、俺の体は指先一つ動かせなくなっていた。


「君、うちの学園の最上結城君だよね、話には聞いてるよぉ。 学年最下位だってね、ろくに魔法も使えやしない。 見たところ、君の魔力回路は一度も使用された形跡がないようだ。」


男は、身動きの取れない俺の周りをぐるぐると回りながら、説明口調で話を進めていく。


「そして今、干からびた砂漠のような君の魔力回路に、炎の賢者との契約による魔力が一度に流れてきたわけだ。 これが、意味することとは、なんだと思う? 結城君」


「も、もが、もがが」


「ああ、そうか、『縛』ですべての体の自由を拘束しているんだった。 ごめんごめん。 ひょいっと。」


そういって男は、無造作に手を振った。


「ぷはっ、しゃ、しゃべれる。」


「んで、しゃべれるようになったところで話を続けようか、もう結論に入るけど、君の魔力回路は、炎の賢者の魔力の濁流に耐え切れず崩壊を始めている。 今、君が平然を装えているのは、炎の賢者の魔力の特性である治癒能力によるものだ。」


「じゃあ、その崩壊と治癒のバランスを保てば…」

「保てると思うかい?」


男は俺の発言にかぶせるようにそう言ってた。


「おっと。おしゃべりの時間はここまでみたいだね。」


「あれ、熱い、体全体が…熱い。」


身体が焼けるように熱い、ああ、まるで体全体が燃えているかのようだ。


「あ…あぎゃあががああううう…」


俺は壮絶な体の痛みに、そこらじゅうを転げまわった。


「ま、面白そうなんで、壊れちゃう前に蓋するか。」


悶えながらも、視界の端に移るシルクハットの男がそんなわけのわからないことを言っているのだけは聞こえた。

そしてそいつは、右手をパーにして高く掲げた。


「一体何を…」


次の瞬間、男の手がぶれるように消えたかと思ったら、俺の腹にとてつもない衝撃が走った。

俺の世界はそこで暗転した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


じりりりりりりりりりりり………


いつも通りの忌々しいアラームで目が覚めた俺は、目を開けて一番に目に飛び込んできた太陽の光に思わず顔をしかめた。


「うっ、まぶしいな」


瞼を閉じていても感じる光のまぶしさに俺の意識は覚醒し始めた。

目を開けるといつもの俺の部屋の天井だった。


「そ、そういえばここは爆発したはずじゃ…」


しかし、周りを見渡すとそこには、昨夜あった爆発の痕跡なんてかけらもなかった。

ここで俺はある一つの結論に行きつく。


「もしかして、全部夢だったのか。 はぁーずいぶんリアルな夢だったなー。てへっ☆おれってばもうー。」


「夢ではないぞユーキ」


「ぎゃーーー‼」


俺が、体験したことをすべて夢で終わらせようとしていたら、突然脳内に話しかけられた声に現実に引きずり出された。


「もしかして‼」


俺は、机の方を見ると、そこにはちゃんと赤い鞘の立派な刀が立てかけられてあった。


「おや、いいレプリカの刀を持ってきてしまったもんだ。」


「おい、現実逃避をするな。 第一、こんなに美しいレプリカがあってたまるか、目が覚めたのだな、おはよう。」


「ってててことは、あれはすべて現実ってこと。」


「そうだ、あの後、あの男に気絶させられたお前はこの部屋まで運ばれたわけってことよ。 そしてそのあと部屋の破損部分を一通り直した後に奴は帰っていったわ。」


カレンは、人間の形に変わるとその刀の状態では読み取れないふてくされた顔を表した。


「それになあ、お前と私は、もう主従の関係で結ばれているんだ。 肝心のご主人様が激よわの気絶じゃ、私も動けんくなる。」


そういいながら、カレンは俺のベッドのそばに座った。


「よし、脱げ。」


「は?」


こいつは、何を言っているんだ。


「いいから脱げと言っている。」


「や、やめて、唇だけじゃなく、色んなはじめ手を奪う気かお前は、そうはいかせんぞ。」


俺は、がっしりと布団を抱きしめて、体を隠すようにガードした。


「い、い、か、ら、脱げといっているだろう‼」


カレンは、力任せに俺の布団をはぎ取り、来ていた服をめくった。

そして、クシャリと顔をしかめた。


「やはり、やつめ変な細工をしよったな。」


カレンが見つめる視線の先にあったのは、結城のお腹一面に刻まれた入れ墨のような紋様だった。


「なんだよ、これ… 洗ってとれるのか…」


「バカ、洗ってとれるわけなかろう、それは呪印だ。」


「呪印?」


「ああ、お前も意識を手放す前に奴から聞いていただろう、お前の魔力回路は、私の膨大な魔力に耐え切れず悲鳴を上げておったのだ。 恐らく奴は、私とお前の魔力経路のパスに制限をかけたのだろう。」


「それって、制限つけてないとやばいのか?」


「ん? なら試してみるか? 高度な術式の呪印とはいえ、私レベルであれば解くことは造作もない。」


そういって、カレンは、俺のお腹に書かれている紋様を指でなぞった。


「え、ちょっおま」


その時だった。


体中の血液が沸騰したように、全身が発熱し始め、汗が蒸発し、全身が焼かれるような感覚に陥った。


「うーん、やはりまだお前には厳しいな。」


そういって、カレンは腕を横に振った。

その瞬間から、その燃えるよな力の奔流が止まり、静寂が訪れた。


「なにこれ、息できないんだけど、あの衣装これやらないでもらえます。」


「しかし、これは私にとっては、体に鎖をつけられている感覚で気持ち悪いのだ、これはお前の特訓次第だな、しかし昨日の件でお前の魔力回路も機能し始めているぞ。」


「えっ、うそっ、それってつまり…。」


俺は、頭をふとよぎったある仮定を確かめるべく、右手のパーの状態にして前に差し出した。


「スプラッシュウォーター‼」


結城がそう唱えると同時に、結城の手から、ひねった蛇口から出る程度の水が噴出した。


「おお、使えたな魔法。」


「やった…やったぞー、魔法さえ使えれば、俺はこの学園を去らなくても済む、ありがとうカレン、ありがとうこの世界‼」


「ふむ、その調子で子の忌々しい呪印がなくても私の魔力を受け入れることができるようになるまでに魔力回路を拡張してほしいものだが。」


「ん? 魔力回路って拡張するものなのか? 生まれつき魔力回路の大きさって決まっているんじゃ。」


「は? 筋トレしても筋肉は増えないといっているぐらいおかしいことを言っているぞお前。」


何を言っているんだっていう顔で俺の顔をカレンは覗き込む。


「魔力回路は使用した頻度で洗練さが増していく、全力より大きな力を使えば少しずつではあるが、魔力回路は拡張していくのだ。 まあ、今の時代、戦争もないから限界まで魔力回路を使うという経験自体が珍しく、軟弱な人間が多くなってしまっているららしいがな。」


「つまり、俺はまだまだ強くなれるってことか‼」


「そういうことだ。」


俺は、新たな未来への希望を加味し寝ながら、ベッドへとダイブすると、置時計が目に入った。


「ってあれ、もう登校時間すぎてるじゃん、やっべ、早く登校しないと‼」


俺は大慌てで登校の支度をして外に飛び出た。

その時、気が付いた。

身体が異様なほど軽い、風を切るように早く動けるし、今ならフェンスだって飛び越えることができそうだ。

やっぱり俺に魔力が流れているんだ。


俺は、その事実にただ感動を覚えていた。

俺、まだまだ終わりじゃない、どんどん可能性がある‼


「これなら俺も、この学園でやっていけるっ!」


俺は、肩が軽くなったように登校していたら、いつもよりも早い時間についてしまった。


そしていつものように自分の席に向かっていった。


「あれ、俺の席がない。」


いや、大体の犯人は想像がつくんだが。


「よう、しょうも懲りずまた来たのか、昨日先生と話しているところ見たぞ、きっと退学でもやんわり諭されたんだろ。 だからもう来ねえだろうと思って机をかたずけておいたんだが。」


はぁ、どうせこいつだと思った。

最近の俺がいよいよ追い詰められていることを悟って、こんなことをしたんだろう。


この昨日も俺に難癖付けてきたヤンキーの名前は、織田流星、いっつも出来損ないの俺のことを馬鹿にしてくるやつだ。


俺は、いつものように無視をして、その場を去ろう、それがこういうタイプには一番の得策だ。


「なんだこいつは、私の主人に対して失礼な奴だな。」


その態度に刀の状態で腰に刺さっているカレンが不快感をあらわにする。

しかし、俺はこいつとは張り合うつもりはない、争うのはあまり好きではないからだ。


「カレン、別にいいだろう、机ぐらい探せばいい。」


「おい、なんだ、戦わないのか。 私がついているのだから負けることはないぞ」


「もういいんだ、張り合っても仕方ないだろ」


俺がカレンにそういい、流星の隣を通り抜けようとした。

その時だった。


「おい、その腰に下げているみすぼらしい刀は何だ。 そんなものを下げて強くなったつもりか。 才能がない奴が何をしても無駄だということがなぜわからない。 お前も恥ずかしい奴だな。」


プチン、何かが切れる音がしたような気がした。

その時、俺の右手が流星の頭をガシッとつかみ投げ飛ばした。


「ああ、もう我慢ならん、ご主人をこれ以上侮辱するというのであれば、体でもってわからせてやるしかないな。」


おい、何やっとんねん。


いや、俺の右手勝手に動いてますやん、自立してますやん。


「おい、お前もしかして俺の体乗っ取れるのか、右手の力が大きくなったかなと思ったら自由が利かなくなったんだけど。」


「ああ、実際は乗っ取っているというより、お前の魔力回路を操って、体の神経に作用することができるといったほうが正しいな。」


「ふーん。」


「えっへん。」


「って何やっとんじゃぁー‼ 投げ飛ばしちゃったよ劉生くん、壁にめり込んじゃってるよう流星君」


俺は、壁にめり込んだ流星を見る、どうやら壁から抜け出そうとしているらしい。

彼の舎弟か何かであろう何人かが流星を引っこ抜こうとしている。


「おいおい、これどうすんだ。 だいぶ哀れなことになっているぞ、俺、このせいで退学になったら笑えないんだけど。」


そんなこといってる間に流星は体を壁から引っこ抜いた。


「おい、よくもやってくれたな、この学園内での暴力はご法度だぞ、今すぐに学園に訴えて退学にしてやる。」


「ほう、ではお前はこのご主人より弱いということを認めるということだな」


「なんでそうなるんだよ‼」


カレンは、俺を乗っ取ったまま話をつづけた。


「誰かに頼るということは、一人では解決でき名合問題に直面した時に行う行動だ。 お前も力で私をねじ伏せればいいだろう。 よって、すぐに学園に頼ろうとするお前は、私よりも弱いですといったようなものなのだ。」


「た、確かにそれはそうだが…なんかお前いつもと雰囲気違うくないか…」


流星はいつもとしゃべり方から雰囲気まで違う俺に違和感を感じてた。


「おいカレン、怪しまれてるぞ‼ そろそろ主導権をわたせ‼」


「ふん、どうせお前は、この場を何となくで終わらせるつもりなのだろう。 逃げてばかりではつまらん、今のお前に逃げる理由など一つもないのだ。 箱舟に乗ったつもりでどんとまかっせるがいい。」


「やだよ、何するかわかったもんじゃない。 俺は、平和が好きなの‼」


「たとえそれが、負け犬でもか…」


負け犬…

その言葉が俺の心に深く突き刺さった。


「おい結城、聞いてんのか‼ 俺にこんなことしといて、ただでは済まないって言ってんだよ。」


気づいたら、流星とその取り巻きが集まってきていた。

その騒ぎを聞きつけたのか、多くのギャラリーも集まってきた。


「負け犬は嫌だ。」


「ああぁ‼ 声小さくて何言ってるかわかんねえよ。 もっとはっきりしゃべれよ、この最底辺がよ‼」


流星は、取り巻きとそのギャラリーを味方につけたと思い込み、さっきの驚いた顔を一変させて、でかい態度になっていた。


「負け犬は嫌だって言ってんだよ。」


カレンは結城の覚悟を認めたのか既に体の主導権を俺に渡していた。


「流星、俺は今日からお前のすることに対して、徹底的に抵抗する。 今後はそのことをしっかり理解して俺に嫌がらせをするんだな。」


「ぬるい」


あれ、なんか俺の口が勝手に。


「そんなことではぬるいぞ。」


あれ、カレンさん。


「決闘をしよう。」


カレンさん⁉


「私が負けたら、私はこの学園をやめよう、逆に私が勝ったらお前は今後私に一切かかわるな。」


んな、そんな、はるかに相手が有利な条件じゃないか。

それに、退学なんて…


しかし、周りのギャラリーは結城に憑依したカレンの決闘宣言に大歓声だ。



「わかった、いいだろう、今日の夕方、魔術訓練場で決闘だ‼ いまさら逃げ出すんじゃねーぞ‼」


するとすでに周りにできていた野次馬の集団から一人の青年が飛び出してきた。


「結城くん、どうするのさこんな決闘宣言しちゃって、今の一撃はたまたま不意打ちだから当たっただけであいつは名門の一家の子供で成績も上位者だ‼ 勝てるはずがない‼ き、君負けたら学校をやめるっていっていたけれど、君はこの学園にいたいんじゃないのかい⁉」


突然出てきたと思ったらまくし立ててきたこの少年は、小暮竜間、俺に次に学年で成績が悪いいわゆるワースト2だ。

だから、同じ穴の狢という意味で交流がある人物だ。

こいつも流星から少なからずいじめを受けており、そういった点で仲間意識がある。


「大丈夫だ、安心しろ、策はある。」


カレンの力でぶっ飛ばす、それが作戦だ。


「ゆ、結城君、君がいなくなってしまったら、僕は、僕は……」


ああ、悲しんでくれてるんだな、大丈夫俺は負けないから


「僕は、ワースト1になってしまうじゃないかぁー‼」


「ってそこかよ‼」


っと、体の主導権がいつの間にか戻ってたみたいだぜ。


そうして、一波乱終えた後、野次馬は解散し、俺と流星が決闘をすることになったという噂だけが広まっていった。

俺、いや俺たちは引くに引けない状況になってしまったというわけだ。


「ああ、ああ、かわいそうな結城君。」


隣では竜間が俺の未来を見るかのように何もない空中を眺め、ぶつぶつとぼやいていた。


ということで、脳内会議を始めます。


「カレン、いや、カレンさんこれは一体どういうことですか。」


「はいはい、お前の言いたいことは十分に分かっている。」


「いーや、わかってないね。 お前、あの場は我慢してやり過ごせばよかったの‼」


「お前は、見たことのない世界を見たいんじゃないのか? だから私と契約を結んだんじゃないのか?」


「それは‼そうだけど…でも俺には無理だよ…」


「はぁ、これは重傷だな、お前は記号におびえているんだよ。」


「記号?」


「そうだ、劣等生、流星、失敗、その言葉ばかりを恐れている。 お前が一回でもそれらに立ち向かったことがあったか。 それらの正体がなんであるかを調べたことがあったか。 お前には、私がついているできるはずのことをできないと思い込むのはもうやめだ。」


できるはずのことをできないと思い込むか…確かにそうかもしれない。

俺は、できないに逃げていたのかもしれない。


「カレン、協力してくれるか。」


「お前と私は、契約しているのだぞ、一心同体、一蓮托生だ。」


カレンの力が、ものすごく強いことはわかっている、きっと勝ってくれるだろう。というか勝つ。


そんな感じで一日の授業が終わり、クラス、いや学年中が注目していた決闘の時間になった。

既に会場には、野次馬がぞろぞろと集まりどちらが勝つかなどの賭けをそしてからかっている人々もいた。


そうすると魔術訓練場の入り口から、ギャラリーへ手を振りながら、のっしのっしとまるで儲かったかのように流星が歩いてきた。


「よお、結城、ボコボコにされる覚悟はできてるんだろうな。」


「ああ、できるだけケガさせないように手加減するよ。」


大丈夫、カレンのと契約を結んでから勝てる気しかしない。

大丈夫、勝てるはずだ。


すると、審判らしき生徒が訓練場に入ってきた。


「では、決闘を始める。 ルールは、攻撃は素手のみ、両者が降伏、戦闘不能になったらそこで決着とする。」


え、武器なし? 聞いてないけど? 俺の意見とか聞いていかなくていい? あれ、これ詰んだ?


「両者、それでよろしいですね。」


え、よろしいわけないだろ、カレンの力がなければ俺はあいつに勝てる見込みはないんだけど。


仕方ない、怪しまれてでもいいからお願いするしかない。


「あの、武器を使うのを許可してほしいんですけど……」


俺はおずおずと申し出る。


「しかし、武器を伴っての決闘は死人が出る場合がありますので、通常の場合には武器は使用しないという決まりなのですが。」


くそっ、どうする。 このまま素手で戦っても勝てるはずがない。


「いいじゃない、やらせてあげない。 危険になったら私が止めるわ。」


その時だった。

誰も気づかなかった。

気づけばそこにいた。

きっと俺がきっとこの人と戦ったら負けたことにすら気づかないだろう。

そしてそいつは、眼鏡をかけた一人の少女だった。


「か、鑑様、どうしてこのような物騒なところに」


決闘の審判をする予定だった生徒が突然狼狽しだした。

この女は、鑑というらしい、あそこにいたことに気づかなかった、それともずっとあそこにいたのか。


「いや、なんか新入りの一年生が決闘をすると聞いて見に来たんですよ。 それはそうと審判さん、少年は武器の使用を求めているようですね。 危険になったら私が止めますので武器の使用を許可してあげてください、それでいいですか。」


「し、しかし、鑑様、規則では……」


審判の生徒は、規則だからと譲らない。


「それとも、私のことは信用できませんか?」


「い、いえ、そういうわけでは」


しかし、あの圧力には勝てなかったようだ。

鑑さん、いったい誰だか知らないが、ナイスだぜ。


「はい、そういうことで始めましょうか。」


よし、俺は刀の状態のカレン、もとい炎黒刀を腰に構えた。

そしていよいよ始まるかという雰囲気になってきた。


「フォー、書記ちゃんー、いきなりいなくなったと思ったらなんか面白そうなことに首突っ込んでんねえー」


「会長‼ 鑑さんも‼ 会議中ですよ‼ というか鏡さんいつからいなくなってたんですか。 会長が言うまでわからなかったですよ。」


その雰囲気をぶち壊す勢いで、なんだか賑やかな人たちが二人やってきた。

その二人を見て、その鑑という女性も苦虫を噛み潰したような顔をした。

どうやら、何やら言い合いをしているようだ。


「このままではらちがあきませんね。 見ればわかるでしょう決闘です。 審判です。 二人とも、ここにいるなら観客席にでも行ってください。」


「んーわかったー。」

「すいません、すいません。」


そういわれた二人、というか会長と呼ばれていた方とその連れが観客席に向かっていった。

会長が、近づくとその周りの人たちは、まるでモーセが滝を割るように席を譲った。


「と、とりあえず武器の使用の許可は下りたってことでいいな、じゃあ始めようか。」


俺は炎黒刀を構えると、刀を抜いてその刀身をさらす。

その俺の姿を見たのか鑑さんは開始の合図をした。


「では、はじめ‼」


これは最初から予測できていたことだ。

流星は、簡単に言えば流星は俺をなめきっているんだ。

だから、自分からが責めない、あえて相手から攻めさせて、実力の差をわからせたいんだ。

あいつは、そういうやつだ。


「どうした、ご主人、攻めんのか? 相手はがら空きだぞ。」


「いや、よく考えたら、お前と契約結んでから、一日もたってないんだよ、戦闘スタイルってもんがそもそもないから、攻めるにもどう攻めたもんかと。」


「ふむ、じゃあ私の言う通り動いてみたらいい。」


「うっし、わかった。 何でも来い‼」


「相手に向かってジャンプしろ」


俺は、流星に向かってジャンプした。

地面にはミシミシときしむ音をあげ、風圧で審判をよろめかした。

飛ぶというより足裏の謎の力で放り投げられるという感覚に近かった。

そしてすでに、俺は流星の目の前まで迫っていた。


「そして、キックだ。」


俺は、流星に向かってそのままキックを繰り出した。

流星を蹴るというよりも空間を蹴っているという感じだった。

空気の抵抗をこれほどに感じたのは初めてかもしれない。


俺はそのまま蹴りぬいた。

ズドン‼

流星の体は既にそこにはなかった。


「カレンさん⁉ 次はどうすればいいんですか⁉」


「……考えてなかった。」


「おいいいいいい」


俺はそのキックの体制のまま訓練場の壁に一直線に飛んで行った。

そしてそのまま激突かと思い、思わず目をつぶったその時だった。


俺が目を開いたら、世界は反転していた。


「おーおー、少年、君すっごいねー、けど粗さが目立つね。」


俺は、さっき会長と呼ばれていた少女に片足をつかまれて宙ぶらりんになっていた。


っていうか武器の使用許可を求めたのに武器使わないまま終わっちゃたよ、どうすんのこれ、観客席の人たちも、早く勝負がついたことよりも、鑑様が武器の使用をせっかく許可してやったのによぉ、という顔をしていた。


「はーはっはっはっはー、これは実に面白いものを見せてもらったよ。 相手の彼は、どうしてこの決闘を引き受けたのか、判断力を疑いそうだよ。」


「会長、彼は退学ギリギリの劣等生だったはずです。 しかし、今の動きは、正直油断したとはいえ、私も視界から外してしまいました。」

「へぇー、彼が退学間近の劣等生ねぇ、にわかには信じがたいけど、茜がいならそうなんだろうね」


どうやら、会長さんにつき従っている女性は茜さんというらしい。


その会長さんは片手でぶら下げている俺のことを値踏みするかのようにじろじろ見る。

そしてその眼は、俺の刀にとまった。


「ふむ、どうやら、その刀に秘密がありそうだ。」


会長は興味津々といった顔で俺の炎黒刀に触れようと手を伸ばした。

しかし、彼女が炎黒刀の柄に触れた瞬間、彼女の手は炎に包まれ、会長の手の表面は焦げるどころか焼けただれていた。


「か、会長‼ 貴様、よくも会長に攻撃を‼」


「おい、カレンやめろ‼」


茜さんはその現状を俺が会長に攻撃したと思い、激高した。

俺も思わず叫ぶ。


「茜、やめなさい。 どうやら失礼を働いたのは私の方みたいだから。」


「会長…」


会長は、怒りに狂う茜をなだめた。

気づけば会長の右手は、光に包まれて修復されている。これも魔法なのかすごいな。

そして会長さんは、右手を顎に当てると、考えるようなしぐさをした。


「うーん、もしかしたら茜よりも強いかもねぇ。」


「か、会長‼ 私がこんな奴に負けるとでも思っているんですか‼ こんな宙ぶらりんの男に。」


こんなやつって、そこまで言わんでも、っていうか宙ぶらりんなのは会長に言ってください。


「ねぇ、少年、名前は。 私の名前はカミーラよ。」


「結城、最上結城といいます。 というかおろしてもらっていいですか。」


「ああ、ごめんごめん、忘れてた。」


会長は、足をつかんで宙ぶらりんにしていた俺を地面に下ろした。

そして、何やらに奴いた笑みで俺を見下ろしてきた。


いや、なんか嫌な予感がするんだが…


「ねぇそれじゃあ結城君、そこにいるあたしの付き人の茜と戦ってみない?」


「何がじゃあなのかはわかりませんが、嫌です。」


「会長⁉ 何言っているんですか⁉」


茜と呼ばれたその女の子は会長の突然の提案に驚く、俺は何を言われても断るつもりでいたから、たいして驚かなかった。

周りの観衆もざわつく。


そして、そんなざわめきを一蹴するかのように会長は声高らかに告げた。


「今から、私の付き人の茜とこの少年、結城君の模擬試合を始める‼」


「会長、模擬試合は許可を取ってからじゃないといけないんじゃ。」


茜さんは、困り顔でそう言った。

というか、俺、まだやるって言ってないんだけど。


「いいよ、すべての責任は私がとる。 それとも劣等生に負けるのが怖いかい茜。」


明らかに見え見えの挑発だ。

こんな挑発にはさすがにかからないだろう。

こんないきなりの勝負とっとと否決して、帰れると思ったのだが…


「そ、そんなことはないです。 簡単に勝利を収めることができます。 いいでしょう、やります、やりましょうとも、かかってきなさい、このへなちょこ男‼」


ええー、簡単だな、おい! というか…


「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ。」


俺は、がっくりうなだれる。

この茜という人は口が悪いようだ。

もう呼び捨てで茜と呼んでやろう。


「じゃあ、はじめようかな。 結城くんかな? 準備はいい?」


「俺まだやるって言ってないんですけど。」


「いいのかな、君は知らないだろうけど、教員のみで行われる会議では君の退学は決まっているもんなんだ。 すべての手続きが済んでから、最終的に君には退学が言い渡される。 君が今からどれだけ頑張ったって、君の退学は覆らないところまで来ているんだ。」


「な、なんだって……嘘だ。」


「嘘じゃない。 私も仮には生徒会長だ、こんなにギャラリーが多くいる中で嘘なんてついたりしないさ。 まあ、信じなくて損するのは君だけどね。」


「じゃあ、俺はもう何をしても、何をあがいても無駄なのか。」


「だから‼ この決闘の結果次第では、私が君の退学を取り消してあげてもいい。 この魔術研究都市ユートピアは結局は実力社会、結城君、私は君に実力を証明する機会を、チャンスをあげているんだよ。 わかったかな。」


ああ、そうか俺にもともと選択権なんてなかったんだ。

どちらかといえば、俺が頼む側だ。


「わかったよ、やるよその決闘。」


「ふむ、茜も準備はいいな、手加減は不要だ、全力でやりなさい。」


「わかりました会長。 あなた結城さんといったかしら、何やらあなたにもいろんな事情があるようだけど、それで手加減する理由にはならないわ、全力で行かせてもらうわよ。」


会長は、俺と茜さんのそれぞれを交互に見ると、目を閉じて手を上に掲げた。


「では…はじめ‼」


茜は、先手必勝で来るつもりで突撃してくるつもりなのか、地面をぐっと踏み込んだ。


「な、なんだこれは…」


地面を深く踏み込んだ茜の足の周りから大量の電気が放出された。

こいつはいわゆる、電撃使いだ。

しかもこの出力、流星みたいにはいかないなこれは。


「カレン、なんか相手は強そうだが、お前がいれば何とかなるよな。」


そう、俺にはカレンがいる、どんなに強い奴だろうが俺には関係ない、正面から受け止めて、さっきみたいに圧倒的なパワーで押し勝ってやる。


「あー、結城、すまんがこの勝負、負けるぞ。」


へ?


「いやー、ここまでのがそうそう出てくるとは思わなんだ。 残念だったなあきらめろ。」


「いや、お前、どんな奴でも倒して見せるって…」


「結城、どんなことにも限界はある。」


俺は、カレンの言っていることがいまいち頭に入ってこず、散らばある思考をかき集めるのに必死だった。


その時だった。

茜の足元で電撃の火花が散ったかと思いきや、茜の姿は、電撃の残滓を残して消えた。


「っ‼ 消えた⁉」


「結城、腹を守れ‼」


カレンのとっさの叫びに、俺は反射的に刀を抜いて腹部をガードした。


ううっ、重いっ。

そう、俺のガードした腹部には、ガードしていなければ俺の意識を一瞬で刈り取るのに十分であろう電撃のキックがめり込んでいた。


茜はそのまま、宙返りで結城と距離をとった。


見えなかった。

カレンの助けがないとさっきの攻撃で試合は終了していた。

俺の退学がかかってるっていうのに……


「なあ、カレン俺はこのままじゃ負けるのか。」


「ああ、負けるな、間違いなく。」

カレンはそっけなく答える。


「そうか。 わかった。」


俺は、俺にできることをするだけだ。

茜さんの戦闘スタイルは、電気をまとった攻撃であり、主に足に電気をまとわりつかせて、高速で移動したり、その攻撃を受け止めた相手を感電させる技……かな、ざっと見た感じ。


「ふん、あなたもなかなかの速さがあるようだけど、私の方が早いわよ。 さっさと感電して倒れた方が痛い思いをしなくて済むかもよ。」


「…ぐうの音も出ないな。」


そのあまりにも速い動きに、俺は茜さんの攻撃を刀で受け流すので精いっぱいだった。

くそ、俺は魔力を得て、いい気になっていたけどそれは全部力任せなものばっかりで、魔力操作だけでなくその体の動かしかたにおいても全然だめだ。


これは、俺がおごっていた結果だ。

今、負けそうになっている事実も全部カレンに頼り切っていた結果だ。

結局俺は、俺自身の力では何もできない、逆にカレンの本当の力を制限している。

ああ、やっぱり俺はダメなんだ。


「いくわよっ‼」


そんなことを考えていたら、茜の蹴りが俺の横腹にクリーンヒットし、俺は会場の端まで吹っ飛んだ。

 

くそっ、全然攻めに転じることができない、このままじゃ負けてしまう。

俺の頭の中をとある考えがよぎる。

別に負けてもいいんじゃないのか、別に負けたって誰も責めやしない。

ああ、弱い奴が強い奴に負けたんだって、ただそれだけだって、それでいいじゃんか。



「ふん、ずっと倒れたままうずくまって、もう負けを認めるのならとっとと降参したら? 

これじゃあまるで私があなたを痛めつけているみたいで、私も気分が悪いから。」


茜は、まったく起き上がらない結城に対して、戦意喪失と判断したらしく、構えを解いて攻撃の手を緩めた。


「なんてな……何回これやってんだ俺。」


「ん? 何か言ったかしら。 うずくまってないで話すときは相手の目を見て話すことね。」


茜は完全に勝った気でいた。

しかし、結城のまとうオーラが変化したことに気づく。


「いいや、独り言さ。」


結城は、ゆらゆらとした足つきではあるがしっかりと立ち上がった。


「降参するつもりはないよ、もう負けたくないんだ、この理不尽な世界に屈したくないから、そして何よりも大切な自分を見失いたくないから。 逆に謝らせてもらうよ。 ごめんね、僕は勝つよ、この勝負。」


ああ、体全体が熱い、全身の血液が沸騰しているみたいだ。

今まで冷え切っていった俺の魂が燃え上がっている。

抑え込んでいた自分があふれ出てくる。


「ふふ、やっぱりお前は私が見込んだだけはある。 お前の魂やはり燃えずにいるのはもったいない‼」


「カレン、力をうんとよこせ。」


頭の中に知らないはずのことまで流れ込んでくる。

そうかつながっているんだ、炎の賢者カレンの脳内の知識と

自然と体が動く、体全体が燃え上がっているかのようだ。

まるで今までずっとこの刀を振るってきたかのようだ。

いける‼


「炎の剣技 一の型 炎流一閃‼」


俺は、剣を振り、茜に茜の間合いに高速で接近すると、頭でイメージするままに刀を振った。


茜は、俺のすべてが変わったことに気が付き、その迫りくる刃に対して足に最大級の電撃を乗せて、蹴りをぶつけた。


爆ぜた。


観客席から見ていた生徒から見たら、それは目に見えるほどの衝撃波だったという、会場のガラスが全て割れて、その地点を中心に地面がごっそりえぐれた。


その衝撃の波が収まった後、俺たち二人はお互いに壁に叩きつけられ、お互いに地面に倒れていた。

二人は、もう動かないかと思われたが、すぐに同時に立ち上がった。


「そこまで‼」


会長の声が響き渡る。

そして会長が二人にむかって手を向けると、さっき会長が炎黒刀に触れようとしてただれた手を治したように、俺たちの体を回復させた。


しかし、体力までは治らないらしく、俺は、おぼつかない足取りで立ち上がった。


「ありがとうございます、会長。」


「いってえ、その魔法すごいっすね会長さん。」


「うーん、二人とも倒れたらこの戦い引き分けだねっ。」


おいおい、そんな結果だと、この会長は納得しないんじゃないのか。

そう思ったが、茜はしゅんとした様子で、よく見ると頭に生えたアホ毛もそれに伴ってしゅんとなっている。


「それでいいかな、結城君」


「でも、俺の退学の件は結局どうなるんですが⁉」


「ああ、もともと私に教師たちの決定を覆す力なんてないよ、私もいち生徒だもん。」

会長は、何の悪びれもなく嘘をついていたことをばらした。


「しかし、君の退学が決定しているのは本当さ。」


「なら、結局、俺がしていたことは無駄じゃないですかぁ‼」


「いや、一つだけ方法がある。」

会長は、大きく胸を張りビシィっと俺に指をさした。


「それは君が生徒会に入ることさ‼」


「生徒会? なんでそれが魁夷結策になるんです。」


「会長⁉ た、確かに実力としては申し分ないかと思いますが。 こんな素性のしれない奴」


「素性のしれない奴って、彼も桜火学園のちゃんとした生徒だよ。」


「そ、それはそうですが」


「ちょいちょーい、まだ俺は入るって決めてないけど……」


「じゃあ、いいよ、私とも決闘しよう。 君が私にタッチできたら勝ち。」


「まあいいですけど、そんなタッチくらい今すぐにでもできますよっ‼」


そういって会長の肩を叩こうとしたら、次の瞬間には、視界がグルンと回転し、会場の天井が見えていた。


「はい、生徒会に入るの決定ー。 じゃあ明日から生徒会室に来てねー。」



俺は、生徒会に入ることがどう解決策になるのか聞いていないぞと言いたかったが、もう会長は上機嫌にその場を立ち去って行ったため、何も言えずに解散の雰囲気なってしまった。


会場は、もう既に解散ムードになってきており、既に人がばらけ始めていた。


「しかたない、今日は俺ももう疲れた、帰って寝よう。」


そのまま会場を退室しようかと思い、出口に歩みを進めたが、途中で後ろから肩をつかまれた。


流星だった。


「結城ちょっと話がある。」


「なんだよ、もう勝負はおわっただ……」

そうだ、なんだかんだ茜さんとの戦いになって忘れていたが、俺はこいつとの決闘に勝ったのだ。

もう、こいつは俺にちょっかいをかけることはできない。

それが、この学園のルールだ。

こいつの俺に対する行動はみんなの目が監視となっている、こいつは何にもできない。


「すまなかった‼ お前も知っているかもしれないが、俺は名家の生まれで強くなれって毎日特訓を受けてきた。 だから、俺には強くあることしか価値観がなかったから、弱いお前をないがしろにするような発言や行動ばかりをしていた。」


あれ?

な、なんか一人語りが始まってしまったんだが


「でもお前のあの強さは、きっと何重にも重ねられた特訓によるものだと思う。」


いや、昨日たまたま拾った刀のおかげですが…

ん?ん?なんだろう何か勘違いされてる?


「俺は、そんなことにも気づかなかった俺は、自分が恥ずかしい‼ もう一度言わせてもらうよ。 本当にすまなかった……。」


うーん、幸せならそれでオッケーです。


俺は、なんとか流星の涙の抱擁から逃れて、帰途についた。


帰ると昨日のあの事件を思い出す。

その思い出しに反応するかのように、腰についていた刀は、人の姿に変わる。


「なぁ、お前学園でもその姿のままいればいいんじゃねぇのか? そしたら、俺の腰の負担減るんだが」


「それは、私が重いってことか、レディに対しての礼儀を教えてもらわなかったのか。」


「そんなもん、知らねぇよ。」


「私がこの姿で日ごろいるのはいいけれど、刀の状態を保ってないとあなたの脳内には直接話しかけられないだろう。」


「なんで、別に普通に話せばいいんじゃないのか。」


「はぁー、ご主人、気づいていないかもしれないけれど、私、ご主人以外からは見えない存在なのだよ。 まあ、例外もあるけど。」


「ええっ、それって……」


「幽霊みたい?」


少し、カレンは悲しそうな顔をした。


「い、いやそういうわけじゃないけどよ、結局お前ってどういう存在なのかなってさ…」


「ふん…どういう存在ね……いざ説明してといわれても難しいな。」


カレンは、どういったものかと顎に手を当てて考える素振りをする。


「まあ、この刀に封印されている魂の意思存在って感じかな…」


んん、なんかまた難しくなってきたな、それに封印ってあのおかしな男も言っていたな。

というか、あの男の正体は結局何だったんだ?

わからないことが多すぎる。


「ふふ、どうやら混乱させてしまっているようね。 まあ、少し特別な力をもった、あなたにとりついている幽霊で構わないわ。 この契約、どうせあなたが死ぬか、私が死ぬかしないと解けないし。 お互いのことについて焦る必要はないんじゃない?」


なんか死ぬとか物騒な言葉が出てきたが、こいつの言うとおり俺は考えるのが苦手だからな。

そこらへんは、テキトーでいい。


「俺はもう寝るが、お前、昨日はどこで寝たんだ?」


「ん、ああ、刀の状態で寝ていたが、なんだ、添い寝でもしてほしいのか?」


見た目だけはきれいなカレンが、きれいな顔立ちと鋭い切れ目でそんなことを言ってきた。

うう心臓に悪い。


「か、からかうな。 もう寝るぞ、今日は疲れた。」


俺は、ベッドへ倒れるようにダイブした。

そのベッドの柔らかさのあまり俺は、眠りへといざなわれていった。



真夜中のとある場所にて、


「ねぇ、計画は進んでいるのかしら。」

ある一人の少女は言う。


「計画なんて、ほぼないようなもんだろ、ゾウがありを踏み潰すのにいちいち考え事をするのか?」

その少女の問いかけにこたえるのは、白衣を着た少年、目を隠すまでのばしてあるマッシュルームカットの髪の毛、そして吊り上がった口角。

この少年を見て変だと思わないものはいないだろう。


「いいや、計画は叱り建ててもらわないと、失敗したらあの方の迷惑になるわ。 あまりユートピアの精鋭をなめないことね。」


「なあ、おまえ、あの方あの方っていうけどよぉ、俺はあくまで俺の実験に手を貸してもらう代わりにひと騒ぎ起こすってだけさ。 俺は、俺の自慢の怪物たちがユートピアを破壊するところが見たい、お前らの大将はユートピアにちょっかいをかけたい。 ただの利害の一致だぁ。」


白衣の少年は、近くのテーブルにあったアタッシュケースを手に持つ。


「俺に命令すんじゃねぇ。」


そういって少年は、都市の暗闇の中へと消えていった。

そこに残ったのは、一人の金髪の少女。


「はぁ、私が言いたいのは、ことを起こす前に情報が漏れないようにしろってことなのだけれど。 あんな狂犬、どうしてあの方は協力したのかしら。」


少女はため息をつくと呪文を唱えた。

「クリーン」


その少女は、その場に自分がいたという痕跡をすべて消し去ると、その少女もまた暗闇の中へ消えていった。



次の日

桜火学園 一年生塔 教室にて


「なっんであなたが、生徒会の役員なのよぉ‼」


俺は、さっそく怒鳴られていた。

カレンと出会ってから、鳴かず飛ばずの人生が変わり始めたけど、なんで不幸なことばかり怒るんだぁ。


「聞いていますの‼ 最上結城‼」


「はいぃ……すいません……」


俺はちょこんとうな垂れる。

なんでこんな状況になっているのかを説明するとだな…


まず俺の目の前で怒りをあらわにしている金髪ストレートの女の子は、滝川マリアといって、この学園屈指のお嬢様で有名な人だ。

この女の子は、この学園の生徒会に憧れて、この学園に入ったのに全然ライバルでも何でもない最下位の俺がいきなり生徒会に入会したことで憤りを抱いているらしい。


「いやー俺に言われましても、ほぼ会長が勝手に決めたことですしー。」


「ムキィィィィ‼」


マリアさんは、ハンカチを口に志願で地団太を踏む。

あー、これ話通じない奴かなぁー。


「う…私は生徒会にはふさわしくないというんですの………。」


「そんなことないですよアリア様っ、マリア様は努力家で優しい素晴らしい人ですわっ‼」


突然泣き始めてしまったマリアさんに対し、周りの取り巻きの何人かがフォローに入る。

完全に大勢に無勢で俺はいたたまれない雰囲気になっていた。


ああ、早くこの場から立ち去りたい…。


そうすると、廊下からどたどたと走る音が聞こえてきた。


「結城―、結城君はいますかー」


きた‼ 何が何だかわからないが、今の状況を打破するにはチャンスとしかとらえられない。


「お、俺ですーって……お前かよ。」


俺はとっさに教室の入り口のほうを振り返ったが、そこにいた人物を見て少しげんなりした。


「おま、お前って何よ。 せっかく私が直々に迎えに来てあげたってのに。」


教室の入り口で俺を呼んだのは、昨日、死闘(?)を繰り広げた茜だった。


「ところであんた、なんで正座しているわけ、教室のど真ん中で瞑想なんて変わったことしてるわね。」


「いや、そんなわけないだろ。 見ればわかるだろう見れば、説教されてんだよ俺は。」


そして俺が、マリアさんのほうに向きなおると、その当の本人、加えてその取り巻きでさえも目を輝かせていた。


「ほ、北条先輩ではありませんの‼ わたくし、滝川マリアって言います。 大ファンなんでです。」


おーおー。俺とこいつとじゃそんなに対応の差が激しいのかよ。

泣いちゃうよ? 俺もさっきのあなたみたいに泣いちゃうよ?

誰も励ましてくれないだろうけど、地団太踏んじゃうよ?


そんな俺のことなんかみんなもう既に忘れ去ってしまったかのように、北条先輩こと北条茜の周りには滝川マリアを含める人だかりができていた。

あいつ、妙に人気だな。

そんなにすごい奴なのか。


「それより、北条先輩、わたくし、いや、この学年一同がそこにいる男の生徒会への入会たいして全然納得していませんの。」


「ああ、会長が正式な手続きを踏まずに勝手に決めちゃったからね。」


「そうです‼ それに、この男が生徒会にふさわしいとは思えませんわ。」


そうだ、そうだと今まで周りにいなかった人たちも口々に言いだす。

言っていない人もいるが、それは昨日戦った流星ぐらいだった。

クラスのみんなが段々と集まってくる。

段々と声が大きくなってくる。

その時、茜の一声が教室の空気を変えた。


「こいつは、私より強いよ。」


その一言は、集まってきた群衆を黙らせるのに十分だった。


「生徒会は一律で実力で選ばれる。 こいつもそれに漏れないことをしっかり理解しておくれ。」


そういって、みんなが静かになった後、正座をしていた俺の首の根っこをつかんで教室を出ていった。


茜は黙って俺を引きづって廊下を歩いていく。

というかこれ、周りからどう見えてるんだ、なんか恥ずかしいぞ、俺。


「なんか、ありがとな茜さん、フォローしてくれて、お前が言ってくれなきゃ、きっとクラスのみんなを黙らせることはできなかったと思う。」


「べ、別に、あんたに何かしてあげようと思って言ってあげたわけじゃないわ。 単に事実を言っただけよ。 それと茜でいいわ。」


茜は俺を引きずるスピードを速め、俺の首がきゅっと閉まる。


「う、う、首が閉まります、というか、結局俺に何の用があってきたんだ、そして今どこに向かっているんだ。」


「さっき言ってた、生徒会に入るための正式な手続きってやつを今からやりにいくのよ。」


ああ、さっき言ってたな、会長が生徒会の正式な手順を踏んでいないって。


「んで、その手順とやらは何なんだ。」


そこで、茜の足がぴたりと止まる。


「ここだわ。」


俺らが止まった場所は何もない只の廊下だった。

しかし、茜の足はその何の変哲もない廊下の壁に進んでいった。


「おい壁とキスでもしたくなったのかって、は?」


そのまま、茜は壁の中に消えていってしまった。


「おいおい、嘘だろ、大事件だよ、茜が壁の中に入っていったんだけど、桜火学園の七不思議増えちゃったんだけど、どうどう説明すんの、これ」


そうやって、俺が廊下でわいわい騒いでいると、壁からニュッと手が出てきて俺はその壁から出てきた手に壁に引きずり込まれた。


「うわー、助けてーって何だこりゃ。」


壁に引きずり込まれたとき一瞬視界が暗転したが、目を開けたその先には空間が広がっていた。


「ちゃんとした手続きっていうのは、この学園の長、つまり学園長にあいさつすることよ。」


俺は、部屋をぐるっと見渡すとそこには、机が一つあるだけだった。


「そしてここが、学園長室ってわけ、驚いた?」


自慢気な茜よりも俺は目の前の事実を処理するので大変だった。

俺は、その机に座っている奴を見て開いた口がふさがらなかった。


「どうしたの、そんなに驚いたのかしら。 まあ、無理もないわね、私も最初見た時はすごく驚いたもの。」


「お前は……‼」


外からは見えない秘密の部屋なんか、今はどうでもよかった。

俺が何よりも驚いていたのは、目の前にいる男の顔に見覚えがあったからだ。


「やあ、初めまして、いや、久しぶりといったほうがいいのかな、最上結城君。」


「あの時のシルクハットの……変態‼」


そうだ、俺がカレン、炎黒刀を拾ったその日に襲ってきたやつらの中で、最後まで追いかけてきて、最後にはこいつに気絶させられたんだ。


「お、どうやら覚えているみたいだね、説明する手間が省けてよかったよ。 私の名前は、ジョーカー、この桜火学園の理事長をしている。」


「何すました風に自己紹介してんだてめー、あの日俺はもしかしたらお前に殺されていたかもしれないんだぞ。」


「えっ、なにあなた学園長と知り合いなの?」


初対面だと思っていた二人が知り合いだということに茜は驚きが隠せないようだった。


「ああ、学園長と結城君は既に一度お顔合わせをしているんだ。」


「ああ、それも刺激的な出会いをな。ってひょいっ⁉」

「わ、びっくりした。 南条先輩いつからそこにいたんですか。」


俺の後ろから、ニュッと眼鏡をかけた女性が話に入ってきた。

この女性は、俺が流星との試合で武器の形態の許可を求めた時に、助け船を出してくれた眼鏡の人だ。


「茜君、結城君の案内ありがとう、それと結城君、挨拶が遅れてすまない、私は南条鑑、気軽に鑑と呼んでくれ。」


「あ、どうも……。」


「ジョーカーから説明はしてもらった?」


「っで、そうですよ。 俺、この男にひどい事されたんです‼」


「はぁ、まだ何の説明もしていないのね。」

まるで鑑先輩は何が起こっているのかすべてわかっているかのようだった。


「おい、結城、昨日追いかけてきた二つの魔力反応の片方にこいつの魔力は似ているぞ。」


懐のカレンが俺にそういった。

そういうことか、この人俺がころされそうになっているのを見てたんだな、だからこんなに事情を察しているのか。

くそっ、もう何も信じないもんっ


「あーいや、今からいろいろ説明しようと思っていたんだが、その前にこいつがうるさくってな。」


「あー、そういうことね、結城君、少しジョーカーの話を聞いてあげてくれるかしら。」


俺は、恩のある鏡さんに免じてその矛を収めた。


「いいか、最上結城、俺がお前を襲う形になってしまったのは、お前が持っているその刀にある。」


どういわれて俺は、腰に下げていた刀を見る。

確かにこの刀を持っていて何故追われていたのかは、結局いまだに理解していないことだった。


「いいか、その刀には、太古の賢者の魂が収められている。 その名もカレン・メイザース、人呼んで炎の賢者だ。」


ジョーカーと呼ばれていたその男は、学園長室を歩きながら話を続ける。


「ここからが本題だ、その刀には、お前も知っているようにお前にはもったいないほどの凄い力が秘められている、それを悪用しようとする奴らがこの世にはいるっていう話だ。」


お前にはもったいないは余計だが…とりあえず今は置いておこう


「んで、なんだよ、その連中は。」


「アメジストという名前を語っている犯罪組織だ、世の中、もといこの魔術研究都市ユートピアに混乱をもたらそうとしている奴らだ。」


「そんな名前聞いたこともないぞ。 そんなに悪い連中ならニュースにでもなっているだろう。」


「ばーか、最後まで話を聞け、いいか世の中でニュースになるときってどういうときだと思う。」


「何か事件が起きた時か?」


「そうだ、何かが起きるからそれに人は気づき、メディアはそれをニュースにしようとする。」


ジョーカーは、俺の目の前に来ると、初めて会った時のように顔をぐっと近づけてきた。


「その事件を未然に防ぐのが君ら生徒会、レジスタンスの仕事さ。」


「レジスタンスぅ?」


「裏ではそーゆー組織名で通ってるの、そのアメジストを倒すのが、この桜火学園の生徒会の隠れた役目ってわけ、それを説明するために君はここに来たってわけ。」


「なんだか、突拍子もない話で呑み込めないんだが、そもそもなんの目的でそいつらはそんなことをするんだ。」


「それは…」


ジョーカーは窓の外の青空に目を向ける。


「…いまだわかってない。」


「今の間は何だ今の間は‼ ぜってぇなんか知ってるだろう‼」


それにアメジストだの、レジスタンスだのまるで悪とヒーローの物語じゃないかそんな本の中のような話をされてはいそうですかってはならねぇよ。


「ん、信じられないって顔ね、まあ、私も最初は何言ってんだって思ったけどね。 あなたも襲われたら否が応でも理解するわよ。」


「襲われるって、俺がか⁉」


茜の言葉に俺は戦慄した。

そしたら、俺の後ろに立っていた鏡さんが手をあげた。


「その話については私が、結城君、あなたの持っているその炎の賢者が封印されているその刀、炎黒刀は、もともとアメジストの連中が欲しがっていたものなの。 それを私たちがその刀を保護しようとしていた時に、間違えてあなたが拾っちゃって、勝手に契約しちゃったってわけよ。」


その契約せざるおえない状況はあんたらがつくったんですけどね。


「その保護しようとしていたことを先に私に教えておいてくれれば、昨日、あんな会場であんな戦闘しなくても済んだのに。」


プンプンと茜はわかりやすくへそを曲げたふりをする。

確かに、俺が炎黒刀の持ち主であると茜が知っていたら、別に昨日の戦闘はしなくてもよかっただろう。


「まあ、秘密裏に行えばすぐに終わることだったし、伝えるようなことでもないと思ったからね。 気を悪くしたなら許してちょうだい。」


そういわれ、茜も機嫌を直した。


「それに、生徒会に入れる口実が欲しかっただけだし。」


「あの、結局、俺の退学の話って…」


「ああ、その話は本当だよ、もともと君は才能がないから退学になる予定だった。 できないものはできない、それが魔法の世界だしね。 ただ炎の賢者との契約者となった君はSクラス越えの能力者認定だ。 退学は取り消しだ。」


「よっしゃー」


「その代わり、大きな力を持つ者にはそれだけの氏名や責任というものがついて回る。 君は、君自身がその力を使って悪いことをする人間でないと証明しないと、我々も君を自由にはしておけない。」


「そんなに、カレンとの契約ってやばいものなんですか。」


「ああ、強い力を持つ素性のしれない奴にうろうろされるのも危ないだろ。」


「た、確かに…」


強い力ってだけで、周りを不安にさせてしまうかもしれないってことか。


「だから、桜火学園生徒会、通称レジスタンスでの慈善活動をお前がこの学園にいる条件とする。」


「わ、わかりました。」

しょうがない、これでこの学園にいられるならいいだろう。

俺は、なんというか今後の未来の方針が見えてきたことに対して幸せがあふれそうになっていた。


「それと、昨日の件はすまなかった。 君を殺しかけた件だ。」


「我々は、とにかくその刀を誰の手にも届かないところに封じて、悪い奴らに利用されないことに必死だったのだ。」


確かに、ユートピアに混乱を貶めようとする奴らにカレンの力が渡ったたら大変だしな。

本来だったら、川のほとりに落ちていたのをこいつらが見つけて一件落着って感じだったんだろう。


「じゃあ、待てよ。 俺は、お前らが悪い奴から炎黒刀を守ろうとしていたのを俺が邪魔したのか。」


よく考えたら俺ってすごい邪魔をしたんじゃないのか。 あ、やべ、なんか罪悪感……。

でも殺されかけたのは事実だし、わざと邪魔したわけじゃないし…


「まあ、そういうわけだ、君が敵か味方か、それとも何も知れらないただの一般人なのかがわからなかった。 俺らも焦ってたんだ。 しかし、攻撃して危うく、殺しかけたのはすまなかったと思っている。」


ジョーカーは、誤解を解くとともに謝罪の意を述べた。


「う、まあ、そういうことなら俺も水に流すけどよ……」


その水に流すという言葉をジョーカーは見逃さなかった。


「じゃあ、そういうことでさっそく任務に出てほしいんだが。」


「へ?」


謝罪直後の手のひらを返したかのような突然の出動命令に、俺は思わず変な声が出てしまった。


「もともと、炎黒刀を川に落としてしまったのは、この都市に紛れ込んでいるアメジストの一味から奇襲を受けたせいだ。」


「気づいていないかもだけど、その炎黒刀、もとい君は狙われているんだよ。」


「そう、だからあなたはもっとその力を磨かなければいけない。」


「しかし、君もいつまでも力を狙われていたんじゃ日常生活を送るにも遅れないだろう。 だからね。」


「君を追っているアメジストのやつらを君自身が懲らしめるんだ。 いわゆる力の誇示だね。」


「力の誇示?」


「そう、アメジストの連中に、炎の賢者と最上結城は契約しました。 もうあなたたちに炎黒刀は奪うことはできませんって示してやるんだよ。」


「それが最初の任務か。」


「そう、それが最初の任務。」


「じゃあ、そいつらをとっととぶちのめしましょう。」


「はぁ、簡単に言うね。 この任務には大きく二つの問題がある。」


「二つの問題?」


「一つ目、まず奴らがどこに潜んでいるのかがわからない。」


「じゃあまずそこからか。」


「そして大事な二つ目」

ジョーカーは俺の顔にまた顔をぐっと近づけ言い放った。


「君は、弱すぎる。 このまま戦闘が始まったとしても、殺して炎黒刀を持っていってくださいって言っているようなもんだがな。」


「ぐっ、ぐうのねもでねぇ。」


「ていうわけで、茜、こいつに魔術の基礎というものを教えてやれ、話はそれからだ。 その間に俺と鑑は、お前を追っているアメジストたちのしっぽを探す。」


「了解です。」


「なんか、ありがとうございます。」


「いいって、なあ、一つ忠告してくぞ、炎の賢者の力は確かにすさまじいが限界はもちろんあ



魔術訓練場にて


俺と茜は昨日一波乱があった魔術訓練場にやってきた。


本当なら俺は授業に出なければいけない立場なのだが、ジョーカーいわくお前には普通の授業は時間の無駄らしい。

もともと授業とは、自身のできることやできないことを探し、長所をのばすためにあるものだが、既に炎の契約者というチートの力と『炎』という明確な属性が判明している結城には、その膨大な力を引き出すことだけに時間をささげた方がいいのことだ。


「というか、もうきれいな状態になっているんだな。」


俺は、魔術訓練場にきて、真っ先に感じた感想がそれだった。

昨日、俺と茜が激突した時の建物の破損具合は控えめに言ってもひどかったと思う。

きっとこれも魔法の力なんだろう。


「ん? もう修繕されてるのかって、驚いている顔ね?」


俺の表情を見て、見抜いたといわんばかりに茜は言った。


「これも全部会長の力よ。 すごいでしょ。」


ああ、確かに何でもかんでも直してたな、あの人。

へぇー、人だけじゃなくて、ぶったいも直せるのか。


「茜、魔法にはいろんな属性があるけどさ、会長のはなんて言う系統なんだ。」


「ああ、会長の魔法の属性は光属性よ。 直すとき光ってたでしょ。」


ああ、確かに、傷を治すとき光に包まれてたな。


「光属性は回復なのか、てっきり光の速さで動いたり、光で目くらましするのかと。」


「うーん、光属性についてはまだわかっていることは少ないらしいわ、まあ、だからこその魔術研究都市ユートピアなんだけどね。」


そうすると、茜は魔術訓練場の倉庫の中にある籠をごそごそとあさり始めた。


「ん? 茜なにしてるんだ。」


「これを探していたのよこれを。」


そういいながら、茜が取り出してきたのは小さい電球。


「豆電球?」


「そう魔導豆電球よ。」


茜は、それを手渡してくる、見た感じただの豆電球にしか見えないのだが…。


「それはね、ただの豆電球じゃないわ、魔力で光る豆電球なの。 試しに光らしてみてよ。」


「お、おう」


俺は、言われた通り豆電球にそっと魔力を流しこんだ。


「あれ、光らないけど。 これ壊れてんじゃないの。」


「違うわよ、あなた刀を袋カバーに入れているでしょう、あなた自身には魔力がないんだから、刀を出しなさい。」


ええ、俺こいつがいないと豆電球でさえ光らせることができないのか。

なんかショック…。


俺は、袋カバーから刀を出すとカレンに語り掛けた。

「なあ、カレンこの豆電球に魔力を流しこんでくれるか。」


「んあ、いいぞお安い御用だ。 ほいっと。」

するとその豆電球は発光し始めた。

次の瞬間、


バンッッ‼


豆電球は見事に木っ端みじんとなり、ガラスの部分は消滅していた。


「んん、ま、なんというか嫌な意味で期待を裏切らないわね……。」

想像した通りといった感じで困り顔をする茜。


「いったいこれは…」


「強すぎんのよあんたの契約者の魔力が。 この豆電球をやさーしく光らせるのが特訓よ。」


そうか、カレンの魔力が強すぎるから、その魔力量に耐え切れずに爆発したのか。


「でもなんでだ、こいつの強い力に俺が慣れるってならわかるが、わざわざ弱く調整する特訓なんて。」


「はぁ、あなたね、握手するときに力加減を間違えて腕をもぎ取られたらどうおもうかしら。」


「恐ろしく思います。」


ていうかそれどんな状況だよ。

怖すぎだろ。


「その通り、あなたは、封印される予定だった力を持っているということを忘れないでほしいわ。 この訓練は、あなたという存在が魔術研究都市ユートピアに信用されるための訓練でもあるのよ。」


「はいぃ、わかりました。 なあ、おいカレンもっと優しく頼む。」


俺はカレンに、もっと優しく魔力を流しこんでくれと頼んだ。

しかし…


「それはできぬ相談だ、川の水の量を調整しろと言われるようなもんだ。」


「じゃあ、どうするんだぞ、俺はお前の魔力をコントロールできるところをアピールしなくちゃいけないんだぞ。」


「蛇口だよ、結城。 お前は自分の魔力回路をほとんど使用したことがないから、魔力回路の制御ができないんだ。」


カレンはそのまま話を続ける。


「私の魔力が現実世界に干渉するとき、一度、お前の魔力回路に通しているのだ。 だから、私が魔力を流しこんだ後お前が調整すればいいのだ。」


「なるほど、そういうことだったのか。」


「私が、私自身の魔力回路が使えればいいのだが、私はいわばエネルギー体だ。 そもそも魔力回路を持っていないのだよ。 だから、この豆電球を光らせるのは、お前次第だというわけだ。」


なるほど、そういうことか種がわかればこっちのもんだ。


「よし、なら任せろ、はぁっ‼」

俺は再度、豆電球に力を込めた。

豆電球がまた光始める。

しかし…


パァン‼


普通に割れてしまった。


「まあ、自分の魔力回路の感覚をつかむまで特訓だな。」


そう簡単に事が進むはずないだろうとカレンにたしなめられた。


そのあと、俺は茜の付き添いの元で永遠と魔力コントロールの修行に励んだ。


「ああ、それとだな結城、私にもっと思念を送るのだ。」


訓練の途中、カレンが急に話しかけてきた。


「思念?」


「ああ、私が魔力を流しこむとき、どれだけの魔力を流しこんでほしいのか私にはわからないからだ。 戦闘中にいちいち会話をしている余裕もあるとはおもえんしな。今は状況がわかっているからいいが。」


そうか、カレンが魔力を流しこんで、俺がそれをコントロールして現実に干渉する。

俺ら二人の息を合わせないとできることもできないってわけか。


「わかった。 もっと思念を送り込んでみる。」

~~夕方ごろ~~


「はぁ、はぁ、ついにできたぞ、見ろ‼ この優しい光を。」


俺はついに魔導豆電球を優しく光らせることができた。


「わー、すごーい」


茜も若干棒読みな気はするが、すごいと思ってくれている。


「うむ、初めて自分の魔力回路の制御に挑戦したことから見れば、これは非常に大きな進歩だぞ。 やったな。」


俺とカレンが成長をかみしめていた。


「よぉー、やってかー結城、何やら嬉しそうだった。」


声をかけられた方を振り向くと、奇妙な白いシルクハットに白いスーツ、赤いネクタイの男が魔術訓練場の入り口に立っていた。


「ジョーカー、いたんなら行ってくれよ、それよりこれを見ろ、この豆電球の優しい光を‼」


俺は、手のひらの優しく光る魔導豆電球をジョーカーに見せつけた。


「いや、それで喜ばれても……まあ、順調なようで何よりだ。 おっと、それなら…」


ジョーカーは何かを思いついたかのようににやりと笑って、手に持っていたレジ袋の中に手を突っ込んだ。


「おらよ‼」


びゅんっ‼

ジョーカーはレジ袋から取り出したリンゴを思いっきり結城の顔面に投げつけた。


「うあわっ‼」

「な、なにしてるのよ‼」


パシィッ‼

しかし、そのリンゴが結城の顔面にあたることはなかった。

キャッチしたのだ。


「あ、あなたよくキャッチで来たわね。」

茜も、あの高速スピードで飛んできた物体をキャッチした結城に驚いていた。


しかし、一番驚いていたのは、

「うおおおお、俺スゲーぇぇぇぇ。 見たかよ、茜。」

一番驚いていたのは結城自身だった。

しかし、一番驚いていない人が一人。

「お、ナイスキャッチー、ちゃんと魔力コントロールできるようになっているみたいだなー。」

ジョーカーだ。


「っていうか、ジョーカー‼ 危ないだろ、今の奇跡的なキャッチがなければ危うく大けがだぞ‼」

俺は、ジョーカーに怒る。

それはそうだ、今のはたまたま反射的にキャッチできたからよかったものを、もしかしたら大怪我していたかもしれないからだ。


「まあ、まあ、落ち着けって、俺はお前がキャッチしてくれることをちゃんと信じてたぜ。」


どうやらジョーカーは何やら、俺がキャッチできる確信があったらしい。

するとジョーカーはレジ袋の中からどんどんリンゴを取り出して、こっちに全力で投げてきた。


「おいおい、ちょちょちょちょ。  ってあれ……」


結城は投げられたそのすべて全部キャッチできた。

「あ、あなた。」


茜は開いた口がふさがらなかった。


「結城君、君がリンゴをキャッチできたのはたまたまじゃない。 把握の力だ。」


ジョーカーは、レジ袋の中に残ったリンゴをむしゃむしゃ食いながらこちらへと歩いてきた。


「結城、世の中のすべての物には魔力が宿っている。」


ジョーカーは手の中でリンゴをもてあそびながら話をつづけた。


「魔法の才能があるかないかはその魔法を感知して操作できるかによってくる。」


ジョーカーは人差し指を立てる、そしたらそこにとんでもない存在感が集約し始めた。

茜もうっすら冷や汗を浮かべた。

何故だろう、そこでは何も起こってないはずなのに、目に見えない何かが集まっているのがわかる。


「よし、二人とも才能ありっと、まあ、わかってたことだけどね、結城はまがいなりにも炎の賢者と契約してるしね。」


ジョーカーは、指先に集めた魔力にちゃんと反応している二人を見て、はにかみながら魔力の集約をすっとひそめた。


「魔力回路は、現実と自信の魔力を結びつけるための器官だ。 その魔力回路のコントロールのトレーニングは、現実世界の様々な物体の魔力を感じ取るための訓練でもある。」


ジョーカーは話しながら、結城の手からリンゴを回収していく。


「もともと炎の賢者の凄まじい力を持っていた結城は、短時間のトレーニングで物体の感知能力が格段に向上しているってわけだ。」


「なるほど。」


「あれ、もしかしてこの短時間で私かなり差をつけられたの…」


「仕方ないさ、それほどに炎の賢者の力はすごいんだよ。 茜は、優秀な方だよ。」


ジョーカーは、急に実力の差を見せつけらえてがっかりしている茜を励ました。


「な、なんかすまないな。」


「うっさいばか。」


茜はフンッと首を背ける。

結城は励ましたつもりだったが、どうやら逆効果だったみたいだ。


「んで、ジョーカー、アメジストっていう俺を狙っている連中の手掛かりはつかめたのか。」


「いや~、それがさっぱり、だってなんも悪い事してこないんだもん。 こうも動きがないもんだと、ある尻尾つかめないよ。 向こうから、近づいてきてくれればいいんだけど…。」


何やら物騒なことを言い始めるジョーカー。



ドッカーン‼


その時だった、ジョーカーが言い終わるのと同時に、大きな爆発音がとどろき、それに反応するかのように魔術訓練場がぐらぐらと揺れた。


「な、なんだっ。」


「おっとぉ、まさかの相手方からの襲撃だぞ。」


ジョーカーは、なんだかワキワキしている。


「ま、まさか、そのアメジストってやつらが現れたってのか⁉ ってか嬉しそうにするな‼」


俺は、なかなか見つけられなかった敵が自分からやってきたことに嬉しそうにするジョーカーを咎めた。

っていうか、感じるよ、人間じゃない奴がこの学園の敷地内に入ってきているってことが。

これも訓練のたまものだな。


「結城、狙いはお前だ。 他の生徒に被害が出る前にお前が行け。」


「お、おう。」


確かに狙われている俺が言ったほうが変に周りに被害が出ないかもしれない。


そういわれ俺は茜とともに急いで魔術訓練場を飛び出すと一年生がいる学生塔から多くの生徒が逃げてきていた。

みんな、桜火学園の生徒といっても、まだただの一年生だ、いわゆる魔術に関しては、ズブの素人、何があっても対抗できないだろう。

その中には、滝川マリアの周りにいた取り巻きの連中の人も混じっていた。


「あ、あの生徒会の人ですよね、突然教室に変な化け物が入ってきて、襲ってきたんです。 何人か逃げ遅れてて、マリアさんも……。」


その一人が茜に気づいて話かける。

どうやら、誰かもうピンチになっているみたいだ。


「なんだって、急ぐわよ‼」


その生徒の話を聞くなり、一年生塔にかけていく茜、俺もそれに続く。


「マリアさん‼ 今助けに来たわよ。」


茜は叫ぶと同時に、生徒が逃げだしている教室の扉を開けた。


そこには、奇妙な生命体がそこにはいた。

一つの角に一つの目、まさに化け物という名がふさわしい存在だった。

そしてその化け物が今まさにマリアさんに拳を振り下ろそうとしていた。


「おい、やめろ‼」


俺はとっさにそいつにタックルをかまして、そいつは教室の窓側の壁に激突した。


「ドコダ…エンコクトウハドコダ……」

こいつ今、炎黒刀はどこだって言ったか?

やっぱり、こいつ俺を狙っている。


「炎黒刀の所有者は俺だ‼ 狙うなら俺にしろ‼ 他の人には手を出すな‼」


俺は、怯えて震えているマリアさんを抱えると茜に託した。


「も、最上結城、そ、その…ありがとう。」


マリアさんの服はぼろぼろだ。

あまりに恐ろしい体験に委縮し、ガクガクと震えているマリアさんは、目に涙をいっぱい貯めながら、感謝の言葉を述べた。


ちょ、こいつ可愛いな……


「ああ、困っているときはお互い様だろ。」


俺は、渾身のキメ顔をする。


「あんた、変な顔してるわよ、気持ち悪い。」


「き、きもくねーし。 今最高にかっこいいンゴよ。 ぶふぉ。」


「はいはい、じゃあ化け物同士よろしくやって頂戴、とりあえず私はとりあえずこの子を安全なところへ避難させるわ。 マリアだったかしら、行くわよ。」


マリアは俺に顔を背けたまま、そのまま茜に連れていかれた。

っていうか、それじゃ俺も化け物じゃないかよ。



うがぁ‼


さっき結城に吹き飛ばされた化け物は、どうやら既に戻ってきていたようだ。

教室に戻ってくるなり、背を向けている結城に対して渾身のパンチを繰り出してきた。


その不意打ちかとも思われる攻撃に結城は吹っ飛ばされるかともおもったが、


「すまないな、俺には見えているんだよ。」


結城は、目で見えていないはずのその攻撃を視認せずによけた。

怪物は、そのあとも次々とパンチを繰り出してくるが、その攻撃を結城はどんどんかわしていく。


「ははっ、あたんねーよそんな攻撃、見え見えだ。」


当たらない攻撃にイライラした怪物は、教室にあった机や椅子を手当たり次第に投げつけてきた。


「おいおい、これじゃ逃げるにも逃げられないぞ、視界一面が机じゃないか。」


避けることばかりに注意を向けていた結城は、突然の絨毯攻撃によって迎撃の体制が取れなかった。


「ふふっ、あなたも甘いわねぇ‼」


すると後ろから何者かが飛び込んできた。


「電撃キックっ‼」


茜だ。

茜の電気をまとった蹴りによって、その絨毯攻撃に穴が開いた。


「た、助かる、すまん。」


「潜在能力はあなたにはかなわないかもしれないけど、戦闘経験という点に関してはあなたはまだまだね。」


そうだ、俺はできることになったことに調子に乗っていたようだ。

どんな強い力も使い方次第。

俺の戦闘経験の少なさは、その使い方という点において全くと言って素人だ。


「はぁ、あんまり気を落としている暇はないわよ。」


茜の言葉に俺は後ろを振り向く。

既に机も椅子もなく、がらんとした教室に怪物はたたずんでいた。

全身の筋肉が流動していて、皮膚の表面には血管がドクンドクンと波うっている。


「きもいな。」

俺は、単純に感想を述べた。


「さっきのあなたもおんなじぐらい気持ち悪かったわよ…。」

なんだろう…すごい傷ついた。


うがぁ‼


その化け物の叫び声に反応するかのように俺はその化け物に向きなおる。

隣には、茜も同様に攻撃の構えをとっていた。


「2体1だしね、数にはこっちのほうが有利がある、一気に攻めるよ。」


すると、その化け物がものすごい雄たけびを上げた、化け物の体全体に薄暗いもやがぼわりと浮き出る。

すると、化け物の姿が一つから二つに分裂した。


「こ、こいつ分身したぞ⁉」


くそ、せっかくの数の有利がこれじゃ台無しだ。


「右はあんた、左は私がやる、オーケー?」


戦闘経験が豊富な茜はとっさに状況分析をして、すぐに方針を固めた。

俺は茜の合図で分身した二人を二人に分かれて倒そうという作戦を開始した。 


先に分裂したほうを分裂体B、分裂する前のこいつは分裂体Aとしよう。

俺が相対しているっていうのは分裂体A 、茜が構えているのは分裂体Bだ。


茜はその分裂体Bに俺と戦った時のように高速で蹴りを繰り出した。


外に飛んでいく分裂体Bそれをおいかけようとしている茜は、おいといて、俺は目の前にいる相手に炎黒刀を構えた。


「おいおい、学生証は持ってんのか? ここは学ぶ場所だ、暴れる場所じゃねぇ、とっととご退場願おうかぁ‼」


俺は、呼吸を整えてこいつを倒すためにはどうしたらいいかを考え、茜と戦った時のように心臓にすべての気持ちを集中させた。


ドクンと心臓が鳴る。

きた、きたきたきた、体が燃え上がっているこの感覚。


おいカレン、聞こえてるか?


「ああ、聞こえているぞ、やるのか。」


「おおよ、少し少し無茶しねーと得られるものはないからな、多少は無理してぶっ飛ばすぞ。」


「ああ、私がついていればできないことはないからな。」


俺は、息をめいいっぱい吸い込み全身の血液が沸騰する感覚を感じた。


「「正義の炎が燃えてきた‼」」


ぐおぉぉぉぉーーー

目の前で咆哮をあげる化け物。


「いいぜ、こいよお前の正義と俺の正義、どっちが正しいかはっきりさせようぜ。」


俺は、この一撃にすべてを込めるつもりで、教室の床を深く踏み込んだ。

結城の周りに炎の円陣が展開される。


「な、なにこれ、結城、いったいあんた何をしようとしているの⁉」

その炎の円陣から漏れてくる濃密な魔力に、隣にいた茜は後ずさりした。


ああ、まただ、カレンの魔力が俺の体に流れ込むと同時にカレンの記憶も流れ込んでくる。


「カレン、先人の知恵をちょいと借りるぜ。」


「ああ、私のようなエネルギー体が持っていてもしょうがない知識だ。 生きているお前が自由に使うがいいよ。」


俺の体の熱で汗が蒸発し、体から湯気が立つ。

その熱が刀全体に広がったのを感じた俺は、それが体にめぐる力の頂点であることを感覚で理解した。


「炎の剣技・炎舞‼」





「きれいな青空っすね~」


俺は、目の前に広がっているきれいな青空を見ながら、隣で座っている茜に問いかけた。


「そうね、きれいな空だわ、私もまさか……まさか教室の入り口から青空を眺める機会があるとはおもえなかったわ。」


彼女は座っている、教室の入り口のドアがある部分に座っているのだ。


教室のドアから先にあるはずの教室は……吹き飛んでいた。


「いや~、やりすぎちった☆ めんごめんご。」


俺は、てへぺろっといった顔で謝罪した。


「やりすぎたじゃ……ないわよーーー‼  教室全部吹き飛ばしてどうすんのよ‼」


茜は、そこにあるはずのもうない教室を指さして叫ぶ。


「テンション上がっちゃった☆」


「このばかー‼ 肝心の証拠である怪物も粉々よ粉々、はいさてどこに怪物はいるでしょうか~、正解はどこにもいませーん、全部どっかの馬鹿が吹き飛ばしました~。」


「そんなバカみたいな表情で言われても。」


「なによー‼」


茜の不満は最高潮に達しようとしていた。


「まあまあ、そう喧嘩しない、いやーそれにしても派手にやってくれたねー。 君が生徒会の一員じゃなかったら速攻退学案件だよ。」


「ジョーカー、どこにいっていたんだ。」


後ろから、ジョーカーがひょいッと出てきた。


「いやー、襲撃者の尻尾がつかめるんじゃないかとこっそりうかがっていたんだが……」


「うかがっていたんだが……出なんだよ。」


うかがっていたんだがの続きを言わないジョーカーに俺は、首をかしげる。


「さっきの君の攻撃でわからんくなった。」


「は?」


「いやーあとちょっとだったんだけどなー、怪物についていた、恐らく怪物を操るための物であろう魔力の糸、その糸に干渉して操っている場所を逆算していたんだが、その糸ごと全部君がふきとばしちゃったんだよ。」


「結局…結局俺のせいかよ~‼」


俺はあまりに残念な真実に肩をがっくり落とす。

そんな俺に悲しい目を向ける茜。

すると、あることに気づいた。


「学園長、そういえば鑑さんはどうしてるんですか。」


「ああ、そういえばどこにいったんだろうな。」


「ここです。」


「うわっ、びっくりしたー、急に後ろに立つのやめてくださいよ、心臓に悪い。」


「きづかない人が悪いよ。」


鑑さんはばっさり切り捨てる。


「そんなことより、結城君のせいでせっかくつかめそうだった尻尾を逃がしてしまったけれども、途中まではたどれたわ、大体の敵の場所は絞り込んだ。」


「うう……」


何やら痛いところを突かれた気がしたが、俺には関係ないな、よし。

「それと、結城君、魔力回路のコントロールはできたのか。」


「あ、はい、できるようになりました。」


「へえ、よかったじゃない、あなたにも数少ない取り柄ができたじゃない。」


ええぇ、なんかこの人口悪くない?

このゴミを見るような目つき………

なんかドキドキしてきた。

これは、恋?


「結城、また気持ちの悪い顔をしてるわよ。」


「何を言っている、俺の表情筋はいたってノーマルだが。」


「じゃあ、あなたの顔はデフォルトで崩壊してるわ。」


「っておい‼ 泣いちゃうよ、泣き叫んじゃうよ?」


「おい、駄犬、私の話はまだ終わってないぞ。 本当に魔力回路のコントロールできるようになったのか?」


鑑さんは、どこからか大量のリンゴを持ち出してきた。


「いいです、もうリンゴはやめて‼」


俺を、リンゴの弾幕が襲う。

いや、普通に考えて、腕は二本しかないよね。

リンゴ同時に二個しかつかめないよね。


「いてててててててててて、あああ痛い‼」


俺は、両手にリンゴをつかんだ状態で体中にリンゴの嵐を受けた。


「そのリンゴで試すのなんなんすか……」

このリンゴの弾幕に、茜も少し引き気味になっていた。


「ふん、どうやら、あなた、本当に魔力回路のコントロールをマスターしたんだな。 当たりながらも少しずつ避けて、重傷を免れたな。 うむ、今のをまともに受けたら全身打撲で死んでいたところだ。」


殺す気だったのか……

この悪魔……


「でだ、結城の感知能力を利用したいと思う。」


「俺の感知能力を利用?」


「そうよ、結城、試しに今どれだけの範囲を感知できる?」


「えっと、離れるほど精度は落ちるけど、ざっと半径二キロメートル程度かな。」


「すごっ。」


茜は、そのあまりの広さに開いた口がふさがらなかった。


「ん、やっぱこれって凄いのか?」


「私なんて、どっちかっていうと苦手だから、半径五メートルが限界よ。 近接戦闘には十分なんだけど遠距離攻撃だったり、何か探し物をするときとかに不便なのよね。」


「私が三十メートルよ。 やはり炎の賢者の力はすごいわね。」


おお、鑑さんまでもが感心している、ということは俺って凄いのか‼


「だが、あんまりうぬぼれるなよ。 命取りになるぞ。」


「うっす…」


「ちなみにジョーカーはどのくらいなんだ。」


「んん? ひ・み・つ。」


気色悪いな。


「まあいい、本題に戻るが、お前のその探知の能力で、索敵をするんだ。 場当たりでな。 その名も“激突・くまなく・サーチング作戦”だ‼」


鑑さんは、ビシィと俺に指をさした。


いや、この人、凄いクールなのに、凄いバカっぽいな。

そんなに怖い人じゃないのかもしれない。


「ということで、今すぐ街に繰り出しなさい‼ ほらっとっとと。」


鑑は結城のお尻を蹴り飛ばして、教室から追い出そうとした。


「痛い痛い、蹴らないでください鑑さん‼ なんか鼻息荒くないですか⁉ やばいよこの人‼」


鑑さん怖い、鑑さん怖い‼ 

大切なことだから二回言いました‼


「こっちはこっちでやっておくことあるから、行ってらっしゃーい。」


ジョーカーはそれをみてニヤニヤと笑みを浮かべるだけだった。


俺と茜は、鑑さんに追い立てられて学園の校門までやってきた。

茜は、自分にも蹴りが来るかもしれないからといって、鑑さんサイドに回ったのだ、ひどいやつめ。


「よし、じゃとっとと探そうぜ、その絞り込んだ地域でどのあたりなんだ。 結局、聞いてなかったな。」


「ん、今受信している~。」


おお、スマートフォンじゃないか。

はぁ、俺も欲しいなスマートフォン。


「ねえ、ちょっとまって~」


俺と茜が受信が完了するのを待っていると、一人の生徒が走ってきた。


「マリアさん……」


マリアさんだ。

さっき俺が倒した怪物に襲われて非難していたはずだ。

ここにきているということは、怪物という驚異が去ったという情報は既に伝わったのだろう。


「あの、はあはあ、ごめんね姿を見て急いで走ってきたもんだから息切れしちゃった。」


「いいよ、ゆっくりで、でもすまないんだがなんか用があるなら、後にしてくれないか、ちょっと行くところができてしまって。」


「あ、あの怪物って結城君が倒してくれたんだよね、私聞いたよ、生徒会の鑑さんに。」


ああ、あの人が伝えてくれたのか。

抜けてそうで抜けてないな。

おっと、こんなこと考えているとまたしばかれそうだな……やめとこう。


「ああ、俺が倒したよ。 頑張ったからね。」


俺は、マッスルポーズに満面の笑みを見せる、一生に一度はやりたかったことが達成された…。


「実は、教室で私が最後まで逃げなかったのは、理由があるの。」


「うん」

「実は、あの教室には私が書いた大事な小説が入ったパソコンあったの。 それを取りに戻って怪物に襲われそうになってたの。」


「うん?」


「で、それでね、結城君が来てくれなかったら、教室がめちゃくちゃにされてしまっていたかもしれないの。 私が、毎日徹夜で作った作品よ。」


「あーうん。」


「完成したら結城君にも読ませてあげるわ。 楽しみにしててね。」


「ところでさ、それバックアップとかとってなかったの?」


「そうなの、非難しているときにバックアップの大切さを身にしみて感じたわ。 今からの家に帰ってさっそくバックアップを取ろうと思うの。」


マリアさんは嬉々としてそれを語る。

対照的に茜はすごく微妙な表情でジト目になっていた。


茜は、結城の肩にそっと手を置いた。

その時、結城と茜の気持ちはシンクロした‼


((いや、教室、爆散しました‼))


「あなたには、感謝の気持ちしかないわ」


教室爆散しました‼


「いままで、あなたに言ったことは取り消さして頂戴。 あなたは本当に実力で生徒会に選ばれた人だわ、私もちゃんと認める。」


教室爆散しました‼


「一時はショックで落ちた背中も復活‼ バックアップだけにね☆」


いや、教室、爆散したんだけどぉ‼

俺は全身に冷や汗をかいた。

きっとこの人は非難した場所から教室に向かう途中で俺に会いに来て、まだ教室には実際にはいってないんだろな。


よし、考えても仕方ないことは、考えない、イエス、ゴーマイウェイ‼


「いってらっしゃーい。」


「い、行ってきます…」


あまりのいたたまれなさにその場に入れなくなった俺たちは、満面の笑みのマリアさんに見送られながらその場を後にした。


「ま、まあ、とりあえず後のことを考えるのはよしましょう今は、先に優先すべきことがあるでしょう。」


「そ、そっすね。」


そうだ、今はほかにするべきことがあるはずだ、そっちを優先しないと。


「えっとね、ここらへんかな。 このあたりから指定の範囲よ。」


「よっし任せろ‼ 感知‼」


俺は、意識を周囲にばらまく感覚で感知の範囲を広げた。

そこで俺はあることに気づく。


「いや、反応多すぎぃぃ‼ 世の中のすべてに魔力が宿っているっていうの忘れてません? そこのゴミ捨て場に集まっているカラスだけでも五個の反応だぞ、二キロメートルの感知でどれだけの魔力が引っかかると思っているんだ。」


俺は、二キロメートルの感知によって感じ取ることのできる生命体の多さに愕然としていた。

やばい、すぐそこにアリの生命体反応がぁ、集合体恐怖症になりそう。


「確か相手の魔力に特定の呪詛を流しこんだらしいわ。」


「呪詛? 何、呪詛って」


「あんた呪詛知らないの? 呪詛は、特定の条件で持続する魔法よ。」


「んで、その呪詛がなんだって。」


「その呪詛は、感知した時に変な感じがするらしいわ。 それをたどれってメールが来てた。」


「変な感じ? なんかテキトーだな。」


「変な感じは、変な感じよ。 一目瞭然だって言ってるは、とやかく言わずにとっとと感知する。」


うわ、やっぱテキトーだな、あの人。

俺は、頭に鑑さんを思い浮かべた。


「一目瞭然ってそれ本当かよ。 まあいいや、やりますよっと。 知覚‼」


俺は、また知覚を広げたわ。


「んあっ」


「どうしたの、何か変なものあった。」


「うん」


俺が近くを広げた先にいたのは……犬のコスプレをしたおっさんだった。


「なんかめっちゃ変なのいるぅ‼」


なんか電柱に俺の常識を超えた何かをしてる‼


「なになに、どんな奴なの⁉」


早く教えろと言わんばかりに茜は俺に聞いてきた。


「な、なんか犬のコスプレをしたおっさんだよ。」


「変態かよ。」


茜は、それを聞いた瞬間それはただの変態であると即座に断定した。


「違うわよ、それはただの変態、変態だけどただの人なの。」


「そうか、見えないっていうのも大事なんだな……」

俺は、世の中見えないからいい事もあるんだっていうことを学んだ。

ああ、これこそ社会経験。


「ほらほら、もう一回、知覚して、知覚して。」


早くしろと茜がうるさいので仕方なく俺はもう一回、知覚をする。


「はぁっ‼ 知覚っ‼」


ああ、見えるぞいろんなものが見える‼

っと何か変なものはないかな。


「ないな何にも。 もういっそここら一体を絨毯爆撃しようぜ。」


「天災かよ。」


もう俺は、だんだん吐き気がしてきた。

こんな数の生命体の反応なんて、見分けられないよ。


「ほんとに? まじめにやってる?」


「やってるよ、ちなみに犬のおっさんが今はだな……」


「その情報はもういいから」


驚くほど冷たい目で見られた。

あれ、なんかドキドキする、これは恋?


「きもい顔もいいから。」


「おい、きもいとかそんな気軽に言うな、多感な年ごろの男の子には響くんだよ。 オギャるぞ、俺、オギャっちゃうよ、いいの、犬のおっさんの仲間入りしちゃうよ。」


「ったく、やかましいな、アレ? うわ、鑑先輩からのメールが百件たまってる。 怖いよ。」


「おい‼ 早く言えよそれを、さっさと確認するんだ、それを‼ それか、海外逃亡だ‼」


「あの人なら、海外まで追ってきかねないわよ。 というか確認、確認」


「何なら今既に、こっちに高速接近してる可能性もあるからな、知覚しとこ。」


茜はケータイ画面を覗き込みながら、メールの内容を確認していた。


「んで、どうなんだ。 脅迫か、殺害予告か、俺の運命はどうなんだ‼」


「見つかったって、なんか見つかったって敵のアジト。」


は?

いや待って、アジト見つかったって、おい。

俺らの調査必要なかったってこと?


「俺の努力は何だったんだぁぁぁぁぁぁぁ‼」


俺はあまりのショックにうな垂れる。

「考えないことよ、これも社会経験よ。」


茜に背中さすられてる、でもその優しさが心地いい。

あ、目から鼻水が……


「社会つれえーーーー。」

俺の手は天を仰いだ。


俺と茜は街の中を疾走していた。


「んで、どこだって? その敵の本拠地ってやつは?」


俺は、茜に尋ねる。

全ての連絡や情報は、茜のスマートフォンによって行われているため、茜に聞くしかないのだ。


「ユートピアに入るための港なんだけど、うーん、この場所って、ユートピアのはぼ端の方なんだよね。 ユートピアは、出入りに厳しいから、もしかしたら相手は逃げようとしているのかも。」


魔術研究都市ユートピアはその高度な発展により技術の流失を何よりも避けようとしている都市だ。

なので、入るのも出るのも難しく、ちゃんとした理由があっても、なかなか入ることはできないし出ることもできない。

もし、敵がユートピアの外に逃げたらそれより厄介なことはないということだ。

俺と茜の間に、もう急がないと敵は尻尾を切って逃げようとしているという、共通認識が生まれ、お互いに顔を見合わせてうなづいた。


「急ぐわよ‼」


茜は、体から電気を発してそのスピードを加速させていく。


「っておい、待てよ‼」

俺の制止も届かず、茜はどんどん加速し、その後ろ姿は離れていった。


「大丈夫、先にいって様子見とくからー。」


そういって、気づいた時には茜の姿は、見えなくなった。


「くっそー、カレン、足の速さってどうにかなんねーのかよこれ‼」


俺は、懐で黙りこくっているカレンに対して不満をぶつけた。

っていうか結構重いんだけど刀って……


「ああ、できんわけでもないが、周りに多大な影響を及ぼすぞ……」


「ああ、なんとなく予想できたわ、やめよう。」


キッと爆風でぶっ飛ぶ的な感じだろ。

そんなことしたら、今、人ごみの隙間を走り抜けている俺は、テロリストになっちまう。


「魔力回路。」


「ああ、なんか言ったか?」


「魔力回路だ、力はただあるものではない、その使い方が重要なのだ。」


つまりなんだ、その魔力回路の使い方次第で茜に追いつけるってわけか。

俺は、俺は足が速くなるのをイメージする、すると、魔力回路にカレンから濃密な魔力が流れ込んでくるのがわかる。

少しでも意識をそらせばその濃密な魔力は行き先を失い大爆発を起こす。

現在俺は、人ごみの中を走っている、教室みたいに何でもかんでも吹き飛ばすわけにはいかない。

俺は、魔力回路に意識をそそぎ、下半身にじんとした熱いものを感じ始めた。


いけるっ‼


「ハァッ‼」


うおっと、

急に周りの世界が急速に流れ始める。

そして勇気が十て後には、その足跡をあらわすように炎の線ができていた。


「おいおい、まるでジェット機じゃねーか。 うぉっと、うぉっと⁉」


俺は、あまりにも周りにみえる世界が高速で流れすぎて、人をよけるのに精いっぱいだった。


「カレンさーん、ちょっと出力落としてくれませんか?」


俺は、あまりの速さにカレンにヘルプを求めた。

しかし、カレンの反応は鈍い。


「残念だが、これが最低出力だ。 そもそもこのスピードで障害物をよけるなんて曲芸師じゃあるまいし、空を飛べばいいだろう。」


「そもそも普通の人間には空を飛ぶっていう発想がねーよ‼」


ああ、きっと炎の賢者さんは空を飛んでたんだろうな。

このスピードで地上を移動なんて、ジェット機が住宅街を超低空飛行するようなもんだ。


すると、一人の見慣れた姿が見えてきた。

そして、俺はその後ろ姿にどんどんと近づいていき並走をする。


「よ、よう茜。」


「ひぇ、あんたよく追いついてきたわね。」


「うん、でさ、頼みがあるんだけど俺の体、引っ張ってくれない?」


「あんたさぁ、もしかして止まれないの?」

茜は恐る恐る聞いてくる。

茜もスピードアップしているから何とか会話が成り立っている。


「いやあ、止まれないことはないんだけど、最低スピードでこれだから、いきなり止まると大事故、挙句の果てには人間スクランブルエッグになるんだ。」


「そう、さよなら、ってちょっと体に縄括り付けないでよ。 いやだ、私もスクランブルエッグいやだ‼。」


「いいから、話を聞け、このままじゃ二人ともいつか何かに激突するのは確実だ。 運命共同体だぜ。」


運命共同体にしたのはお前だろ、という茜は心の声を飲み込んだ。


「いいか、この絶望的な状況には必勝法がある。」


結城は、真剣な表情で話す。

茜はその真剣な表情を見てはっとする。


もしかしてちゃんとした作戦があるのかも知れない、一回でいいから聞いてみよう。


「いいか、俺と茜をつないでいるこのロープがあるだろ、このロープでソリをするんだ。 俺はトナカイ、お前はサンタさん、オーケー?」


そう、作戦とは、俺が茜を引きずる形で茜がブレーキの役割をするんだ、そしてだんだんスピードをおとす。

誰が見ても完ぺきな作戦だ。


「ええ、最高にきもい作戦であることはわかったわ。」


「しかたないだろ、スクランブルエッグかサンタさんか選べ‼」


「う、うう、もおー‼」


茜が迷った挙句の果てに選んだのは……


「ねえー、みてママー、変な人がいるー。」


「こら、見ちゃいけません!」


俺と茜はサンタさんとトナカイになっていた。


「ねえ、生きる意味って何だと思う……」


「おう、どうした。 人生に迷いでも生じたか、なんかあったんか…」


「ああ、現在進行形でな。」


「というか、スピードのヘリが遅いぞ電気も使って速度を落としてくれ‼」


「こ、こいつ……ふんっっ‼」


「あぎゃあ、首が、首がしまってる。 優しくして、乱暴しちゃらめぇーーーー」


俺たちは、町中に地帯をさらしつつも港につくまでには、何とかストップすることができた。


「なあ、カレン、俺に今度空の飛び方教えてくれるか……。」


「ああ、さすがに今回は早めに行っておけばよかったと思っている。 だが、よかったじゃないか、今後のお前の課題ができて、日常をすごすという点において、私の膨大な魔力の調整は大事なエッセンスなようだ。 頑張れよ。」


確かに、今回はカレンの魔力の最低値というものを知れた機会というだけでも良かった。

ていうか、最低値凄すぎだろう、俺の魔力回路のコントロールにもまだまだ練習の余地がありって感じかな。


「はあ、はあ、でもあっという間についたわね。」


茜の言う通り俺たちは、普通の感覚で見れば早すぎるというぐらいで、現場である港に到着していた。


「おや、お前ら、早かったな。」


港に連なってるコンテナの中から鑑さんがひょこッと出てきた。


「な、なにしてるんすか。」


俺は、コンテナの間の隙間に隠れているような鑑先輩にけげんな顔をする。


「いいから、こっちにこい。」

鑑先輩は、こっちへ来いと手招きをした。

俺たちは、そのコンテナの隙間に入ると、さっそく情報交換を始めた。


よし、ここからが本番だ。


「ところで、だ、お前たちはメールを細かくチェックするという習慣はないのか。」


あ、あれ


「いや、あれは、犬のコスプレとか、いろいろあったっていうか……」


「言い訳はいいわ、この駄犬。 そういえばマリアさんがあなたに早く会いたいって言ってたわよ……あんまりヒーロー気取りもよしてもらいたいものね。」


なん…だと…

きっとそれは違う理由です。

生きていてすみません。


俺たちは、コンテナの中からひょっこりと顔を出した。


「みて、あそこの港から、多分あそこから出る船のどれかが、あなたを追っている敵が乗っている船よ。」


「んあ、なんだーもう逃げようとしているのか。」


この学術研究都市『ユートピア』には、船以外に出入りする方法はない。


この都市は、大きな壁でもって2方向を囲われており、この都市から出るには、その隙間の港から出ないといけない。

また、都市の技術流入や流出を避けるために船には念入りにチェックされる。


「アジト代わりに、船を使っている可能性があるっていうことか。」


「なるほどアジト代わりに船を使っているわけかー」


いつでも、逃げることのできる移動できるアジトか、なるほど。


「ん、良く気付いたわね。 あんたも頭が回るのね。」


「ご主人よ、聞こえないとはいえ、人が言ったことを自分が言ったように言うのは……」


「ってカレンが言っていましたー。」


「あ、そうなの、どおりで賢すぎると思ったわ。」


くそっ、どうしたらよかったんだ俺は……


「で、どの船を攻撃すればいいんだ。」


俺は、隠れている積み上げられたコンテナから乗り出して柄を握った。


「まだわからないわ、今、鑑さんが調べてくれているところ。」


「ああ、そうなんだ。」

鑑さんって結局何をしているんだ。


「ってお前は何やってるんだ。」


後ろを向くと茜が倒れた警備員を運んできていた。

「はい、おまわりさーん、悪い人がここにいます。」


それを言おうとしたら、茜に口をふさがれた。


「はいはい、おまわりさんなら、そこでおねんねしてるわよ~」


「ひえ~」


俺は、口をふさがれたまま奥に引きずり込まれていった。


「むぐっ、ぷはっ、何するんだ。」


「あんた、うるさいから、大人しくついてきなさい。 その人たちも電気ショックで気絶しているだけだから。」


よく見ていると、倒れている警備員は全員気絶しているだけであることが見て分かった。


「おおい、結局何をって、お前は何をして⁉ 」


俺が、倒れている警備員さんたちから茜に視線を戻すと、茜は配線板のようなものに電撃キックをかまそうとしていた。


「何をって。配線板をデストロイしようとしているんだけど。」


「いや、何故、配線板をデストロイしようかと思ったのかの理由を聞きたいんだが、こっちは。」


「なんでって、私たちが探している船、入ってきたってことは出るためのチェックも通れる偽装をしているはずでしょ。 このままじゃ、時間がたつごとにどんどん『ユートピア』の外に船が流れていってしまう。 だからこの配線版をデストロイして、足止めするのよっ。」


茜は、言い終わるのと同時に、配線板にキックを叩き込んで、配線板を文字通りデストロイした。


「おおう、やちゃったねぇ。」

やっべ、知らない振りしよっと。


「何ビビってんのよ、『ユートピア』じゃ実力行使が基本よ。 力がないものは奪われるのよ。」


「だからってよ……」


「だからも何も慣れよ、慣れ。 っというかあんたのためにやってあげているのよ。」


「それは、そうだがよ。」


く、仕方ない…すまんよっ、まじめな警備員さんたち。

「ご主人、それでよい正しさを忘れぬ心が必要なわけだ。」

「う、カレンよ、わかってくれるか。」


もう夜も更けて真っ暗な中、俺と茜は、壊れた配電盤の近くのコンテナに隠れ、港の人たちは予備電源に切り替えるであろうという情報を手に入れた。


「おそらく私たちに残された時間は、予備電源に切り替わるまでの時間みたいね。 そう長くわないわ。」


俺たちは、壊れた配電盤に集まった人らの話している言葉を盗み聞きをして、情報を集めた。


「鏡さんとの合図はどうしているんだ。」


「ああ、花火上げるって、」


「は? 大胆なのか、隠れているのかどっちなんだよ。」


「しんないわよ、あのね、郷に入りては郷に従えって言葉があるように、私たちにもルールっていうもんがあんの、その一つに合図はでかく、最後はでかく終わらせるっていう慣習があるの。」

「けれど、花火って堂々し過ぎじゃないの」

「いや、もう遅いよ」


何が、という前にそれは起きていた。

茜の瞳に移る花火の昇るときの細い光が、見えていた。

振り向いた時には、既にでかでか強い花火が花開いていた。


「さあ、行ってらっしゃい、これは、あんたの晴れ舞台でもあるんだから。」


「晴れ舞台って、おい⁉」


その晴れ舞台の意味を聞く前に、積み上げられたコンテナの高台から突き落とされた。


いや、っていうかこのまま落ちたら死んじゃう……


「カレン‼」


「困ったときにはあたし頼りか、いいぞ、頼れ、頼れ、眠りすぎて体はなまる一方なのだから。」


カレンは、炎黒刀から前方に炎を噴出させ、地表近くの空気を熱して膨張させ、上昇気流を起こした。

俺は安全に着地する。


「よしカレンあの船だ。」


「ああ」


基本的にカレンから魔力供給を受けているため、身体能力を大幅に強化されている。

話さずとも、自分がどうしたいかが心の念のようなもので伝わり、体にちょうどよく魔力を注入してくれる。


学園長室を出るときにジョーカーから一つだけ忠告を受けた。

ジョーカーが言うにはこうだ。


俺の体は、カレンによって魔力供給がされているが、それは俺の体にとって負荷のかかりすぎることらしい、突然の魔力の奔流に驚いた細胞が死んでしまい、そのままでは命にかかわるのだとか。


だから、一つ一つに力を籠める、一つ一つに魔力を分散させて、体への負担を軽くするんだ。


俺はそのまま花火の上がった船まで走り、大きく飛び上がった。

そのまま、積み上げられたコンテナから着地した時の要領で着地する。


舟の看板にきたぞ、どこに俺たちを狙って、教室をめちゃくちゃにした奴がいるんだ。


「ねぇ、君さ、どっからは入ってきたの、あの花火なに?」


そしたら船の中から一人の少年が出てきた。


「ねぇ、なんで僕を攻撃しようとするの、知ってるんだよ、僕を君が僕をおいかけまわしてたこと。」


「追い掛け回してたのはそっちの方だろ。」


お互いに応えない……沈黙があたりに散らばる。

その時、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。


「なぁ、俺もお前に聞いていいか。 なんでお前は、俺の教室を襲った。」


「べっつにぃー、たまたま僕の作品たちが君らにお痛しちゃったって話でしょ、それにどっちかっていうと僕の作品を弁償してほしいんだけど~はいっ、弁償、はいっ、弁償‼」


「お前が言いたいのは、それだけか…」


「は?」


「お前が言いたいのはそれだけかって聞いてんだよ。」


「うん、それだけ。」

「そうか」

俺は刀を構えて、腰を深くする。


しかし、それは鑑さんが和ありこんできたことによって空回りに終わった。


「あーらら、捕まっちったー。」


鑑さんがその少年を拘束したのだ。

それにしても、いつの間に少年の後ろ側に回り込んだんだ。


「鑑さん……これで結果オーライですか。」


「いいや、まだよ」

鑑さんは、船の奥の方を凝視していた。


「そーだよ、せっかく炎黒刀をこいつに食わせたら面白いかもよって教えてもらったのにぃ」

「こ…いつ?」


俺は、上を見上げる。

今日はきれいな月夜だったはずだ。

なのになんで暗いのかなんて、決まっている、こいつがいたから。


僕と、月の間にこいつがいたからだ。


うがぁぁぁぁぁぁぁぁう。


「ま、炎の契約者もいるわけだし、これはこれで計画通りなのかな?」


でかい、でかすぎる。


その巨体が一歩踏みぬこうとしたら、そのまま船を踏みぬいた。


「くそっ…、この子は私に任せてっ‼」


「頑張ってにえぇ~」


鑑さんはその少年とともに避難する。


怪物のおかげで、周りは大騒ぎ、周りには、怪物の登場で壊れてしまった船の残骸。

俺は、その残骸を飛び乗って何とかやり過ごすしかなかった。


「くそっ、これじゃ誰も近づけない。」


「近づけるやつが一人いるだろう。」


「カレン⁉ お前、俺にあれをやれってのか、さすがに無理があるぞ。」


その怪物が腕を振り上げ、振り下ろすだけで、大きな波がおきる。


俺は次から次に来る、その波の奔流を流れてくる船の残骸に飛び移ってやり過ごす。

舟の残骸が来なくても終わり。

その残骸に足を滑らせても終わり。


「か、帰ろう‼ 俺らも退散しよう。」


「なんじゃ、しっぽをまいて逃げるのか。」


また大きな波が来る。


「ああ、あれはでかすぎる。 俺たちの手には負えない。」

「では、誰がこの怪物と戦う。」

「強い人‼」


舟が飛んでくる。

死ぬぅ、これ死ぬやつぅぅぅ‼


「お前がやらなければ誰もめんどくさがって逃げるだけだ。」


「けど俺にはできない。」


「できる」


「できない」


「できる」


「できない」


「いや、できる」


ズバンッ‼

カレンは、刀のその身でありながらも、俺の体を操作し、飛んでくる船を叩ききった。

「君が望めばいい、私は炎の賢者だぞ。」


何が、賢者だ。

伝わってくる魔力が不安定になっている。

魔力量が少なくなっているんだろう。

そもそも俺に四六時中魔力を供給するなんて無理があったんだ。

夜には、睡眠をとらないといけない、少なくともこいつの魔力炉は。


ただの、一人の女の子じゃないか。

しかし一人に女の子は、俺の前で勇気を示している。


俺は、力がないと何もできない社会で、正しいことに力を使うようにする、なんて豪語したのに、いざとなってしり込みしてしまっている。

なさけないなぁ。


「カレン、ありがとう。 おかげで、少し落ち着いた。」


「ああ、やっぱりお前にはその顔つきのほうが似合うよ。」


「「正義の炎を燃え上がれ‼」」


俺の周りに炎がまとわりつく。

そうだ、何にもできなくて、どこにも居場所がなくて、でも、弱くても、それでも正義を、それでも正義を叫んでいたんた。


口先だけの、口裂けお化けに今こうして力を貸してくれるというやつがいる。

守れる人がいる。

なら俺は、俺の正義を突き進むしかないだろう。


「いくぜ、カレン‼ 片道切符でもついてきてくれるか?」


「ああ、それがどんな道であろうとも私は見たいものを見に行く。」


俺は数々の船の残骸に飛び移り、近づくとその腕に飛び乗った。

俺は、そのままその怪物の腕を走って、頭部に近寄ろうとする。

しかし、そいつから生えていた触手のようなものが三本、俺に向かって叩きつけるように襲い掛かってきた。


「カレン‼」

「ああ」


俺の体は呼応するように熱くなる。


「炎の剣技 二の型 輪入道‼」


そうして、触覚を瞬き間に切り飛ばした。


しかし、この邪魔のままでは本体までたどり着けない。


どうする


どうする


どうする


俺は、どうしたら一人であの怪物に勝てる?


「どうした。 正義の炎とやらがかすんでるわよ。」


後ろから弾丸のように飛んでくる。


「あ、茜」


「一人でできなさそうなことがあんなら私も混ぜろよな、あの日の決闘の続きまだ決まってないわよ。」


「ああ」


俺が攻撃されるときは、茜が俺を守り、茜が攻撃されたときには、俺が守る。

俺は、いつも一人で物事を考えていた。

目の前にあるものは、壊すことのできる壁か、超えることのできる壁か。

そうじゃない、誰かに頼る。

そういうやり方もあったはずだ。

「どうだ結城まだ無理だと思うか。」


カレンが問うてくる。


「いや、もう無理だなんて言わない、お前がいて仲間がいて、そして勇気があればどんな困難だって打ち砕いていける。」


「ああ、その通りだな。」


「結城ぃ、最後のでかいの決めてくれ‼」


「ああ」


「今度こそ「正義の炎が燃えてきた‼」」


「炎の剣技・太陽斬‼」


おらああああああああああああああ。

その炎黒刀には、まるで太陽ののような大きな炎がまとわりつき、まるで本当の太陽かのように『ユートピア』をてらした。


その太陽とその怪物が激突し、周りから見るとその場には強大な太陽が発生したかのようだった。



~~4日後~~


「なぁ、俺の体もう外、出ても大丈夫かな。」


「ああ、あの後は、さすがのジョーカーもここまで無理をするとは思っていなかったみたいでな、焦っていたぞ、酷使しすぎよ。」


「ジョーカーって心配とかできるんだな。」

「まあ、ごたごた言ってないで、学園長室に行ってきなさい。」


茜は病み上がりの俺に、ぶっきらぼうにそういう。


「って言ってもどこにあるかなんてわからないぞ。」

「おーい。久しぶり。どうやら四日間もずっと眠ってたそうだな。」


後ろから、当の本人のジョーカーが話しかけてきた。


「おーおー、そーだよ、英雄の帰りだよ、てっきり、凱旋パレードでもあるのかと思っちまったぜ。」


「何言ってんだい、あの太陽がきみのだってことは、誰も知る由もないよ」


「ふーん」


「その代わり、暗部に【太陽】っていう2つ名で知れ渡ったらしいけどね。」


「なんだそれ、嫌すぎるぞ。」


中二病くせーーー。


「まあ仕方ない、それにまだまだこの街には面白い事があるよ。」


「あんな脅威がまだこの『ユートピア』にあるっていうんなら。」


「あるっていうんなら」


そんな脅威があってだれも見て見ぬふりをするっていうんなら


「俺が、正義の刀で叩ききってやるぞ。」


「お、いいね」


「な、やれるだろ、カレン。」


「任せろ、お前が寝ている間、暇だったのだ。 お前の正義、見せてくれ。」


「んで君達にはさっそく指令に出てもらいたい。」

「わかりました。」


いつの間にかいた鑑さんはその命令に即答する。


それに遠くから、マリアさんが土煙あげて走ってきているし。


ああ、また波乱万丈な生活が始まるのか、やれやれ。


やるだけやってみようじゃねーか。


俺は笑いながら前へと歩みを進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

劣等生と炎の賢者 @Dug

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る